A9

A9

結成15周年を記念した再録ベストアルバム『花鳥ノ調』『風月ノ詩』が完成。2019年現在のA9が提示するA9自身、5人が向かう未来とは――。

精力的なライブ活動と並行して、2017年4月に『IDEAL』、2018年4月に『PLANET NINE』と、驚くべきスピードでフルアルバム2作を生み出してきたA9。そして迎えた2019年4月、彼らが新たに世に送り出すのは、結成15周年を記念した再録ベストアルバム『花鳥ノ調』『風月ノ詩』だ。この15年間の活動中、初期に当たる“アリス九號.”“Alice Nine”時代の全21曲が、現在の5人によってアップデートされた渾身のベスト盤は、まさにA9の名刺代わりとなる必聴の2枚。そんな今回の作品について、そしてA9の今を5人にたっぷりと語ってもらった。

◆何事もなくちゃんとやっていられるのって、結構すごいこと(虎)

虎

――久々の5人揃っての登場です。昨年末の虎さんの入院、手術というのは、大きな出来事でした。

虎:コンスタントに話題を作っていく俺、偉いなと思いました(笑)。普通だったら、ライブを飛ばしちゃったり、発売延期とかあると思うんですけど、何事もなくちゃんとやっていられるのって、結構すごいことだなと自分でも思いますね。

――発表から復帰まで早かったですよね。

虎:入院生活が耐えられなかったんですよね(苦笑)。正直、抜け出せると思っていたんですけど、思ったより厳しかったです。入院って、勝手に抜け出すイメージないですか? 入院が確定した時に、そればっかり考えていたんですよ。

ヒロト:ドラマの見過ぎじゃない(笑)?

沙我:虎ファンは、お叱りのメッセージを送ってあげてください(笑)。

将:最初に報せを受けた時は、本当に血の気が引きましたよ。何があってもおかしくないというのは、この15年の中で感じていることで、メンバー5人がたまたま奇跡のように続けて来られていること、それをこれからも続けていくために、生活もちゃんと気を付けなきゃいけないんだなと、5人で再確認しましたね。

――Twitterによると虎さんの入院中にヒロトさんのイケメンエピソードがあったようで。

ヒロト:何ですっけ?

――メッセージカードと共に靴のプレゼントが。

ヒロト:あぁ…!

将:真っ先に駆けつけた俺のことは触れられていなかった(笑)。

――(笑)。メンバー愛だなと思って。

ヒロト:15年一緒にいますからね。あれは、物があると見て思い出すかなと思って。人って、結構忘れるじゃないですか。自分も死にかけたことがあるんですけど、時間が経つとその時の辛さを忘れるので。

Nao:あれはカッコいいプレゼントですよね。僕が持って行ったのは『ゴルゴ13』の漫画ですよ(笑)!

ヒロト:そういうところも、バンドってキャラが出て良くないですか?

――確かに!

将:俺は動画を勉強する本を持って行ったんだよね。

ヒロト:俺が昔入院した時にBAROQUEの圭ちゃんがお見舞いに来てくれて、歴史の本とか、俺が好きそうな感じのやつを4~5冊持って来てくれたんですよね。プレゼントって、その人とその人の関係の中のものだったりするから…将さんはやっぱりリーダーだから、入院中にも仕事に結び付くようなものを(笑)。

将:そうだね(笑)。沙我くんはお母さんが看護師だから、いち早く情報収集してたしね。ちょうど今、BugLugとツアー中なので、やっぱり五体満足で活動ができるって、すごくエモいことだなと実感しながら回っています。

Nao:沙我さんの予言では、次にヤバイのは僕らしいですよ。

沙我:多分、命に関わるものじゃないんですよ。Naoさんは恥ずかしい病気になると思う(笑)。

全員:(笑)

――今回の件で、また一段と結束力が強くなったのではと思います。

虎:そうですね。ただ、怪我じゃなくて病気っていうのが、一番感じたくない年齢を感じてしまって、嫌だなと思いますね(笑)。

――今年1~3月には約3年半ぶりのアジアツアーもありました。

将:待っていてくれているんだなと感じつつ、初めて行ったのがアルバム『Supernova』(2014年3月リリース)を出した後だったので、あの楽曲たちの盛り上がりが他とはちょっと違うなと思いました。やっぱり行った意味というのはあって、ちゃんとそこに根付いているんだなと。繋がりを感じましたね。

沙我:僕たちはすごく恵まれていますね。後輩たちから、アジアですごく苦戦していると聞くんですよ。僕らは良いタイミングで結成して、良いタイミングでアジアに行ったというのは大きかったのかもしれないですね。

◆ここらで15年越しに決着を付けたい(沙我)

沙我

――2017年のアルバム『IDEAL』は過去曲のアップデートがテーマで、2018年のアルバム『PLANET NINE』は『IDEAL』での経験を生かして、A9らしさをさらに突き詰めて、もう一歩先に進むという作品でしたよね。その2作を経たことは、今回に繋がっているのでしょうか?

沙我:自然と、今は新曲じゃないなという感覚があって。まぁ、新曲は出したほうがいいんだろうけど、モチベーション的なもので。『PLANET NINE』で新しい要素を出して、がっつりツアーを回って、そこから次にまた新しいものをという感覚にはなれなかったし、年数を重ねて来ているので、バンバン新曲を作るという段階でもないのかなと思うんですよね。先輩とかを見ていても、わかるんですよ。長くやっていると、過去にいろんな曲があるわけで、次に出す曲というのはすごく大事で、勢いではもう作れないんですよね。色々と吸収してから、満を持して出すみたいなことに段々となってくるものなんだなと。

――過去2作が、1年に1枚のペースでフルアルバムだったという部分も大きいですよね。

沙我:そうですね。迂闊に曲を出したくないなと。実験してみました!みたいなものではなく、1曲1曲意味のあるものにしたいんですよね。

――前回、「僕らが今やりたいことは、A9がやってきたことをもっと色濃くズバッと人に伝えるということ」とも言っていましたが、過去曲の再録というのは、これまでA9がやってきたことを改めて世に出すということでもあるので、そういう結び付きもできるのかなと思ったのですが。

沙我:どっちかと言うと、色々と経てのこれというわけではなく、逆にこれを作って何を感じるか、何を吸収するかだと思うんですよね。『PLANET NINE』でやり切って、一旦空っぽになったから、このタイミングで過去の曲をブラッシュアップしてみようという感じでした。

――なるほど。選曲の基準というのは?

将:長く活動しているバンドの弱点は、どの作品を聴けばいいかわからないということなんですよね。新しく出てきたアーティストだと、今話題の曲を1回聴けば、簡単に入って行けるような空気感があるんですけど、やっぱり15年やっていると、Wikipediaを見てもアルバムがたくさん並んでいて、それが一つの障壁だと思っていて。今A9に興味を持ったけど、何を聴けばいいの?っていう時に、名刺代わりになる一番手っ取り早いものが必要だよねというところから企画が始まっているんです。そういう意味での選曲と、ライブアレンジをめちゃめちゃしているバンドなので、それでクオリティが上がって驚きがある楽曲、外せない楽曲のバランスで組み立てられています。

沙我:改めて作業していると、最近のA9の曲にはないような要素もいっぱいありますし、初期のほうが色気付いてないというか、がむしゃらというか。とにかく、がむしゃらにハイセンスな曲を作ろう! やってやるぜ! みたいな熱さもあるし、自己表現したいという初期衝動みたいなものがありますね。あと、結成直後は自分たちでもこのバンドがどういうバンドかわからなくて、自分たちは何が武器になるのかとか手探りで。その中で感じるものを曲にして、今でもライブで残っています。それが今の新曲たちにはない要素なんですよね。ただ、僕らが他のバンドと全然違うのは、初期の頃はあまりにも制作の過程が満足いくものじゃなかったんです。

――そうだったんですね。

沙我:結成1年目から、メジャーの超売れっ子みたいなスケジュールだったんですよ。初期は1年間で20曲くらい作っていたので、知識もない中でとにかくこなさないとという感じでやっていて、中には作った記憶が全然ない曲もあったり。そういう過程がとても満足いくものじゃないというところで、そのギャップを埋めたいという思いがずっとあったんですよね。ライブでやっているし大事な曲だけど、結局どんどん形を変えていってしまっているわけで。ここらで15年越しに決着を付けたいなと。

――既存曲を再構築する上で、特に気を使った点はどんなところでしょうか?

沙我:変に洒落っ気を出さないことは大事だなと、常に意識しましたね。その曲が何を伝えたいのかというのが一番大事で、あとはライブで何回もやっているので、そのノリを変えちゃいけないなというのはありました。歌詞の世界観をわかった上でやれるというのが、一番大きかったですね。当時は、楽器隊はある程度メロディーが決まったところで、こんな感じかな?という風に作っていたので、歌入れしてからようやくわかるものがほとんどだったんですよね。

◆さらに大きくなった山を皆で登ったみたいな感覚(ヒロト)

ヒロト

――『風月ノ詩』に「GEMINI」も収録されていますが、2015年の復活のタイミングの時に、Naoさんが「5年以内に「GEMINI」を超える曲をやりたい。今ならもっとできる気がする」と言っていて、今回、ある意味それが叶ったとも言えるのではと。

Nao:おー、そうですね。求められるテクニックはより上がっていますけど、逆にわかりやすくなったところもありつつ、若い頃、ドラムはドリーム・シアターとかが出来たらすごいと言われていたんですけど、そういうドラムオタクがやりたくなるようなものになりました。ドラマー的に血が騒ぎますね。

――全体としては、よりシンフォニックになりましたよね。

将:大河ドラマとかの劇伴をされている吉俣良さんにオーケストレーションのアレンジをしていただいて、ヴァイオリニストの室屋光一郎さんがチームを揃えてくれました。すごく貴重で有り難いことなので、噛み締めるように聴いていただきたいですね。

――ちなみに、ベースソロからギターソロの部分は、より生きる形になったなと。

沙我:前はシンセでオルガンのソロがあったんですよね。それがなくなったので…どうしようかな、何かしなきゃ…で、気付いたら1分くらいベースソロを弾いていたんですよ。あれは難しいと思います。自分でも未だに一発では弾けないですね。でも、やり甲斐があるアレンジになったので、良かったです。

ヒロト:オーケストラのチームは違うんですけど、アレンジ的には昨年のクリスマスライブで既にこのバージョンを披露しているんです。以前のバージョンも、トータル約13分を演奏しきるのは集中力がいるし、すごく必死だったんですけど、年数が経ってまた同じ感覚を味わうというか。1曲でストーリーがあるので、その過程でギターソロを弾けるというのは、そこまでの道のりが大変であればあるほど登り切った感があるので、そこに向かう気持ちが大きくなりますよね。登山に似ているというか。一見、登り切った時がピークに思えるんですけど、下り切った時に「無事に帰って来られた」みたいな感覚です。前が富士山だとしたら、今回はもうちょっと大きい海外の山。そこにチャレンジするためにオーケストラの人たちの力も借りて、「GEMINI」というさらに大きくなった山を皆で登ったみたいな感覚が強いですね。でも、なかなかあのMVの続きを撮るということが叶わないです(笑)。

沙我:虎さんが低予算で撮ってくれるはず。

虎:ク…(笑)。

Nao:「GEMINI- 0 -eternal」から「GEMINI- I – the void」になったらさ…あれ? 老けた?って。

全員:(笑)

――今回の取材に当たって原曲のMVを色々と見たのですが、見た目の変化もあるものだなと。

ヒロト:「グラデーション」(2004年11月発売ミニアルバム『祇園盛者の鐘が鳴る』収録曲)は初めて撮ったMVで、カメラ1台で撮ったんですよ。

――初めて撮ったMVは印象に残りますよね?

将:いや、全然残ってないですね(笑)。

ヒロト:残ってないです(笑)。「銀の月 黒い星」(2005年3月発売シングル)と「闇ニ散ル桜」(2005年4月発売シングル)のMVがすごく印象に残っているんですよね。1日で2曲分撮ったんですけど、「銀の月 黒い星」に時間と労力を使い過ぎて、深夜0時くらいからようやく「闇ニ散ル桜」の撮影がスタートして、数テイク気合いで撮って終わったみたいな。

将:その割には、あのMVはあまり見られていないっていう(笑)。

――今回の収録曲の中で一番過酷だったMV撮影は?

ヒロト:「NUMBER SIX.」。

将:37時間くらい撮られていました。

ヒロト:虫がとにかく多くて大変でした。軽井沢の廃墟みたいなところだったんですけど、照明に虫がブワーッと集まってきて、皆で退治していました。時間がないのに虫が入ってきちゃって、虫NGとか出るんですよ。

――それは大変ですね(笑)。