Plastic Tree

Plastic Tree

結成25周年を迎えたPlastic Treeの最新作『潜像』が完成。
「ねぇ、透けてくのはなぜ? 消えないで、消さないで」

今年結成25周年を迎え、2月に2007年以降の全シングルc/w曲を収めた『続 B面画報』をリリース、精力的にライブ活動を展開してきたPlastic Treeが、シングルとしては約1年2ヵ月ぶりとなる新作『潜像』を完成させた。春ツアー、結成25周年“樹念”公演として東京芸術劇場で行われた初のシンフォニックコンサート、そして4人の色が混ざり合い生み出された今回の作品について、有村竜太朗(Vo)と長谷川正(B)にじっくりと話を聞いた。

◆曲の魅力を再発見できた(有村竜太朗)

有村竜太朗

――シングル『インサイドアウト』(2018年7月)以来の登場ですが、この1年、様々なライブがありましたよね。今年の春ツアーは、東京公演(中野サンプラザ)の後にまだ5公演あるというイレギュラーな日程でしたが、やってみていかがでしたか?

有村竜太朗(以下、竜太朗):春ツアー…もう記憶が…(笑)。

長谷川正(以下、正):初めて舞浜アンフィシアターでできたのが良かったですよね。

竜太朗:確かに、あれは印象深いですね。

――ステージが回転したのは衝撃的でした。

正:あの会場をフル活用しましたからね。

――それと、あの日の「春咲センチメンタル」は最高に美しかったです。アンフィシアター公演が控えていたから、あえてサンプラザでは「春咲センチメンタル」をやらなかったのでしょうか?

正:いや、そこまでは考えていなかったと思いますね。

竜太朗:今年の春ツアーは、セットリストにあまり「春咲センチメンタル」が入っていなかったんですよね。アンフィシアターは初めてやる会場でもあり、見せ方を変えられそうな会場だったので、せっかくならやってみるのも良いかなと思って。

正:『続 B面画報』(2007年以降の全シングルc/w曲を収録したB面集。2019年2月発売)を出した後のツアーだったので、割とその収録曲を中心にセットリストを組んでいたんですよね。でも、「春咲センチメンタル」は春ソングなので、全くやらないのも寂しいなというところで。良いところにハマったんじゃないかなと思います。

――演出はもちろんですが、あのステージを観ていてバンドっていいなぁと改めて思えました。

竜太朗:そう思っていただけたら何よりです。

正:本当に良いライブでしたね。

――5月5日には3回目の男子限定ライブ@新代田FEVERがあり、7月20日には東京ニューシティ管弦楽団との共演による初のシンフォニックコンサートが東京芸術劇場で行われました。

竜太朗:シンフォニックコンサートはバンドとしても初めての経験だったんですけど、曲は元々の4人の演奏は残したまま、あれだけのオーケストラアレンジが入るというのは、すごく新鮮でした。自分たちの曲なんですけど、こんな聴かせ方があったのかと曲の魅力を再発見できたこととか、とにかくそのライブに向けてやる作業の一つひとつに感動していましたね。アレンジが1曲上がる毎に感動して、リハに入ってまた感動して…本当に素晴らしい経験でした。なので、他の曲もこのアレンジを聴いてみたいなと、またやってみたいなという欲が出ちゃいましたね。色々な人の協力があってできたことですけど、何より、お客さんがPlastic Treeの曲をすごく好きでいてくれているから、それが繋いでくれた一日だったのかなと思います。

正:アンフィシアターは僕も「バンドっていいなぁ」と思えるライブだったんですけど、シンフォニックコンサートはもう「音楽って本当にいいですねぇ」という感じでした。

――純粋な指揮者を置かずに、大嵜慶子さんがアレンジ&ピアノ&コンダクターを担うという形はオーケストラ側からの提案だったのでしょうか?

竜太朗:企画してくださったところからの提案でした。大嵜さんには楽曲を好きになってもらえたし、この部分のメロディーが良いとか、各楽曲をすごく理解してくれていて。最初のほうはほとんど会うことはなかったんですけど、リハで会って話していくうちに、熱い気持ちを持ってやってくれているのがわかりました。僕が一番感動した「まひるの月」を、大嵜さんも「実は自分でもこのアレンジが一番気に入っていて」と言っていて、あぁ同じなんだなぁと思ったり。

――そうだったんですね。「リプレイ」はテンポ感を合わせるのが難しそうだなと思いましたが、いかがでしたか?

正:バッチリ合っていたので良かったですね。ストリングスがどんな形で入ってくるのか想像しづらい曲も、実際やってみるとこんなにハマりよくいくものなんだなという感動もありました。

――そういう意外な楽曲もありましたし、「幻燈機械」など元々ストリングスが入っている曲が再現できたものもありましたよね。セットリストは主に竜太朗さんが考えたそうですが、どのような基準で選曲したのでしょうか?

竜太朗:僕はオーケストラのアレンジの知識はないので、何から手を付ければいいかわからなかったんですよね。でも、感覚的にオーケストラとのコラボが似合いそうな曲というイメージのみで選びました。元々ストリングスがテーマ的に入っている曲もあれば、全然そうじゃない曲もあるし、あとはどんなふうになるのかわからないけど、自分が聴いてみたいと思う曲を中心に選びましたね。

――例えば、「灯火」(2018年7月発売のシングル『インサイドアウト』c/w曲)はストリングスが前面に出ている楽曲ですが、そういうものを入れなかったのはなぜでしょうか?

竜太朗:あー。春ツアーで結構やっていたから、単純に曲として飽きていたんだと思います(笑)。あと、「灯火」はやっぱりストリングスメインの曲なので、そういうものをシンフォニックコンサートでやると、もうそれが完全表現になっちゃって、後々ライブでやるのが辛いなというのもあって。

――なるほど、確かにそうですね。ちなみに、「アンドロメタモルフォーゼ」のアウトロは、通常のライブでは4人で弾き倒す、混沌とした空気感が印象的ですが、今回はオーケストラの皆さんがいるので普段よりもある程度決まり事を作ったんだろうなと。

竜太朗:いつもより短かったですよね。そこもアレンジはお任せしていました。

――最後の一音がいつもとは違う明るめのコードで終わったのも新鮮でした。

竜太朗:そうですね。バンドがやっていることは変わらないんですけど、オーケストラの進行は明るめの方向になっていました。こういう行き方もあるんだなと。今回は全曲お任せだったので、もしまたやる機会があれば、色々と意見をディスカッションしてやってもいいなと思いました。

――色々な聴き方ができるのは楽しいですよね。ちなみに、シンフォニックコンサートであり、着席スタイルの公演だったので、ライブ中お立ち台に上がることに少し戸惑いはなかったですか(笑)?

竜太朗:いや、全然戸惑わなかったです(笑)。確かに今思えば考えそうなことなのに、あの時は特に考えなかったですね。ライブ続きでまだあの日の映像を観られていないので、早く観たいです。

――ところで、竜太朗さんのツイートを読みましたが、7月28日に「FUJI ROCK FESTIVAL」で遂に生のThe Cureを観たそうですね。

竜太朗:最初にThe Cureがフジロックに来た時、すごく観たかったんですけど、僕らがちょうどヨーロッパツアー中で観られなかったんですよ。今回は自分たちのライブの前日だったのでどうかなとは思ったんですけど、アー写を撮ってもらっているカメラマンの中野(敬久)君と「やっぱり行きたいね」という話になって、色々と手配してくれて、正君とレコード会社のスタッフと皆で行ってきました。

――なかなか強行スケジュールですよね。

竜太朗:かなり強行でした(苦笑)。

正:車とかを手配していただいたお陰もあって、すごく楽しく行けました。やっぱりかなり影響を受けているバンドではあるので、色々と思い出すことはありつつ、結構近いところから観られたので、本当にこの人たちは存在していたんだなぁと。とにかく行って良かったです。

◆ストレートなバンドっぽさがやっぱり良いなと(長谷川正)

長谷川正

――今作『潜像』の制作において、久々の新曲ということは意識しましたか?

竜太朗:久々な感覚というのは、うちらにはあまりなかったんですよね。ちょっと空いたなぁくらい。本当は1年ぶりのシングルになる予定だったんですけど、実は歌詞が締め切りに間に合わなくて、約1年2ヵ月ぶりになりました。申し訳なかったですけど、時間をかけた分、プラらしさを上手に出せたかなと思います。

――表題曲は正さん作曲ですが、方向性についての話し合いはしたのでしょうか?

正:特にはなかったですけど、久々に出すシングルということで、こういうタイプの曲が良いんじゃないかなと思うものを持って行って、メンバーに聴いてもらいました。その時に、皆も「こういう感じ良いよね」と、その辺の方向性は一致していましたね。

――表題曲はバンド感があるもののほうが良いという考えもあったのかなと。

正:最初は、新しい要素を入れてみてもいいのかなと思いながらプリプロ作業をしていたんですけど、色々とやってみた結果、こういうストレートなバンドっぽさがやっぱり良いなと、形に落とし込んだ感じですね。

――今回も春ツアーと並行しての制作だったのでしょうか?

正:オケはツアー前に録っちゃっていましたね。

竜太朗:歌だけ5月だったと思います。ツアーを終えて、ちょっと一段落して、すぐ歌録りという感じでした。

――実は、9月4日リリースなのに7月上旬にサンプル音源をいただいたので、早くてビックリしたんです(笑)。

竜太朗:万全の体制で。

スタッフ:満を持して。

竜太朗:皆聴き飽きたくらいの時期にリリースされる(笑)。

――いやいや(笑)。「潜像」というテーマは何をきっかけに生まれたのでしょうか?

竜太朗:曲に導かれた言葉で作っていった感じなので、特に何とは言いづらいんですけど、曲から見える風景やイメージ、単語そのものだったりを素直に出して、作り上げていきました。だから、歌詞で言っていることと裏にあるテーマみたいなものは、全部同じなんですよね。自分では上手く説明できないんですけど…。とにかく、曲に素直に導かれるままに…という感じです。

――〈残酷な楽園〉〈饒舌に寡黙〉〈離れてく程に側にいる〉〈壊れた刹那で永遠を知る〉など、相反する言葉が多く使われているのが印象的です。これだけ多く使っているという自覚はありましたか?

竜太朗:ないです。本当に、歌詞がなぜこうなったという理由がないんですよね(笑)。これが僕の正解でした、と言うしかなくて。あとは聴き手に委ねます。

――歌録りはどのような部分を意識しましたか?

竜太朗:割とアッパーな曲というか、勢いのある、バンド的にスピード感のある曲なんですけど、歌の表情が出せる曲だなと。歌詞書きの時も歌録りの時も思ったんですけど、すごく表情が出せる曲だから、歌い手としてはやり甲斐のある曲でした。

――前回、「僕にしか気付いていない部分を歌でちゃんと出さなきゃと、自分で自分に声を掛ける感じ。これはシングルでよくあることなんですけど」と言っていましたが、そういう点ではいかがでしたか?

竜太朗:今回もそんな感じでしたね。でも、本来歌録りをする予定だった日に歌詞ができなかったので、その日はエンジニアさんといくつかあった歌詞で歌当てをしてみたり、そういうことができたのがすごく良くて。試しながら録れたので、結果として歌詞と歌は馬鹿丁寧にやらせていただきましたね。

――正さんは、「潜像」に関してどのような部分を意識してレコーディングしましたか?

正:バンド全体のアンサンブルとしては、スピード感や勢いは出したいなと思ったんですけど、その中でも自分が弾くベースが結構肝になりそうな曲だったので、そこの意識に特化して取り組みましたね。録り自体は前回同様にスムーズでした。

――ところで、今作は2曲ともギターソロがないですよね。作曲者にもよるとは思うのですが、プラの場合、ギターソロの必要不要はどういう部分がポイントになってジャッジするのでしょうか?

正:イメージできるかどうかだと思うんですよね。このセクションでギターソロを弾いていそうだなとか。今回の「潜像」もギターソロのセクションは作れたと思うんですけど、作業を進めるうちに、もうちゃんとドラマはできているし、なくてもいいんじゃないかなとなりました。

――それはデモ段階でほぼ決まっているのでしょうか?

正:あぁ、何となくイメージはありますね。そこから大きく変わることはないのかも。ギターソロって無理に作る必要はないし、もちろんハマれば一番良いという感じですね。

――今回のアーティスト写真とMVは、「潜像」の世界観に沿って暗室のような場所で撮影したものということですが、印象に残っているエピソードはありますか?

正:これまた順調に撮影が進んだもので…これと言ってエピソードというものが…。順調だったなぁ、という思い出ですね(笑)。

竜太朗:MVは久々の監督さんだったので打ち合わせを何度かさせてもらった中で、曲が持っている描写を実際に作ってみたいという話になって、昔から仲が良いカメラマンさんにも手伝ってもらったりして、曲で描いている世界観をちゃんと表現できたかなと思っています。打ち合わせが功を奏したのか、撮影は順調でした(笑)。

――(笑)

竜太朗:監督さんが、その世界観を作るためにカメラマンさんの紹介で暗室に行って実際の作業を見たらしいんですけど、その工程にハマっちゃって、これを撮りましょうということになったんです。なので、本当は1日で撮影が終わるはずだったんですけど、後日僕だけ結構遠いところまで行って、MV冒頭の暗室での現像作業シーンを撮りました。「それまだ水に入れちゃダメだよ!」とか怒られながら(笑)。でも、話では知っていたけど、本当にこうやってやるんだなぁと興味深かったですね。撮影にかこつけてそういうことができたのは、良い経験でした。