DIAURA

欲望、矛盾、苦悩、僕等の過ち――。DIAURA最新作『カタストロフノート』全4曲の物語を通して見えてくる本質とは。

毎年9月3日恒例の「愚民の日」公演を終えたDIAURAが、このたび最新シングル『カタストロフノート』をリリースする。ダークでヘヴィー、毒っけを纏ったDIAURAのパブリックイメージとは真逆とも言える、お洒落サウンドと恋愛をモチーフにしたドラマ性のあるリリックが特徴的な表題曲、その意外性をさらに超えてくる冬の名バラード「ヒロイン」に驚かされるが、「天上へ至るイド」「After lament」を含めた全4曲に触れた時、この作品の真の姿が明らかになる。yo-ka曰く「すごく人間臭い」という今作。その誕生秘話と作品の本質に迫るロングインタビュー。


全容が明らかになった時に全ての合点がいくでしょう(yo-ka)

yo-ka

まず9月3日の「愚民の日2022」を振り返りたいと思います。ライブレポートにも記しましたが、コロナ禍であっても「愚民の日」はもう1000キャパの会場では狭くなったんだなと感じました。

yo-ka:あの日、倒れた人がいたみたいなんですよね。それを助けたのが樹威さん(GOTCHAROCKA)だったんですよ。その時は全然気付かなくて、後で聞いてビックリしました。愚民の恩人です。コロナ禍での会場選びって結構難しいんですよね。状況が変わっていくに連れて同じ箱でもキャパが変わっていくので。だから、そういう部分も考えていく余地はあるなと思いますね。

佳衣:「愚民の日」というのは、自分たちもそうですけど愚民たちがすごく大切にしている日というのもあって、やっぱり色々なところから集まってくれた感じがあったので、改めて大事な日なんだなと気付かされました。

めでたく「愚民の日」がTwitterのトレンド入りも果たしましたね。

佳衣:嬉しかったですね(笑)。開演前に見ていたら「グミの日」がトレンド入りしていて惜しいなと。これは「愚民の日」も何とか入ったらいいなと思っていたら、愚民たちの力もあって最後の最後に入ったので良かったです。

MCで話した甲斐がありましたね(笑)。

佳衣:はい(笑)。

yo-ka:俺、全然見ていなくて、あまり気にしないタイプではあるんですけど、佳衣ちゃんは意外とちゃんと見ているんだなと思って(笑)。

佳衣:やっぱり大事な日なので(笑)。

そして、佳衣さん制作のオープニングSEのことは触れておきたいところでした。

佳衣:本番の1ヵ月くらい前に、自分の企画で会場を下見しに行っていまして。それで外観を見た感じ+今回の衣装を初披露ということもあって、何かちょっと特別な感じをオープニングから出したかったので、今までにはなかったムードのああいうSEになりました。なかなか普段できないこともできる日だと思うので、そういう雰囲気をちょっと出してみましたね。

翔也さん作曲の「Loop[S]Diver」は本当に今のDIAURAのライブに必要不可欠なダンスチューンになりましたね。

翔也:何かそうですよね。自分の曲を自分ではあまり評価できなかったりするんですけど、やっぱりお客さんが楽しんでくれている空気というのはこっちにも伝わりますね。ただ、当日はちょっとヒヤヒヤしていました。

と言うと?

翔也:いつものライブだと、ラスサビ前のところでyo-kaからの振りで俺が歌ったりしていましたけど、今回は映像の収録が入っていたこともあって「来るのか? どっちだ?」と思いながらやっていて(笑)。基本、あそこに関して打ち合わせはしないので。

yo-ka:打ち合わせすると寒いからしないんですけど、映像が回っているし、大事なところで歌の入りが遅かったり中途半端だと気持ち悪いから、あえて振らなかったです。だから翔也は「あ、来ないんだ」と思ったと思うんですけど(笑)。

翔也:思った思った(笑)。

yo-ka:ちょっと頭に浮かべていたのは、3人全員に振ろうかなと思っていたんですよ。でも、そこでモタモタされても嫌だから、独断で無しにしましたね。

翔也:久々にフルの「Loop[S]Diver」を聴いたなと思いました。

yo-ka:確かにね(笑)。

「Lily」が入っていたのは春ツアーからの流れもあったのでしょうか?

yo-ka:あまりそこは気にしていなくて。自分の感覚としては、曲と曲が単純に引き合ったような感じでしたね。「カタストロフノート」は恋愛のテーマではあって、「Lily」が家族愛みたいなところで書いたものなので、種類は違えど人間らしい誰もが持っているであろう感情というところで繋がったんだと思います。

確かに。そして最近のインタビューの中でも触れることがあった「Noah」で今回銀テープが舞ったことで、DIAURAにとって近年の最重要曲になっている感がさらに強くなったなと。

yo-ka:何かそうですよね。やっぱりコロナがデカいんですよ。誰しも色々と見つめ直す時間があったと思うんですけど、自分にとってもただセットリストを組む、ただ一つの曲という感覚ではなくて。コロナ禍の中で一つひとつがすごく大事だと気付いたじゃないですか。例えば何かの状況でライブができなくなるかもしれないという中で、伝えたいことを明確に出せる曲の重要さというものを実感して、そういった部分で「Noah」はバーンと一際浮いてきた曲だったんですよね。そういう意味ではコロナ禍というものがなかったら、あそこで銀テープは飛んでないだろうなという気もするんですよ。だから必然だったんだろうなと。

達也さんはアンコールのMCで「すごかった本編…何て言うんだろ、すごかったよ」と言葉にならない様子でしたね。

達也:思いが強過ぎるというのもあったんですけど、良いことを言おうとして言葉を詰め込むよりは、そのまま思ったことを素直に言ったほうがいいかなと思って、あんな言い方になっちゃいました(笑)。あの日は2〜3週間ぶりのライブでしたけど、それがすごく久々のライブな気がして。愚民たちは初めて聴くSEで「お、何だこれは?」と思ったと思うんですけど、あの時点で手拍子が聞こえていたんですよね。それがすごく嬉しくて。最初から最後まで本当に気持ちが高揚していましたね。

「愚民の日2022」では今作の表題曲「カタストロフノート」とc/w曲の「天上へ至るイド」が初披露されました。yo-kaさんが「おお、DIAURA…と思った人もいるかもしれませんが」と言っていましたが、リリースの約2ヵ月前にSPOTが公開された時など、特にそういう反応は多かったですか?

yo-ka:ビックリしたという反応はありましたね。特にアルバム『R.I.P.』(2021年10月発売)、シングル『VERMILLION』(2022年4月発売)があった後の『カタストロフノート』ですから。曲が曲なので、言葉も一気にわかりやすくなっているじゃないですか。そういうところもあって「あ、今これなんだ?」というのは思うことだとは思いますけど、DIAURAの作品はそれだけじゃないですから。一面で見られても困るというのが、このバンドで作品作りをしている時にずっと思っていることで。全容が明らかになった時に全ての合点がいくでしょうという思いで作品を出すので、「見くびるなよ? 一つの印象で決めるなよ?」というのはやっぱり思いますね。

佳衣:もちろんDIAURAで今まで聴いたことがないような雰囲気ではあるので、そういった面では新鮮さを皆も感じてくれたと思いますけど、それでガッカリした人ってそんなにいないんじゃないかなと思うんですよ。また新しいDIAURAが見られるという期待感のほうがきっと大きくて、自分たちもそういう気持ちなので、公開したことによって自分自身、今後が楽しみになりましたね。

確かにSPOT公開時に新たなDIAURAへの期待感が高まりました。ただ、意外性があったのは事実で、ここまで振り切って新しい印象の曲を表題にしたのはどのような経緯だったんでしょう?

yo-ka:ツアー中だったかな、曲を作り始める段階で佳衣と話していて「ちょっと一旦よくない?」っていう(笑)。大分こってりしたものを連発したなという感覚はあったので。もちろんそういう世界観のものを作るのは好きだから楽しいんですけど、自分たち自身、ちょっとここで違う風を感じたいよねと。だから、真逆を狙っていこうかという話をしていました。その時に自分はもう「カタストロフノート」を作り始めていたので、これだろうという感覚があったんですよ。きっと佳衣も想像を超えてくるだろうという思いもあって、こういう方向に向かいました。

こんなのアリかよというくらいのものでも面白いんじゃないか(佳衣)

佳衣

個人的には「カタストロフノート」を初めて聴いた時は佳衣さん作曲かと思ったので、yo-kaさんというのは意外でした。

yo-ka:おー、そうなんですね。

佳衣:自分的にはyo-kaからデモをもらって聴いた時、ヴォーカリストの作る曲だなという印象が強くて。メロディーが立っている感じがあったので、その側を自分がしっかりと固めたんですけど、そういう要素もすごく出ているんじゃないかなと思います。

まずイントロのキャッチーさがクセになります。

佳衣:そこからハッとなりますよね。

yo-ka:最初はあえてピアノ一つだけのイントロだったんですけど、佳衣に投げて蓋を開けたらすごくお洒落になっていて、ワーオという感じでしたね。

頭のベースの入り方やハイハットの使い方、キメもお洒落です。

yo-ka:それはデモからあって、ベースの入りとかは大事なところなので結構こだわりましたね。それでも後ろに走っている同期の音はピアノだけで。今のバージョンでも寂しさはあるんですけど、デモはちょっと違った寂しさというか、もっと冷たい感じでした。佳衣に任せたら温かみが出たなと思います。だから、寂しさも一辺倒ではないなというアレンジになりましたよね。

ギターのお洒落感もすごくあって。1サビ終わりのチュクチューンとか、トレンディードラマ感があるなと(笑)。

佳衣:そこはまさにそうですね(笑)。曲自体が割とトレンディードラマみたいな雰囲気もありますし(笑)。ドラマ性のある曲なので、ギターを付けるにあたってそんなに悩んだり迷ったりはしなかったですね。

ベースはスラップでかなり動きのあるフレーズですよね。

翔也:そうですね。全体的に意外とバラードには寄っていないかもしれないです。ただ、デモを聴いた段階でバチンと自分の中で降りてきたものがいくつかあって、これ以外考えられないなと思ってプリプロをして、「こういう感じでいこうと思うんだけど、どう?」とyo-kaに投げたら嫌な感じはなかったので、じゃあこれでやりたいなと。大きいキメとかはデモ段階で活かしたいんだろうなというのはわかるので、そこは残しつつ、フレーズはほぼほぼ自分で進めていきましたね。

達也さんとしては結構新しい要素が多かったんじゃないかなと。

達也:結構苦労しました。足し算引き算を何回したことかという。デモからアレンジするにあたって、作って投げて意見をもらってのやり取りを結構した覚えがありますね。プリプロをしたうえでレコーディングに臨んで、その場でも「ちょっとこうしてみない?」というものがすごくあったし。イントロやサビのバスドラムがデモ段階ではもっと細かかったんですけど、結構数を減らして、フィルとかも数を減らして最終的な形になりました。なので、変更点が過去一多かったんじゃないかなと思います。

そうなんですね。最後がスネアで終わっていくのも特徴的です。

達也:あれも何パターン考えただろう(笑)。結構バージョンがあったよね?

yo-ka:うん。やってはボツ、やってはボツ…結局最初のほうで出た案の、あまり音を加えない方向になったよね。

達也:結構シンプルな形にまとまりましたね。

最後の〈このまま世界の果てで〉部分の歌の音色も印象的でした。

yo-ka:妄想が膨らむような感じがよくて。何も明確にならない、すごく曖昧な終わり方をするというイメージでしたね。絵で考えていたところがあるので、音にしても感情に沿えばそれが正解という考え方でした。

今作は4曲トータルでの物語だと思いますが、端的にキーワードで言うと「カタストロフノート」は男性目線で〈君〉のことを、「ヒロイン」は女性目線で〈あなた〉のことを歌っていて、「天上へ至るイド」で〈僕等の過ち〉という二人のこと、「After lament」でその〈結末〉を…という流れでしょうか。

yo-ka:そうですね。見える部分は変わりますけど、4曲全部が繋がっているんですよね。「カタストロフノート」と「ヒロイン」は人物像が見えるじゃないですか。「天上へ至るイド」はその中身、腹の中という感じで書いていて、「After lament」はその一連の流れを俯瞰して見ているというか。そんなイメージですね。

「カタストロフノート」と「ヒロイン」だけではわからない部分が、「天上へ至るイド」と「After lament」で見えてきますよね。

yo-ka:そうそう、「カタストロフノート」「ヒロイン」だけではわからないです。だから、もしこの2曲でシングルが終わっていたら、俺自身「おい、DIAURAどうしちまったんだ」とは思う(笑)。でも、それはあり得ない。その奥を抉りたい、それがDIAURAだと思っていて。

最後まで行き着いたところで、「あ、DIAURAだ」と思いました。

yo-ka:そうなんですよ(笑)。今作はカタルシスがすごいんです。

4曲トータルでの物語にする前提で制作に取り掛かっていたのでしょうか?

yo-ka:いや、全部曲が出揃うまで、そういう思いはなかったんですよ。まさか「ヒロイン」が来るとは思わなかったので、「DIAURAこんなのアリかよ!?」と俺が思うくらいすごいの作っちゃったな、この人(佳衣)と思ったし、でもそれをDIAURAでやる面白さってあるじゃないですか。どうせならその面白さは活かしたいなと思ったので、「天上へ至るイド」と「After lament」が必要だったというところですね。だから「ヒロイン」が出てきて自分の中での作り方を変えたという感じです。「ヒロイン」は「カタストロフノート」にきっと寄り添える曲だから、それはMAXで使って、じゃあそれを解剖していくにはどうしようという感覚でしたね。

そんな冬の名バラード「ヒロイン」ですが、佳衣さんはどのようなところから曲作りを始めたのでしょうか?

佳衣:yo-kaが言ったように、こんなのアリかよというくらいのものでも面白いんじゃないかなというのもあって。個人的にはそろそろ季節感のある曲が欲しいなと思っていて、ちょうどリリースしてから寒くなる時期なので、そういう季節感の優しい曲を作りました。今までと違うことがもう一つあって、ヴォーカルのキーが割と下なんですよね。原曲がこれよりもさらに低かったんですけど、さすがに低過ぎたので半音上げました(笑)。今までにない新しい感じの声になって、それもまた良かったなと思いますね。

yo-ka:ビックリするくらい低いんですよね(笑)。

とても心地よい歌声です。鈴やウィンドチャイムの音も入っていて、冬の情景がとても伝わるアレンジですよね。

佳衣:冬ってイベントごとだったり雪だったり、そういう煌びやかな要素が多いと思うので、ダイレクトに「クリスマス」とは言ってないですけど、匂わせるような雰囲気は出したくて賑やかな音+ちょっと切ない音みたいな感じにしましたね。

ちなみにウィンドチャイムはライブでは登場するのでしょうか?

佳衣:させたいですね(笑)。

達也:あ、俺か(笑)。間に合うかなー? ちなみにあれは佳衣ちゃんが作った音なので、レコーディングで俺が鳴らしたものではないんですよ。ライブは悩みますね。

翔也さんとしては、今までになかったタイプの名バラードはいかがでしたか?

翔也:俺はあまり「マジかよDIAURA」とは思わなくて。10年以上やってきているから、もう何も驚くことはないし、楽器さえ持っていれば何をやってもいいやと思っているタイプではあるので、聴いたことがない音楽が聴けるなという期待値のほうが大きくて。だから、すごくワクワクしたんですけど、極バラードなのでプレッシャーはすごかったですね。リズム隊って、そこはすごくムズいと思うんですよ。自分としてもあまり得意な分野ではないと思っているので、レコーディングはかなりシビアだったかなと思いますね。音作りも現場で今の方向性に決まって、終始コーラス(エフェクター)が薄らかかってるという初の試みもありました。あとピッキングも、あんなに優しく弦をタッチしたことなかったですね(笑)。本当に撫でるような感じで。自分が今までライブでやってきたことと180度違う方向に切り替えてやるみたいな、ザ・レコーディングという感じでした。

達也さんも「ヒロイン」のレコーディングは難しかったですか?

達也:難しかったのは難しかったんですけど、この曲は大サビに入る前の静かな部分で初めてブラシを使ったんですよね。そういうチャレンジをしたことがすごく面白かったです。ライブでは持ち替える瞬間が忙しくて、できるかなぁと今悩んでいるところですけど、ウィンドチャイムもしかり、ライブでも色々と新しいチャレンジができそうな曲なので、何とかしてやりたいなとは思いますね。

この曲はライブでどんな位置に入ってくるんでしょうね。

yo-ka:まだ決めかねていますね。でも、一番効果を発揮する場所にいてほしいなと思います。今回のツアーはファイナルがクリスマスイブなんですよね。そういうのも意味を持ってくるのかなとか。