2023.07.21
mitsu@SHIBUYA REX
mitsu 8周年記念ワンマンライブ「SANCTUARY -聖域-」

mitsuが、ソロヴォーカリストとして活動を始めてから8周年を記念するワンマンライブ「SANCTUARY -聖域-」を7月21日、SHIBUYA REXにて開催した。

「絶望の物語から始まった」と、mitsuは8周年という節目のステージで、ソロヴォーカリストとして歩んできた月日を振り返った。当時、バンドが解散したタイミングで多くのものを失った彼は、「歌うことにじゃない、生きることに必死だった」とも話した。自分自身を律することに必死な精神状態だった彼にとって、歌うことは救いだったというよりも、アイデンティティを見失わないためにも“歌い続けるしかなかった”のだろう。

気づけば、バンド活動の期間を上回る年月をソロヴォーカリストとして歌い続けてきた。よりセルフィッシュな気持ちで向き合ってきた音楽や歌を武器に戦ってきた中で、出会った人々や出来事から感銘を受けながら形成された価値観を持ってありのままの音や言葉に乗せて届ける。これこそが今のmitsuにしかできない音楽であり、それは過去を凌駕する揺るがない自信と言っていい。だからこそ、過去の自分に目を向けることができるのだと思う。たとえ、始まりが絶望だったとしても。

mitsu

ただし、いくら自分に自信を持っていたとしても、それを発揮できる場所や受け止めてくれる人がいなくては成り立たない。だからこそ、それができるライブという空間の大切さをmitsuはよく知っている。本公演に「SANCTUARY -聖域-」と名付けられていたのもそれが理由であり、ライブ中に何度も「ありがとう」と伝えていたことも納得だ。

実際ライブは、幕越しに心地よい旋律とハミングが鳴り出した「エトリア」が神聖な空気を纏ったオープニングを飾り、「蛍」「スローペース」でも幻想的でありながらどんどんと躍動感を増して、じっくりと“聖域”へと歩みを進めていくようにスタートした。

「8年、続けてきました。だからこそ辿り着いた音たちがたくさん詰まったライブをしますので、どうかどうかついてきてください」(mitsu)

mitsu
夢時

RENA(B)に「よろしく!」と合図して、ベースの重低音が引き立つセクシーな一面を見せた「MIDNIGHT LOVER」や、夢時(G)のギターのカッティングが印象的なメロディアスな「シュガー」で見せた、サポートメンバーたちの個性との融合もまたmitsuのソロ活動において欠かせない要素でもある。もともとシンセサイザーを交えて完成していた楽曲も、今では生音のみでよりグルーヴを感じられるように進化し、その音を誰よりもダイレクトに感じ、楽しんでいるのは紛れもなくmitsuなのだ。

そして、「遥か」をマイクスタンドを用意して視線をブラさずに凛とした面持ちで歌い、エモーショナルな「キンモクセイは君と」を挟んで、「Naked」を胸に手を当てながらじっくりと届けるように歌う。そこへ、だんだんと息吹を感じさせるように歌い出した「鼓動」へ続けば、素直な気持ちを露わにするナチュラルな空気感が漂うドラマチックな一時だった。

RENA
大熊けいと邦夫

「mitsuの音、届いていますか? 俺は34年間生きてきて、今が一番、命を込めて歌えています。歌ってこんなにすごいんだ、こんなにもパワーが伝わるんだって思える、そんな場所を作ってくれて、どうもありがとうございます」(mitsu)

「ここからは楽しんでいきましょう」の言葉通り、ジャズテイストな「It’s So Easy」からラストスパートへと突入すると、mitsuが寝そべって足をばたつかせたり各パートのソロ回しに沸いたりと、一層会場のボルテージが高まった。「じゃないか」でも、ロックでありながらラップを含む楽し気に乗せつつも、ポップな中で“自分らしさ”を後押ししてくれるメッセージも忘れてはいない。次に用意していた「Live Your Life」もまた、時の経過によって進化した想いがあった。トライアンドエラーを繰り返してきた8年間で悩むことも多くあったと話した中で、吹っ切れたような笑顔でmitsuはこう語り出した。

「もっと、音を聴いて感じるもので歌う、それでいいんじゃないかと。今が一番、音楽が大好きです。今が最高潮ということを言葉で、歌で伝えていけたらなと。それが使命だと、最近思っている。ずっともがいてきた中で、光に手を伸ばしていた。でも今は、光から手を伸ばしている。そういう想いになるまで8年かかった」

まさに今、光の中にいるともいえるmitsuが大きく手を開きながらソウルフルに歌う様は、光を求める人の目印になるように眩しく映った。マイクレスで歌い出せば、そこにファンも共に歌声を重ねる。この日「スローペース」「キンモクセイは君と」でも同じようなことが起こり、その様子はmitsuが発しているメッセージはただ受け取られるだけではなく、しっかりと歌を通して共有されていることを証明しているようでもあった。

mitsu

さらに、目の前のファンに対してステージに立つ覚悟を伝えた上で、そのパッションを表すように灼熱にさらっていった「蜃気楼」と、間髪入れずにタガを外した「Crazy Crazy」や、タオルを振り回しながらアッパーなロックンロールに合わせて声が沸き起こった「Into DEEP」では、惜しみなく解き放たれていく熱量に「それだよ!」とmitsuがギラッと微笑みかけた。一層ヘヴィーにヒートアップした「ラストヒーロー」を歌い終えた時には、後ろを向いて拳を突き上げるmitsuが逆光の中にシルエットとして浮かびあがり、それはまるで信念に揺るがず、傷つきながらも突き進んできたヒーローの姿そのものだった。

ミュージシャンにとって楽曲とは、必ずしも“誰か”のものでなくとも、その人自身にとってのラブソングだっていい。mitsuにとって、「For Myself」はそういう曲だと思う。しかし、命がけで音楽の道を歩みながら歌っていく中で、それが“誰か”のためになる時が来る…きっとそれが、“今”なのだ。ラストに「For Myself」を、ステージバックに大きく“mitsu”と、自分の名を背負うようにして歌い上げた。表現や発言の自由を謳うも、実に匿名性の高いこの世の中で目の前の彼は堂々と自分の名をさらけ出し、生き様を示している。だからこそ刺激的で、そこに感銘を受けた仲間と共に手を取り合いながらこれからも進んで行くのだろう。

mitsu

「一緒に夢を見たいし、夢を追いかけたい。これからはみんなを引っ張って、でも時には支えられて、仲間にも支えられて、これからも歌っていくつもりです。いろんな人を救えるヴォーカリストになれるように頑張ります」(mitsu)

終演後に映し出されたムービー内で、2024年7月27日に「HOPE to LIVE」と題した9周年ワンマンライブを恵比寿LIQUIDROOMで行うことが発表された。これは、後悔したくないという思いと、過去に逃げた自分を克服するという意味も込めての決意だという。

“LIVE”というのはまさに“生きる”ことであり、それを証明する場こそがmitsuにとっては“ライブ”である。彼を今、生かしているのも、また過去に苦しめたのも歌であり音楽だ。表裏一体であることを知っているmitsuは自分自身の音楽の形と生涯向き合いながら、希望を見出していくはずだ。

◆セットリスト◆
01. エトリア
02. 蛍
03. スローペース
04. MIDNIGHT LOVER
05. シュガー
06. 遥か
07. キンモクセイは君と
08. Naked
09. 鼓動
10. It’s So Easy
11. じゃないか
12. Live Your Life
13. 蜃気楼
14. Crazy Crazy
15. Into DEEP
16. ラストヒーロー
17. For Myself

<サポートメンバー>
G.夢時(eStrial、HOLLOWGRAM)
B.RENA(3470.mon、CRAZY PUNK KID)
Dr.大熊けいと邦夫

(文・平井綾子/写真・Intetsu)


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