1秒、365日、喜怒哀楽、悲喜交交――。
バラードシングル『スロウ』で描く、“時間”の中で循環する感情。
2014年の結成20周年“樹念”イヤーを経たPlastic Treeが新たに世に送り出すのは、実に5年半ぶりとなるバラードシングル。じっくりと時間を掛けて完成に至った「スロウ」は、奇しくも“時間”をテーマにした楽曲となった。2014年は、素直に今一番やってみたいことを突き詰めたミニアルバム『echo』、全20公演のツアーを経たことにより、ライブの熱量から生み出されたシングル『マイム』をリリースした彼ら。今まさに、今作を発表する時が来たようだ。また、前作『マイム』に引き続き、人気アニメーション作家ユニット「劇団イヌカレー」の泥犬とのコラボ第2弾となるアートワークも見逃せない。そんな今作について、有村竜太朗(Vo)と長谷川正(B)に話を聞いた。
◆時間を掛けて歌詞を書きたいなと思っていて(有村竜太朗)
――久々のバラードシングルということですが、制作の初期段階からバラードにしようという意識はあったのでしょうか?
長谷川正(以下、正):最初は特別意識はしなかったんですけど、この曲は少し前からあったもので。ここしばらくバンドの熱量が高いシングルが続いたので、この辺でちょっと、穏やかな曲を出すのもいいんじゃないかなということで、元々あったこの曲を今出そうと、タイミングが合った感じですね。
――原曲はいつ頃に生まれていたんですか?
正:ちょうど『echo』(2014年3月リリースのミニアルバム)をリリースするタイミングで、実はこの曲も並行して作っていて。『echo』に収録しようかどうしようかという話も出ていたんですけど、その時点では、この曲は少し時間を掛けて作りたい曲だねという思いがメンバーの中にあったので、次にいつリリースするかというのは置いておいて、これは時間を掛けて作っていこうと、ちょっと置いておいたんです。
――そして、時が来たんですね。
正:こういう曲もプラの持ち味でもあったので、せっかくシングルをリリースするんだったら、そういう側面も出せたらなというのが一番大きかったですね。
――『マイム』収録の3曲から今作の「スロウ」、c/w「カオスリロン」と、カタカナのタイトルが続いていますが、これは意図的にですか?
有村竜太朗(以下、竜太朗):いや、たまたまです。
――そうなんですね。
竜太朗:うち、元々カタカナの曲は多いですからね。曲に沿ってというか、あまり前作とかは気にしてないですね。
――「スロウ」の歌詞に描かれている、出口の見えない感情、もやもやした思いというのは、きっと誰もが抱いたことのある感情だと思います。それを、こんなに綺麗な音と言葉で表現してくださって、もう…ありがとうございます。
竜太朗:いえいえいえ(笑)。
――歌詞のテーマはどの段階で見えていたのでしょうか?
竜太朗:どこだっただろう? とりあえず時間を掛けて歌詞を書きたいなと思っていて。すごく綺麗な曲にしたいというイメージがあったんだけど、何がテーマでどういう気持ちを織り交ぜていってというのは、その時にはまだなくて。ただ、時間を掛けて作りたいと言ったのは、自分がこの曲はこういう風にしたいというものが見つかるまで、絶対に物量がいるなと思ったんです。曲を聴いて、出てくる言葉を全部書いたり、色んな気持ちや景色を書き留めたりして、ある程度できた時にまとめようと思って、出ている言葉の中から自分でチョイスしていくと、時間にまつわる言葉が結構多くて。あ、もしかしたら、これは時間の歌にしようとしているんだな、というのが自分の中で決まってきて、その辺がテーマでしたね。で、サビの〈ゆっくり〉という言葉で始まる部分が結構決まっていたから、タイトルは「スロウ」かなぁと。
――最初に出てきたフレーズはどの辺りですか?
竜太朗:具体的ですね(笑)。Aメロじゃないですかね。
――なるほど。個人的には〈記憶見えないのに舞う〉という歌詞にハッとしました。“記憶”という言葉に“舞う”という言葉が繋がるのが、竜太朗さんならではだなと。
竜太朗:いやぁ、ありがとうございます。
――正さんは、今回の歌詞でハッとした部分、なるほどと思った部分などはありますか?
正:この世界観で“月面”が出てくるのが、いいなと思いましたね。
――ところで、年末公演に伺った際、12月30日に歌録りで、終わる頃には31日になっていると思うと言っていましたが、いかがでしたか(笑)?
竜太朗:そうですねぇ(笑)。31日の朝8時か9時くらいに終わりましたねぇ。1年を終え、ゾンビのような顔をして帰りました…あの大晦日も忘れられないですね…(笑)。
――大晦日、元旦くらいはお休みできたんですか?
竜太朗:帰ってそのまま寝て、実家帰って、みたいな感じですかね。今回は珍しく31日にライブもなかったので。レコーディングが1月3日からだったんですよね。
――働きますね。
竜太朗:そうですねぇ。でもまぁ、仕事してるの好きなんで(笑)。
――12月30日に歌録りの件を聞いていて、1月中旬には試聴用の音源をいただいたので、意外と早いなと思ったのですが、レコーディング以降の作業はとてもスムーズだったんでしょうか?
竜太朗:「スロウ」のバンドのレコーディング自体はかなり前にやっていたので。年末に歌を入れ始めて、c/wの録りをやって、という感じですね。2曲ともスムーズでした。実際の録り自体は、タームとしては2~3週間ですかね。デモを作ったりプリプロをしたりということだと、随分と長い話になっちゃうんですけど。
――「スロウ」はサビのキーが高いですよね。レコーディングはいかがでしたか?
竜太朗:鋭いですね、結構高いです。最初は思わなかったんですけど、言葉をはめてみたら「あ、高い」と(笑)。でも、歌い方が見えやすい曲だったので、キーで苦労はしなかったですね。
◆迷うのもバンドっぽいし、迷わずにいけるのもバンドっぽい(長谷川正)
――c/w「カオスリロン」は、「スロウ」とは対照的なタイプの楽曲にしようという思いはあったんですか?
正:これも、それほど意図していないんです。
――複雑で、新しさも感じましたが、原曲の時点からイメージは変わってないですか?
正:印象は変わってないですね。
竜太朗:まんまですね。
――アキラさんは設計図をきちっと作るイメージがありますが、やはり今回も?
正:そうですね。レコーディングもアキラのデモをトレースして、という感じで。これも作るにあたっては、それほど大きな苦労はなく。
――前回は、レコーディング二日前にしてどういう風に曲にしたらいいかわからない、という事態が起こった(※『マイム』インタビュー参照)ということでしたが、今回のプリプロは順調でしたか?
正:そんなことがありましたね(笑)。今回はそういうのはなかったですね。
竜太朗:c/wも含め、結構できあがっていた曲だったし、バンド的にも迷いがなかったので。
――「バンドならではだなと実感した出来事」という質問に対して、このお話が出たのですが、今回の制作に関してはいかがですか?
正:どっちも「バンドならでは」じゃないですかね。時間を掛けて、ああでもない、こうでもないってやるのも、今回みたいにみんなが確信を持って「これでやりましょう」と、そこに向かって入り込んで作業できるのもバンドっぽいなと。迷うのもバンドっぽいし、迷わずにいけるのもバンドっぽいという感じですかね。
竜太朗:バンドならでは…。それぞれがそれぞれのノルマがあることじゃないですかね(笑)。これ以上バンドっぽいなということはないと思うんですけど(笑)、そういう現実的なところもそうだし、あとはなんだろう…。
――ちなみに、前回「熱かったなというエピソード」という質問でも、先述のプリプロの事態のお話が出ていて。道ばたでの1時間半とか(笑)。
竜太朗:ああいうのは今回はないですね。むしろ、気付いたら大晦日になっていたということが、個人的には熱かったというか…何とも言えない気分でしたね。
正:(笑)
竜太朗:あの朝の「終わったぁ…お疲れさまでしたぁ」と帰る時に、外に出たら人が誰もいなくて、「あ、そっか、今日は大晦日かぁ…」っていう。あれは何とも言えないですね。あとは、ちょうどその日が現場マネージャーの男の子が辞めちゃう最後の日だったので、そういうお別れ的なこともちょっと切なくなりましたし。複雑な気持ちで一年を閉じたなぁ、みたいな。そういう意味では、“一年を閉じる”っていう感覚でしたね。今年が終わったっていう感じがしました。バンドっぽい話ではないですけど(笑)。
◆一緒に一つのものを作っている感覚(有村竜太朗)
――今回は初回限定盤それぞれに異なる内容のDVDが付きますが、バンド初のリリックビデオ(初回限定盤B収録)というものがありますね。
竜太朗:ライブで見せられる世界観というものが、今、バンドの中で大きな位置を占めていると思っていて。ちょうどそういう時に、文字そのものに焦点を当てた映像作品を作ってもいいんじゃない?というアイディアが出て、ライブ映像を結構お願いしている方がいるので、一度お任せしてみようと。昔からやっている朗読会の映像とかも作ってもらっていたんですけど、これの雛形というか、そういう楽しみ方もあったので、こういう作品を作るのもいいかなと思ってお願いしてみました。文字が主役というか、自分的には面白かったので、また機会があったらやってみたいなと思いますね。
――そして、初回限定盤Cには竜太朗さんの弾き語りが収録されています。
竜太朗:僕自体、基本的に弾き語りがすごく好きなので、こういう曲だし、弾き語りは合うよねっていう話で、レコーディングのc/wを録っている合間に、せっかくスタジオだし弾き語りを撮ろうと何となく決まって、何となく撮影して、みたいな感じでした。どっちかというと、作品というよりドキュメントに近いというか、記録映像という感じですかね。
――竜太朗さんの撮影中、他のメンバーのみなさんはご覧になったりしたんですか?
正:現場にはいましたけどね、人それぞれ他のことをしていたり、ボーッとしていたり(笑)。その場にはいたので、大体こんな感じになるんだな、というのはわかりました。
――普段、バンドでMV撮影なりライブなりやっているわけで、竜太朗さんオンリーの弾き語り映像を客観的に見るというのは、どんな気分ですか?
正:新鮮で良いですよね。
竜太朗:でも、本当にスタジオの片隅で歌っているだけですからね(笑)。
――(笑)。では、今回のミュージックビデオ(初回限定盤A収録)の見どころは?
竜太朗:うちって、結構モノクロのイメージが強いと思うんですけど、全部モノクロというのは意外と撮ったことがなくて、今回は全部モノクロでシックな感じで撮ろうと。見どころは…メンバーの登場率が高いです(笑)。個人個人の撮影がすごく多いんですけど、妙にバンドっぽいというかライブっぽいというか。今回のはすごく好きで、見ているとなんか不思議な感覚になるんですよ。別の時間軸が重なっていたり、たまに逆回転になったり、でも一貫した世界観の中でやっていて、本当に「スロウ」な感じでゆっくりになったり早くなったり。
正:曲のテーマの“時間”というのと、すごくマッチした内容になっていますね。時間が操作されている世界というか。
――そして、前作に引き続き、劇団イヌカレーの泥犬さんによるアートワークということで、今作のお気に入りポイントを教えてください。
正:もう全部ですよ。劇団イヌカレーさんが昔からすごく好きで、もはや本当にどこが良いとかじゃないっていう(笑)。『マイム』に引き続き、CDを手に取ってもらう人にとっても、嬉しい作品なんじゃないかなと思いますね。
――今回も4枚「買ったった」しなきゃですね。
正:いやー、本当に買ったったしてほしいですね。
――これは本当に画像データで見るよりも、実物のほうが格段に素敵ですね。
正:そうですね、実際に手に取って見てもらったほうがいいですよね。色がいいですよね。この色はなかなか出せないですよ。
――今回も、泥犬さんに全部お任せだったんですか?
正:そうですね。
竜太朗:何一つ言ってないです(笑)。ただ、今回は曲を作っている時やレコーディングの段階から、泥犬さんに情報を伝えていたので、直接現場に居てとかじゃないんですけど、一緒に一つのものを作っている感覚というのが、二回目にして生まれました。そういうクリエイティブなところで面白かったですね。
◆対比がうまくライブで見せられれば(長谷川正)
――ところで、コメント動画の「もしも時間を止められたら」という質問に対して、まず「怖い」という答えが出るのがお二人ならではだなと思いました(笑)。
竜太朗:実際に止まったら怖いですよね。俺がおかしくなったのかもしれない!と思うんじゃないですかね。
正:大丈夫か俺!?って、まず自分を疑うよね。
――そして、アキラさんのまさかの落ちが(笑)。
竜太朗:落ちなのかどうかもわからないくらい(笑)。
――(笑)。そして、今作を引っ提げて“Plastic Tree 春ツアー 2015 「Slow Dive」”全19公演が3月15日の本八幡Route Fourteenから始まりますが、ファイナルは渋谷公会堂ということで。「スロウ」をホールで聴けるのはすごく楽しみです。
竜太朗:そうですね。まだ僕らもライブでちゃんと演ったことがあるわけではないので、何とも言えないんですけど、作り込んだ世界観というイメージが自分の中ですごく強くて、それがちゃんとライブで表現できればいいなと思います。
――「カオスリロン」は、ライブですごく盛り上がりそうですね。
竜太朗:「カオスリロン」に関しては、今のところ、難しそうだなということしか考えてないですね(笑)。
正:技術的にね(笑)。
竜太朗:それを超えたら楽しいんだろうなぁと。
――ライブハウスとホールでは、色々と変わりそうですね。
竜太朗:初めての場所にも行くので、そういうのってバンドにとって良い刺激になるし、それを経てセットリストが変化していったり、演出も含めてこういうことがしてみたいと考えたり。あと、やっぱりライブでやると曲の表情が変わっていくというのもあるので、前半はそういうものを見つけながら貴重な時間を過ごして、最後には完成形が見せられればなと思います。
正:このツアータイトル通りの印象のライブができればなと。“Slow”という、たゆたう感じのイメージと、“Dive”という、激しさまではいかないけど動きのある感じと、その対比がうまくライブで見せられればいいなと思いますね。
――確かに、対照的な言葉の組み合わせですね。ちなみに、このタイトルはどんな時に浮かんだんですか?
竜太朗:感覚ですね。ダイブするバンドじゃないですけど、“Dive”ってライブを連想させる言葉だよね、今回はたゆたうようなライブにしたいよね…「Slow Dive」でいいんじゃない?って(笑)。
正:あんまり深い意味はない(笑)。
竜太朗:「スロウ」と「カオスリロン」がライブでどうなるのか、見届けていただけたらこれ幸いかなと思います。
(文・金多賀歩美)
Plastic Tree
<プロフィール>
有村竜太朗(Vo)、長谷川正(B)、ナカヤマアキラ(G)、佐藤ケンケン(Dr)によるロックバンド。1997年6月にメジャーデビュー。2012年メジャーデビュー15周年を迎え、シングル3作を立て続けにリリースし、4月には4度目の日本武道館公演を成功させた。12月、15周年“樹念”の集大成となるアルバム『インク』をリリース。2014年、結成20周年“樹念”イヤーを迎え、3月に自身初となるミニアルバム『echo』をリリース。全20公演に渡る全国ツアーを展開した。9月、20周年第2弾作品となるシングル『マイム』をリリースし、結成20周年”樹念”ツアー 2014「そしてパレードは続く」を開催。2015年3月、シングル『スロウ』をリリースし、全19公演に渡る“春ツアー 2015 「Slow Dive」”の開催が決定している。
■オフィシャルサイト
http://www.plastic-tree.com/
『スロウ』
2015年3月4日(水)発売
(CJ Victor)
“時間”をテーマに描かれた、Plastic Tree5年半ぶりとなるバラードシングル。アニメーション作家ユニット「劇団イヌカレー」の泥犬とのコラボ第2弾となるアートワークも必見。
【収録曲】
初回限定盤A
[CD]
1. スロウ
2. カオスリロン
3. スロウ(Instrumental)
[DVD]
「スロウ」Music Video
初回限定盤B
[CD]
1. スロウ
2. カオスリロン
3. スロウ(Instrumental)
[DVD]
「スロウ」Lyric Video
初回限定盤C
[CD]
1. スロウ
2. カオスリロン
3. スロウ(Instrumental)
[DVD]
「スロウ」~有村竜太朗のスタジオ弾き語り~
通常盤
[CD]
1. スロウ
2. カオスリロン
3. マイム(Carnival Remix)
4. スロウ(Instrumental)
全4形態とも、特製スリーブケース仕様(※通常盤のみ、初回プレス分のみとなります)