H.U.G

夢のままで終わらせるか、明日に花を咲かせるのか――初音源となる1stアルバム『HELIOS』で辿るH.U.Gというバンドのドキュメント。

2022年6月にLuv PARADE 主催イベント「DEVIL’S PARTY 2022」にてryo(Vo)、Karyu(G)、横山和俊(Mani&Key&Per)の3人編成で初ステージを踏み、9月の同イベントから正式始動したH.U.G。現在、サポートメンバーにNAOKI(B/FANTASISTA、ex.Kagrra,)、TAKEO(Dr/Angelo、ex.PIERROT)を迎え、アルバム『HELIOS』を引っ提げた1stツアーを開催中の彼らに、この1年の活動を辿りながら、初音源についてじっくりと話を聞いたロングインタビュー。


一つひとつに全力で向き合って、気付いたら1年くらい経っていた(ryo)

ryo

昨年6月の「DEVIL’S PARTY 2022」で、この3人での初ステージを踏んでから丸1年となります。9月の「DEVIL’S PARTY 2022 Vol.2」直前にバンド名を発表し、同イベントで正式始動となりましたが、バンド名が確定したのはいつだったのでしょうか?

Karyu:8月9日、本当に偶然です(笑)!

8月頭にイベントのVIP特典インタビュー冊子の取材をした時はまだ決めかねていると言っていたので、その直後に決まったわけですね。

横山和俊(以下、横山):ずっと名前を決めよう決めようと言って、Zoomで飲みながらミーティングをしていたんですけど、なかなか決まらなくて。大分ズレて決めたのが8月9日だったんですよね。

ryo:「ちょうどいいじゃん」と言っていた気がしますね。

Karyu:10日に気付いて、そういえばハグの日じゃんと。

12月のLuv PARADEとのツーマンから5人編成のステージになりましたが、3人編成の時の感覚は覚えていますか?

横山:対バンの時によく思うんですけど、ドラマーがいないバンドってやっぱり間に挟まれると音圧的に弱かったりしますし、お客さん的にも叩いている人の動きというのは見慣れているので、Karyu君からパーカッションを叩いたらどうかというアイデアが出て。その意見がなかったら、もしかしたら僕は鍵盤だけでやっていたかもしれないですけど、3人という見え方を意識した時に、見栄えとして叩く動きというのがやっぱり大事だったなと思います。

ryo:リズム隊の生演奏がないので違いはかなり大きいんですけど、色々なことをバーッと進めていって、先がどうなっていくのか明確なゴールがない状態で突っ走っていたので、いっぱいいっぱいだったというのが正直なところですね。計画通りにここでこういうふうなアクションをしてとか決めて動いているわけじゃないので、一つひとつに全力で向き合って、気付いたら1年くらい経っていたという。

Karyu:横ちゃんも言っていたように音圧もそうですし、ステージもとにかく隙間が空くので、これをどうにか埋めないとなと。音を工夫したり、リハからどう動こうかシュミレーションして実際に動きながらやったのを覚えています。とにかく動かないと隙間が埋まらないので、かなり体力を削がれたなという思い出です。

現在開催中の1stツアーから、初音源となるアルバム『HELIOS』が発売となりました。昨年末の時点で今年音源を出すと話していましたが、具体的にこの時期というのは計画を立てていたのでしょうか?

ryo:ツアーに向けて音源は出したいという話はしていて。ただ、どれだけ録るかというのは進行しながらやれるだけ頑張りましょうと。結果フルアルバムになりましたけど、本当に半分とかのサイズになる可能性も十分にあったまま、とにかくスケジュールをこなしていきましたね。

最初の作品として、シングルではなくアルバムというまとまった形で出したいという思いが強かったのかなと。

Karyu:それはかなり思っていました。アルバムのツアーにしたいというのがあって。ただ、時間的にも曲も足りなかったり色々な障害があったんですけど、もう出すと決めて間に合うかどうかは賭けみたいなところで(笑)。

ryo:ここからここは動けないよという期間が、それぞれに結構あるので、とにかくやるしかないねと。やって、あとは…運頼みというか。ちゃんと出来上がるかどうかは、俺らの手を離れてから決まったような感じですかね。

今作で様々なベーシストに参加してもらうことは、どのような経緯で決まったのでしょうか?

Karyu:これはもうNAOKIが…悪いです(笑)!

ryo、横山:(笑)

Karyu:ちょっと語弊がありましたけど、NAOKIから時期的に音源には参加できないと事前に言われていたんですよね。まぁでも、1曲くらいできるだろうと軽い気持ちで考えていて、実際に振ったらやっぱりできないと。何か良いアイデアがないかなと考えていた時に、H.U.Gは新人なので、まず知ってもらわなきゃと思って。だったら色々な人に弾いてもらって、名前だけでも知ってもらうきっかけになったらいいなと思ったんです。

基本的に5弦ベースを弾ける人という前提で、それぞれが関わりのあるミュージシャンに声を掛けたそうですね。

ryo:まずエンジニアさんが一人ではなく複数だったので、MVを撮る関係で先にこの2曲はレコーディングを進めたいねというのがあって。まずこの人に声を掛けてみて、ダメだったらあの人に…というふうにしていこうと言っていたんですけど、声を掛けた人は大体やっていただけました。

横山:一人で最大2曲とかで、それ以上の負荷になると、その方々のスケジュールにも響くので「もう一人誰か知り合いいない?」って聞いたりして、最後に決まったのがNi~ya君(NIGHTMARE)だったりするんですけど、例えばZERO君(THE MICRO HEAD 4N’S)だったらこの曲が合いそうかなとか選別をざっくり決めて、あとはスケジュールとの兼ね合いでした。

ryo:Karyu君とZERO君以外は、ベースの録音を一緒にやった経験があるわけじゃないので、どういう状態のデータが来るかわからないというのもあって、僕らのほうで「この曲を頼めますか?」という感じで決めていきましたね。

3人の能力の化学反応が起き始めたのを感じた(Karyu)

Karyu

『HELIOS』は曲が出来上がった順通りに収録されているんですよね。ライブをやるための曲作りだったとはいえ、その通りに収録して違和感がないというのは結構すごいことではないかと。

Karyu:確かに。これは想定していなかったですね。偶然。

横山:例えば勢いアッパー系の曲が3曲とか続くと、ちょっとミディアムっぽいやつが欲しいよねなんていう流れになって、アルバムで聴くとそれがちょうどいい位置になっているという。H.U.Gが今度こんなタイプの曲が欲しいよねと言っていた順番な感じもあるので、その成長過程を感じられると思います。

つまり今作はこの1年のH.U.Gの活動を辿れる作品になるわけですが、そういえばKaryu Session BANDとしてステージに立った昨年6月時点では、オリジナル曲は「HUG」1曲だったんだなと(笑)。

横山:そうですよね(笑)。

ryo:あとはカバーでしたからね(笑)。

Karyu:あれは急遽出る感じになったんですよね。2月の横ちゃんの誕生日配信イベントの時にryoさんが出られなくなって、やるはずだったセッションができなかったということからの流れだったので。

Angeloが活動休止となり、Karyuさんにとって2022年初の新曲が「HUG」でしたが、そういう観点で曲作りの際に意識したことはありましたか?

Karyu:創作意欲はずっとあって。どうせやるならD’ESPAIRSRAYやAngeloとはちょっと違うんだけど、そういう自分のルーツはしっかり持って、良いとこ取りみたいなことがやりたいなと思って作り始めましたね。そこからこの3人での活動を続けていけるのであれば、もうちょっと幅を広げていこうかなと思っていた段階の曲です。

活動を継続していけるかどうか、あの時点ではまだフワッとしていたわけですね。

Karyu:そうですね。

横山:思い出したけど、「HUG」というワードは曲名が先だったんですよね。大事な1曲目だしということで、バンド名もH.U.Gになったと。

ryo:Karyu君が徹底的にHyperに抵抗していたけどね。

横山:Hyper Undead GeniusのHyper担当がKaryu君と言っているんですけど、未だに納得してくれていないみたいで。Hyperの塊なんですけどね(笑)。

Karyu:マジっすか(笑)。なんかイメージ的にUndeadとかカッコいいじゃないですか。Geniusも天才だし、めっちゃいいけど、Hyperって何ですか(笑)。勢いだけみたいな(笑)。

横山:いやいや、H.U.Gはその勢いが大事なんですよ。

ryo:超越していく感じ。

ryoさん、横山さんとしては「HUG」のデモを最初に聴いた時の印象はいかがでしたか?

ryo:勢い、パワーがすごいなぁと。だから、自分が元々持っている繊細な部分とか、レイヤーで薄く編んでいくような手法は一回休んで、正面からドンッと向き合ってみようと思いました。他にもシャウトやグロウルをやっているライブはありますけど、この時点でのデモでは音量感が全くわからない状態だったので、現状できるフルパワーで返して、それをどうやって実現させていくかみたいなやり方でしたね。

横山:長年の付き合いの中でKaryu君節は感じ取れたのと、新しいことをやりたいんだろうなという二つがあって、作り方のやり取りとしてはAngeloの時とかと同じやり方で、ブラッシュアップしていくという感じでした。新しい要素というのはKaryu君と話をしたり色々音楽を聴いたりして摂取しつつ、どんなものができるのかなと。だから、まずKaryu君がやりたいサウンドを手伝うというところからスタートしました。その後の曲はまた変わっていくんですけどね。

9月のイベントで初披露したのが「DROP」「HEART」でしたが、この2曲が加わったことにより、ステージ全体の印象としてキャッチーさが増しましたよね。

横山:そこからH.U.Gは、キャッチーというのをキーワードとして意識していましたね。

こういう楽曲たちを作ったのは、持ち曲としてD’ESPAIRSRAYのSEをリメイクして歌を乗せた「熾-OKI-」、「Marry of the blood」(D’ESPAIRSRAY)のカバーというダークサイドの楽曲が既にあったことが大きく影響していたのかなと。

Karyu:キーワードとしてキャッチーというのはあって、自分の中ではずっとキャッチーでやっているんですけど、6月のイベントの時に金多賀さんとの会話の中で俺が「テーマはキャッチー」と言ったのを、「ちょっと何を言っているかわからない(良い意味で)」ってライブレポに書いたじゃないですか(笑)。

ryo、横山:(笑)

Karyu:そこで、まだ伝わってないんだなぁと思って。もっと振り切らなきゃと思ったきっかけではあったんですよ(笑)。

なんかすみません(笑)。

Karyu:いや(笑)、良いきっかけになりましたよ。

横山:大事だと思います。

ちなみに「DROP」は頭からBメロまでが明るくて、サビが一番重くて暗いという、一般的なパターンと真逆をいくのが面白いですね。

Karyu:Geniusです…(キリッ)!

横山:違います、あなたはHyperです(笑)。

全員:(笑)

Karyu:この曲はギターのオクターブを一定にして弾き続けるけど、後ろのコード進行やメロディーでドラマティックになって、上ったところで落とすみたいなのがあまりやったことがなかったので、今回やってみました。

この曲が原爆投下をモチーフにした歌詞だったとは、音源になって初めて知りました。

ryo:終戦辺りの日付に僕の父親が生まれていて、過去のバンドでも原爆投下の曲は書いているんですけど、これは落とす側の視点で書いています。抜けるような青空で太陽が眩しいみたいなヴィジョンや音像なんだけど、サビにいったら悲哀が流れるというのが、曲とマッチしていていいなと思って書いた歌詞ですね。

「HEART」に関して、ryoさんは「この曲が生まれてだいぶH.U.Gの見通しが良くなった」とツイートしていましたよね。

ryo:「DROP」の次に「HEART」の歌詞を書いたんですけど、やっぱり「DROP」がいわゆるフックがあるというか仕掛けがある曲なので、「キャッチーにいきましょうね、わかりやすさを大事にしていきましょうね」と3人でディスカッションしていた中で、まっすぐドンッと直球を投げて、それがいいじゃんってどうすればなるのかなと思いながら「HEART」を書いて、二人の反応がすごく良かったので「あ、これで良かったんだな」と気付かされた歌詞ですね。曲にもハマっていると思います。

Karyu:ある種のH.U.Gとしての熱意というか、これを発展させていくぞという決意を持った曲で。時間的な問題もあったんですけど、あまりデモを完成させずに二人に投げて、初めて皆の意見がすごく入った曲なんです。この曲で初めてH.U.G がまとまったなというか、3人の能力の化学反応が起き始めたのを感じました。

H.U.Gにとって一つ重要な分岐点になった曲なんですね。そして、12月のツーマンで初披露したのが「DON’T DOUBT」「LOVE THAT NEVER ENDS」です。やはりここから5人編成を前提とした曲作りだったのでしょうか?

Karyu:そうですね。本当のことを言うと、6人編成を考えていたんですよ。まぁでも基本的にはバンドサウンドをやりたいという意識がかなりあって、それで曲も作っていましたし、よりバンド感のある曲を増やしていこうかなという時期でしたね。

「DON’T DOUBT」はライブで初めて聴いた時にKaryuさんらしい曲だなという印象を受けていたのですが、音源で聴いたら何か新しさを感じたんですよね。

Karyu:サビのアプローチとか結構新しいと思います。ああいうリフっぽいサビってなかなか難しいんですけど、良いですよね。

「LOVE THAT NEVER ENDS」は一聴してすごく好きだなと。ライブでは純粋にドラマティックな名曲と思って聴いていましたが、実はなかなか面白い構成ですよね。

ryo、Karyu、横山:(深く頷く)

ryo:この曲はデモの段階で明らかに新しいなという感じがありましたね。

横山:僕も一聴して「あら素敵」ってKaryu君に送っていますからね。名曲だなと思っていました。だから僕はさらにグッと来るようなアレンジを加えられれば、もっと大好きになるだろうなと思って。

Karyu:間奏の壮大感は、やっぱり横ちゃんのシンセが入って、より広がったと思います。

冒頭に入っている音もとても印象的なので、あれが聴こえた瞬間に「LOVE THAT NEVER ENDS」だとすぐにわかるすごさが、楽曲のカラーを作っているなと感じます。

横山:Karyu君のシンセアレンジも素敵で、彼が選んでくる音色のセンスとか僕は好きなんですよね。差し替える必要のないものはKaryu君のデモの音も使ってブラッシュアップしていますけど、この曲は大分Karyu君の音を使っています。

Karyu:この曲くらいからワンマンを想定して、もっと大きいところでやりたいなと、そういう画を想像して作っていたりもして。

横山:広い空間に映える曲というのが確かに必要ですからね。

ryo:これは時世的にウクライナとロシアの時事の形の歌詞ですけど、そうじゃない面もちゃんとあって。今ってスマホの世界に閉じこもっちゃって、側に人を寄せ付けないような風潮があると思っているので、戦争の歌ということだけじゃなく、「殻に閉じこもっちゃって、そのままでいいの? 誰かと一緒に空が明けていく体験とかも大事じゃない?」っていう、そのどちらにも当てはまるように書きましたね。

Karyu:英語の部分なんですけど、愛について語ろうみたいなのが、ものすごく良いなと。

ryo:だからツアータイトルにもなったしね。

愛というと、「HEART」「DON’T DOUBT」「LOVE THAT NEVER ENDS」でアプローチは違えど愛の歌が続きますよね。これは歌詞を書いた時期が近かったからなのか、意図したものなのか、どちらでしょう?

ryo:どうだったかなぁ。同じ愛でも、ラブソングで一括りにできない題材じゃないですか。人類愛、親子愛、恋愛とか、いろんな愛の形があって然るべきで。例えば死について歌うとか、全く違う犯罪について歌うとか、テーマをガラッと変えれば当然曲のタッチは変わりますけど、そうじゃなくて、愛なのにこんなに切り口が違うというのは、確か考えていたような気がしますね。LOVEというものを肯定して作品に落とし込むことは意識していたので。愛という言葉を知らない人類はほとんどいないと思うので、それを真正面に投げて、作品としてチープにならないように成立させたいという思いはありました。