2025.05.18
PIERROT@Kアリーナ横浜
PIERROT「LASTCIRCUS – HELLO -」

「LASTCIRCUS」――その言葉の意味について、どれだけの人が思いを巡らせながら、この約3ヵ月間を過ごしてきたのだろうか。1994年に結成したPIERROTが、インディーズ時代から節目となる特別なライブに用いてきた象徴的な冠が「DICTATORS CIRCUS」。2006年4月12日に解散を表明し、そこから約8年の時を経て2014年に開催した復活公演には「DICTATORS CIRCUS FINAL」と掲げられていた。そして2025年5月17〜18日、Kアリーナ横浜を舞台に行われたのが、「LASTCIRCUS – FINALE -/- HELLO -」となる。

改めて、ここに至るまでの時系列を記しておきたい。2024年10月、国立代々木競技場第一体育館で開催された、2017年以来となるDIR EN GREYとの二度目のジョイントライブ「ANDROGYNOS – THE FINAL WAR -」を起点とし、2025年2月、実に約10年ぶりとなるワンマンライブ「END OF THE WORLD LINE」が東京有明アリーナで実現した。そのステージ上で発表されたのが、今回のKアリーナ横浜2days公演。言わばそれは、この一連の流れの終着地だった。

キリト

迎えた第二夜「LASTCIRCUS – HELLO -」。サブタイトルにある通り、幕開けを飾ったのは、かつての解散宣言後にリリースされたラストシングル「HELLO」だった。当時のMVの断片とリアルタイムの彼らの姿をリンクさせたモノクロ映像が、やがてカラーへと移り変わる演出は、このライブが単なる懐古ではなく、“今”を生きる2025年現在のPIERROTを提示するものであることを明確に表していた。

その後も様々な場面を経ながら本編18曲、アンコール6曲の計24曲が繰り広げられていったわけだが、PIERROTの代名詞的な鉄板曲「Adolf」「脳内モルヒネ」「*自主規制」をはじめ、活動初期の「自殺の理由」「ドラキュラ」「満月に照らされた最後の言葉」、メジャーデビュー以降のシングル曲「壊れていくこの世界で」「PSYCHEDELIC LOVER」「MAD SKY -鋼鉄の救世主-」、ライブ終盤での登場率が高かった「蜘蛛の意図」「HUMAN GATE」など、出し惜しみのないラインナップであったことが印象的。

それらのパフォームの中で、例えば「Adolf」はTAKEO(Dr)の冒頭のドラミングから一瞬でその曲だとわかるし、「脳内モルヒネ」は潤(G)によるイントロのギターシンセがあまりにも特徴的、「ENEMY」においてキリト(Vo)を挟む形でアイジ(G)と潤が対峙してプレイする一幕や、「MAGNET HOLIC」でKOHTA(B)がセンターお立ち台に上がり、大歓声を浴びるセクション、「*自主規制」で潤のみを白色の光が照らし出す中でのイントロ、「蜘蛛の意図」でのアイジ(G)のキラーフレーズ…というように、随所でそれぞれの見せ場があること、加えてメンバー同士の絡みが見られたことも、やはり嬉しさを伴うものだった。

アイジ

また、PIERROTはヴィジュアル系シーンにおける振り付け文化を広く認知させ、定着させた先駆的存在の一つであり、この夜も当然のように1万人を超える人々が圧巻の一体感を生み出したのだが、彼らがあの当時から革新的だったのは、それだけではない。キャッチーなナンバーはもちろん存在するが、変拍子や不協和音、特徴的なフレーズのループなどを駆使した、変態的とも言える構成によって中毒性の高い音楽を多数作り出し、いわゆる一般ウケとは異なるベクトルの尖った音楽性で、多くのファンを獲得したということ自体が、ある種の発明と言ってもいいのではないだろうか。この日披露された、3拍子と4拍子が混在する「自殺の理由」で、リズムに合わせてオーディエンスがヘドバンする光景を観ながら、改めてそんなことを思った。

そして、PIERROTの世界観を形づくる軸となっているのは、フロントマン・キリトの絶対的な統率力と、彼が生み出す歌詞に宿る強いメッセージ性だ。社会へのアンチテーゼ、哲学的な視点、そしてときにはシンプルな言葉を用いながら、現実の厳しさと、生きていくうえでの光を聴き手に示してくれる。

当夜の本編中盤、静寂を挟んで「壊れていくこの世界で」から始まったブロックは、特に印象深いものだった。同曲での〈少しずつ終わりへと近づいていく〉という一節に、思わずハッとさせられたのは筆者だけではあるまい。〈何一つも まだ諦めてはいないから〉と歌ったキリトが、フロアに目を向け、頷いたように見えた。続く「BIRTHDAY」では、ぐるりとオーディエンスを指し、〈そこにいるだけでいいから〉と最後の一節を歌い上げれば、「真っ赤な花」で〈これからあきらめた景色に 真っ赤な花を咲かせようか もっと〉と力を込めた。このブロックの最後に届けられたのは、「PURPLE SKY」。〈どれだけ不安な夜を乗り越え この時を君が待っていたのかが解るから〉〈どこまでも広がる可能性だけをイメージして〉といったリリックが、より真実味を持って強く響いてきたのだった。

「もっと愛し合おうぜ! 最高の夜にしようぜ!」(キリト)との言葉を合図に突入した本編最終ブロックでは、カラフルな照明と大型ビジョンに映し出された5人分割のリアルタイム映像とともに、「PSYCHEDELIC LOVER」で極彩色の未来へ向かう姿を描き出せば、「*自主規制」では炎と白煙が噴出し、オーディエンスも全力で応戦。本編ラストとなったのは「MAD SKY -鋼鉄の救世主-」で、ブラウン管テレビを模したフレームの中に、リアルタイムの5人の姿が映し出される演出は、当時のMVをオマージュしつつ、やはり今現在のPIERROTを象徴的に示したものだったと言えるのではなかろうか。

アンコールでは各メンバーの言葉が届けられ、TAKEOが「楽し過ぎて、今、何を叩いているかわからなくなるくらい、すごく気持ちいいです」と言えば、「皆、いいよ。完璧。Perfect。気持ちよくて、いつまでもいたくなります」とKOHTA。そして、潤が「永遠に続きそうな気もするし、1分後には終わっている気もするし。また奇跡が起きたら、その空間を皆さんと一緒に楽しめればなと思います」、アイジが「有明アリーナからわずか3ヵ月後に、また大きな会場でやれて、ロックミュージシャンをやっていてよかったなと改めて思います。生きていれば色々あるけど、とにかく健康でいてください。メンバーも健康でいるから。健康の先に、またあるかもしれないじゃん」と、未来への希望を感じさせてくれた。

ここでキリトが「PIERROTというバンドは、最近は伝説と言われたりしますが、素晴らしいのはファンの人たちだと思っています」と切り出し、バンドの活動状況に関係なく、ファンのおかげで独り歩きしていった結果が今なのだと話した。「それは俺たちが真剣に生きてきた証だと思います。これからもピエラー(ファンの呼称)だという誇りを持って生きてください。俺たちもPIERROTとして生きてきたことを誇りに思っていますから」と告げたのだった。

KOHTA

「素晴らしい会場ですが、ぶっ壊しましょう。あ、物理的にじゃないですよ。気持ち的に空間をぶっ壊しましょう!」(キリト)と、令和版の煽りでラストスパートへ。「蜘蛛の意図」でフロアを大きく揺らした後に続いたのは、「HUMAN GATE」。〈きっと誰もが苦しみを背負いながら、笑顔を見せている〉〈それでも生きていかなければ〉というメッセージは、いつの時代も聴く者の心に深く響く。多くの人を救ってきたに違いないこの楽曲で、銀テープが舞うハイライトとなった。

「PIERROTというのは、とにかく我が道を突き進んできたバンドです。業界や大人にも忖度せず、力で前に進んできたわがままなバンドです。今もそうです。皆の不安は痛いほどわかります。ただ、PIERROTの次の予定は何も決まっていません。皆が安心できるような次の約束や保証はありません。ごめんね。でも、こんなバンドだとご存知なら、あえて上から言わせてもらいます。約束や保証をもらわないと生きていけないような、弱い人間にならないでください。何の保証もない未来だからこそ、信じる価値があるんです。願いに意味があるんです。そして、それがやがて奇跡になるんです。明日からそんな“今”を生きてください。そんな未来を信じて前に進んでください。それが一番の願いです。ただ、勝手なことを言ったら怒られるかもしれないけど、俺の正直な思いは…またいつか!」(キリト)

こうして奏でられた、当夜および「LASTCIRCUS」を締めくくるラストナンバー「CHILD」は、どうしたって胸を打つものだった。曲の終盤、キリトがアカペラで〈強く響け僕の歌声よ〉と歌った後フロアにマイクを向けると、客電が明るく照らした場内にオーディンエンスの大合唱が響き渡り、果てしなく美しく温かなエンディングを迎えたのだった。

TAKEO

すべてのパフォーマンスを終え、「すごくすごく最高の時間でした。また一つ大切な思い出を作ることができました」(TAKEO)、「握力が0になるくらいギターを弾きまくりました。明日からもたくましく生きていこうと思います。皆、最高の笑顔だった!」(潤)、「PIERROT史上最高のライブだったと思います」(アイジ)、「またいつか会いましょう」(KOHTA)と、それぞれの言葉が伝えられた後、キリトは「PIERROT最高! そしてお前ら最高! 今日はどうもありがとう! バイバイ!」と、“いつもの”挨拶で締めくくった。

PIERROTは、あの頃も今も、その楽曲と言動を通して、私たちに生きる指針を示してくれる。だからこそ、「LASTCIRCUS」で彼らのメッセージを受け取ったピエラーたちは、次の約束がない“一つの終わり”を迎えたその夜でさえ、悲しみや重苦しい空気に包まれることはなかった。寂しさがまったくない、とは言えないかもしれない。しかし、その場に居合わせた多くの人々は、未来を信じ、今をたくましく生きていくことを、心に強く誓ったに違いない。

◆セットリスト◆
【05.17 – FINALE -】
01. FINALE
02. Adolf
03. ENEMY
04. 自殺の理由
05. 青い空の下・・・
06. セルロイド
07. 脳内モルヒネ
08. ACID RAIN
09. HILL-幻覚の雪-
10. PIECES
11. REBIRTH DAY
12. PSYCHEDELIC LOVER
13. MAGNET HOLIC
14. 満月に照らされた最後の言葉
15. ドラキュラ
16. *自主規制
17. MAD SKY -鋼鉄の救世主-
18. CREATURE

En
01. 真っ赤な花
02. ICAROSS
03. ゲルニカ
04. ATENA
05. 蜘蛛の意図
06. HUMAN GATE

【05.18 – HELLO -】
01. HELLO
02. Adolf
03. ENEMY
04. セルロイド
05. ICAROSS
06. 脳内モルヒネ
07. 自殺の理由
08. 壊れていくこの世界で
09. BIRTHDAY
10. 真っ赤な花
11. PURPLE SKY
12. ドラキュラ
13. ゲルニカ
14. 満月に照らされた最後の言葉
15. MAGNET HOLIC
16. PSYCHEDELIC LOVER
17. *自主規制
18. MAD SKY -鋼鉄の救世主-

En
01. HEAVEN
02. REBIRTH DAY
03. SUPER STRING THEORY
04. 蜘蛛の意図
05. HUMAN GATE
06. CHILD

(文・金多賀歩美/写真・柴田恵里、青木早霞、山下深礼)


【リリース情報】
●LIVE Blu-ray & DVD『LASTCIRCUS』
2025年12月18日(水)発売
受注期間:2025年7月31日(木)まで

[豪華盤 Blu-ray]
3DISCS(2DAYS収録+特典映像)SCEB-0008~10
¥24,800(税込)


[豪華盤 DVD]
3DISCS(2DAYS収録+特典映像)SCED-0061~63
¥23,800(税込)

豪華盤特典:特典映像DISC、特殊パッケージ仕様、ライブフォトブックレット
※タイトル及び仕様等は変更になる可能性がございます。
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