最上川司が放つ参加型演歌『飛んでけ花笠』。故郷山形への感謝と元気を日本の空へ、世界の空へ――
THE MICRO HEAD 4N’SのドラマーであるTSUKASAが、2015年6月にヴィジュアル系演歌歌手・最上川司としてシングル『まつぽいよ』でメジャーデビューを果たしてから今年で8年。バンドと並行して精力的な活動を続けてきた彼がこの度、日本クラウンへの移籍第1弾作品として5年ぶりのシングル『飛んでけ花笠』をリリースした。久々のVif登場となる最上川司の近年の活動を振り返るとともに、故郷山形の「花笠音頭」をモチーフとした、お祭り感満載の“参加型演歌”である表題曲、80年代シティポップサウンドが印象的なc/w曲「許されぬ恋」が収められた最新作についてたっぷりと語ってもらった。
自分にとってもお客さんにとっても貴重な時間
THE MICRO HEAD 4N’Sではいつもお世話になっていますが、最上川司さんとしてはシングル『ひとひらの桜』(2016年2月)以来なんと7年4ヵ月ぶりの登場です。
最上川司(以下、最上川):おー、そうですか。あの時のコメント動画の記憶がありますね。
ということで、まず最近のことを少し振り返りたいなと。2022年5月にリリースしたアルバム『百歌繚乱~もがちゃんねるベストプラスワン~』は、2021年に12ヵ月連続でYouTube公開したオリジナル曲+新曲1曲の全13曲を収録したものでしたよね。あれは結構大変なことだったんじゃないかなと。
最上川:あの企画をやろうとした時点で、6曲くらいはもうレコーディングするだけという状態の曲のネタができあがっていたんですけど、半年を過ぎたくらいから焦り始めまして。でも、自分の伝えたい思い、曲にしたい思いがあったので、何回か遅れちゃった月もありましたけど(笑)、何とか無事に公開することができて良かったです。
YouTube公開だったので、楽曲制作だけでなく映像も毎回制作しなければいけなかったですしね。
最上川:そうですね。お金をかけずに何かできないかなというところで、全部自分でやってしまいましたけど。「ぽつり」という1曲だけは、花見桜こうき君に撮影してもらいましたね。
司さん出演MVだったり、描き下ろした絵を使用したものだったり、映像も色々なバリエーションがありましたよね。
最上川:その曲のイメージに沿って、自分が出るか出ないかとか、難しそうな時は画像で作ったりしました。「神輿」なんてまさか自分がお祭り騒ぎするわけにはいかないなと思いましたし(笑)。「気性天気図」は自分で絵本のようなタッチで絵を描きましたけど、あれは作っていてすごく楽しかったですし、キャンペーンとかで子連れの方も多いので、こういうものも楽しめるんじゃないかなという思いで作りましたね。
6曲は既にあったというお話でしたが、「神輿」「王将茨道」は2015年に書いた曲だったり、「夏なみだ」は2016年時点でサビだけあったそうで。司さんは割と曲を書き溜めておくタイプでしょうか?
最上川:書き溜めておきますね。よくロックバンドのインタビューとかで、書き溜めておくと自分の中で新鮮味がなくなると言っている方もいらっしゃいますけど、僕は全くそう思わなくて。むしろ、どこのタイミングでこれをドカンと出そうかなとか、そういうのを気にして溜めておいていますね。
では、今も世に出ていない曲がまだあるんでしょうか?
最上川:ありますね。最近ちょっと忙し過ぎて、曲作りに手を付けられていないんですけど。そんな時は睡眠を削ってでも作るんだと誰かが言っていましたけど、寝ないと体が壊れるなと。特に今年は休んでいないんじゃないですかね。
もちろん体が一番ですからね。コロナ禍に始めた配信番組「スナック司」のリアル版も2回開催されていますが、今年1月のAPIA40公演では初めてドラムを叩きながらの歌唱にも挑戦しましたよね。
最上川:そうでしたねぇ。簡単にやれそうかと思いきや、難しかったですね。割と自分の中では手先が器用なほうだと思っていたんですけど、ドラムのリズムと違うリズムで歌ったりすると難しくて。でも、新鮮な最上川司がお届けできたかなと思っています。
そうですね。
最上川:「スナック司」自体も、コロナ禍でファンの皆さんを放っておけないなというところで、ライブができない分、せめて配信だけでもと、SHUN.さん(THE MICRO HEAD 4N’S)と一緒にスナックのコンセプトでやれたら面白そうだなと思ってやってきましたけど、有観客でライブをやれるようになってからリアル「スナック司」もできて、めちゃくちゃ楽しかったですね。リアル版も同時に配信したんですけど、配信では観られない番組の裏側みたいなものを会場のお客様にお届けできて、そういうところも楽しかったですね。
ところで、ドラムを叩きながら歌唱する楽曲はどのように選曲したのでしょうか?
最上川:無理なく、なるべく歌いやすい曲ということで「サボテンの花」(チューリップ)を歌わせてもらいました。ずっと8ビートで、節目に簡単なフィルインが入ってくるという、まずはそこから始めようと思って。あと、この曲は高校生の頃からバンド仲間とコピーしていたり、YouTubeでもアコギで弾き語りをしましたし、馴染みのある歌だったので気持ち的にはプレッシャーもなく入れましたけど、技術的にはまだまだ難しかったです。
他に候補曲はあったのでしょうか?
最上川:いや、なかったです。その一択で。お客さんの前でも「これがきっと最後でしょう」みたいなことを言ったので、今後やるかは怪しいですけど(笑)、またチャレンジできたらいいなとは思っています。
リアル版「スナック司」は、今後も定期的に開催したいという思いはありますか?
最上川:はい、気持ちはありますね。観客ありのテレビ収録みたいな感じで、配信では「はい、始まりました」という感じでスタートしましたけど、リアルのお客さんの前では番組を盛り上げるための拍手の練習とか、すごくゆるーい感じで配信10分前くらいからやっていて、そういう時間は自分にとってもお客さんにとっても貴重だと思いますし、楽しめましたね。
山形への感謝と日本全国に元気を届けたいという思い
この度、実に5年ぶりとなるシングル『飛んでけ花笠』がリリースされます。
最上川:コロナ禍も挟まれて時間の感覚が麻痺しちゃっていて、前作が本当に昔のようにも思えますけど、この機会を与えてくださった方々に本当に感謝でいっぱいですね。
5年ぶりのシングル&移籍第1弾という観点で、制作にあたって意識したことはありますか?
最上川:やっぱりドカンとインパクトみたいなものは考えていましたね。良い曲というのは自分の中では他にもあるんですけど、「良い曲だね〜」というものよりインパクトを出したいなと思って用意した部分がありますね。
これまでもシングル曲は山形のことを歌っているものが多いですが、こういうタイミングの作品だからこそ山形、その中でも最上川に関わりのあることに焦点を当てたいという思いが強かったのでしょうか?(※山形花笠まつりのために考案された「花笠音頭」は、最上川の流れに沿った各地の名所名物を歌い込んだもの)
最上川:楽曲提供だと、こんなテーマで書いてほしいとか、自分が見て思ったことで山形とは関係のないテーマでも書けるんですけど、自分が歌うとなった時に何を書こうかと考えると、やっぱり地元のことしか浮かばなくて。そういう書き方は結構昔から変わらないですね。それと、コロナ禍が穏やかになってきた今、日本に何が足りないかと考えたら、元気かなと思ったんですよね。で、僕が地元で育った思い出を軸にして、山形への感謝と日本全国に元気を届けたいなと思って、この歌詞ができました。
ちなみに、マイフォのEUツアーの全会場で「花笠音頭」を披露したというエピソードがありましたが、あれが2013年だったので、そこからちょうど10年経過して「花笠音頭」をモチーフにした楽曲を発表するというのも不思議な巡り合わせだなと。
最上川:おー、不思議ですね。ちょうど10年ですか。そこは全く頭になかったですけど、そういうこともこれから売り文句で言えそうですね(笑)。
ぜひ使ってください(笑)。「飛んでけ花笠」は、まさに冒頭が「花笠音頭」の一節から始まりますが、これは最初から絶対に入れようと思っていたのでしょうか?
最上川:実は元々、花笠の歌詞ではなかったんですよ。曲先行で作ったんですけど、この曲が勢いがあっていいねとなって、サビに〈やっしょまかしょ 花笠よ〉という歌詞が入ってきまして、そこから花笠の内容を取り入れて広げていきました。
とてもインパクトのある始まり方です。
最上川:頭は引用させてもらいつつ、自分ヴィジュアル系なもんですから、ちょっとダークな「花笠音頭」みたいな感じで始まりたくて(笑)。イメージ的には「夜桜お七」にも似たような感じがあると思うんですけど、それを自分が歌ったら「花笠音頭」のダーク版かなみたいな。本編に入るとお笑い要素が満載ですけど、ここは皆に元気を出してもらおうと。
イントロで前面に出てくるギターフレーズと〈ちゅーちゅるちゅるちゅるー〉のコーラスも印象的ですが、これは司さんのデモ段階であったものか、アレンジャーさんが入れたものか、どちらでしょう?
最上川:楽器ものは基本的にアレンジャーさんですけど、〈ちゅーちゅるちゅるちゅるー〉は元々イントロに入っていなくて、1番のサビ終わりに入れていたんですよね。そしたら、ディレクターさんにすごく気に入っていただけて、これをイントロにも入れようという話になったんです。イントロから盛り上がれるような感じがあって、いいなぁと。アレンジャーさんにも相談しつつ、こういう形になりました。勝手に自分で参加型演歌と呼んでいるんですけど、ファンの皆さんに参加してもらって完成する曲になったなと思っています。〈ちゅーちゅるちゅるちゅるー〉の後の「フッフー!」という部分もお客さんに盛り上がっていただいています。
お祭り感もあってキャッチーで、合いの手も入れやすい楽曲ですよね。
最上川:そうですね。配信のアーカイブとかを何回も観て、CD発売前の時点で早くも歌詞を覚えてくださった方もいて、キャンペーンでも合いの手を叫んでくれるんです。これは今後に期待できるなぁと思っています。
ちなみに「参加型演歌」という言葉は、6月9日のワンマン公演(最上川 司 デビュー8周年記念2ヶ月連続ワンマンコンサート「仰天!!タイムマシーンで修学旅行」中学編@浅草Gold Sounds)の時に、あの場で思いついた言葉だったのでしょうか?
最上川:言葉としてはそうだったかもしれないですね。そういうことをやりたいということ自体は、合いの手を録っている時から思っていました。合いの手が多過ぎて、レコーディングにすごく時間がかかったんですよ。最後のほうは声が枯れてきちゃって。裏話としては、サビにある「ちょいちょい」という合いの手を最後に録ったんですけど、声が枯れて理想の「ちょいちょい」が録れなくて、そこだけ自宅で録音したものを使いました。合いの手を録るのは過酷でしたねぇ。
そんな裏話が。カラオケのトラックを聴くと、合いの手もよく聴こえますしね。
最上川:今までもカラオケをCDに収録していましたけど、確か自分の声が入っているカラオケ、いわゆるマイナスワンというものは今回が初だと思います。
サウンドとしてはエレキギターが随所に効いているのも特徴的ですよね。
最上川:今回はド演歌向けのミキシングをやっていただいた気がしますね。僕はあまり、ああしてこうしてと言っていないんですけど、日本クラウンと言えば演歌の大御所レコード会社でして、そこに乗っかってみようと。いつもだとミックスも口うるさく言ったりするんですけど、今回は演歌の音作りをお任せしました。
そうなんですね。
最上川:ディレクターさんが本当に信頼できる方で、歌のレコーディングでもコブシの回し方や、しゃくり方とかをアドバイスしてくださって。あまり言われたことがなかったので、自分の中で発見もできましたし、とても感謝していますね。具体的に言うと、例えば〈花びら飛んできた〉をストレートに歌うんじゃなくて、その〈飛〉の部分を下からしゃくってコブシを回すと、メリハリが付くよと。そういう自分では気づかなかったところを多々教えていただいて、今キャンペーンでも実践して歌っています。
司さんの歌が一段階レベルアップしたわけですね。
最上川:そうですね。僕にはお師匠さんもいないですし、演歌の業界で力を発揮して来られた方のアドバイスがすごくためになっています。