Angelo

円の終着点は終わりではなく次の螺旋の始まり。Angelo活動休止前最後のアルバムであり最高傑作『CIRCLE』に込めたキリトの思い。

去る8月1日、ホールツアーのファイナルLINE CUBE SHIBUYA公演にて、Angeloから思わぬ発表があった。2022年1月をもって無期限活動休止――。未曾有の事態となった2020年以降も常に進化しながら全力で走り続け、私たちに希望の光をもたらしてくれた彼らだからこそ、この発表は信じ難いものだった。物事には必ず終わりがあることを、奇しくも自ら証明する結果となったが、キリト(Vo)が描き続けてきたのは、終わりは始まりであり、常にその連鎖だからこそ大切なのは今現在なのだということ。活動休止前最後のアルバムとなる『CIRCLE』には、そんな彼の思いが顕著に表れている。一つの終わりを迎えようとしている今、Angeloキリトからのメッセージを受け取ってほしい。


前線に立って戦うような感覚

キリトさんは2018年11月の『RESONANCE』リリース時以来、約3年ぶりのVif登場ということで、まずはコロナ禍での活動を振り返りたいと思います。Angeloは昨年6~8月に「NEOPHASE」と掲げた三段階の動きがありました。

キリト:突然のコロナ禍で日本中がパニックになって、どうしたらいいんだろうという中で、当然エンタメ業界も身動きが取れない状況になった時に、どうやったら突破口を作れるんだろうか、どうやったら待っている人たちに発信していけるんだろうかということを考え抜いて、できることはやっていこうと。前線に立って戦うような感覚でしたね。

「NEOPHASE」の最終章として行われた東名阪アコースティックライブ&生配信の1本目@EX THEATER ROPPONGIが、Angeloとして5ヵ月ぶりの有観客公演になりましたが、目の前にお客さんはいるのに無音という世界はいかがでしたか。

キリト:最初はちょっと「うーん」という感じもありましたけど、そんなことも言っていられない状況だし、とにかくお客さんを前にして演奏できることの喜びのほうが大きかったですね。それまでは同じ空間に入ってもらうことすらできなかったわけで、そこから一つ前に進めたことが本当に大きなことでした。

声出し禁止というのは政府や自治体のガイドラインに則ったものですが、あの日はマスクと手袋を配布して、拍手も不要と事前にアナウンスしていましたよね。

キリト:あの頃って要は「何もするな」という空気だったじゃないですか。万全の対策をしているとは言え、世間的にはこういう状況でライブをやること自体が「そもそもやるの?」みたいな、0か100か論みたいになっていて。その中で、じゃあここまでやったらいいでしょ?っていう。それこそ僕は、お客さん全員分の防護服を用意できないかと、実際にスタッフに打診したんですよ。それを着けてもらった上でやれば、ゴチャゴチャ言われないんじゃないかと(笑)。ただ、それはちょっと無理があるということで、無しになったんですけど。そういう意味で、手袋とか徹底的にできることはやった上でライブはこういう形でやりますという、ちょっとした皮肉も入っていました。

お客さん全員が防護服を着たライブは、ものすごい光景になるでしょうね。

キリト:ちょっと無茶でしたね(笑)。でも、本当にそれくらいの気持ちでした。防護服を着て、無菌室のようにビニールシートまで貼って、病院の手術室みたいな状態でライブをやったらどうなるのかなという考えもあったくらい。

制約がある中でどう表現していくかがエンタメの醍醐味だと、YouTubeライブで話していましたよね。

キリト:そういうところにクリエイティブが生まれるんじゃないかなと。色々な制約や重圧の中で、それでもそれをすり抜けて何かを伝えたいという気持ちこそが大事だし、アートだと思いますね。だから逆に言うと、色々な制限があるほうが工夫が生まれるし、アートとしての価値が生まれると僕は考えているので、規制上等という感じですね(笑)。

10月4日「天使の日」恒例の周年ライブ@大宮ソニックシティ大ホールは、7ヵ月ぶりのバンドスタイルでの有観客ライブでした。皆さん、「ようやく辿り着いた」と言っていたのが印象に残っています。

キリト:やっぱりあれは大きかったですよ。やっとここまで来られたかという思いが強かったので。すごく記憶に残るライブですね。会場収容人数の50%という制限の中でいっぱい来てくれたし、「あぁ、制限があるな」とは感じないくらい盛り上がったライブになって良かったですね。

そして11月11日にアルバム『[evolve]』がリリースされ、それを引っ提げたツアーが11月17日にスタートしました。コロナ禍初のツアーがスタートした時の思いは、どのようなものでしたか。

キリト:ただやれて嬉しいではなくて、やること自体がまだ賛否両論あって手放しで喜べない状況の中、それでもやることの意味をすごく考えなきゃいけなかったですよね。実際、ツアー中に東京がまた緊急事態宣言に入ったり、それに対してどう対応しなければいけないかという部分では、ライブをやること自体が本当にリスクだらけで。リスクを避けるという意味では、ライブをやらないことが一番なんだろうけど、そういうわけにはいかないというところで、いつどうなるかわからないという不安感の中で綱渡りをしていたような感覚ですかね。

初日に「最後まで乗り切れるかわからないですが、できるところまでやり切ります」と言っていて、奇しくもファイナルの直前に緊急事態宣言が再発令されて。その中でも予定通りライブを開催したAngeloの決断というのも記憶に残るものでした。

キリト:どんなことにも当てはまるんですけど、想定外の危機に陥った時に、まずは止まって危険から回避して、そこからどうすればいいか考えることが大切で。「NEOPHASE」の三段階が象徴しているんですけど、一度止まって先を見据えて、要は何をしないで何をすれば大丈夫というのを見極めなければいけない。でも最終的には外側に向かっていかなきゃいけない。ちゃんとした段階を踏んで前に進んでいくことが大事だと思っていたんだけど、そんな自分らでも社会の中に存在していて、その社会の方針を決めるのは政治だったりする。だけど、その大人たちの意思が全然見えなかったんですよね。政治的にどうこう文句を言っても仕方ないとは思うんだけど、規制を出されたら守らなければいけない中で生きている以上は、何をすれば良くて何をしちゃダメでということを、自分らで考えなきゃいけないよねというのは、ファンに対しても発信していたことではありますね。

バンド自身が一度折れているんだなと判断せざるを得なかった

2021年のAngeloはコロナ前とほぼ変わらないペースで活動してきましたが、これは2020年に積み上げたものがあったからこそできた選択なんだろうなと。

キリト:そうですね。自分らもそうだったけど、音楽業界全体がすごく戦って、やり方をどんどん変えていきながら、対応するために努力してきたと思いますよ。業界全体が何とかエンターテインメントを持続するために、本当に皆が頑張っていたと思うし、その中でお客さんを迎え入れることの重大さというのを感じながら、実際、誰に文句を言われることもないくらいしっかり対策をしていましたから。そういう中で自分たちも頑張ってやってきたという感覚ですね。

8月1日、ホールツアーのファイナルLINE CUBE SHIBUYA公演で、Angeloは2022年1月をもって無期限活動休止となることが発表されました。5~6月のツアータイトルが「THE COUNTDOWN」、6~8月のホールツアーが「MEPHISTO DECIDED」だったというところで、この二つのタイトルを決めた段階で、活動休止のことや『CIRCLE』のイメージは見えていたということでしょうか。

キリト:まさにそれがわかっていた上で作ってきた流れなので、リアルタイムなコンセプトですよね。Angeloの活動を続けることがちょっと難しいんじゃないかという空気になってきたのが、去年の『[evolve]』の制作時期だったので。

そうだったんですね。

キリト:だけど、その時期に止めるわけにはいかないという気持ちもあったので、一度話を預かって、僕の中でいつどのタイミングでというのを自分なりにすごく考えてやり続けてきた中で、本当にリアルタイムな流れで「THE COUNTDOWN」というツアーを経て、「MEPHISTO DECIDED」…つまり自分自身がどう決断するかという。まだどうにでも転ぶという余白を残して、バンドの状況も客観的に見据えながら最終的な判断に至るということは、毎回予測しながらストーリーを作っていた部分があったので、メンバーとのコミュニケーションでも、僕はこういう決断をしたけど、まだ変えることはできるよというギリギリの時期まで待ったんですよね。その中で、メンバー一人ひとりの考えは微妙に違うんだけど、僕がこのバンドをやる上では、もうバンド自身が一度折れているんだなと判断せざるを得なかったので、8月の発表に繋がったという流れでした。でも、僕は前もってそれを想定しながらコンセプトを作っていたというのもあります。

ということは、昨年の『[evolve]』のツアーの時も、そのことがずっと頭の中にありながらだったんですね。

キリト:ありましたね。毎日そのことを考えていました。どうするべきなのかと。僕が見るAngeloというところで、これからも同じ攻撃性を持って続けていくという観点では、人間だからちょっと疲れちゃったのかな、心が多少折れちゃったのかなと判断せざるを得ない雰囲気で。そこにムチを打って続けることが本当に正しいんだろうかと、僕自身が自問自答しなければいけない時期でした。でも、結果的にやっぱり一度止めたほうがいいなという決断に至ったのも事実なので、仕方ないのかなと。

コロナ禍は、多くの人が自分自身の人生について改めて考える機会にもなったと思いますが、今回の結果はそういうことも影響しているのでしょうか。

キリト:僕自身で言うと、そういう危機みたいなものが来ると逆に燃えるタイプだから、コロナ禍でエンタメが止まった時もいち早く動いた部類のほうだと思うし、やっぱり負けたくないという気持ちのほうが強くなるんですよね。2020年春に軒並み色々なバンドのツアーが中止になった時期、僕はかなり早い段階で動いたと思うんですよ。ZAIKOという会社もまだ誰も知らないような時期に、僕は自分で調べて、何とかして配信ライブをビジネスとして確立できないかと動いていました。その後、ZAIKOは誰もが知るようなものになったけど、Angeloが最初にやり始めた頃はほとんど誰も知らなかったと思います。スタッフとリモートで話をしながら決めていって、僕がYouTubeライブでファンの人たちに向けてZAIKOというのはこういう会社で、Vimeoというプラットフォームを使って高品質な有料ライブを生配信する仕組みなんですということを図解で説明したくらい必死な状況で(笑)。

そうでしたね。

キリト:それを見たアーティストが同じことをやりたいと言うなら、そのビジネスフォーマットをあげるから、そのままやってくれと言っていたくらいの時期だったので、とにかく自分のことだけじゃなく、業界全体で生き延びるために何でもやっていかなきゃいけないんじゃないかなと思っていました。ただ、そうやって僕自身が突っ走っていた時、メンバーがどう考えているのかというのは、確かに見ていなかったなとは思うんですよ。そこが目線や温度感の違いで、僕自身はとにかく突破するために本当に何でもやるという気持ちで突っ走っていたけど、それぞれ家で待機しているメンバーはちょっと違っていたというか、いろんな意味で疲れていたのかなと。

なるほど。10月3~4日に2daysで行われた今年の周年ライブは、活動休止発表後だったので、バンドもファンの皆さんもいつもとは違う感覚で迎えたと思いますが、終えてみていかがでしたか?

キリト:発表してからのライブだったので、できるだけラストスパートを前向きに楽しんでいこうと発信したいとは思っていたけど、お客さんも当然複雑な思いで来ているだろうから、どうなるのかなというのはありつつ、やっぱり自分自身が前向きに15年やってきたAngeloというのがどれだけ素晴らしいバンドだったのかを見せていきたいんだという思いが、ちゃんと伝わったんじゃないかなと思うんですよね。ファンの人たちは曲によっては泣いている人もいたけど、僕自身が悲しむんじゃなくて最高だったよねという時間を一緒に楽しみたいんだという気持ちを訴えていたので、それをちゃんと受け止めてもらえたのかなと思います。