The THIRTEEN

激しいけど哀愁があるものを提示したいなという思いがあった(美月)

美月

「ever gray」はThe THIRTEENの真骨頂で、お二人が得意とするものだなと。曲作りの段階でリード曲を想定していたのでしょうか?

真緒:そうですね。これから作りました。1曲の中で『ICY』を表現しやすいものというか、イメージ的に曲のバックのサウンドの流れ、コード感も含めてなんですけど、動き出す、春を迎える、明るい日差しに向かっていくようなイメージがあったので、これを基軸として従来のThe THIRTEEN性も含めて作りつつ、そこから他の楽曲で肉付けをしていったという感じですね。

この曲は、サビはどっちなんだろうと思って。

美月:(笑)

真緒:これは難しいところなんですよ(笑)。

サビと思われるメロが二つありますが、サビと大サビという認識でいいのでしょうか?

真緒:そうですね。最初のデモの段階では〈灰色に染められた〉のところがサビだったんですけど、何かもう一個広がるところが欲しくなって、調整していくうちに、ここからさらなる展開を作れるなとなって、ちょっと改造して1コーラス作って繰り広げていきました。

後半で大サビが3回繰り返されますよね。

真緒:畳み掛けました(笑)。これは3回いって、さらに最後がメジャーコードで終わるというのが良いんですよね。歌詞も先行して書いていて言いたいことが多かったので、あえて3回が良かったなと思います。

ちなみにサビの〈手のひらに〉のメロは、初めて聴くとちょっとした違和感がありますが、何度も聴くうちにそれが気持ち良く感じるなと。

真緒:よく聴いていただいていますね。そこは結構こだわりました。美月さんに「ここ、こう歌いたいんやけど、コード変えられへん?」って言って。

美月:このコードは良いと思いますね。自分の中でも違うものを作ろうと思っていたので、そこに歌詞、メロがハマっていって、マイナーチェンジして、すごく良い新しい感じにできたんじゃないかなと思います。僕は歌詞を書いてないので大体想定でいくんですけど、あの大サビ3回の部分は元々アウトロのつもりで書いていたんですよ(笑)。多分、真緒さんがストーリーを書いていくに連れて伝えたい言葉が出てきたんでしょうけど、最終的に上がってきた時に「あ、アウトロじゃなくて最後まで歌っとる」と思いましたよ(笑)。でも、言葉メインで良いなと。サポートメンバーも「最後3回なんすね」って言ってて(笑)。それが逆に良い引っ掛かりになっているなと思います。

コロナ禍の現状とも取れるし、The THIRTEENの5年間とも取れるような歌詞だなと。

真緒:大きく捉えると人生観というものをテーマに書いているので、そこに通じる部分はあると思いますね。

「HUSKY」「LADYBUG」は、特にギターの新しさを感じた2曲です。

美月:アプローチがいわゆるカッティング、ちょっとジャジーなギターというか。そういうフレーズを今までちゃんと作ったことがなくて初めてだったので、色々と大変でしたね。これまでずーっと重たい音を弾いて暴れとけばいいという15年だったので、全く違うアプローチで新しい面を出そうと頑張りました。

今作は曲調のバランス感やストーリーの流れもとても自然で、1ステージのライブのような6曲だなと。

真緒:やっぱりバランスは心掛けましたね。曲数としては少ないんですけど、一つの作品の中で6方向に1曲1曲がハマって、それが一つの六角形になるような。そういうバランス調整は、構成やサウンド面、フレーズ、展開面においても、なるべく意識しましたね。

直訳するとまさに「氷が溶ける」という意味合いの「Ice melt」は、歌メロの雰囲気とは違ってドラムが速いブロックが多かったり、Bメロにお洒落なピアノが入っていたり、1サビやギターソロのバックのリズムはたっぷりとした感じだったり…ブロックごとにかなり異なるテイストなのに、1曲としてまとまっているのがすごいなと思いました。

真緒:これは僕の中で一番調整が大変でしたね。「サビのコード進行をこれでメロディー作ってくれへん?」と美月さんから言われたんですけど、今までのThe THIRTEENにはなかったコード進行で、一歩間違ったら歌謡曲になるぞという難しさがあったんですよね。でも美月さんが自分からこういう意見を言うということは、何かしらの思し召しだと思いまして(笑)、「わかった、何とかする」と。ただ、通常の流れでいくと、最後に到達する時にいわゆるベタッとしてしまうなという感覚があったので、Bメロをあえて跳ねたリズムにして、サビでバツッと切り替わる展開に持っていきたいという風に言って。セクションごとの調整と、それを一つにまとめ上げるというのを、納得いくところまで持っていくのに一番時間が掛かりましたね。デモは割と早くからあったんですけど、ヴォーカルを置いてさらなる微調整をするのに時間が掛かった曲かなと。

美月:激しい曲は今までいっぱいあったんですけど、今回、ギターも変えて新しいアプローチで制作していく中で、激しいけど哀愁があるものを提示したいなという思いがざっくりとあって。イントロの激しいところもそうなんですけど、コロナ禍になって色々と勉強し出して発見したコードの一つなので、そこから広げていきました。サビも確かにうちでやっていなかった感じではあって、スナック行ってんのか?となり得るコードではあるんですけど(笑)、それを上手いことできたら、新しい雰囲気がライブでガチッとハマるんちゃうかなというのがあったんですよね。ただ聴かせるだけじゃないというところで激しくしている部分もあって、そこのバランスは試行錯誤しましたね。

ギターソロが低音域でのフレーズなのも新鮮でした。

美月:そうですね。いつもなら上を弾くんですけど、あえて下っぽい感じの…椎名林檎さんをイメージしました(笑)。まぁでも、そういえば低いところはやってないなと思ったので、自分なりにこういう形でアレンジしてみましたね。

それにしても、歌メロがかなり難解だなと。起伏もすごくありますし。

真緒:リズムパターンと、拍の取り方が16で取るところ、8で取るところ、4で取るところがあるので、なかなか大変でしたね。

そして相変わらず今作も全体的にキーが高いなと思って。

真緒:そうですね。これは悪い癖でもあるんですけど、サビが決まって、展開する時にもう一発ダイナミックに盛り上げてやろうとすると、上にいくしかなくなったりするんですよね。大変ですけど頑張ります(笑)。人って年齢と共に声が低くなっていくので、そうならないように、今できる自分の最大限のことをやっていきたいなというのは常にありますね。

ライブハウスで体感できる素晴らしさや感動をぜひとも味わってほしい(真緒)

ラストの「Reset」は、真緒さんの「ファルセットやミックスヴォイスのニュアンスを極めたい」、美月さんの「メジャーコードで逆に悲しく聴こえる曲を研究中」という以前の発言が、まさに具現化されているなと。

真緒:どシンプルなコード感で自由度が効き過ぎるので逆に難しいというものに対して、ピンポイントで自分たちが狙っている道筋にバンッと当てはめるという部分では、「Reset」はしっかりと表現できたなと思いますね。

美月:以前の発言についてはずっと考えていましたし、この曲は最初に鳴っているギターのディレイを全面に押し出すというのは決めていました。本当にコード進行だけで言うとめちゃくちゃシンプルなんですけど、ただ明るく聴かせるだけじゃなく、ちょっと悲しく切なくというのを試行錯誤して作っていったので、すごく新しい感じにはなったと思います。

ちなみに、美月さんは最近特に意識的に研究していることはありますか?

美月:僕、コードを感覚でしかわかってなくて、自分が鳴らしたい音が何を押さえたらそれになるかあんまりわかってなかったんですよね。いつも探りながら「あ、これや」とわかるんですけど、それをちょっと勉強したいなと思って。ポストロックって言うんですかね、アンサンブルメインのバンドばかり聴いて研究しています。

そういえば以前、ピアニストの方とのやり取りの中で、自分が思っているコードが何かわからなくて弾いて説明したと言っていましたね。

美月:そうそう。こないだもスタジオに入った時に、ギターで弾いて「これ何?」って聞きましたもん(笑)。それでコードを教えてもらったりして、ちょっとずつ理解するようにはなりましたね。

今作の歌詞は全体的にストレートみがあって、「lullaby」「Reset」もコロナ禍の現状がありつつ、存在意義だったり、色々な葛藤、人生の中でこういう思いを抱えることってあるよなと思えるものです。「Reset」の最後には、歌詞の表記上、空欄になっている箇所がありますよね。

真緒:いろんなことを投げ出して全てをやり直したいというような思いがあるけど、生きている中で普段は思い返していないだけで、例え小さなものでも何か原動力になるものが絶対皆ある、皆さんにとってのそれは何でしたか?ということですよね。それがあることによって、まだ諦めちゃダメだという思いが芽生えてほしいなと。特にコロナ禍で、この先どうなるんだろうとか、これで音楽人生ストップかとか、自分自身もいろんなことを考えたんですよね。その中で、ここで辞めるのは簡単だけど、自分の人生を思い返した時に、これだけ長いこと続けた原動力って何なんだろうと考え直す時間でもあったので、皆さんの中にもそういうものがあるんじゃないのかなと。この先コロナが明ける時に、その意思を持って再スタートしようと、「Reset」と言いながらRestartという意味を込めて、最後にそういう歌詞を書きましたね。

様々な人たちに刺さるだろうなと思います。

真緒:このコロナ禍の中で思い返せるような内容を書けたと思います。経験こそが歌詞なので、逆境であっても、そこでの自分の感情の変化を感じられるという新鮮味もありますね。

3月21日には横浜Bronth.にて5周年を記念した有観客配信ライブ「Fear kills growth」、さらに4月2日からはショートツアー「ICY COLD PRAY」が控えています。

美月:コロナ禍でこそできたEPであり、やっぱりそれは伝えたいというところから作った作品なので、ぜひこれをライブで表現したいなと。作る時からそれは想定しているんですけどね。今はなかなか「ライブに来て」とは言いにくい状況ですけど、ぜひライブハウスで聴いていただきたいなとは思います。5周年も一つの区切りとなる数字ではあるんですけど、前向きな集大成にできたらいいなと思っていますね。振り返るというよりは、こんな時代なので、先を見せられるようなライブにしたいなと思っています。

真緒:この5周年のタイミングがちょうど緊急事態宣言が明ける時期でもあって、その3日後に『ICY』が出るわけですけど、ある意味5周年を機に僕たちの気持ちや世の中も含めて、色々なものが動き出すという。だから、5周年のライブがツアーの序章のような形でスタートしてショートツアーを回るので、より前を向いた人生の歩み出しを見てほしいなと思いますね。コロナ禍でアーティスト皆同じ気持ちだと思うんですよ。耐えて、その耐えている間になくなっていったものもたくさんあります。それでも耐えて耐えて、やっとライブができる。そういう中で、ファンの皆さんも人生観が少しシフトチェンジしたり、環境の変化も多いと思うんですけど、こちら的にはやっぱり不安もあるんですよ。皆、もう現場での楽しさを忘れてしまっているんじゃないかなと。でも、今一度思い返して、色々な規制はあるものの、あのライブハウスで体感できる素晴らしさや感動をぜひとも味わってほしいなと、そこはアーティストとして伝えたいことですね。

(文・金多賀歩美)

The THIRTEEN

真緒(Vo)、美月(G)

オフィシャルサイト

リリース情報

New EP『ICY』
2021年3月24日(水)発売
(GREEDY RECORDS)

[初回限定盤](CD+DVD)GR13-0033 ¥3,000+税

[通常盤](CD)GR13-0034 ¥2,300+税

収録曲

[CD]

  1. ever gray
  2. HUSKY
  3. LADYBUG
  4. lullaby
  5. Ice melt
  6. Reset

[初回限定盤DVD]

  • 「ever gray」Music Video

ライブ情報

●The THIRTEEN 5th Anniversary 有観客配信ライブ「Fear kills growth」
3月21日(日)横浜Bronth.

●The THIRTEEN tour2021「ICY COLD PRAY」
4月2日(金)名古屋ell.FITS ALL
4月17日(土)OSAKA RUIDO
4月24日(土)横浜BAYSIS
5月3日(月・祝)高田馬場CLUB PHASE