ライブレポート

2016.8.6
石月努@渋谷duo MUSIC EXCHANGE
『石月 努 独演。 ~アンコール~』

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これまでのライブパフォーマンスとはまったく異なるエンターテイメント型ストーリーライブ『石月 努 独演。 ~アンコール~』が8月6日渋谷duo MUSIC EXCHANGEで行われた。この“エンターテイメント型ストーリーライブ”とは石月が創作した物語と彼の楽曲とが織りなす新しい表現空間。今年5月から7月にかけて3つのストーリーを3回に分けて上演されたものを、今回はアンコール公演ということで、全三幕を一挙上演。石月努の提案する新たな試みである“ストーリーライブ”。この日のパフォーマンスを早速レポートしよう。

FANATIC◇CRISIS解散後、2012年ソロアーティストとして音楽活動を再開し、勢力的に活動をしてきた石月努。今年2016年1月27日には、約4年間のソロワークスをパッケージしたベストアルバム『BEST WORKS 2012-2015 【EPISODE 1】』をリリース。この作品は、ソロワークスとしての句読点的な意味合いであったのと同時に、これから始まる“EPISODE 2”での、新しい石月努を期待させるような作品であった。そして、しばらくの準備期間を経て石月努が新しく我々に提示したのは “エンターテイメント型ストーリーライブ”なる表現方法。石月が創造した物語と楽曲がリンクするカタチでストーリーパフォーマンスを行うというこれまでにないライブ空間。石月が書き上げた3つのストーリー「wonderfall~LOVE SONGS~」、「wonderfall~百鬼夜行~」、「wonderfall~LIFE~」を軸に、パフォーマンスは展開していく。

◆第一幕「wonderfall~LOVE SONGS~」
定刻の12時30分。客電が落ち、カンテラを手にした石月が登場。静かに一礼した後、カンテラの灯りをステージに残し、再びステージ袖に消えていった。ステージ後方に設置されたプロジェクタースクリーンに「wonderfall~LOVE SONGS~」の文字が映し出さる。第一幕のスタートだ。物語はプロジェクターに映し出されたストーリーを石月努と声の演者たちの影の朗読で進行する。

月世界の住人であるウサナギとキツネが森へ出かけたところから物語は始まる。この国に無数にあるクレーター。そのほとんどは蓋がしてあり、国によって厳重に管理されている。2人は偶然蓋のしていないクレーターを発見、好奇心からウサナギはそのクレーターのなかへ落ちてしまう。

ここでプロジェクターがブラックアウトし、再び石月がステージに現れ、ステージ中央に用意されたイスに座る。一呼吸合間をとって石月はゆっくりと歌い始める。曲は「スノードーム」。一年中雪景色である、月世界の情景を表したチューン。リリカルなピアノをバックに石月努が語りかけるように歌う。曲を歌い終えると再びステージを後にする石月。石月の歌とクロスフェードするかたちでストーリーは再び動き始める。

クレーターに落ちたウサナギが辿り着いたのはそれまで暮らしていた世界とはまったく異なる世界。突然現れた万能の老人エニシから、1ヵ月以内に元の月世界に戻らなければ、ウサナギ自身の存在が消滅する事を知らされる。元の月世界に戻るすべもなく、途方に暮れるウサナギの目の前に現れた少女アリス。その天使のような出で立ちにウサナギが惹かれていく。

物語はこのアリスとウサナギとのやりとりを中心に進んでいく。物語の節ごとに石月がステージに現れ、この物語の水先案内的な役割を担う楽曲を歌う。朗読と音楽が交互に披露され、物語は進行してゆく。

エニシのアドバイスでタイムリミットギリギリで元の月世界へ戻ることができたウサナギ。異次元世界に残してきたアリスへの想い出を胸に、ウサナギは再び元の月世界での生活にもどる……。

朗読と6つの楽曲からなる第一幕「wonderfall~LOVE SONGS~」は幕を閉じた。
この日のパフォーマンスでは各章ごとに、ピアニストを向かえて、ピアノをバックにライブパフォーマンスも披露するというアンコールパートが用意されていた。ただし、セットリストは予め決められたものではなく、石月努ソロ、FANATIC◇CRISISのレパートリーからオーディエンスがくじ引きで曲を決めるというスリリングなもの。静かに進行していくストーリーパフォーマンスとこのライブパフォーマンスとのコントラストがまた面白い。第一幕のアンコールパートで抽選されたのは「勇気」、「マリアに傷心」、「革命前夜」の3曲。「革命前夜」は第二幕の挿入歌として歌われる予定の曲ではあるが、そこは仕込みなしのガチのくじ引き。この曲が抽選された瞬間、苦笑いしていた石月努だったが、熱っぽく3曲を歌い終え、ステージを後にした。

◆第二幕「wonderfall~百鬼夜行~」。
第一幕から一時間ほどのインターバルの後、二つ目の物語は始まった。鐘の音が響くなか石月がゆっくり語り始める。無事、クレーターの穴の世界から戻ったウサナギ。月世界でいつものように目覚めのコーシー(地球の世界でのコーヒーのようものなのか?)を飲む。そこへドアをノックする音が。突然訪ねてきた月世界の役人サイモン。「ウサナギさんのお宅でよろしかったですか?」。どこか聞き覚えのある太い声。THE MICRO HEAD 4N’SのSHUN.の声に似ている……。声の主を察したオーディエンスから微笑が起こる。そして訪ねてきたSHUN.もとい、月世界の役人サイモンに促されてウサナギはクレーターの穴のなかに存在する7つの世界に存在するマスターにそれぞれマスターキーを手渡すという使命を受ける。7つの世界に向かうため列車に乗るウサナギ。再び、新しい冒険が始まる。第二幕の物語は一幕の話が伏線となっており、7つの異次元世界をウサナギが旅をするというダイナミックなストーリーになっている。また、声のゲストとしてTHE MICRO HEAD 4N’SのKAZUYA、SHUN.。そしてLa’cryma ChristiのLEVINを向かえ、賑やかにストーリーは進んでゆく。第一幕と同様に、物語と石月が歌う楽曲が交互に披露される。また、第一幕と同様にアンコールパートでは、くじ引きにより選曲された「Echo」、「ゆらぎ」、「向日葵」の3曲が披露された。

◆第三幕「wonderfall~LOVE SONGS~」
この日の東京は35℃を超える猛暑。一年中雪景色である月世界の物語にどっぷり浸っているためか、ここ渋谷duo MUSIC EXCHANGEでは、真夏であることをしばし忘れてしまう。昼からスタートしたこの物語もいよいよ最終幕。カンテラを手にし三度ステージに現れた石月。

3つ目の物語は鎌倉稲村ヶ崎海岸沿いにある小さな喫茶店で働く中年女性、上田有栖(ウエダアリス)の半生を辿るカタチで進行してゆく。オープニングで会場に流れた「ジムノペディ」。この曲の反復されるパッセージが波の音を連想させ、物語の世界に吸い込まれてゆく。ファンタジックで、どこかコミカルな前2編とはうって変わって、最後の物語はリアルだ。主人公である上田有栖の人生は悲劇的ではあるが、それは決して特異なものではなく、我々が日常的に対峙している事柄なのである。

第一幕、ニ幕の舞台は月世界。そして第三幕は鎌倉の稲村ヶ崎での物語。まったく異なった世界が、我々人間には知る由もない空間を通してリンクしている。この稲村ヶ崎での物語は想像もしない結末を向かえる。ただ、物語の顛末をここに記すのは野暮。ヒントに第三幕の最後に披露されたチューン「世界」の歌詞の一節を記しておこう。

“君の「世界」と、僕の「世界」が繋がり合って、また新しい「世界」が生まれ……”
語りかけるように、そして時にパワフルに歌う石月。第一幕から三幕までの物語を総括するようなこのリリック。平易な言葉ではあるが、3編の物語が残像となって、この「世界」の言葉一つ一つに奥行きを与える。

そしてこの幕のアンコールも、オーディエンスのくじ引きで選曲された「桜川」、「さよならMarmaid」、「世界」の3曲を披露。さらに、止まないアンコールに応えFANATIC◇CRISISの名曲「ONE-You are the one-」を歌い終え、この日のすべてのプログラムは終了した。

石月努の新しい試みであるエンターテイメント型ストーリーライブ“wonderfall”。企画を聞いた時点ではポエトリーリーディングやミュージカルのようなものを想像していたが、銀髪にウサギ耳を着けた出で立ちで登場した石月努が主人公のウサナギであり、またストーリーテラー。そしてライブパフォーマーと、石月とオーディエンスが視点を縦横無尽に変えて、物語を楽しむことのできる新しいパフォーマンスであった。このアンコール公演は東京での1公演のみだった為に、このパフォーマンスを体験できなかった人も多かったに違いない。ぜひ近いうちに再演を望む。

◆セットリスト◆
【第一幕「wonderfall~LOVE SONGS~」】
01. スノードーム
02. 夜想曲~ノクターン~
03. 東京タワー
04. 家路
05. 花火
06. LOVE SONGS
En
01. 勇気
02. マリアに傷心
03. 革命前夜

【第二幕「wonderfall~百鬼夜行~」】
01. 星降る夜に。
02. NEW WORLD
03. 桜川
04. evergreen
05. バイアス。
06. 革命前夜
En
01. Echo
02. ゆらぎ
03. 向日葵

【第三幕「wonderfall~LIFE~」】
01. バタフライエフェクト
02. 向こう岸
03. アオイ
04. あなた。
05. Life goes on.
06. 世界。
En
01. 桜川
02. さよならMarmaid
03. 世界
W En
01. ONE-You are the one-

(文・ぽっくん)