The THIRTEEN

ライブでの再会を願いThe THIRTEENが生み出した『ICY』。冬が終われば必ず春は来る――。

前作フルアルバム『ENIGMA』のリリースから1年余、遂に新作EP『ICY』が完成を迎えた。コロナ禍になってから丸1年、そしてThe THIRTEEN結成5周年というタイミングで生み出された今作は、ライブでの再会を願い、「冬が終われば必ず春は来る」「止まっていた時間もいつか動き出す」という思いが込められた、まさに今だからこその作品であり、音楽面においても新たな挑戦が伺える。約2年ぶりの登場となる真緒(Vo)と美月(G)に2020年以降の活動を辿りながら、多くの人たちの心に刺さるであろうメッセージ性の高い名曲揃いの最新作についてじっくりと話を聞いた。


音楽だけをドンッと通したほうが、僕たち的には正義(真緒)

真緒

昨年1月、満を持しての2ndフルアルバム『ENIGMA』がリリースされましたが、その後コロナ禍になり、2月8日~3月20日開催予定だった全国ツアーの3月公演が延期となりました。フルアルバムを引っ提げたツアーというのはアーティストにとって思いもひとしおだと思いますが、それが中断されてしまうというのは悔しい思いだっただろうなと。

真緒:そうですね。やっぱりアーティストにとってフルアルバムは気合いが入るというか、セットリストがほぼそれ一色に染まるような構成で作り上げるので、ライブやツアーを想定している部分もあって。ツアーを回って、ようやく作品の完結というイメージがあるので、色々な深い思いが大きかった分、そこに到達できない歯痒さみたいなものは感じましたね。

美月:僕らがモードチェンジしてからのフルアルバムだったというのもあって、大きな意味合いがあったので、なかなか凹みましたよね。大事にしていたツアーでもあったので。まぁ仕方ないなというのはありつつ。

7月以降はコンスタントに配信ライブを行ってきましたが、無観客でも全く関係ないと思わせられる熱量が印象的でした。特にここ数年、ライブでわかりやすく盛り上がることよりも、自己表現や心を動かすことを大切にしてきたことが、配信ライブで発揮されたのではと感じます。

真緒:まぁでも、配信はやっぱり体感がないんですよね。オーディエンスの熱量や空気が震えるみたいなものがないので。その分、画面越しでも伝わることをやらなければいけないという葛藤が最初の頃はありましたよね。やっていくうちに慣れていくんですけど、普段は見えない部分が映ってしまったり、逆にここを見てほしいというところが見てもらえなかったり、色々なことが出てくるので何とも言い難いんですけど、これはこれで今できる最大限の表現としてやっていました。やっぱり現場でオーディエンスの前で熱量と熱量がぶつかり合う感覚とは全く別のものなので、早くそこに行き着きたいなという思いでやっていましたね。

美月:最初の1~2本をやってみて、自分の中で違和感はやっぱりあったので、そこをどうしていくかというところでした。リアルライブだと目の前にいる皆さんに向けてという感じですけど、配信ライブでは自分の気持ちを曲に集中させるという方向にシフトチェンジして、調整していきましたね。

配信ライブは、普段のライブと違う部分で神経を使うので、妙に疲労度が高いという話をよく聞きますが、お二人はいかがですか?

真緒:どうなんですかね(笑)。言い方が難しいんですけど、正直言うと僕的には疲労度は低いんですよ。リアルライブのワンマンだと曲数が結構多くて長いんですけど、配信ライブは短くしているので、その分の違いですかね。あとは感情、精神的な部分なので、お客さんが目の前にいる中で5曲演奏するほうが僕はしんどいんですよね。もっと声を出さなきゃとか、もっと共鳴し合わなきゃというところが、オーディエンスがいるといないとでは大きく違うかなと。配信ライブはどこか演じてしまっている自分もいるというか、変にこなれてしまっている部分もあったりして。リアルライブのほうが精神的消耗は強いかなと思います。

The THIRTEENの配信ライブはMCなしで最初から最後まで一気にやり切るじゃないですか。通常より短いとは言え1時間はあるので、集中力が相当必要でしんどいのではと思っていたのですが。

真緒:確かに集中力は必要ですね。ただ、終わってからの体の疲れはリアルライブのほうがあります。ですよね、美月さん(笑)?

美月:まぁそうっすね(笑)。物理的には配信のほうが楽ですね。でも、爆音と空気振動で観てもらえなくて、冷静に画面で観られるので、演奏をちゃんとしないといけないという変な気の遣いはあります(笑)。そういうシビアな面ではしんどいなと思いますよ。変な疲れ方をしますね。

MCなしというのは、どのような考えからだったのでしょうか?

真緒:元々アンコール以外は喋っていなかったというのが大きいんですけど、逹瑯(MUCC)と話していたら、MUCCが一発目の配信ライブをやった時にMCが一番しんどかったと言っていたんですよ。目の前にいないから、問い掛けたことに対して自分の中で想像して話を進めるじゃないですか。そこの切り替えが結構キツかったと言っていて。僕は観ていてそうは思わなかったんですけど。でも、想像したらまぁそうだろうなと思ったんですよ。例えば軽い笑いネタを挟んだところで、誰も笑わないし(笑)。それだったら音楽だけをドンッと通したほうが、僕たち的には正義だと思いました。

衣装も毎回クオリティが高く、ヴィジュアル系としてそういうところを貫くって大切だなと。

真緒:なにぶん僕と美月のユニットなので、4人の衣装の協調性は少なくて、割とコーディネートしやすいというか。あと1回1回衣装やメイクが変わるほうが、自分たちの中でのモチベーションも上がるんですよね。

11、12月には『ENIGMA』ツアーの振替公演と、新たに東名阪ツアー「QUIET RIOT」が行われましたが、コロナ禍になってから久々の有観客ライブをやった時の感覚はいかがでしたか?

真緒:「これがホンマや」というのがありましたね。配信ライブの他にもツイキャスでコミュニケーションは取っていたんですけど、すごく変な話、ファンの人が僕らを見て「わ、本物や」と思うのと同じように、「わ、本物のお客さんや」みたいな(笑)。そういう感動と、やっぱり1年近く間が空いてしまったのもあって、ゾクッとくるものがありましたね。

美月:やっぱりライブは良かったですよ。世間はまだ色々とありますけど、リアルに反応を感じられる、一緒にライブができるのが「ライブやな」と思いましたね。声を出せなかったり、距離感はあるんですけど、「やっぱりこうですよね!」というのを改めて感じられた瞬間でした。

配信ライブと並行して、短いスパンで2020年中にアンプラグドシングル三作のリリースもありましたよね。

真緒:何もせず閉じこもったままというのは性に合わないというか、何かしら形を作って前に進まないと変わらないなというのがあったので。特にヴォーカルなんてコンスタントに歌うことが結構大事なことだと思っていましたし、特にこういう時期ではあったので、ステイホームという背景もあって、なるべく家で少しでも届けられるものを作っていけたらなということで、コンスタントに出しました。本当はもっと長いスパンで、作品と作品の間を縫ってというイメージで作ろうと思ったシリーズだったんですけど、ちょっと前倒しのような形になりましたね。

美月:ライブができなくなったので、何もしないよりはというので作りましたけど、コロナがこんなに続くとは当初思っていなかったですね(苦笑)。2~3ヵ月で落ち着くだろうなと思っていたんですけど、結局1年続いちゃったので。ただ、新曲を出したところで披露する場がないので、せっかくだったら持っている曲をアンプラグドで出そうと。改めて削ぎ落とす形にはなるので、どう曲を引き立たせるか、自分たちの曲の良い部分というのが感じられて、やって良かったなと思いますね。

メッセージ性の強いものを求めていた(美月)

この度、5th EP『ICY』がリリースされますが、音楽的には『ENIGMA』で過去のEP4作からの流れに一つの区切りを迎え、今作で次のフェーズに入ったと感じました。

真緒:そうですね。コロナ禍の中でいろんなことを考えた上で、音楽的な部分ではライブ会場で皆さんが声を出せない状況がまだ続くだろうし、自分たちがやりたかったことの一つの道という部分でのアプローチに挑戦していこうというのは、美月君と話し合って進めていきました。

メッセージ性の強い、ある種コンセプチュアルな作品ですが、近年は楽曲のジャンルや技術的なことは一切話さず、色や情景で例えたりしながらイメージで制作していると言っていましたよね。今回の制作はどんなところからスタートしたのでしょうか。

真緒:大きく違うのが、まず今作はシャウトを一つも入れないと決めていたんですよね。歌のメロディーで情景を描いて、歌詞に特化させたような作品というか。音一発のシャウトのガツンッという一撃よりは、もうちょっと繊細なものを作っていきたいなというところですかね。過去に色々と作った流れの中でも、あまりにも大きくガラッと変えるのは難しかったので、想定として『ENIGMA』までの楽曲の中に今作の楽曲が飛び込んだとしても馴染むことができる範疇で、新しいことをやるというのを提示したいなと思いました。

まさに、どの楽曲もThe THIRTEEN節ではありながら、随所に新しさも感じられます。

真緒:一番変わったのはギターじゃないですかね。

美月:先ほどおっしゃった通り『ENIGMA』で一つの完結というか、アプローチの仕方、シンフォニックで少しラウドという世界観が完結できたなと思ったので、次に何かしたいなというのはあったんです。それでコロナ禍になって、色々と僕も音楽を聴くので、何を聴いていたかなと振り返ると、メッセージ性の強いものを求めていたんですよね。それを考えると、自分たちで作る時にいわゆる激しくて勢いだけみたいな曲じゃないなということで、まずギター自体を変えました。激しく聴こえるようにはしているんですけど、いわゆるヘヴィーサウンドという概念ではない、弾いているフレーズは今までと全然違うものを心掛けましたね。

美月さんは「毎回作品が完成すると『もう何もないですよ』という出し切った状態になるけど、ツアーを回ってライブをやると、不思議とまた出てくる」と以前言っていましたが、2020年はリアルライブが数える程度しかできなかったわけで、曲作りのモチベーション、アイディアはどんなところから湧き出てきたのでしょうか。

美月:ライブができなくてどうしようかなという日々の生活の中で、目線で言うとファンの方たちと同じかもしれないですね。自分が好きな音楽を聴いて…現状を考えると、僕の場合はそれが激しい音楽じゃなかったりしました(笑)。そういうところから、カッコいいフレーズどうこうではなく、メッセージが伝わるようなアンサンブルのアレンジを研究し出したというか。そういうものを表現したいなと思って作っていきました。

今作収録の「Reset」に〈前向きな歌流しても大丈夫だと言えない〉という歌詞がありますよね。落ち込んだ時に聴く音楽は、ポジティブなメッセージの曲、癒されるような曲、逆にとことん落ちる曲など、人によって様々だと思いますが、お二人はいかがですか?

真緒:これは難しいですね(笑)。僕は男の子なので、どっちかと言うとおセンチに浸るほうが。未だに中二っぽいですね。悲しい時やしんどい時はマイナスっぽい曲を聴いているほうが、同調性みたいなものが湧き立って、一回浸って、そこから這い上がっていこうという気持ちになります。「さぁ、明日も元気に生きていくぞ!」みたいなものはあまり聴かないかもしれないですね。

それは想像通りというか、真緒さんらしいなと。そういう精神性のヴォーカリストが作っているからこういう作品が生まれるんだろうなという繋がりが見えた感があります。

真緒:(笑)。まぁ好みがありますから何とも言えないですけどね。

美月:僕はこの期間いろんなタイプの曲を聴きましたね。最終的には明るい曲…SMAPばっかり聴いていましたけど。「やっぱり『SHAKE』はええなぁ!」って言ってました(笑)。ただ、自分たちのバンドに当てはめた時に、「前向いて生きましょう!」みたいな曲は何か違うので、自分らなりの伝え方を考えながら色々と聴いていましたね。

今作のタイトル『ICY』はどの時点で決まったのでしょうか?

真緒:他にも何個か候補はあったんですけど、大きく意味合いはブレていなくて、いつかこのコロナ禍が終わって、またライブで再会できるというメッセージの作品を作りたかったんです。その流れで「ICY」は「冷たい」「氷」を意味するので、すなわち「凍結している」「静止している」というものを掲げて、歌詞の中で人生観を表現して、結局のところ氷は溶けるというところに持っていきたかったんですよね。きっと春にはライブができるという想定があったので、氷が溶けて花が芽生えるとか、止まっていたものが動き出すとか、静から動への道しるべ的な意味を込めて、静止している氷というものをタイトルにしました。そういう期間に作ったので余計に。