PENICILLIN

PENICILLIN

戦慄迷宮を駆け抜け、光ある世界へ――。
ミニアルバム『Lunatic Lover』が映し出す狂気と愛、激しさと美しさ。

PENICILLINがシングル『Stranger』以来約1年ぶりとなる新作、ミニアルバム『Lunatic Lover』をリリースする。昨年のテレビ出演で話題となった、お化け屋敷“戦慄迷宮”をテーマにした楽曲がついに音源化。富士急ハイランド全面協力のもと撮影が行われたヴィジュアルイメージにも注目していただきたい。また、サウンド面では自然体のメンバー3人から生み出された新曲の数々に、楽器陣の新たなアプローチと、声帯手術を経たことにより艶を増したHAKUEI(Vo)の歌声が相俟った、現在のPENICILLINの姿が色濃く映し出された作品だ。「来年の25周年に向け、目印になるような作品」となった今作について、3人にじっくりと話を聞いた。

◆自分の声や歌に向き合えた1年だった(HAKUEI)

――シングル『Stranger』(2015年10月)以来、約1年ぶりの3人揃ってのインタビューです。2月にアニバーサリー公演、3月4月に関東サーキットがあり、その後それぞれソロ活動がありましたが、この1年を振り返っていかがでしたか。

O-JIRO:それぞれ感じたものを持ち寄ってまた新しいものができるという、今までとそんなに何か違うということはなかったですね。音楽から長く離れちゃうのが一番嫌なので、その辺はコンスタントに活動できていたかなと思います。

HAKUEI:ソロ20周年でアルバムの曲を色々な人に頼んだり、初めてのチャレンジが結構あって、企画から始めると去年の年末くらいから動いていたんです。リリースが7月末で、8月にツアーをやっていたので、結構長い間ソロ活動をやっていたなという感じがしますね。もちろん途中でPENICILLINのライブもありましたけど。あと、いい先生に出会って声帯の手術をしました。なので、手術の前と後の感覚とか、どういう状態だったのかとか、今までになく自分の声や歌に向き合えた1年だったかもしれないですね。

――手術はいつ頃だったんですか?

HAKUEI:7月の頭、ソロのレコーディングが終わったちょっと後ですね。手術自体は入院1日ですぐ終わるんですけど、声帯を動かしちゃいけない期間が3週間くらいあって、+2週間くらいで歌えるようになるでしょうと。8月上旬からツアーだったので、日程的にギリギリそこしかなかったんですよね。

――そんな大きな出来事があったんですね。

千聖:僕の場合は春のツアーの時は体調が絶不調で、病院から会場に直行とか、色々皆に迷惑をかけちゃったんですけど、なんとかそれ以外は何事もなく終えられて。ただそのツアー前後にあったCrack6のフルアルバム(6月発売『薔薇とピストル』)の制作がかなりのボリュームがあったので、時間との闘いでしたね。あと、ソロデビュー20周年の写真集の撮影でCrack6のツアー中に台湾に行ったり、焼肉コンシェルジュ検定を受けたり…まぁ色々やっていました。最近は…huluの「ウォーキング・デッド シーズン7」第1話のリアルタイム配信を身損ねたのが悔やまれるくらいかな(笑)。

――(笑)。今作『Lunatic Lover』ですが、まずこのタイトルになったいきさつというのは?

HAKUEI:曲がある程度出揃ってきて、歌詞を書いてヴォーカル録りをやり始めそうな時だったと思うんですけど、ヴィジュアルイメージは富士急ハイランドの戦慄迷宮とコラボすることが決まっていたので、なんとなくのイメージはありながら、皆でアイディアを持ち寄りました。

――歌詞の世界観に統一感があって、このタイトルを軸に書いたものなのかなと感じたのですが。

HAKUEI:わかりやすく繋がっているものもあったりなかったりなんですけど、一つの作品だし大体同じ時期に書いているので、統一感とかコンセプチュアルな部分は自然と出ればいいかなと思っているほうです。割とフラットな気持ちで書いて、関連付けようというポイントは2~3ヶ所くらいだったと思います。

――ほぼインストゥルメンタルの「Lunatic Love」を1曲目にしたのは?

千聖:これは結構、制作後半の時期に作ったんですけど、何曲か出揃うと、あれがないな、これがないなとなるので、その中でジローさん(O-JIRO)のアイディアでできました。

O-JIRO:声も楽器みたいな感じで、メロディも大事なんですけど肉声が入っているインストゥルメンタル的な曲があったらいいなと。1曲目とは考えていなかったんですけど、最終的に並べた時に1曲目がいいかなという感じでした。

――「戦慄迷宮」がついに音源化(※2015年9月OA日本テレビ「有吉反省会」で、「全員ビビリであること」を反省。その禊として、同年11月OAで富士急ハイランドが世界に誇るお化け屋敷・戦慄迷宮を体験し、その恐怖体験をテーマに制作した楽曲をアコースティックで披露した)されたわけですが、さすがに放送の時にあったO-JIROさんの「待って~!」はカットなんですね(笑)。

HAKUEI:忘れてました(笑)。

O-JIRO:覚えていたら録らされるところだった(笑)。

HAKUEI:思い出せばよかったな~。

――歌詞にしっかり〈禊の終幕〉というワードが入っていて(笑)。

HAKUEI:書いている時に、どうしようかなと思って(笑)。どこまでかけ離れるべきか、どこまでリンクするべきか、色々と悩みました。でも、番組でああいう体験をして、戦慄迷宮をテーマに曲を作るという機会はなかなかないことなので、もう思いっきり意識しちゃおうと割り切りました。もちろん言葉のノリも考えて、違う意味にもとれるようにしていますけど、行き切ったほうが面白いかなとこういう形にしました。

――あの放送を見た方々は、歌詞の随所にキーワードがあるので、そういう部分でも楽しめますね。

HAKUEI:そうですね。〈punk out〉という言葉が入っていて、響きはロックっぽくてかっこいいんですけど、臆病者という意味なんですよ。そういうのも考えて歌詞を読んでもらえると、あのシーンが浮かぶと思います(笑)。

――アーティスト写真、ジャケット写真、MVも戦慄迷宮で撮影したんですよね。

O-JIRO:明るい戦慄迷宮も見られたし、普段通れない道も通れたんですけど、どこを通っても怖いですね。電気が付いていても怖いです。

千聖:かえって普段は見えないものまで見えちゃうので、嫌ですよね。

O-JIRO:明るくても嫌だなぁという造形物がいっぱいあって。暗くしてもったいないなと思っちゃうくらい。

HAKUEI:こんなにディテールちゃんと作っていたんだなと。

O-JIRO:消毒液みたいな匂いもするんですよ。

HAKUEI:もうね、大人気ない。やり過ぎだよ(笑)。

千聖:富士急ハイランドさんに全面協力していただいて、今作はしっかり戦慄迷宮を軸にしたコンセプトでバランスをとって作れたので、作品として「戦慄迷宮」が核になっているのかなと思いますね。

――「Stranger」に引き続き、PENICILLINでこのくらいのテンポ感の曲も心地いいですよね。「Stranger」と「戦慄迷宮」は同じくらいですか?

千聖:「戦慄迷宮」のほうが速いんじゃない? 変わらない?

O-JIRO:近いんじゃないかな。逆に遅いかも。

HAKUEI:速くはないもんね。

(※3人で2曲のテンポを再現)

千聖:あっ、「戦慄迷宮」のほうがちょっと遅いかもね。

O-JIRO:でしょ? でもPENICILLINの中では、どっちもゆっくりなんですよね。

千聖:「戦慄迷宮」を自分が自宅で作った時は、まずテレビで放送するアコースティックバージョンをイメージしたので、それを無視した展開ができないというか。テレビを見た人の印象とリンクさせるために、あれをベーシックにすると、このテンポ感が一番良かったんですよね。もちろんバンドバージョンで激しくなるのも想定はしていましたけど。

O-JIRO:サビの言い回しがわかる限界くらいの速さなんですよ。これ以上速いとせせこましいということで、テンポをとった気がします。歌った時の歯切れの良さはやっぱり大事なので。

◆今までPENICILLINでやったことがない叩き方をした(O-JIRO)

――3曲目の「Dead Coaster」はジェットコースターとかけているのでしょうか?

HAKUEI:思いっきりアトラクションに引っ張られましたね。結構起伏がある曲調なので、パッとこれが浮かびました。

――PENICILLINらしいギターリフとテンポ感の曲ですよね。

千聖:僕が自宅で作ったデモの段階でギターリフも含め大体の形は見えていたけど、やっぱりライブでこういうテンポ感のものは欲しいから、遠慮なくさらにアレンジしたし、ギターも入れたい放題入れましたね。タイトル通りのスピード感溢れるかっこいい感じにできて良かったなと思います。

――4曲目の「見えないナイフ」はリズムが変わっているというか、リズムパターンが多いというか。

O-JIRO:これはHAKUEIさんが原曲で、僕がアレンジを付けたんですけど、最初はもうちょっとリズムがないイメージだったんですよ。どんどんリズムが立っていったので、僕の中で入口と出口がすごく違う形になったという印象ですね。元々はゆっくりなバラードみたいな感じだったんですけど、ちょっとずつリズムが入っていって、最終的に今の形になりました。母体になる音はあんまり動かないで、補足する音でコードを変えていく作りにしたかったんだけど、割とざっくりとわかりやすくコードを動かしてリズムを立ててっていうアレンジに変わっていって…

千聖:サビは、コードは残したままテンションは変わっていってるよね。だからまぁジローさんの狙い通り。

O-JIRO:そうだね。サビのイメージはこんな感じだったかもしれない。ちょっとずつ盛り上がっていく感じ。疾走感のある曲になって良かったんじゃないかな。

――HAKUEIさんとしては、この原曲からの変わり様はいかがですか。

HAKUEI:俺が一番よく理解していなかったかもしれないですね。サビのメロディがあって、その雰囲気でAメロBメロを考えようと思ったんだけど、なんか嫌で。違うアプローチがないかなと思って、ジローさんに手伝ってもらったんです。Aメロはフワッとした感じで、Bメロが自分では何にも出てこなくて「とりあえずこれ」って(笑)。この曲をやろうと皆で決めたら、アレンジの信頼感はあるんですよ。だからイメージは伝えたから、なんとかしてくれ!っていう気持ちでいたような気がする(笑)。ただ、フワッとしたところから軽く展開してサビでドーンっていうのは、わかってくれるよね!?っていう(笑)。

O-JIRO:サビはプロデューサーのシゲさん(重盛美晴)も気に入っていて、こういう風にやりたいというのがあったみたいで。

千聖:自分はああいうリズムパターンは作らないし、Bメロの急に明るくなる、開けた感じもいいですよね。このまま明るくいっちゃうのかなと思いきや、また暗く戻ったみたいな。「Humman Doll」(1995年6月発売VHS、9月発売ミニアルバム収録)の逆パターンだよね。明るくて、Bメロでちょっと暗くなって、サビで開ける…の逆です。HAKUEIくんらしいのかもしれない。こういうリズムはバンドならではの空間の楽しみ方だと思うので、Aメロの感じとかも上手くできているなと思いますね。そういうのを踏まえてギターのアレンジをして、リフとかを作りました。結構自分でもエッジが効いていてかっこいいギターだなと。

O-JIRO:本当はAメロはもう1段あったんです。それがどうしても頭から抜けなくて、そこから抜け出るのに時間がかかりましたね。展開が多くなっちゃうから、もうちょっとあっさりさせようと、こうなりました。

――この変わっている感じが、O-JIROさん原曲かなと思っていました。でも結果的にアレンジをやっているということで、近いものはありますね。

千聖:ジローさんの要素も結構入っているからね。

O-JIRO:ドラムの打ち込みとにらめっこしながら、ここにこれを入れちゃったら疾走感が出過ぎちゃうからダメだなとか、一つ一つ細かく考えましたね。

――5曲目「瘡蓋」はちょっと不思議で。バックはロックなのに、特徴のあるメロディによって独特の雰囲気のサビに仕上がっているなと。

O-JIRO:そうなんですよ、嬉しいですね。

――原曲はO-JIROさんですか?

O-JIRO:僕です。PENICILLINの中でも、ヴォーカルだけが大きいノリでとっていてバックはそうじゃないという曲はたまにあるんですけど、それをやりたくて。まさに、それが伝わって良かった(笑)。

――サビの歌詞の一部が〈シャラララ〉なのは何か意図があるのでしょうか。

千聖:仮歌では英語だったよね。

HAKUEI:うん。英語も考えたんだけど、具体的な意味がないハミングにして、イメージを限定させたくなかったんですよね。僕としては、サビの中でここは大事な部分だと思っていて、すごく考えました。苦しい気持ちを書いていて、4コマ漫画でいう4コマ目みたいな強い部分なんですけど、そこに言葉をはめちゃうと逆にミニマムになっちゃうかなと。辛い時に「辛いよ!」って最後に言うよりは、言葉にならないほうが、その前の部分から想像して伝わるんじゃないかなと思ったんです。

――なるほど。ギターはいかがですか?

千聖:テンポが速い曲ですが、これもエッジの効いたリフを作ってみては当てはめて、疾走感もサビでは出しつつ、ソロではドラマティックな展開を試みました。結構気に入ってます。

――6曲目のバラード曲「月の魔法」はとてもドラマティックです。

O-JIRO:今、LEVINくんのスタジオでドラムを録っているんですけど、この曲はLEVINくんが「こういう風に叩いたらどうですかね?」って言ってきて、今までPENICILLINでやったことがない叩き方をしたので、面白かったです。大体いつもは、縁と真ん中を一気に叩くオープンリムショットという叩き方なんですけど、この曲は普通にただ真ん中を叩いているんです。でも逆に音は太くなるし、LEVINくんありがとう、という曲です(笑)。

千聖:LEVINくん、ずーっと聴いてたもんね。自分のスタジオなので、ドラムがどう録れているかすごく興味があったみたいです。

O-JIRO:「聴かないでくれ!」と思いながら叩いてました(笑)。でもドラマーが一つの現場に何人もいるってあんまりないことなので、良い情報交換になりました。

――この楽曲は、演奏している側がライブでとても気持ちいいんじゃないかなと。

千聖:これも自分が原曲で、アメリカとかの民謡みたいな素朴なイメージで自宅でデモを作ったんですけど、スタジオに持って行って、僕やシゲさん、ジローさんでアレンジしたら、ドラムが入った途端にダイナミックなアメリカンパワーバラードになったので、ジローさんとやるとこうなるんだなと、ちょっと反省しました。

――そこは反省なんですか(笑)?

千聖:もっと素朴なはずだったから。

O-JIRO:そんなことないよ。もうアメリカンだったので、僕はカウボーイの気持ちで叩きましたよ(笑)。この曲はピアノも大事なんですけど、主役はアコギであってほしいなと思って、最初はAメロBメロくらいだったのを全編弾いてもらって、存在感もアコギが聴こえないと嫌だったんです。

千聖:そうなの? そんなつもりで弾いてなかった(笑)。原曲を作った時のイメージ的に、イントロはピアノにしようと思ったんだけど、シゲさんに「えー?」って言われて。

O-JIRO:印象が「少年の翼」(2014年3月発売のアルバム『瑠璃色のプロヴィデンス』収録)と一緒になりたくなかったというのもあるんですけど、ピアノよりアコギという感じにしたいなぁとずっと思いながら、まだピンと来てないような気もするなと思いつつアコギを録って、MIXの時に「アコギ、アコギ。アコギを大きく」って。

千聖:僕はピアノを大きくしてくれって(笑)。逆だったな(笑)。

――シゲさんがその折衷案を…?

千聖:まぁ、上手くやったんじゃないですか(笑)。この曲、アコギの弦が古くなっていたので、弦を張り替えたんですけど、うっかりかなりのヘヴィーゲージ(太い弦)を張っちゃって、妙に弦がガチガチに硬くて弾きにくかったのを思い出しますね…。そういえば、この曲を最初に持ってきた時、ジローさんから「サビの〈夜空を〉の部分が、HAKUEIくんが歌ったらどうなるかわからない」って言われたのも思い出した。

――なかなかピンポイントですね。

O-JIRO:音符が二音だから、少ない音節で意味のある言葉を付けるんだとしたら、もうちょっと音符を増やしたほうがいいんじゃない?って言ったんだけど、結果問題なかったですね。ドラマーなので、はまりが一番気になっちゃうんですよね。割と冒険ができないタイプで、しっかりと縦のノリがないと楽器的にダメなんです。逆にメロディってそんなの関係なくまたいだりできるので、羨ましいんですけどね。そういう概念が僕にはないので。

千聖:僕のデモがフワッとした歌い方だったので、どうなるかわからなかったみたいで。でも結果変えなくて良かったなと思います。

――HAKUEIさんは歌ってみていかがでしたか。

HAKUEI:聴いてすぐ、いい曲だなと思いました。この手の曲って、歌のバリエーションをそんなに探る必要がないというか、言葉を大切にできればということでイメージしやすいので、僕の場合はバラードのヴォーカル録りは早いんですけど、これに関しては意外と難しかったですね。

――それは何が要因だと思いますか?

HAKUEI:なんだろう。譜割りが結構トリッキーなんだよね。言葉が軽く詰まっていた後にパーンと後ろが伸びたりとか。すごくキャッチーなんだけど、リズムを大事に、でもニュアンスを出すというのが意外と難しくて、ちゃんと体に染み込むまで大変でしたね。

――ヴォーカル録りは今作中どの楽曲が一番大変でしたか?

HAKUEI:この曲かも。自分でも結構意外だったかな。声帯手術後というのもあって、喉のコンディションが良いから、すごく艶があるような感じで滑らかにしっかりメロディを大事に歌おうというところで、あんまり負荷をかけずに気持ちよく声を出せる曲がほとんどだったので、変に歌い方が決まらなくて悩んだとかはなかったんだけど、唯一テクニカル的な部分で、このバラードが一番難しかったような気がします。

――千聖さん、O-JIROさんは今回の制作において印象に残っていることはありますか?

千聖:シゲさんが今作の前にALvinoのレコーディングをしていて、潤ちゃんのギターを録った時に、潤ちゃんは早弾きとかはしないけど、口ずさめるようなギターソロが好きで、それがすごく良かったと言っていて。印象に残るフレーズのほうがいいよねっていう話を、このレコーディングに入る前に二人でしていたんです。そのせいかどうかはわからないけど、今回はギターソロやリフは少なくとも一ヶ所はメロディのわかりやすいインパクトが残るものを1曲1曲弾いたつもりです。あと、エフェクターを結構使ったり、同じタイプのものを並べて聴き比べたりてみたり、音色の実験も色々試せてギターそのものに集中できたので、有り難かったし楽しかったですね。

O-JIRO:今回はドラムの音がすごく良い音で録れて、こだわって音を大事に最後のMIXまで作ってもらったので、どの曲もマスタリングまで楽しみでした。

◆気持ちはどこか尖らせながらも、美しさもあっていい(千聖)

――今作は全体的なイメージとしてあまり激しくない印象ですが、意図してそうなったのか、曲を持ち寄った時点でそういう方向性だったのか、どちらでしょうか。

千聖:結構激しいのもありますよ(笑)。「戦慄迷宮」のド頭のリフなんて、完全に重いし激しいし。

――ギターフレーズだったり、そういうサウンド面での激しさはもちろんあるんですけど、テンポ感とか全体の印象です。

HAKUEI:テンポ感と歌のアプローチだと思う。僕もそう思ってるの。もちろん太いリフやダークな雰囲気はあるけど、歌のアプローチはがなって歌ったり、シャウト気味に張ったりとかがないんだよね。だから、色々なタイプの曲はあるにせよ、ある種の統一感がヴォーカルに関してはあるんですよね。来年の25周年に向けての第1弾としては、すごく良いまとまりのものができて、これがあるから次はもっとゴリゴリにいこうかとか、目印になるような作品になったのかなと思います。PENICILLINの場合はミニアルバムというのをあまり作ったことがないから、自然に作ったらこうなったということは、今そういうことなんだろうなって。

――今のPENICILLINのモードがこの形だったと。

O-JIRO:フルアルバムで作ると大体、仮タイトル「激しい」っていう曲が1曲は入ってくるんですけど、そういうのも大体曲が出揃ってから、そろそろ激しいのも作りますかって言って作るんです。今回は特にそれもなかったので、やっぱり今の僕らのやりたい感じがこういうことだったんでしょうね。

HAKUEI:あと、手術の影響もあるかも。もしかしたら、手術前だったら「Dead Coaster」のサビとかはもっと激しく、がなり気味で歌ってたかもしれない。それよりも艶のほうでという風になったから、僕自身のアプローチも今回は違ったのかもしれないな。

O-JIRO:歌は今回ガラッと違うもんね。

HAKUEI:こういう作品ができて面白いですよね。ガンガン攻めるものは今まで腐るほどやっているから、次はそれをあえて狙ってやるとかね。そうなった時に、絶対に前よりも精度は上がると思うし。

千聖:まぁしつこいようだけど(笑)、ギターや他の楽器のアレンジに関しては、アプローチが激しめなところは結構あるんですけどね。「Dead Coaster」も普通にハードに作ったつもりだし。でも確かに歌の印象が大分違うのかもな。

HAKUEI:後からトータルで聴いて思ったんだよね。意外とこういう雰囲気になったんだなと。

千聖:気持ちはどこか尖らせながらも、美しさもあっていい。『Lunatic Lover』の狂気と愛する人という相反するものがPENICILLINには混在しているんじゃないかというのもあって、良いタイトルなのかもしれないですね。

――次回作が今から楽しみです。

HAKUEI:そう思える作品っていいですよね。

――11月20日からは今作を引っ提げたツアーが始まります。

O-JIRO:ライブの本編が15曲くらいだとしたら、フルアルバムだと2/3が新曲になるんですけど、ミニアルバムだとそうならないので、いいですよね。

千聖:11月に回るというのは、自分たちにしては以外と珍しいかもね。ツアーってやっぱりいいですよね。

――ファイナルは恒例のHAKUEIさんのお誕生日ですね。

HAKUEI:そうですね。いつも東名阪で終わることが多かったので、今回は全7本で倍くらいあるんですよね。ライブってやっぱり1本1本表情が変わっていって、積み重ねていく良さというのがあるけど、3本4本だとこれからなのになっていうところで終わっちゃう。それがもっと長く楽しめるということは単純に楽しみだし、最初の頃とファイナルは違うと思うので、ファンの皆さんも久々にPENICILLINのライブで上がっていく感じを楽しんでほしいかな。

――そして、あっという間に年末を迎えるということで、恒例の今年中にやり遂げたいことシリーズを(笑)。

HAKUEI:去年、何言ったっけ(笑)。

――HAKUEIさんはアイロンを買ったので、皺になっていて着られない服の皺を伸ばすということでした。

HAKUEI:アイロンはね、出した。

O-JIRO:出してないかと思ったー。

HAKUEI:1回くらいしか使ってないな。

千聖:でも使ったんだね。

HAKUEI:でもね、結局クリーニングに出した(笑)。皺になっていたシャツが、色々なところにポケットが付いていて難しかったし、なかなか伸びない素材だったんだよね。

――それは去年のうちにやり遂げられたんですか?

HAKUEI:いや、今年になってから(笑)。

――(笑)。千聖さんはギター教室に行ってみたいので、年内に先生の目星をつけるということでした。

千聖:ヴォイトレは行っていますけど、ギターの先生はまだ見つけてないなぁ。

――O-JIROさんは自宅の庭で育てたひまわりの種を収穫するということでした。

O-JIRO:種を蒔いた時期が遅くて、咲いたのが9月後半とかだった気がするんですけど、種になる頃から急に腐って、収穫できなかったんですよ。だからもうちょっと出だしを早くしなきゃダメだなということに気付きました。たぶん、大きいひまわりの種からは大きいひまわりが咲くと思うんですよね。だからもっとでかいやつを育てたいですね。

――また来年ですね。では今年中にやり遂げたいことは?

千聖:まだ熟成肉のしっかりしたものを食べたことがないので、今年中に食べたい。これならできるよ。ハードル高過ぎると実現しないからね(笑)。

HAKUEI:簡単なやつがいいな。

――と、去年も言っていてこの結果でした(笑)。

全員:(笑)

HAKUEI:そうだよね。アイロンするくらい、すごくハードル低いもんな(笑)。

千聖:まぁでも、箱から出すのが面倒くさいというのはわかる。

HAKUEI:あ、最近新しい電動歯ブラシを買ったの。使っていたのが調子悪くて。2~3週間前に届いたんだけど、まだ調子悪いほうを使ってるんだよね。それを開けて、デンタルケアをしっかりやる。

O-JIRO:ドライヤーって強、弱、冷風とかあるじゃないですか。今使っているのが、もう強い温風しか出ないんですよ。なので、今年中に買い替える。これならガキの使いでもできますからね。

――(笑)。最後にO-JIROさん革職人への道のその後ですが、新作はできましたか?

O-JIRO:グッズでもらったバッグにピラミッド鋲とボタンを付けたんですけど、この取材のためにチューニングキーホルダーを今朝作りました。ドラマーっぽいでしょ?

HAKUEI:いいじゃん。

O-JIRO:昨夜作ったら見事に失敗して、このままじゃヤバい、「ないです」って言うのは絶対嫌だなと思って今朝作ってきました。

――さすがです! まだ大作までは辿り着けずですね。

O-JIRO:今、自分が持っている革だと大作はできないんですよね。豚がいいのか牛がいいのかもわからないので、まずはそこら辺から攻めないといけないですね。

PENICILLIN PENICILLIN

(文・金多賀歩美)


ARTIST PROFILE

PENICILLIN

<プロフィール>

HAKUEI(Vo)、千聖(G)、O-JIRO(Dr)によるロックバンド。1992年結成。96年メジャーデビュー。98年には後に代表曲となる『ロマンス』をリリースし、90万枚を超える大ヒットを記録。その後もCDリリース、ライブなど精力的に活動を行う。近年の活動としては2015年3月、昭和歌謡をカバーしたアルバム『Memories ~Japanese Masterpieces~』をリリースし、話題に。2016年11月9日にミニアルバム『Lunatic Lover』をリリースし、11月20日より全国ツアーを開催。来年2017年2月に結成25周年を迎える。

■オフィシャルサイト
http://www.penicillin.jp/

【リリース情報】

Lunatic Lover
2016年11月9日(水)発売
(発売元:b-mode / blowgrow 販売元:avex music creative)

Lunatic Lover
[Type-A]
CD&PHOTO BOOKLET
XNBG-10021
¥2,800+税
amazon.co.jpで買う
Lunatic Lover
[Type-B]
CD ONLY
XNBG-10022
¥2,500+税
amazon.co.jpで買う

【収録曲】

01. Lunatic Love
02. 戦慄迷宮
03. Dead Coaster
04. 見えないナイフ
05. 瘡蓋
06. 月の魔法
07. Stranger

【ライブ情報】

●WINTER TOUR 2016 Lunatic Lover
11月20日(日)仙台 MACANA
11月23日(水・祝)岡山 IMAGE
11月26日(土)福岡 DRUM Be-1
12月3日(土)柏 PALOOZA
12月10日(土)大阪 Shangri-La
12月11日(日)名古屋 ell. FITS ALL

●WINTER TOUR 2016 Lunatic Lover FINAL & HAKUEI BIRTHDAY LIVE 『SUPER HEART CORE ’16』
12月17日(土)渋谷 TSUTAYA O-EAST