Plastic Tree

3年余の時を経てPlastic Treeが生み出した待望の新曲『痣花』。ここに至るまでの経緯と彼らの心情とは――

2022年にメジャーデビュー25周年を迎えたPlastic Treeが、新曲としてはアルバム『十色定理』(2020年3月)以来、実に3年4ヵ月ぶりの作品となるシングル『痣花』をリリースする。この3年余、ライブ活動をバンドの中心に据えてきた彼らが、満を持して新作を発表するに至るまでの経緯とは。この期間の中にあった出来事や心情を振り返りながら、「空白の時間を埋めるには、こういう曲がいいんじゃないか」と、確信を持って作ったという待望の新曲について、有村竜太朗(Vo&G)と長谷川正(B)に話を聞いた。


バンドを止める気はなかった(有村竜太朗)

有村竜太朗

アルバム『十色定理』(2020年3月)以来3年4ヵ月ぶりのVif登場ということで、まずは最近のことに触れたいと思います。2022年はメジャーデビュー25周年“樹念”のリクエストベスト盤『(Re)quest -Best of Plastic Tree-』を発売しましたが、その中で「メランコリック」をリビルド(再録)しましたよね。これまでも様々な楽曲を再録してきているプラですが、ライブ鉄板曲の場合というのは他の楽曲の時との違いはありましたか?

有村竜太朗(以下、竜太朗):あの作品自体が記念盤のような企画で、再録はもう1曲候補があったんですけど、アンケートで「メランコリック」が1位になったんですよね。多分ライブで一番多くやっている曲なので、逆にそれを再録させてもらえるというのは、俺的には贅沢な企画だなぁと思って。ライブで鍛え上げられている曲なので、楽しみだなぁという感じでした。

この曲はドラマーがケンケンさんになってから初の再録でもあったんですよね。

竜太朗:あーっ、それもありますしね。

バンド側としては演奏し慣れていて、ファンの皆さんは聴き慣れているということが、リビルドするにあたって影響したことはありますか?

竜太朗:きっとライブに来てくれている人たちが、これを聴くんだろうなぁと思って。たくさん来ている人も、たまに来ている人も、多分「メランコリック」は聴いたことがあって、それぞれの「メランコリック」があると思うので、そのどれにも当てはまるようなライブの良さみたいなものを凝縮できるようにしたつもりです。

長谷川正(以下、正):とにかく今のメンバーで再録したというのが、一番大きなトピックスですよね。「メランコリック」自体がリリースしてからもう15年以上経っていて(2004年発売)、その間に自分たちのアプローチも細かい部分で変わったところがあるので、そういうものを全部反映させて、今のメンバーで、今の空気感で演奏する「メランコリック」を記録に残せたというのが一番良かったことだなぁと思います。

今年3月にはLIVE CD BOX『Plastic Tree Live Chronicle 〜2012-2020〜』を発売しました。全17枚組CD+ブックレットという、とんでもないBOX作品でしたよね(笑)。

竜太朗:時代に逆行していくという(笑)。

正:どんどん増えていくというね(笑)。

プラって定期的にとんでもない作品を出すなと(笑)。いつも装丁がすごく豪華なので、なおさら収集欲を煽られるだろうなと思います。

正:やっぱり物として出すのであれば、そういうところに愛着を持ってもらえるようなものにしたいというのはありますよね。

作品化にあたり、音源を聴き返したりはしたのでしょうか?

竜太朗:いや、既に映像作品や音源として世に出ているものに関しては、当時しっかり聴いているので、さすがに聴き返していないですね(笑)。全部聴いちゃうと大変な時間になるので(笑)。でも、これまでに触っていないものは全部聴きましたよ。「男子限定ライブ『Boys Don’t Cry』」(2015年5月23日@渋谷GUILTY)のやつとか。

改めて聴いてみていかがでしたか?

竜太朗:そのライブの光景みたいなものも思い出したし、改めて聴くと興味深いなと。今、色々と世の中的な事情の制限がかかってライブをやっているんですけど、特に男子限定ライブに関しては、それとはやっぱり違う感じのカオスさがあって面白かったですね。

あのライブから、もう8年も経つんですね。

竜太朗:コロナ禍の3年半がありますからねぇ。

昨年のリクエストベスト盤から今年のCD BOXにかけて、またしっかりとバンド自身を振り返ることができた期間でもあったんじゃないかなと思います。このようにアーティストは自身の過去を振り返る機会が多いと思いますが、定期的にこういう機会があることの良さはありますか?

竜太朗:振り返ることができるということは今、活動ができているということなので、活動できていて良かったなぁというくらいですかね(笑)。やっていなかったら振り返ることもないでしょうから、やれていて良かったなぁと。

正:振り返ることで、今の自分たちがどうなのかな?という、これから先を進むにあたって、ちょっとした目安みたいになる時もあるし、あとは単純に楽しいなと。自分たちで自分たちの歴史を楽しめるところもありますからね。「あぁ、この頃はこんなことをやっていたんだ」とか。

ちなみに、リクエストベストアルバムの初回限定盤付属Blu-ray「プラっと語リー酒」は、シリーズ最長90分超え、収録時間8時間超えだったそうで(笑)。

竜太朗:ヤーバイっすね(笑)。

正:あれは確かにずーっと喋っていましたからね(笑)。

お酒を飲みながら30曲を語るには、それくらい掛かるということですよね(笑)。

竜太朗:8時間とは思っていなかったですね(笑)。ヤバい。

正:夕方から始めて夜中まで…まぁそれくらいなっちゃいますよね。

竜太朗:何一つ覚えてないですけどね。

正:そうだね。後半のこと全然覚えてないもん(笑)。まぁやっぱり、あの時はこうだったとか、何かしら話は出てくるものですね。

さて、今回のアーティスト写真の撮影場所は、東京キネマ倶楽部でしょうか?

竜太朗:そうですね。デザイナーさんとカメラマンさんのほうから案が出て、わかりましたと。

行ったことがある人はすぐに気付く場所ですよね。

正:内装が特徴的ですからねぇ。

なので、逆に何か意図があるのかなと勘繰ってしまいました。

竜太朗:これが特にないんですよ(笑)。でも、うちらはここで定期的にライブをやっているので、それを変に意識せず狙いじゃなく写真撮影をするというのは、ちょっと面白いなと思って。特に違和感もなくできましたね。

プラはこの場所が似合いますよね。

竜太朗:そう言われると嬉しいですね。この箱、俺本当に好きなんですよ。

今回の作品『痣花』は、新曲としてはVifの登場と同様に『十色定理』以来3年4ヵ月ぶり、シングルとしては『潜像』(2019年9月)以来なんと3年10ヵ月ぶりの楽曲となります。まさに待望の新曲ですが、実際ここまで間が空いたのはどのような経緯だったのでしょうか?

竜太朗:うーん、まぁ社会情勢ですよね。いろんなバンドのやり方があるとは思うんですけど、コロナ禍は通常の活動ができない極端な状況の中で、うちらは総意としてバンドを止める気はなかったので何に力を入れていこうかとなった時に、マネジメントとも話をして、生配信ライブをしっかりやっていって、それをバンドの活動の中心にしていこうと。そこに労力を結構使っていたし、俺個人としては気分的にもコロナ禍の1年ちょっとは、音源を作る気にならなかったですね。ちょうどアルバムを出した後だったのもあるし、そのツアーも回れなかったし。やっぱり音源を作ってライブをやってというバンドだから、ツアーをやって直接会いに行く、いわゆるスタンダードな活動ができないのであれば、音源だけ作るという気持ちにはならなくて。なので、配信ライブを中心にやっていって、そうしたら結構時間が経っちゃったなぁと。

なるほど。

竜太朗:それで、去年くらいには音源を出しましょうという話はあったんですけど、俺が単純にブランクの影響で、あまりスッと歌詞とか書けなかったですね(苦笑)。ずっと生配信ライブをやってきたプラが出すのって、どんなのだろう?とか、今思えばちょっと考え過ぎちゃっていたのかもしれないですけど、単純に筆が遅くて。

それこそコロナ禍初期の頃(2020年5月)にYouTube配信「プラ通信部」で、竜太朗さんが「ライブをしたくてバンドを始めたから、ライブができなくて曲を聴かせられないのに、曲を作れないなぁ…」と話していたので、その気持ちが割と長く続いたわけですね。

竜太朗:そうですねぇ。逆に曲を作るという人もいましたけど、俺はそういうふうにはなれなかったですね。まぁでも、一回自分がコロナに罹ってソロの短いツアーを飛ばしちゃった時は、さすがに悔しさを何かにしようと思って曲とか作りましたけどね。家にいなきゃいけなかったから、実際暇だったし。ただ、バンドに関しては、こういう経緯もあって時間が掛かったなぁという感じです。

正さんの曲作りへのモチベーションはいかがでしたか。

正:僕もあまり新しいものを作ろうという気持ちには正直ならなかったですね。というか、気持ちをそっちへ向けられなかったです。『十色定理』の時に自分たちが今までやってきたサイクルがバサッと断たれちゃった感じがあって。竜ちゃんも言っていたように、音源を作ってツアーを回って、また次の音源に意識を向けていくというサイクルが、あそこで一回途絶えちゃった感じがありましたよね。だから、なんか気持ち的に整理がつかなかったですね。その当時、自分たちが作ったものに関して中途半端な感じになっちゃったなぁというのもあったし、社会的にもこれからどうなっていくのか本当にわからないから、そういう中で新しい曲を発信するという気持ちにはあまりなれなかったですね。もちろんバンドなので、ライブはやれる範囲でやっていきたいなとは思っていましたけど。

そういえば、『十色定理』の取材の直後に動けなくなりましたもんね。

正:そうそう、そうなんですよね。

2020年6月に生配信ライブ「Peep Plastic Partition」(以下、「PPP」)の第1回目が行われて、あれがプラにとって半年ぶりのライブでした。あの頃のYouTube配信「アリムラジオ」では、竜太朗さんが「ライブがないと空虚感があるんですよね…。自分の中でのものづくりの火が消えちゃいそうだったので、プラとソロの配信ライブを決めました」と話していて。ここまでの3年余、コンスタントに「PPP」シリーズのライブを継続してきたことは、アーティストとして生きる上で重要なものでしたか?

竜太朗:バンドにとっても、バンドに価値を見出してくれる人たちにとっても、活動を止めてお休みみたいな感じになっちゃうのはあまり良いことではないんだろうなと思っていて。前に進む方法が見つからない時だったから、さっきの話じゃないですけど、自分たちのことを振り返ってもう一度丁寧にライブという観点で色々やってみようかなと。初めは「これでいいのかな?」という違和感や迷いみたいなものもあったんですけどね。でも、こういう状況下で東京には来られないけど、バンドがライブをやるなら何かしら関わっていたいという人たちに向けて、生配信という手法を使ってリアルタイムで一緒に盛り上がれるとか、共有できるというのはすごく嬉しかったので、そこはバンドにとって良かったなと思います。やっぱりバンドとの関わりがなくなると寂しいじゃないですか。