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現体制初のフルアルバム『ULYSSES』で描く幸福を追い求める物語。defspiralの新境地を開く珠玉の作品に迫る

defspiralが遂に約6年4ヵ月ぶりかつ現体制初のフルアルバム『ULYSSES』を完成させた。昨年リリースしたシングル3作品を含む全12曲収録の今作は、その大半が昨年のツアーで演奏を重ね、ブラッシュアップしてきた楽曲であり、この1年間のライブの光景が思い浮かぶと同時に、これからのdefspiralの基軸になり得る“大人のロック感”を魅せる。現在、全15公演のツアー真っ只中にあるdefspiralの4人に、バンドの新境地を開く最新作についてじっくり話を聞いた。


使命感みたいなものもあった(TAKA)

TAKA

実に約6年4ヵ月ぶりとなるフルアルバム『ULYSSES』が遂に完成を迎えました。昨春、ツアーを回りながら音源制作をしたことがバンドにとって良い結果をもたらしたことから、引き続きその形がとられたようですが、今のdefspiralに向いている制作の仕方なんじゃないかというのは、どんなところで感じましたか?

TAKA:本当は先に音源を作って、皆に聴いてもらってからツアーをするのが合理的だし、お客さんもありがたいと思うんですけど、ツアー中に曲を出して皆と一緒に育てていくというのは嘘ではなくて。ライブでとても輝く曲になるし、ライブでの感覚を得ながら曲の本質に迫っていけるので、創作という意味ではライブでブラッシュアップしていくのは楽しい作業です。

MASATO:年末のツアーで新曲をやりながら、今回新たに録ったんですけど、やるごとに僕らのプレイも変わっていくし、オーディエンスも新曲をライブで聴いて、最終的に音源として仕上がっていく過程を見るのは、すごく面白いんじゃないかなと思いましたね。

RYO:歌詞もライブをやるたびにちょこちょこ変わっていくんです。そういう点でもツアーを通じて作品を作ってるなと思うし、俺は今回こういう風に変えてみようかなとか、常に新鮮な気持ちでライブができていたことも自分にとってはメリットでしたね。先に音源があってツアーを回るという形をずっと続けてきて、今こういうやり方をして、逆にすごく新鮮で。バンドを組んだ当初は、やっぱりこういうやり方をしていましたから。一周回って、またここなのかなとは思います。

和樹:ツアーとなると大体毎週ライブができる環境なので、ライブでやってみて、メンバーと話すタイミングがあって、また来週ライブがあってという流れの中で、曲の育ち方やスピーディーさも含めて、すごく楽しかったですね。

常にコミュニケーションが密に取れる感じで。

和樹:そこはやっぱり大きいですね。大事なことだなと思います。

そういう制作の流れもあって今作はこの1年間のライブの画が浮かぶことと、過去一オトナなアルバムという印象もあります。12曲中7曲(共作も含めると8曲)がTAKAさんによる作曲はdefspiral史上初めてのことですが、これはどんな経緯だったんでしょう?

TAKA:要因は色々あると思うんですよね。なかなか曲が生まれない時期とか、コロナや色々なことがあった中で、ライブの景色を変えたいなと思ったのもあるし、自分で曲を作るスキルや、そういう環境を整えていったというのもあって。ライブをやっていく上で、どんどん新しい曲を作って新鮮な世界を見出していきたいというモチベーションが高かったですね。バンドを変えていきたいなと、使命感みたいなものもすごくありました。

TAKAさんの楽曲が多く収録されたからこそ、作品としてこれまでとは少し雰囲気が変わったという部分もあるのかなと。

RYO:それはあるんじゃないですかね。

TAKA:大人っぽいというのも、ライブが見えるというのもすごく納得できるんです。実際ライブをやりながら曲を作っていて、ライブで見えた景色や募った思いをそのまま曲に込めているし、歳を重ねてきて、単純に大人っぽいアレンジとかゆったりした曲調にするということじゃなくて、速いテンポの曲でも大人っぽいロック感に変貌していきたいという思いがあって。これからのdefspiralを自分の中で模索している部分はあります。激しいだけじゃなく、大人の余裕、カッコよさや深みみたいなものを出していきたいですね。

今作は昨年リリースしたシングル3作品の6曲、年末ツアーで披露した新曲4曲、完全未発表の新曲2曲という内訳です。MASATOさん作曲の「明日への階段」、RYOさん作曲の「流星」は現体制の初音源シングル(2023年3月発売)でしたが、改めてこの2曲はドラムの印象が強いなと。そもそも当時、新体制での初音源はドラムが映えるものにしようという意識はあったのでしょうか?

MASATO:めちゃくちゃ意識していたわけではないですけど、和樹のプレイが冴えるような、ドラムの激しい感じはやっぱり出したいところではありましたね。

RYO:僕は、和樹ができることを前面に出したいという気持ちはあったかもしれないですね。和樹だからこれはできるだろうっていう難しさとか。やっぱり一聴して、ドラムが変わると違うじゃないですか。今のdefspiralのドラムはこうなんだよっていうのは意識したと思いますね。ただ、僕的にはこの2曲はすごく昔のことのように感じているのもあって、『ULYSSES』に入るのはどうなんだろうと一瞬思ったんですよ。

TAKA:テーマ的にも上手くハマるのかなというのはあったので、その気持ちはわかりますね。

RYO:でもすごくハマったな、ちゃんとストーリーが出来上がっているなと、完成してから感じました。

和樹さんにとっては、この2曲がdefspiralでの初レコーディングだったわけですよね。

和樹:そうですね。両方やっぱり和樹のドラムというのを意識してくれたからか、割と得意ジャンルではあったんですけど、難しくて。「流星」もRYOさんが打ち込んでくれたデモが結構難しくて、ちょっと自分流にやりやすいようにアレンジしたんですけど、すぐRYOさんに訂正されました(笑)。

RYO:「そこ違う!」って(笑)。

和樹:スタジオでちょっと練習してできるようになりましたけど、両方とも苦戦はしましたね。

年末ツアーで新曲4曲を聴いた時に、既存曲と見事に調和する、それぞれタイプの異なる楽曲だったのが印象深いです。まさに先日トークイベントで話していた「あったらいいながそこにある」という。既存曲を意識しつつ色々なタイプの曲を作ろうと思ったのか、自然とバリエーションが生まれたのか、どちらでしょう?

TAKA:RYOとMASATOが作る楽曲は、それぞれに特徴や個性があって、そこにない曲を作ろうってとこからスタートはするんですけど、結局その“ない曲”というのは、僕が作れば自然とそうなっていくんだと思いますね。具体的にはミディアムな曲だったり、RYOさんとはまた違うストレートな曲だったり。タイプが違うので、結局「あるといいな」になっていく。自分としてはそんな感覚ですかね。

すごくバンドしてるなっていう感覚(RYO)

RYO

『ULYSSES』は、テーマ的には「ALEGRiA」(2023年5月発売)が核になっていて、そこから広がっていったものが大きいと思います。「ALEGRiA」がここまで広がりを見せることになる予感はありましたか?

TAKA:予感というか、そこに到達しなければならない、したいなっていうアルバムですね。「ALEGRiA」ができた時に、物語的な歌詞であったり、今までにないような楽しい楽曲ができて手応えがあったので、これをヒントに幸せを追い求める物語を核とした色々なストーリーを作っていければ、アルバムとしてまとめた時にすごく良いものになるんじゃないかなと思って。その周りの要素として色々な角度の曲を配置していきました。

「ALEGRiA」はアルバム用に録り直したそうですが、シャッフルの曲はメンバー全員の向かっている方向を合わせるのが難しいと話していましたよね。

RYO:ライブをやっていって、やっと掴んだdefspiralなりのスウィングのグルーヴというのが、明らかに最初にレコーディングした時と変わってきていたので、これは絶対に録り直すべきだろうなと思っていました。本当に大成功ですね。

MASATO:こういう曲ってピッタリ合わせたつもりでも、なんか合ってないような感覚があるんですよね。そこが難しくて。今回はそこをクリアしたし、サウンド的にも前よりすごく良くなったなと思いますね。

和樹:こういうグルーヴみたいなものって、無意識というか体に入っている感覚的なところが大きいので、そういう意味で言うと、ライブでどんどん成長させていって録り直せたのは、やっぱりよかったですね。

ちなみにこの曲、ギターソロ明けのセクションの歌の間に入るギターがエロいなと思ってて。

MASATO:あぁ(笑)。

RYO:何照れてんだよ(笑)!

MASATO:それはもう、はい、狙ってますよ(笑)。

(笑)。昨年RYOさんが、「ALEGRiA」や「FLASH」(2023年5月発売)はTAKAさんの頭の中で鳴っている完成形があって、それを音楽的知識で説明するのではなく、抽象的に「なんか違うねん」というのが、楽器陣としては試されている感があって、そのやり取りが逆に良かったという話をしていましたが、今作の新曲たちもそうですか?

RYO:ほぼほぼそうですね。TAKAの中にしっかり完成形があったので、細かい部分で色々試して結局使わないとかもありますけど、それはそれでいいんですよ。そういうやり取りは全曲にあったと思います。もちろんMASATOの新曲「ARCANA」も、MASATOのビジョンがちゃんとあったし。「俺はこうしたいから、一度やってみてくれ」「わかりました。頑張ってみます。これでどうだ」「いいねそれ」っていうやり取りとか、すごくバンドしてるなっていう感覚はありましたね。

TAKA:自分の中で鳴っているものをデモの打ち込みで全部表現しているつもりでも、なかなか伝わらなかったりするんですよね。音符や自分の演奏したデモだけでは伝わらない部分をいかに伝えるか。そういう難しさも今回の制作で感じました。ニュアンスの部分で俺が描いている以上に伝わっている箇所もあれば、そこはそうじゃないなっていうのもあって。だからMASATOがギターをレコーディングした後に、ニュアンスの違いで何回も録り直しをお願いしたりもしました。

例えばどんな部分を?

TAKA:「ULYSSES」のギターとか、もう少し前で言うと「FLASH」のイントロも。それぞれの音楽的ルーツや持ち前のノリによって、良さが出る時もありますけど、作曲者のエゴというのか、ビジョンに近づけてほしいという思いもあって。自分の曲は自分で一旦全部フレーズも作っちゃうので、思い入れが強くなってしまうんですよね。それに固執し過ぎても広がらないし、だけど描きたいビジョンもあるしっていう。大変でしたけど、一緒に音楽を作っているということだなと実感できました。

「ULYSSES」は“幸せの青い蝶”をテーマにした曲ですが、まさに「ALEGRiA」があったからこそ生まれた曲なんじゃないかなと。

TAKA:「ALEGRiA」は幸せを得るための魔法の花がどこかにあって、その花は実は自分の中に元々あったんだよみたいな、物語的で絵本のような可愛らしい世界ですけど、「ULYSSES」はアルバム全体の世界の、映画のオープニングみたいな壮大なストーリーで。SFの要素なんかも意識したりして。これから始まるアルバムの世界をワクワクさせるような曲になればいいなと思って作りました。制作の終盤に、このアルバムには色々な曲もあるし、新しい世界も見せられているけど、何か足りないなと思って作った曲です。蝶繋がりではあるんですけど、今度は幸福の蝶ということで、別の世界観になっていますね。

この曲はイントロダクション的な立ち位置として、アルバムの中のバンドサウンドとは一線を置いてもいいかなと、振り切るという部分で横山和俊さんにマニピュレートをお願いしたという流れもあったようですが、ギターの音色やリフ、ギターソロとかはMASATOさんが好きそうな雰囲気だなと思って。

TAKA:インダストリアルな感じの。

MASATO:めちゃめちゃ好きな雰囲気ですね。だからこの曲ができてよかったなと、すごく思いましたね(笑)。

それと、サビのベースがすごくゴリッとしていて、耳に残ります。

RYO:フレーズ自体はTAKAのデモに入っていたものをそのまま活かしていますね。ずっと16で刻んでいるんですけど、動くフレーズのところは印象的なので、そこだけボリュームをちょっと上げてもらったりもしました。もう本当にこれはグルーヴ命のパートですよね。ベース冥利に尽きます。

TAKA:サビはベースの16で引っ張っていくアレンジで、あの折り返しのとこのベースは何度聴いてもカッコいいよね。

RYO:だからサビなんですけど、ベースが裏の主役っていう。

TAKA:この曲に限らず、やっぱりアレンジする時にそれぞれの楽器がキッチリ聴こえて活きてるみたいなことは意識しますよね。ここはベース、ギター、ドラムとか、場面が切り替わっていくのはバンドって感じ。

それこそ先日のトークイベントを見ていて、「こういうMASATO見たいじゃん」みたいな観点で曲作りをされてるのが、なんかいいなと思って。

TAKA:やっぱり良いところが見えてきたほうが面白いですし、刺激的だなと。で、作ってると本当に見えてくるんですよね。例えばソロはこういう画が見たいなとか、お客さんが喜ぶだろうなとか、多分こういう風にプレイするんだろうなって姿も見えてきます。

ちなみに、「ALEGRiA」の歌詞に出てくる蝶が、青ではなく〈紫色の翅〉なのはどういう意味合いなんでしょう?

TAKA:「ALEGRiA」の時点では「ULYSSES」の世界はなかったわけですけど、紫というのは幻想や欲望をイメージした色なんですよ。この2曲はメッセージやテーマの部分では重なる部分はありますけど、同じ世界の話ではないんですよね。この曲で〈紫色の翅〉という部分をついてくれるのは嬉しいなと。意味がなさそうである、ありそうでないみたいな部分だけど、自分の中では全部意味があるんですよね。歌詞の一言一句、意味のないことは全くないです。それが伝わるか伝わらないか、聴いた人がどう取るかは自由という前提ですけどね。