PENICILLIN

PENICILLIN

『メガロマニアの翼』に収められたノスタルジア。
PENICILLINが新たに生み出した至極の7曲を堪能せよ。

前作から約1年ぶりとなるPENICILLINの新作『メガロマニアの翼』がリリースされた。PENICILLIN流の濃厚でハードなサウンドはそのままに、よりニュアンス、ムードに重きを置いた過去2作を経て、今作は楽曲の振り幅を広げつつも、切なさやノスタルジアが漂うコンセプチュアルな作品に仕上がった。そんな最新作の制作背景について3人にじっくりと話を聞いていくと、その言葉の端々から26年という彼らの歴史をも感じることとなった。このインタビューと共に、2018年現在のPENICILLINサウンドをぜひ体感していただきたい。

◆架空の世界を描くというよりは、どこかに自分の心象風景がある(HAKUEI)

HAKUEI

――今年2月の26周年アニバーサリー公演で10年半に渡ってライブのサポートベースを務めてきたHIROKIさんが卒業しましたが、バンドにとっても、ファンの方々にとっても大きな出来事でしたよね。

HAKUEI:10年は長いよね。サポートという立場とは言え、一緒にライブを作ってきたメンバーなので寂しいですけど、MCで言った通りですね。乗り越えられるのは長く続けてきたからこそだと思います。

千聖:細かい歴史は色々とありますけど、長いスパンでの変化というのは、自分の中でも色々と考える部分がありますよね。結構前から話は出ていて引き止めていたんですけど、「それはPENICILLINのためにならない」と言われて。色々話した中で、最終的に今年の26周年ライブで卒業されました。シゲさん(プロデューサーの重盛美晴)以外で、誰よりもPENICILLINの曲のベースを弾ける人だったので、いなくなるということは大変でしたけど、乗り越えられそうかな。

――前々作『Lunatic Lover』から3作連続でミニアルバムという形ですね。

千聖:どうしてもミニアルバムじゃなきゃダメということではなかったんですけど、フルアルバムにすると曲数が多いので、個人的な考えとしては一周(10曲以上)聴くのが全て新曲だと大変だなというのと、ライブをやる時に新曲以外も聴きたいという人もいると思うんですよね。自分がリスナーだったらPENICILLINに何を求めるだろうと色々考えてみるんですが。ミニアルバムって、集中力が切れないまま聴けるというのもあって、良いなと思います。

HAKUEI:昔はシングルを何枚か出してからアルバムという流れが多かったから、新曲を6曲くらい入れるとシングル曲と合わせて10曲くらいになっていたんですよね。今はシングルを出さない人も増えてきたので、フルアルバムで新曲10曲になると、作るほうも聴くほうもちょっとボリューム的に多いのかなっていう。なので、1作品に新曲6~7曲が時代やバンドの状態としてちょうど良くて。僕らの場合はこれまでにフルアルバムを出しているのでミニアルバムと言っていますけど、アルバムはアルバムですね。

千聖:最近、シングルでも4~5曲入れちゃう人もいるし、もうよくわからないですよね(笑)。だから、シングルだと言えばシングル、ミニアルバムだと言えばミニアルバム、アルバムだと言えばアルバムということかな(笑)。

O-JIRO:PENICILLINの場合はフルアルバムもあるから、それよりはちょっと少ないよというくらいの意味合いですね。

HAKUEI:今後、もっとボリューム多い作品を作ろうという意見が出れば作るかもしれないですけど、今はこれがちょうど良いんでしょうね。

――タイトルを大分先行して決めたそうですが、その時点で出来ていた曲はあったんですか?

HAKUEI:ほとんど出来てたよ。

O-JIRO:レコーディングはまだだったけど、曲自体はありましたね。

千聖:9月のライブで発表したかったので、それに合わせて決めたんです。

――なるほど。『メガロマニアの翼』というタイトルに行き着いた経緯を教えてください。

千聖:ブラック・サバスの「メガロマニア」を聴いていて、メガロマニアって何だろう?と思って調べたら、誇大妄想狂と書いてあったので面白いなと思って。ヘヴィメタルの元祖と言われている人たちだけあって、40年以上前にこんな言葉をよく採用したなと。いろんな角度のセンスが光ってるなぁと思いましたね。ギーザー・バトラーが書いた詞は、哲学的でカッコよくて個人的にビビることが多いかも。1970年代にこういうことをやっていたんだな、すごいなというリスペクトを込めて、この言葉を使ってみようと思ったんですけど、まんまだと面白くないなと。HAKUEIくんが作った「Lucifer ~光をもたらす者~」(以下、「Lucifer」)が翼という言葉がキーワードになっていたので、くっ付けてみようと思いました。そもそも、この曲が「Lucifer」「メガロマニアの翼」どちらのタイトルになるかわからなくて、結果「Lucifer」になったので、アルバムのほうを『メガロマニアの翼』にしたんです。

――そうだったんですね。

千聖:逆にこのタイトルを歌詞の参考にしてもらってもいいですよ、というつもりで決めました。

HAKUEI:10個くらい候補を出してもらって、その時はまだ2曲くらいしか歌詞を書いてなくて、最初に書いたのが「Lucifer」だったんですけど、多分この曲でMVを撮るだろうなと思ったんですよね。要は今作の表題曲になるような存在で。その歌詞と関連付くんじゃない?という話が千聖くんからあって、メガロマニアのことを調べたりして、そう言われればそうだなぁと、これがピッタリだなと思いました。

千聖:今回、ジローさんがメーカーのディレクターみたいなことを全部やってくれて、ものすごく大変だったんですよ。

O-JIRO:いつもより予定通りに進んでいったので、全体的に結構優秀でしたよ。

千聖:優秀にさせないと、今こうやって取材を受けられないっていう。ジローさんのケツの叩き方が上手だったよね。

O-JIRO:色々と考えて逆算していくと、この日までにこれをお願いって言うしかないですよね(笑)。

千聖:「全部アレンジを決めてきてください」っていうすごい注文があって、それは頑張りました(笑)。

O-JIRO:だって、プリプロも360度何も見えない中で進めるより、ちょっとでもヒントがあれば、そこを歩いて行ったほうが早いですからね。

――過去2作は濃厚でハードなサウンドはそのままに、よりニュアンス、ムードに重きを置いた作品でしたが、今作はもう少し振り幅があって、色々な側面のPENICILLINらしさを凝縮した作品という印象を持ちました。

O-JIRO:5~6曲出来上がった段階では、切なさやノスタルジックな感じが前に出ると良いよねという話になっていて。歌詞を見たら、曲が持っている切なさに全部寄せてくれていて、全体的に切なさ、ノスタルジックさが強い気はしましたね。曲のバリエーションはあるんだけど、割と見ている方向は同じというか。

HAKUEI:曲調、アレンジの方向性が作品としてコンセプチュアルに聴こえるのかなと。曲が出揃った時から思っていたし、そういう感じに進めていけた気がして。曲の振り幅を持たせるというのもありつつ、統一感があるアルバムなのかなと思います。歌詞もこれを表現するにはというところで、ノスタルジックというテーマの歌詞もあるんですけど、作り込んで架空の世界を描くというよりは、どこかに自分の心象風景があるような、そういうモチーフを投影した歌詞かもしれないですね。今回、いっぱい書き直したんですよ。ちょっとでも引っ掛かるところがあると「なし!」ってやり直して(笑)。

O-JIRO:1回、携帯で打っていたのが消えちゃったとか言ってたよね(笑)。

HAKUEI:そう! 携帯のメモに歌詞を書いて、それをスタジオのPCにメールで送ろうと思って。コピペしようとしたら、なぜかいなくなっちゃって「あー!!」って(笑)。一生懸命、今のうちに思い出せるところだけ思い出そうと打って(笑)。

全員:(爆笑)

HAKUEI:それでも半分くらい。もう悔しくて! どんなに「復元」って検索してもダメで(笑)。

O-JIRO:それはしんどいよね。曲が半分くらい出来ているのに、セーブしていなくて全部消えちゃったみたいなもんだもんね(笑)。

HAKUEI:そこから気持ちを切り替えようと思って、濃い目のハイボールをグッと飲んでテンション上げてから、逆にもっと良い詞書いてやる!って頑張ったけどね(笑)。

全員:(笑)

HAKUEI:どの曲だっけなー。

O-JIRO:「WARNING」じゃない?

HAKUEI:いや、「道化師の溜め息」かな? んー、そのどっちかだな。もうずっと歌詞を書いていたから。

――O-JIROさんとの連名の「鬼百合」以外は、全てHAKUEIさんの作詞ですね。

HAKUEI:千聖くんに書いてもらう時って、ゴリゴリの曲やバラードの場合が多いんですけど、今回は言うのも悪いくらいなスケジュールだったので(笑)。

O-JIRO:でも作詞に関しては、後半はノッてるのかなと思う感じだったよ。

HAKUEI:何回もやり直せたというのは、それだけ進みが早かったんだよね。

千聖:HAKUEIくんはノルと早いなと思う。

HAKUEI:1~2曲目は苦しいんだけど、ノルと楽しくなるんだよね。逆に作詞が全部終わると、ちょっと寂しくなっちゃうくらい。

――前作も1曲目「黙示録」はHAKUEIさんとO-JIROさんの連名でしたが、「鬼百合」はどのような作り方だったんですか?

HAKUEI:原曲者として仮歌詞を書いてくれたんです。この曲自体が世界観が色濃いので、自然と書いたのか練りに練ったのかわからないですけど、メロディーや曲にピッタリなワードがその時点であって、譜割りやメロのハマりで気持ちいいところは残したいなと思いながら埋めていきました。

O-JIRO:すごくプレッシャーをかけてくるんですよ(笑)。「黙示録」みたいな存在感の曲を書いてほしいと。でも、「黙示録」みたいな曲を作るわけにはいかないじゃないですか。だから、考えに考えて出てきた感じですね。出来上がった歌詞も、創世記みたいなものを感じるノスタルジックさが、すごく曲に合っているなと。これが完成形だなと思える仕上がりになりました。僕が書いた詞は、この部分が全体的に残ったとかじゃなくて、所々にあります。

◆大人になったPENICILLINはアダルトでヘヴィーなものも出来る(千聖)

千聖

――「Lucifer」は面白い展開ですよね。ギターソロから急激に激しくなって、その激しさのままサビ、一度元のビートに戻って、再び激しくなるという。サビ、間奏、サビ、サビ、サビと、これだけサビを繰り返していながら全く飽きないです。

HAKUEI:AメロBメロは1回しか出てこないもんね。

千聖:この曲は自分が作ったんですけど、アレンジとかの方向性も自分でほとんどやっちゃいました。なので、原曲からこのままですね。ジローさんには無茶苦茶かなと思いながら…

O-JIRO:無茶苦茶だなと思いましたよ。

全員:(笑)

千聖:スピード速い系は得意でしょ(笑)?

O-JIRO:いやいや、これ超速いから!

――ギターソロもかなり速くないですか?

千聖:いや、大したことないですよ。

O-JIRO:このギターソロはなかなか尺があるので、引き出し全開じゃないと弾けなかったと思いますよ(笑)。速いからパッと流れてしまうんですけど、多分三つか四つ展開しなきゃいけないくらいの尺。

HAKUEI:最初に聴いた時から面白い曲だなと思ったし、雰囲気的にも展開的にも今までにあまりないパターンで「お、いいな」と素直に思えて嬉しかったですね。

千聖:自分の中では、「若きウェルテルの悩み」(2002年10月発売のアルバム『No.53』収録曲)に近い感覚かも。

HAKUEI、O-JIRO:あーーー。

千聖:あれを作った時も、そういうイメージだったんですよ。ゆっくり始まって、最初の段階では最後の展開が見えない。こういう曲調なんだってわかりやすいものじゃなくて、「あれ? 世界観変わっちゃった」みたいな、ヘヴィネスとスピードメタルがくっ付いたような感じ。昔のPENICILLINだったら、後半部分のほうがPENICILLINぽいんですけど、大人になったPENICILLINはアダルトでヘヴィーなものも出来るっていう。それと、HAKUEIくんは速いものよりまったりした曲調で良い感じのヴォーカルが出やすいと俺は思っているので、そういう部分でも良かったなと思いますね。

O-JIRO:僕、一箇所すごく好きなところがあるんですよ。Aメロの〈切り裂く〉の〈裂く〉っていうところ。

HAKUEI:(笑)

O-JIRO:カッコいいですよね。そう来たかっていう。すんごいピンポイント過ぎるんですけど、どこかで言おうと思っていたんです。

HAKUEI:嬉しいなぁ。

――それにしても、こういう曲がリードになるというのは、バンドとしてカッコいいなと思って。

O-JIRO:これは満場一致でした。

千聖:今作を作る時のコンセプトとして、視覚から入ってくるものをイメージしたくて。以前は音と視覚的なものは関係ないと思っていたんですけど、実は違うんだなと、そこから曲が作れるということが最近自分の中でわかってきたので、サントラみたいなものを作りたいと思って、砂漠で遊牧民が旅しているようなイメージでどういう曲が当てはめられるだろうと考えたのが、この曲の前半部分かな。やっているうちに速く出来るかもと思い始めて、こうなった気がします。何となく、全体的に怪しさがあるイメージですね。

――「道化師の溜め息」のイントロはPENCILLINらしいなと。

千聖:これは全体的にO-JIRO節だね。

――Bメロが不思議な感じに聴こえるのは、どういうからくりなんでしょう?

O-JIRO:僕だけ4拍子で、あとの人が変拍子になっているんですよ。

千聖:イントロやリズムの絡み方は、完全にジローさんですね。この曲はジローさんがフルコーラスを持ってきていたので、アレンジは決まっていたよね。

O-JIRO:そうですね。デモでギターソロも弾いた気がします。さらに言うと、時間がなさ過ぎてこのキーで自分で歌ったら、鼻血が出そうになるくらい高くて(笑)。

HAKUEI:(笑)

O-JIRO:低いキーで作ってそれを上げるような時間はなかったんです。こんなの高過ぎるなと思ったけど、HAKUEIさんはこれくらいかなと。

HAKUEI:そっか、これトップがすごく高いとかじゃなくて、全体的に高めなんだね。

千聖:やっぱりPENICILLINの時は、全体的に自分のキーよりも高めに作るんですよね。

O-JIRO:自分が気持ちよく歌えるキーより3度くらい違いますもん。僕で言うトップGで作るものはHAKUEIさんはトップBとかになるので。Bなんて鼻血出ます(笑)。

――(笑)。「バイバイ」はインパクトのあるタイトルですね。

HAKUEI:悩んだんだけどね。これ以外思い付かなかった。

――これは卒業ソングと捉えていいのでしょうか?

HAKUEI:種明かしをすると、PENICILLINを結成して初めて作ったフルアルバム『Missing Link』(1994年12月発売)収録の「螺旋階段」は、当時の等身大のモノローグ的な歌詞なんですけど、その前日談と言うか。PENICILLINを結成する前、大学生になって一人暮らしを始める時に、高校時代の友達が見送りに来てくれた状況とかを描いていますね。カバーアルバム『Memories ~Japanese Masterpiece~』(2015年3月発売)を出した時に、「なごり雪」が素晴らしい歌詞だなと思って、そういう歌詞を書いてみたいというのもあったんです。だから「バイバイ」があって、メンバーに出会って、「螺旋階段」というイメージで書いたかな。

――なぜこのタイミングでそういう歌詞を書こうと?

HAKUEI:何でだろう(笑)。

O-JIRO:作っている時も「これでいいのかな?」って言ってたもんね。

HAKUEI:自分の中でちょっとリアル過ぎちゃって恥ずかしいなと思って、一応相談したんだけど、「自分のことだからそう思っちゃうんじゃないの?」と言われましたね。

――今作の中では他と毛色の違う歌詞ではありますよね。

千聖:メロディー先行で作った曲なんですよね。俺とジローさん、シゲさんで結構煮詰めたので、3人のアイディアが色々と混ざっています。

O-JIRO:サビをHAKUEIさんからもらって、1回曲を作ったんですよ。でも、自分でABメロを作ったのに、ボツってもう1回作り直したんです。最初は緩かったのを僕が激しくしたんですけど、やっぱりサビのイメージはもうちょっと緩いかなと、結局また緩くしました。

HAKUEI:曲のアイディアがあったので一緒にスタジオに入って説明して、その時に色々なことを言っていたんだよね。意外と速くしてもいいのかなとか。

O-JIRO:もうちょっとビートの効いた感じにしていたんですよね。

千聖:最初の印象と大分変わったよね。

O-JIRO:うん、全然違う。テンポも落としたし、ムーディーな感じになりました。

千聖:さらにカッコよくなったね。シゲさんの貢献度も高いです。

O-JIRO:サビの前に入っているピアノも僕が作ったんですよ。ずっとあれを入れたかったんですけど、シゲさんに送っても反応がなくてダメだったかな…と思っていたら「採用」と言われて、良かったーと思って。もしかして、あのピアノが何からヒントを得ているかわかりました?

――ショパンの「革命」ですか?

O-JIRO:すごい! その通り!

◆良いアルバムが出来たので、きっと良いツアーになる(O-JIRO)

O-JIRO

――「神風 ~North Field the World~」(以下、「神風」)はライブで盛り上がりそうな、こういう激しめの新曲は久々じゃないかなと。

O-JIRO:でも、そんなに激しい気持ちで書いたわけではないんですよ。千聖くんがもっとゴリゴリのものを出してくるかなと思っていたんだけど今回はなかったので、これが割と激しい方向になっているんですよね。もっとド級のメタルが来るのかなと思っていたのに(笑)。

千聖:だって「Lucifer」の後半、相当激しいよ!?

――フルアルバムの時には仮タイトル「激しい」という曲があるけど、過去2作のミニアルバムではなかったとのことでしたよね。

HAKUEI:そうだね。「HELL BOUND」(2005年11月発売のアルバム『hell bound heart』収録曲)みたいなのはないもんね(笑)。

O-JIRO:あそこまで行くのは、もう書けないというのもあるかもしれない。

HEKUEI:いやいやいや(笑)。

千聖:書けるけど、「Lucifer」は後半とんでもないスピードで走っているから、あんなに打点が多いものがある中、さらに打点が多い曲があったら、バランス的にちょっと濃過ぎると思うんですよね。濃厚な味噌カツにさらに変な油かけちゃったみたいな感じで嫌だなと思ったから、シメはさっぱり行きましょうよと。ある種、コース料理みたいなものだからさ。

O-JIRO:リズムはあまりやったことがない度肝を抜くくらい速い8ビートになっているので、速さはあるんです。僕の気持ち的にはパンクだったんですよね。このリフを叩けるようになるために、ちょっと練習しました。

――歌詞も攻撃的ですよね。

HAKUEI:うん。「North Field the World」の意味わかります? Northは?

――北…。

HAKUEI:Field、World…「世界のキタノ」です。そう思って歌詞を読んでみてください。

――なるほど…!

HAKUEI:これ、意外と誰も気付かないんだね。

O-JIRO:まさか、なんじゃない(笑)?

HAKUEI:北野武さんって「世界のキタノ」と呼ばれているけど、すごく人間がデカイじゃないですか。特に印象に残っているのが、芸人さんがいっぱい出ていてネタをやる番組で、まぁ褒めるんですよ。毒舌なところもあるんだけど、すごく愛があって素晴らしい人格だなと。今、SNSで炎上とかよくありますけど、俺、そういう感覚が大嫌いで。皆、北野武を見て!って。そういう風になれば、もっと楽しいんじゃない?って思うんですよね。

――歌詞の〈殿様パンチ〉とか強烈なインパクトだなと思いましたが、そういうことだったんですね。

HAKUEI:そうそう。〈武士のような覚悟で〉の部分は「ブシ」ではなく「タケシ」と歌っているしね。他にも〈ビートに乗せてド派手に〉や〈outrage〉とか、色々と散りばめていますよ。

――なぜ気付かなかったのか…。そして「WARNING」は歌ものの側面でのPENICILLIN節のメロだなと。ここ数年のシングルっぽい雰囲気です。

HAKUEI:AメロらしいAメロ、BメロらしいBメロ、サビらしいサビですよね。

O-JIRO:千聖くん節全開だよね。

千聖:「Lucifer」を作った後、どんな曲を作ろうかなぁ?と思っていてね。リズムも含め、先ほどの遊牧民が皆でドでかい火を囲んで踊っているような、異国のお祭りみたいなものをイメージしました。自分的にわっしょいソングを作りたかったんですよね。

O-JIRO:なぜか自分が書いたコード譜の仮タイトルに「祭」って書いてました(笑)。

――ちゃんと伝わってますね(笑)。

千聖:PENICILLIN流わっしょいです。

HAKUEI:そうか、そういう歌詞でも良かったのか(笑)。でも、俺もこの曲調はシングルっぽいと思ったから、こういう雰囲気になったんだろうな。

千聖:カッコよく盛り上がる感じにしたかったんだよね。と言っても、ビートを速くすればいいわけではなくて、聴いていて心地良い盛り上がりというのを考えました。こういうノリのメロディーをHAKUEIくんがどう歌うかというのも楽しみだったんですよね。

HAKUEI:意外と難しかったかもな。

千聖:「Lucifer」や「神風」みたいな曲のほうがHAKUEIくんの歌をイメージしやすいんですけど、こういうわっしょい系の歌はあまりやっていないんですよね。

HAKUEI:もちろん歌いづらいとかはないんですけど、この曲は色々と試しながら録ったかも。「Lucifer」とかはパッとイメージ出来ちゃって、あとは追求するだけなんですけどね。

――「銀河鉄道を諦めたあの頃の僕へ」はロマンティックで爽やかなバラードです。こういう曲がラストというのは意外でした。

千聖:最初、この手の曲調をやっていいのかどうかもわからないくらいでした(笑)。あともう1曲作ろう!と思った時、このメロディーが思いついたんですよね。

HAKUEI:「記憶の固執 ~融けゆく時間~」(2014年3月発売のアルバム『瑠璃色のプロヴィデンス』収録曲)みたいな曲が最後に来るのかなと思っていたら、これが来たので「おっ」と思ったよ(笑)。

千聖:さっき言ったように、シメは爽やかにしたかったんだよね。HAKUEIくんの優しい歌声も聴きたいなというのもありました。全部攻めじゃないほうが良いかなと。実はこれはテンポから決めたんです。これより速過ぎたり遅過ぎたりするのは嫌で、そこはこだわりましたね。ギターのリフも、単純に聴こえるんだけど一つひとつの音を大事にした、良いギターになったと思います。

O-JIRO:柔らかさの中にも力強さが出るようなアレンジにしたいなと思いましたね。最終的には綺麗な方向になっているんですけど、綺麗だけでは終わりたくないなと。今までのPENICILLINで言うと、「地球」(1998年10月発売のアルバム『Ultimate Velocity』収録曲)みたいなダイナミックさが出るといいなと思って考えました。

――ツアーが11月17日から始まります。5月のライブからサポートベースはCHIYUさん(ex.SuG)ですが、ここまで何本かやってきていかがですか?

千聖:なかなか大変そうですけど、頑張っていますね。良いプレイヤーだなと思います。

O-JIRO:もっと不真面目かと思ってた(笑)。「ノリがあればいいっすよ!」というタイプかと思ったら、ちゃんと細かく聴いて、細かくコピーしてきてくれる。

HAKUEI:さすがプロですよ。

――ツアーに向けて読者の皆さんにメッセージをお願いします。

O-JIRO:良いアルバムが出来たので、きっと良いツアーになると思います。いっぱい聴いて来てほしいです。

千聖:カッコいい曲を一生懸命作ったので、カッコいいアルバムが出来たと思います。色々な角度で楽しめる、PENICILLINって面白いことをやるなと思える作品になったと思うので、ぜひ聴いてほしいです。そしてツアーも来てください。

HAKUEI:長いことバンドを続けてきて、今この作品を作れたことが素直に嬉しい、それくらい素晴らしい作品だと自分では思っていて、良いバンドだなと思います。その集大成、本領を発揮するのがライブだと思うので、いっぱい聴いてライブで盛り上がってください。

――最後に、毎年恒例、年内にやり遂げたいことシリーズの2017年の結果発表を。HAKUEIさんは『ドラクエ』をクリアしたいと。

HAKUEI:それ去年言ったの? …してないわ。

全員:(笑)

HAKUEI:でもね、いつでもクリア出来るよ。全員レベル99にしたから! すごいでしょ? その状態にしたら満足しちゃった(笑)。

――(笑)。千聖さんは、すごく美味しかった熟成鮨をもう1回食べたいと。

千聖:あー! 食べた! 今年の7月くらいに。

――ということは、2017年中には達成してないですね(笑)。

千聖:去年から今までの1年間じゃなかったの? じゃあ、出来てないね。

全員:(笑)

――O-JIROさんは、HAKUEIさんの携帯ストラップを作るということでした。

O-JIRO:あ! 作ってない…(笑)!

HAKUEI:見て、このボロボロ。

――2017年は全滅という結果に(笑)。

千聖:期間が短すぎるから、今回は1年間にしましょう。

HAKUEI:マジで断捨離したいんだよね。例えば、新しい電子レンジを今年買ったんですけど、古いやつがまだあるからね(笑)。片付ける気が起きなくて。でももうちょっと綺麗にしたい。

O-JIRO:今度こそHAKUEIさんの携帯ストラップを作ろうかな。でも、今日も革作品を持って来てほしいと言われていたので、この携帯ケース自分で作ったんですよ。

――すごい!

O-JIRO:よく見てください。縫い目が汚いでしょ(笑)? 初めて縫った作品です! だから、ケースもストラップも作れるよ。

HAKUEI:よし!

千聖:作曲用のPCがかなり古いので、良い環境にしたいですね。それくらいなら多分…

――出来そうですね。

千聖:出来ないかもしれない。今のどうしようもないOSが嫌いじゃないっていう(笑)。

O-JIRO:もう新しいのにしていいって(笑)。

千聖:じゃあ、そろそろ替えます。

(文・金多賀歩美)

ARTIST PROFILE

PENICILLIN

<プロフィール>

HAKUEI(Vo)、千聖(G)、O-JIRO(Dr)によるロックバンド。1992年結成。96年メジャーデビュー。98年には後に代表曲となる『ロマンス』をリリースし、90万枚を超える大ヒットを記録。その後もリリース、ライブなど精力的に活動を行う。近年では2015年、昭和歌謡をカバーしたアルバム『Memories ~Japanese Masterpieces~』や、2016年、富士急ハイランドの「戦慄迷宮」とコラボしたミニアルバム『Lunatic Lover』のリリースも話題に。2017年2月に結成25周年を迎え、ミニアルバム『Lover’s Melancholy』をリリース。2018年11月17日よりニューミニアルバム『メガロマニアの翼』を引っ提げたツアーがスタートする。

■オフィシャルサイト
http://www.penicillin.jp/

【リリース情報】

メガロマニアの翼
2018年11月7日(水)発売
(発売元:b-mode / blowgrow 販売元:avex music creative)

メガロマニアの翼
[Type-A]
XNBG-10032
(CD&PHOTO ALBUM)
¥2,800+税
amazon.co.jpで買う
メガロマニアの翼
[Type-B]
XNBG-10033
(CD ONLY)
¥2,500+税
amazon.co.jpで買う

【収録曲】

01. 鬼百合
02. Lucifer ~光をもたらす者~
03. 道化師の溜め息
04. バイバイ
05. 神風 ~North Field the World~
06. WARNING
07. 銀河鉄道を諦めたあの頃の僕へ
08. Lucifer ~光をもたらす者~(Plugless ver.)※Type-Bのみ

【ライブ情報】

●PENICILLIN TOUR 2018 メガロマニアの翼
11月17日(土)新横浜 NEW SIDE BEACH!!(※FC LIMITED)
11月24日(土)江坂 MUSE
11月25日(日)名古屋 ell.FITS ALL
12月1日(土)福岡 BEAT STATION
12月8日(土)大宮 HEAVEN’S ROCK さいたま新都心

●PENICILLIN TOUR 2018 メガロマニアの翼<FINAL> & HAKUEI BIRTHDAY LIVE SUPER HEART CORE’18
12月16日(日)渋谷 TSUTAYA O-EAST