アリス九號.

『不夜城エデン』に続く『黒とワンダーランド』――未曾有の2020年に2作のアルバムを生み出したアリス九號.、その裏にあるヒロトの変化。

2019年4月に結成15周年を記念した再録ベストアルバム『花鳥ノ調』『風月ノ詩』を発表し、8月にバンドの名義を「アリス九號.」に戻して再出発した5人。その後10月にシングル『革命開花-Revolutionary Blooming-』を、そしてコロナ禍の真っ只中にあった2020年4月にアルバム『不夜城エデン』をリリースした彼らだが、11月11日、さらなる新作アルバム『黒とワンダーランド』を世に送り出す。単独インタビューとしては実に約5年ぶりとなるギタリストのヒロトに、2019年以降の動きを辿りながら、制作の裏側やライブについてじっくりと話を聞いていくと、ヒロト自身の変化、アリス九號.への向き合い方が見えてきた。


人生を賭けるバンドなら、その前の人生も賭けないといけないと思って

再録ベストアルバム『花鳥ノ調』『風月ノ詩』(2019年4月)リリース時のメンバー全員での登場以来1年半ぶり、単独インタビューとしては、なんと5年ぶりになります。

ヒロト:そんなに経ちます!?

2019年は再録に始まり原点回帰に特化した1年だったと思いますが、2015年にA9として復活した時も原点回帰をテーマにしていたり、2017年のアルバム『IDEAL』は過去曲のアップデートがテーマだったり、アリス九號.はこれまでも自分たちの過去と向き合う機会が多かったですよね。

ヒロト:確かに(笑)。向き合い過ぎ(笑)。

(笑)。これまでの原点回帰と2019年の大きな違いは何だったと思いますか?

ヒロト:んー、深度が違いましたね。思い返してみると、それまでの原点回帰しているタイミングって、自分たちの意思とは違う要素によってそういう期間が設けられてしまった時なんですよ。レコード会社を移籍したタイミングや、前事務所は自分たちの意思で出ましたけど、止まるつもりはなくても一旦止まらざるを得なくなってしまったタイミングとか…人って考える時間ができると、ミュージシャンは特に自分と向き合いがちなんですよね(笑)。良いことだと思うんですけど。で、根本からアップデートしようというモードになるんです。うちのメンバーは特にそれが強くて、将君とかは結構その傾向が強いんじゃないかなと。破壊と再生みたいなものがよく歌詞に出てくるので、きっとそういう性質なんでしょうね(笑)。2015年は前事務所の屋号が抜けたアリス九號.になるに当たって、自分たちで表現する必要性があって、必然的にそういうモードになったと。2017年は内情的なことで、メンバーとその時に一緒にやっていたスタッフ間で色々とあって、独立後早くもチームの在り方が再編されたんです。

そうでしたね。

ヒロト:今やっているツアー「Alice in Halloweenland」で、『LIGHT AND DARKNESS』(2016年4月リリースのEP)の曲を久々にプレイしているんですけど、その前の『銀河ノヲト』(2015年8月リリースのEP)も含め、あの時期に作った曲って、一時、正直メンバー的に触れたくもないくらいだったんです。なので、それを『IDEAL』で無理やり書き換えようとしていた節はあります。PCで例えると、初期化してもう一度やり直します、みたいな。2019年は別に原点回帰しなくてもいいタイミングでしたけど、自分たちの意思で、それを望んでし出したというか。だからこそ、今まではある一定のところまでしか掘り下げていなかったのを、徹底的に掘り下げて向き合ってみたという感じです。

『花鳥ノ調』『風月ノ詩』の制作に入る時点で、8月にバンドの名義を「アリス九號.」に戻すことは決まっていたのでしょうか?

ヒロト:まだ決まりきってはいなかったです。正直その時点だと「A9」という名前ももう5年経って何だかんだ愛着も出てきたし、ある種「アリス九號.」のイメージに捉われない名前でもあるというところで、コロコロ名前を変えるのもなという気持ちもあったんですよね。だけど、やっぱり「アリス九號.」という名前の強さだったり、いやらしい話、その名前の知名度、それと単純に愛着ですよね。メンバーだけじゃなくファンの人たちも愛着があると思うので、15年目にして戻ろうと決めてスタートしていました。地味に色々な経緯があるバンドなので、名前に内包されるものってメンバー的にも結構大きいんですよね。

客観的には、「アリス九號.」名義に戻った辺りからバンドが変わってきている雰囲気があって、2020年になってから新たなフェーズに入っているように感じていました。

ヒロト:それって、音で感じてもらっていた感じですか? 活動の雰囲気ですかね?

両方ですね。昨年10月リリースの『革命開花-Revolutionary Blooming-』でガラリと雰囲気が変わったので、そのインパクトが強かったことと、バンドのブランディング、見せ方をすごく考えているんだろうなと感じていました。

ヒロト:『花鳥ノ調』『風月ノ詩』を出して、色々な意味で自分たち自身をすごく思い知らされた感があって。個人的には、音源の制作であれだけ深く過去と向き合って、昔の色々なことを思い出しちゃったんですよね。ワクチンに例えると、強力な出来事=ウイルスを、抗体を持って倒すんですけど、実は毒素は抜けていても、そのもの自体は体に留まっていて、向き合ったらそれが再熱しやがったみたいな。ライブも去年だけで70本くらいやっていて、その中でも忘れていたことがどんどん鮮明に思い出されて。本当の意味で、最初の10年というものに向き合い切ったんですよ。それで自分たちってこういう感じだよなというものに改めて気付いて、その上で何をするのかとなった時に、名前の表記も戻したので、やっぱり結成当初に掲げていた和洋折衷…というか、海外から見たちょっと曲がった日本の文化というのを明言化して、活動していたんです。

なるほど。

ヒロト:ただ、初期の「アリス九號.」では、それは音のことではなく、あくまでヴィジュアルイメージ、側から見てどう見えるのかというところでそのコンセプトでやっていて、その頃はメンバー同士を探っていたんですよ。この人たちはどういう人たちなんだろう、集まるとどうなるんだろうというのを探っていた5年間があって、次の「Alice Nine」の時期が、音にフォーカスして活動した5年間だったんですよね。それらをハイブリットさせたのが今なので、ロゴも漢字表記の下に大文字アルファベットが入っていて、最初に掲げていた海外から見た日本の文化らしいものを、音楽的にも表現しようとスタートしたのが『革命開花-Revolutionary Blooming-』であり、次の『不夜城エデン』(2020年4月リリース)だったんです。

そういう流れだったんですね。

ヒロト:ただ、『革命開花-Revolutionary Blooming-』に関しては、ちょっと意図的過ぎたかなという部分はあるんですよね。でも、あれがきっかけとなって『不夜城エデン』の他の収録曲を構築できたので、結果良かったと言えば良かったんですけどね。『不夜城エデン』はプロデューサーのnishi-kenさんとも事前にミーティングをして、メンバー各々が思っていること、プロデューサーの視点で思うことを話した上で、ちゃんと意思疎通を図ってからスタートしたので、そういう意味では結構コンセプチュアルでした。それを作りながらの昨年末から今年のコロナ前までの活動だったので、そういうふうに見えていたのかなと思います。

ヒロトさんはバンドの広報担当ポジションでもあって、メンバー内で発信が一番多いですよね。前回のインタビュー時に「今は知ってもらいたいという気持ちが強い。認識されなかったら存在しないのと一緒なので」と言っていて、自分で発信できるこの時代の中で、どう人に伝えていくかというのをすごく考えていた時期だったと思うんです。その後、バンドではオフィシャルnoteも始まりましたし、個人ではツイキャス、インスタライブ、Voicyでも発信していますが、実際色々とやってみて、わかったことはありますか?

ヒロト:ちょうどコロナ禍に入ってリアルなコミュニケーションが分断されて、より思ったんですけど、ネットの世界ってアクセスはできる状況にあるし、繋がる可能性はあるんだけど、実際繋がっているのはごく一部だなと。特に最近だとAIが超優秀じゃないですか。AmazonやInstagramの広告の入り方とか、なんでこんなにツボをわかっているものを薦めてくるの!?っていう(笑)。だから結局、興味がある人に繋がっていっているだけで、そもそも興味がない人にはどこまで行っても繋がらないんですよね。この1年くらい、体感していることですね。そういう意味では、テレビはすごいなと思うんですよ。僕はもう4年くらい自宅にテレビがないんですけど、それでもテレビで流行ったものの情報って人伝で入ってくるんですよね。

テレビ絶対主義の層も確実にいますしね。

ヒロト:地方に行けば行くほどそうなんですよね。コロナで痛感しました。7月5日に有観客ライブを再開しようと思った時に、テレビの力ってすごいわと思って。ネットで頑張って発信しても、むしろ目の前の人にしか伝わってなくて。もっと上手いやり方があるのかもしれないですけど、システム的にはそうなっているなと思いました。ググる時にも、そこに意思がないと辿り着かないんですよね。そういう世界だなと思ったので、7月5日以降はモードがちょっと変わって。1年半前の発言よりも前は、ひたすら足で広報的なこと、コミュニケーションをやっていたと思うんですよ。

そういう出会いの場に行くのをやめたそうですね。

ヒロト:そうそう。必然的にそうなったんですよ。今年に入って、ライブの制作スタッフから、今年のホワイトデーはアリス九號.のライブをやらないから、ヒロトのソロでのライブをやったらどうかと提案されて、何もないよりは誰かやったほうが良いかなと思ってやることにしたんですけど、その時期、自分のモード的に、ヒロトのアリス九號.への関わり方として、バンドに出会う以前の自分と向き合い切って、それをバンドに注ごうかなと思っていたんです。というのも、まだギタリストになってからのヒロトでしか、バンドに向き合ってないなと思ったので、人生を賭けるバンドなら、その前の人生も賭けないといけないと思って。今まで見ようともしていなかった13歳以前の自分と向き合う作業を始めたところで、外に向いている意識を内側だけに向けよう、閉ざそうと思ったんですよ。

なるほど。

ヒロト:で、タイミング的にコロナ禍になったので、メンバーとも会わなくなって、図らずも今年の上半期はより閉ざすことになったんですよね(笑)。そしたら、自分の中で変わるものが結構あって、その間にネットの世界は目の前のコミュニケーションなんだと気付いて、さらに7月5日のライブをやって、体感することのエネルギーというものをすごく実感したんです。となった時に、すごく限定的に外に出ようというモードになって。前は手当たり次第ぶつかって、ぶつかってみてから考えていたんですけど、今は目の前にいる人たちに密にコミュニケートして、そこからその先にアクセスする、むしろアクセスを代行してもらうみたいな、そういう手法を探っているという感じです。

ファンの前に出て行くなら新しいものを持って出る!

4月に『不夜城エデン』、11月に『黒とワンダーランド』という、このスパンでアルバム2作をリリースすること自体は、『不夜城エデン』の制作に入る時点で決めていたのでしょうか?

ヒロト:薄ら、『不夜城エデン』の後の作品を出そうと言っていたくらいです。4月の時点で、気持ち的にも活動的にもオールリセットがかかったので。その後コロナ以降の活動が再開されていって、徐々にやっていけるんだろうなというのが見えた時に、これはメンバーの特性だと思うんですけど、ライブが半年もしくは1年くらい延期になるかもしれないとなったら、気持ち的に『不夜城エデン』のツアーをそのまま振り替えることができないんですよ。そこがうちのめっちゃ不器用なところだと思うんですけど(笑)。それで、新譜を作ることになるという。ファンの前に出て行くなら新しいものを持って出る!みたいな。

カッコいいです。

ヒロト:お土産は絶対に持って行きます!みたいな(笑)。過去にやったイベントで「お客様第一主義」というタイトルを付けているくらい、謎のおもてなし精神みたいなものが根付いていて。あとは、バンドが進み続けるに当たって、もちろん運転するにはエネルギーが必要だし、気持ちの循環というか…うち、軽油だとダメなんですよ。ハイオクで内洗浄もしながら高エネルギーで動かないと、何か動けなくて。なので、そういう重い作業を選んだという(笑)。

コロナ禍も結構経過してから新作を作ることを決めて、ゼロから制作に入ったと。

ヒロト:『不夜城エデン』を作り上げて、さぁツアーの準備をしようという時に緊急事態宣言が出て。ただ、時間があるからって、すぐに制作する気分にはならないというか。例えると、こういう畑を作って、こういうブドウの品種にして、こういうワインにしようと考えて作っていて、ブドウが実ったというのがアルバムが完成したタイミング、それを収穫して皆に届けに行こうというのがツアーですよね。その時に、自分たちでもそれを味わって、今年のはこうだった、これで作ったワインを飲んでもらってこういう反応だった、じゃあ次はどうしようとなると思うんですよ。それがない中で、また畑を作るの!?っていう(笑)。

ヒロトさんとしては、4月がメンタル的に一番落ちていたそうですね。

ヒロト:もう、虚無(笑)。だからその時期は曲も作ってないし、ギターも弾いてなかったですもん。唯一、SHINとオンライン上でセッションした時に、すごく久々にギターを触りました。ランニングしかしてなかったので。

やっぱり改めてコロナ禍のことを聞くと、メンタルが落ちていた時期はあるというアーティストが多いですが、リアルタイムでは表にそういうものを出さないじゃないですか。人前に出る職業ってそういうことなんだろうなと。すごいなと思います。

ヒロト:ミュージシャンとか、0から1を作っている人たちはまだマシなんじゃないかなと思うんですよね。僕の友人でもいるんですが、例えば俳優さんとかって、役を入れるのが仕事だから、自主性を持ってなければないほど良い俳優さんだったりすると思うんですよ。そういう人が、役がない時間がポッカリできてしまうと、何もなくなっちゃう。で、自分と向き合う時間だけができちゃって、「あれ? 自分って何もないじゃん」という負の連鎖に陥ると思うんですよね。自分の場合はリリースして、ある種出し切った後で、ツアーに向けて空けている期間だったので、結構落ちたんだと思うんですよ。そんな時に、SHINが真夜中に「何になるかわかんないけど、できることをやりたいんすよね!」って熱い電話をしてきて、あまりにもすごい熱量だったから「じゃあ、やってみよっか」と、1コーラスだけ曲を作ってみたんです。それがきっかけで抜けた感はありましたね。

SHIN様様ですね。ところで、『不夜城エデン』が完成した時は「ここに辿り着くために今までがあったんだな」と、すごく達成感に満ち溢れていたと思うんです。「今までたくさんの作品を作ってきたけど、初めて自分で、このアルバムの続きが気になると思った」と言っていて。

ヒロト:確かに、言っていましたね。

『黒とワンダーランド』完成時には、どんなことを思いましたか?

ヒロト:ツアーが差し迫っていたり、ソロのライブがあったりして、ちょうどバタバタしていたので、まだそんなに噛み締めていないんですよね。正直、割とヌルりと完成しちゃったんですよね…(笑)。『不夜城エデン』の時はマスタリングも立ち会っていたし、その時点でプロデューサーのnishi-kenさんとだいぶ語っていたりしたので、既に客観的に見ている状態で完成していましたけど、今回は行程的にもまだ客観的な視点で作品を見ていないんだと思うんですよ。「MANDALA」と「透明の翼」だけ今ツアーでやっているので、そこは噛み締めているという感じです。だから、制作の時点から『不夜城エデン』と対照的ですよね。すごく意思があって作り上げた作品『不夜城エデン』と、時流、流れの中でできた作品『黒とワンダーランド』というか。でも、自分が過去に言った「続きが気になる」という言葉を今聞いて、思ったより早くそれができたなと(笑)。

気になると思っていたものが早々に作れたというのは、良かったのかもしれませんね。

ヒロト:そうですね。世の中的に、コロナが色々なものを押し進めたと言われていますけど、これもその一つなんじゃないですかね。本当は来年くらいのつもりでしたから。

『不夜城エデン』と『黒とワンダーランド』は結構キャッチーな曲が多いと思うのですが、どちらも収録曲中一番ハードな曲がリード曲に選ばれているなと。これはA9以降の音楽的な傾向から繋がっている結果でしょうか?

ヒロト:「TESTAMENT」に関しては、名義が戻って初のアルバムなので、攻めの姿勢というか。かつ、先ほど話したコンセプトが反映されているものとしてできていて。「MANDALA」に関しては…早くできたから(笑)? でも、流れとしか言いようがない気がしますね。何かしらの意思がなければ、そうならないと思うので。しかもバンドって、個人の意思じゃなくて5人の意思の集まりなので、それがアリス九號.の意思なんだと思います。