2024.11.01-11.02
「DEZERT PARTY Vol.15、Vol.16」@恵比寿LIQUIDROOM
日本武道館を前に全8組の盟友たちと交わした愛の宴「攻撃するだけの音楽じゃ死ぬとき俺は後悔する」
DEZERTが主催イベント「DEZERT PARTY Vol.15、Vol.16」を恵比寿リキッドルームで11月1日、2日の2日間に渡って開催した。初日に出演したのはΛrlequiΩ、deadman、メリー、RAZOR、2日目にはLM.C、Royz、Verde/、vistlipと合計8バンドがDEZERTと対バン形式でぶつかることとなった。これまでも不定期で開催されてきている同イベントだが、この2DAYSは12月27日に自身初となる日本武道館ワンマンを控えるDEZERTにとって武道館前における重要なライヴでもある。しかし、大団円の壮行会とはいかないのが、この強い個性を持つバンドたちである。武道館を前に、かつて対バンしてきた同世代の盟友や先輩と交じり合いたかったとDEZERTは語る。想いとプライドが交錯したこの2日間の出来事を本レポートでお届けしたい。
【メリー】
2DAYSの初日、トップバッターとして登場したのはメリー。艶めかしい真っピンクに照らされステージに4人が現れると大歓声が。ガラ(Vo)の「リキッド、パーティーを始めようか!」を号令に「絶望」からスタート。テツ(B)のスラップとスティックを回しながら疾走するネロ(Dr)のドラミングはそれだけで見応え抜群だが、歌い崩す余裕も見せるガラの歌唱の表現力は見事でのっけから会場に火を点けた。続いたのは、結生(G)のつま弾くフレーズがレトロを香らせるキラーチューン「愛国行進曲」。昨今のメリーらしさを体現する好戦的な選曲からはパーティーとは名ばかりのガチンコ勝負を感じさせる。万歳と敬礼の振りでアツく応えた観衆をさらにメロウに誘った「Zombie Paradise ~地獄の舞踏曲~」では、ガラが腰に手を当て闊歩するフェミニンな所作でも目を奪う。こんなところに、ベテランとしての力量とクセの強いこのバンド特有の魅力が凝縮されていた。
名物ともいえるMC代わりの習字パフォーマンスで「もっと声を」と煽ると、半紙を口に含み墨汁まで吐き出すというまさにメリーの独壇場。その後ろでスタッフが習字セットを片付けるところまでが様式美…と思ったら、片付けているのはまさかの千秋(Vo/DEZERT)だった。お片付けを終え一礼し、そのままメリーのステージに乱入して雪崩れ込んだのは「ジャパニーズモダニスト」。およそ5年前の2マンライヴの際に実現したコラボレーションの再来にフロアがさらに沸き立ったことは言うまでもない。のちに千秋がMCで語っていたが、学生時代から愛聴していたバンドと同じステージにあがる緊張感は並のものではなかったようで、彼にしては珍しい恐縮っぷりも微笑ましいシーンだった。
ステージ中央に配された学習机の上に立つ、墨汁まみれのガラはそんなことはおかまいなしに完全に目がキマっている。その歌詞が後輩へのエールにも聴こえた「梟」。そしてラストは名盤『モダンギャルド』のクロージングソングでもある「黒い虹」。これまでの熱を冷気で切り裂くように静寂を呼び寄せた。メリーを代表する1曲にして哀愁あるガラの歌唱が情感たっぷりに絡みつき溶けていく様は、メリーが何たるかを十二分に知らしめるものだった。
【RAZOR】
2番手はRAZOR。真紅に染まった舞台に揃いの赤を基調にした5人が登場するや否や、挨拶代わりにいきなり叩きつけたのは「埋葬」。1曲目にしてフロアを真っ二つに割り、ウォール・オブ・デスを要求する猟牙(Vo)の傍若無人っぷりにニヤリとさせられるが、ここで早くもDEZERT千秋が再乱入。事前に「埋葬」での乱入をSNSで匂わせていたことを踏まえ「なんで1曲目なんすか(笑)!」と突っ込む場面も。RAZORを結成する以前から、猟牙と千秋は要所要所で相まみえてきた愛すべき先輩後輩の間柄である。
そんな2人によるステージはお互いのパートごとにマイクを譲りあう茶目っ気も見せたが、そのサウンドは極悪でフロアにはヘッドバンギングの波が広がった。千秋を送り出し、続けざまに壮大なスケール感を持つ「GRAVITY EMOTION」、ダンサブルな要素を有する「SAMURAIソードMAN」を披露。激しい楽曲の中にも様々な引き出しを見せ、RAZORらしく清々しいほどに荒れ狂った空間をビルドアップしていく。クリーンとシャウトの使い分けが巧みな猟牙だが、「ヘドバンする曲しかなかった!」と笑顔で吐き捨て、「千年ノ色彩」へ。黄金のメロディとコーラスワーク、パワフルなドラミングへと繋ぐスリリングな展開がさらに会場の風速を増していく。対バンキラーの如く、ヘヴィに加速しながらワイルドに引っ掻き回すのがRAZORの流儀だが、クランチのカッティングがフックになる新機軸「DAMIAN FLY」ではついに猟牙はフロアに降臨。かと思えばサーフしながらステージに戻るわ、衍龍(Gt)にいたってはツーステを踏んだままステージ袖深くまで消えたりとまさに何でもありの状態。そんなカオスな状態のままラストの「LIQUID VAIN」へ。制御不能になった猟牙はマイクを咥え赤子のように啼いたかと思えば、マリオネットのようなパフォーマンスを披露。
「楽しかったかい?気持ち悪かったかい?このあと最後まで楽しんでいってください!」
この日の出演者の中で最もハードに特化したメニューで容赦なく会場の熱気を高め、最後まで自分たちのやりたいことを貫きながら駆け抜けた。
【ΛrlequiΩ】
とにかくドラマティックだった。その一言に尽きる。
「アイツはもう自分を守ってるんじゃなくて、他に何か守ってるものがあるんだなと。それが今、DEZERTという居場所なんだと思います。武道館…悔しくないと言えば嘘になるし、悔しくなくなったら僕たちはきっともう君たちとは一緒にいられないから…でも、本当の気持ちです…DEZERT、日本武道館応援してます」
ラスト「世界の終わりと夜明け前」に入る前に暁(Vo)が絞り出した言葉だ。
ΛrlequiΩにとってDEZERT は盟友と呼ぶべき存在であり、これまで切磋琢磨してきた歴史はもはや説明不要だ。だが、DEZERTにはDEZERTの道があったように、ΛrlequiΩにはΛrlequiΩの道がある。不退転の決意すら感じさせる「消えていくオレンジの空へ」から始まったステージは「墓穴」や「omit」といったΛrlequiΩのファンだけでなく、DEZERTのファンにも馴染み深い往年の楽曲が並べられた。それらの楽曲が常軌を逸した盛り上がりを見せたこと以上に、「STIGMAS」や最新形のバンドが纏う説得力は実に見事だった。輪郭の整然としたサウンド然り、ふとした時に見せる些細なアイコンタクトまでポジティヴィティを感じさせるそのムードはやはり盟友にしてライバルと表現するに相応しい。途中、イベントの主催として、なんとこの日3度目の登場を果たした千秋が、フロアに向けて「そんなもんかよ!恥ずかしいぞ!」と愛に溢れたアジテーションを浴びせたのは「ダメ人間」。些細なことだが、歌割りから歌詞まで呼吸がバッチリなのはまさに友情が成せるもので、これまでの両バンドの歩みと相まってエモーショナルなハイライトとなった。冒頭に記した暁の発言は、その千秋がステージから姿を消してから語ったものだ。
ラスト「世界の終わりと夜明け前」。本来孤独な歌であったはずだが、この日の暁の歌は決して孤独ではなかった。DEZERTがあの頃のDEZERTでないように、ΛrlequiΩにもΛrlequiΩの守る場所、守ってきた場所がある。わずか30分の演奏時間のなかに果てのない歴史とドラマがあった。そしてこのドラマはまだ続いていく。残響のなか揺らぐ彼らの強靭なシルエットには大きな拍手が巻き起こった。
【deadman】
立ちはだかるという表現が正しいのかも知れない。4番手はdeadman。来年結成25周年を迎えるが、今年は19年ぶりのアルバムをドロップした。唯一無二の世界を誇示し続けるバンドは、生ける伝説でもあり不死身のゾンビでもある。DEZERTとの縁は今から遡ること2年、deadman主催の2マンライヴで共演し、さらには日本武道館で開催された「V系って知ってる? powered by MAVERICK DC GROUP」に際しては、SORA(Dr/DEZERT)のリクエストに応え「lunch box」を演奏した。ただ、この両バンド間に甘い友情はない。あるとするならば畏敬の念だ。事実、2マンライヴの際に眞呼(Vo)がアドリブでDEZERTの「TODAY」を披露すると、そのディープな表現力にはどよめきが起こり、会場中が飲み込まれた。
軋む扉の音と鼻歌が不穏に苛ませるSE「dlof facs:2.0」と共に登場した4人は最新作から「rabid dog」を披露。ハードナンバーに全身で応える者、闇に浮かびあがる眞呼の姿に飲まれる者と反応は様々だ。バスドラの音から間髪置かずに続いた「ミツバチ」。懺悔を正義と悪の天秤にかけ、眞呼は崇めるように天を仰いだかと思えば、跪き客席に背を向ける場面もあった。世に蔓延る様々な人間模様を描写して提示する表現力は無二で、aie(G)のアルペジオは糸のようにそんな眞呼が描く人物像を操っていく。「lunch box」、「re:make」と体温を上昇させていくと、「愛する人へ…」と呟き「静かなくちづけ」へ。とつとつとした歌い出しから悲嘆に溢れる絶唱にストロボが薄く焚かれる、類を見ない光景の前には固唾を飲んで立ち尽くすことしかできない。
畏敬の念は言い換えるなら、侵食できない聖域でもある。だからこそ、千秋は当然deadmanのステージに登場することはなかった。底を這いずる「宿主」、呪いのようなインスト「dawn of the dead」まで後味の悪さを残してdeadmanは悪夢のようにステージを去った。
【DEZERT】
イベントのトリを務めるのはもちろんDEZERTだ。無音で幕が開くと会場の緊張感が一気に増していくのが伝わる。楽器隊がポジションに着くとSORA(Dr)の咆哮に招かれるように千秋が登場。「音楽は好きか?ロックは好きか?ヴィジュアル系は好きか?…奇遇だね。俺もです!」と高らかに宣言すると、彼らにとって最新ナンバーの一つである「心臓に吠える」からスタート。その浸透度はすさまじく、一気にフロアをDEZERTの色に塗り替えてみせた。不穏なイントロ、陰鬱とした世界観、ダウナーなリフはどれを取ってもインディーズ初期の彼らによく似たザラついた手触りがあるが、頭を振りしきり応えるオーディエンスの反応も圧巻だ。
フロアの爆発力でいえば今年のツアーで存分に鍛え上げられた「匿名の神様」では会場が大揺れに。Sacchan(B)のスラップ、Miyako(G)のオリエンタルなフレーズと、ヘヴィネスに固執しないサウンドメイクでダイナミズムを生み出すところにバンドの強さを感じさせる。その一方で武道館ワンマンが迫ってきたメンバーに特別な気負いはない。背負わずして背負っているといったところか。4人のメンバーがそれぞれに理解が深く、バンドとして1点を見つめられているが故に無駄な力感のない佇まいに説得力が生じる。まさしく武道館へ向かうバンドとしての風格を漂わせるものであり、幾多のライバルや先輩の背中が彼らを成長させたことも真理だろう。
初期からバンドの名刺代わりとして活躍してきた「「殺意」」の威力、澱んだ世界と不穏な音像の「「宗教」」の圧迫感は、かつての自分たちが間違っていなかったことを証明する。もちろんDEZERTが未来へ向かい続けているからこそ起きる事象だ。「もうひと暴れしたいでござる」とユニークに扇動した「君の脊髄が踊る頃に」。さらに急遽追加した全く演奏予定にない「包丁の正しい使い方~終息編~」ではΛrlequiΩの暁、すでにメイクを落とし客席後方で観覧していたRAZOR猟牙も強引にステージに巻き込んで完全燃焼となった。
「あなた“たち”じゃなくて、あなたに感謝してます」
「今日出た5バンド最高!俺ら含めて最高!」
ラストナンバーは「TODAY」。思えば分岐点になるこの楽曲が初披露されたのも恵比寿リキッドルーム。意図せぬところで彼らのこれまでの歴史に触れるように、DEZERTは4時間に渡るイベントを締めくくった…かに思えたが、「今日しかできない曲やっていい?」と問いかけ前日にレコーディングしたばかりの「オーディナリー」を披露。日本武道館で配布される特別な1曲をもって宴の第一夜は幕を降ろした。「また頑張っていきましょう!」最後に千秋が投げかけた言葉は、バックステージの盟友たちにも届いているような気がした。
そして迎えたVol.16。
前夜同様に超満員のオーディエンスが会場を埋め尽くした。
【Verde/】
定刻と同時に暗転。重低音に導かれるように青白い光が差し込んでくる。この後登場する人物を察知したフロアからはブレスレットやスティックライトの光が浮き上がり、招かれるように黒のスーツでシックにキメたShouは現れるなりその両手を広げ歓声を受け止めた。宴の序曲は「UNREAL」。彼のこれまでのキャリアの中でもダークで退廃的な世界を描く1曲はこまやかな動と静のコントラストで陰影をなぞる。
妖艶で伸びやかな低音で空気を張りつめさせると、メロディアスな「Hope/」へ。クリーンのアルペジオと共に一気に開くこの曲、Shou自身の決意を“希望”と名付ける重要楽曲である。まさに一人のヴォーカリストとして立つ姿は天賦のスター性の塊であったが、それ以上にエレガントなのに人間性が香る実直さは浸透していき、Verde/としてのShouを初めて目にする層も巻き込んでいく。不穏なイントロで即座に嬌声が巻き起った「Adam」からも明らかなように、これまでの輝かしいキャリアを否定することなく、すべてを従えて表現する姿からは自由度の高さも感じさせる。ブラッシュされたデスヴォイスから包容力のあるサビへ転じる強さはShouの引き出しの豊富さそのもので、気心知れたサポートメンバーの織りなすアンサンブルも目を惹いた。
ジャケットを脱ぎ捨て臨戦態勢をアピールし、「ヴィジュアル系を背負って立つ男!」と呼びんだのは千秋(Vo/DEZERT)。千秋のリクエストとしてVerde/ with 千秋で披露されたのは地鳴りのような悲鳴が沸き上がった「闇ニ散ル桜」。バンド凍結前にDEZERTと2マンを行った時以来の光景だが、そんな感傷を吹き飛ばすように「突っ込め!」、「わざわざこの曲やってくれてんだぞ!全員で来い!」と煽り倒す千秋。タイプの異なるフロントマンは声質も対照的だが、厚く太いShouに対してドライで味のある千秋の歌唱の相性は抜群でこれからもコラボレーションに期待を抱かせるものだった。2人で手を握りながら歌う光景からも両者に通ずるリスペクトが垣間見えた。バンド凍結前に千秋は「僕たちとみんなでいつか解凍させる。その時はまた2マンやりましょう!」と言った旨を発言していたが、掌の温もりはVerde/として再び音楽を奏でるShouにも伝わったに違いない。最後は「Red/」。朱色を連想させるタイトルだが、美しいメロディと共にステージは眩い白色で満ち溢れた。Verde/にとっても思い入れのある会場でのあっという間の30分だった。
【Royz】
2番手はRoyz。バンドキャリアとしては16年目だが、ここ数年さらなる加速を見せている。それがバンドとしての強固なエネルギーによるものであることは大前提として、ヴォーカリストの昴はしばしば千秋との邂逅によって再び心に炎が宿ったと語る。Royzとしても昴自身も未来へ対して苦悩していた時期に、数年前に再会したDEZERTのひたむきな生き方が悔しかったと同時に嬉しくもあったという。しかし、その悔しさはバンドの原動力に変わり、Royzの歴史においてもハイライトとなる楽曲が増えていった。
この日のメニューは冒頭の「ANTITHESIS」こそ2016年リリースだが、続いた「VENOM」、「紫苑」、「キュートアグレッション」はいずれも2023年以降の、いわば最新ナンバーたちだ。これまで生みだしてきた数々の名曲に依存することなく、最新形で対峙する必要があった。とりわけこの夜は。そんなプライドと腕を全開でブン回してくる前向きなステージは、バンドが好調であることを告げるように爆発的な威力でフロアを扇動した。そんな中でも、ドラマティックな失恋の描写がささくれのように生々しい「紫苑」の紡ぐストーリーの終焉に合わせて、壁のように襲い掛かってくるバッキング然り、楽曲のニュアンスに寄り添ったプレイはやはり秀逸でこのバンドの大きな武器と言える。
「DEZERTと出会って学んだことはたくさんあります。強いて言えば、一番学んだことは…ライヴの持ち時間は守ろう」と時計を持ち出し、大爆笑を掻っ攫う一幕もあった。「DEZERTのメンバー…特に千秋とかいうヤツ、モニターで見てると思うけど…時計ってめっちゃええで?時計って知ってる?今の自分たちの残り持ち時間わかるんやで?」と、かつては持ち時間超過が通例化していた友人への愛あるイジりは、昴と千秋の信頼関係を感じさせるものでもあった。DEZERTにも分岐点になった楽曲がいくつかあったように、Royzにも全体重を乗せることで成立する曲がある。そんな曲を彼らはラストに用意した。披露したのはもちろん「GIANT KILLER」。昴の見事なアカペラから、下剋上を体現する歌詞と力強いメロディがひとつになる。曲中、たしかに「ありがとう、ありがとうな!」と昴は呟いた。そして最後、「待ってろ!待ってろ!待ってろよ…武道館、派手に行ってこい!」と盟友に溢れる感謝の想いを投げかけRoyzのステージは幕を降ろした。
【LM.C】
3番手はLM.C。まず登場から驚かされた。maya(Vo)はDEZERTのひまわりロゴをあしらったTシャツ、さらにはAiji(G)のジャケットの下から除くTシャツには「殺意」の文字が。日本武道館ワンマンを経験している大先輩…DEZERTからすればそういった立ち位置になるLM.Cだが、精一杯のパーティーを届けることに注力していることがジェントルな振舞いからも伺える。mayaが「いこうぜヴィジュアル系!」と叫び「OH MY JULIET.」から転がりだしたLM.Cのステージが纏う陽のオーラは、一気に会場を包み込む。
ザクザク切り込むサウンドと張りのあるmayaの歌唱はLM.Cの軸となる魅力だが、そのファッショナブルさとファンシーさにおいても他に見当たらない存在だ。最後、腰に掛けたピストルで撃ちぬくパフォーマンスを見せたかと思うと、マイクを取り「DEZERTの皆さんにお声がけいただくのは3度目かな?(中略)武道館っていうのは、発表した時点でもうライヴが始まっているような感覚があるんですけど、今日はその前夜祭だよね?パーティーした過ぎて物販にシャンパン持ってきたぐらいなんで(笑)。アゲていきましょう!!」と華麗に着火していく。レーザーとデジタルサウンドでその名の通りダンスフロアを生んだ「Chameleon Dance」、低く滑空するキレキレの「MOGRA」と叩きつけ、民族音楽を想起させる崇高な導入から、様々な音色のミクスチャーで突き抜ける至高の「The BUDDHA」まで内包するポップネスを炸裂させ一気に駆け抜けた。
ここで千秋がこの日2度目(この2日間でなんと5度目!)の登場。千秋がmayaのことを「一番好きなバンドマンです」と宣言すると「それプロフィールに書いておいてよ」と全開のmaya節で漫才のようなかけ合いを見せる微笑ましい場面もあった。ラストは千秋からのリクエストで「BOYS & GIRLS」。LM.Cを代表するナンバーだが、アイコンタクトを取り飛び跳ねながら歌った千秋は、バックステージで「高校生の時にカラオケで歌いまくったから身体が覚えてたわ」と語った。尊敬と愛…と表現するとやや堅苦しいが、LM.Cはその懐の深さで武道館に向かう後輩に大きな勇気を授けた。
【vistlip】
2日間に渡る宴もいよいよ終わりが近づいてきた。パーティーはその賑わいの反面、終わりが訪れると寂しくなる。そんなセンチメンタリティもSEに呼応する声援と共にかき消された。この日の4バンド目にして、ゲストバンドとしてはこの2日間のトリとして登場したのはvistlip。昨年6月にDEZERTと東名阪2マンツアーを敢行したことがきっかけで急接近した両バンドだが、編成から楽曲から貫くスタイルは全く別物だ。その深みのある歌の力とアグレッションで一気に空気を変えた最新曲「B.N.S.」、お立ち台に乗った瑠伊(B)のソロから雪崩れ込んだ「EVE」とオーディエンスの興奮度が急上昇していくのが伝わる。歌が主軸にあるのはvistlipの持ち味だが、「聞こえねーよ、東京!」と叫んだ智(Vo)のアジテーションが熱狂を生む様はライヴにおける肉感的な強さを感じさせる。
智が、「EVE」をやったことを引き合いに「この曲やったら(千秋)をおびきよせられんじゃねえの?ってやってみたら…来ねぇ(笑)。」と両バンドの良好な関係性を伺わせつつ「DIGEST -Independent Blue Film-」へ。ミドルで流れるメロディの芳醇さはタイトルとは裏腹に最新形のvistlipだ。しかしミドルとは言っても、跳ねるようなTohya(Dr)ドラミングが耳を掴むあたりに一筋縄ではいかないこのバンドの奥深さを感じさせる。vistlipはお祭りの要素も多分に見せつけ、限られた時間で超満員のフロアを沸かせるべく“待ってました!”のキラーチューンの応酬で走り抜けた。
イントロで発生した大歓声と共にシンガロングが巻き起こった「Dead Cherry」、ヘッドバンギングに興じるフロアを生んだ「DANCE IN THE DARK」、「まだ足りねえよな?」とダメ押しとなる「LION HEART」まで容赦なく全6曲を披露。涼しげに鬼テクギターソロを弾き倒すYuh(G)と、自身がマイクを取り歌う海(G)の扇動力の対比までハイレベルなステージを展開。5人バンドの理想形ともいえる華のある存在感を振りまいた。クールでソリッドなライヴはラスボス感すら感じさせ、その時間は大トリを担うDEZERTへの素晴らしい贈り物となった。
【DEZERT】
イベントの大トリとして登場したのはもちろんDEZERT。前夜に続いて、無音のまま登場し緊張感と同時に集中力を増幅させていく。最後に手を叩きながらこの2日間フル回転した千秋が登場すると歓声は一段と大きくなった。そんな枯渇する想いを退けるように始まったのは「Call of Rescue」。パーティー感皆無な重苦しく感情を遮断する選曲は意外だったが、耳を塞ぐ千秋の歌唱は以前よりも感情に任せることなく丁寧で安定したもので、だからこそ強烈な壁を生んだ。
「トリのDEZERTです。全員で…じゃなくお前1人でかかってこい!」と告げると「「君の子宮を触る」」へ。焦らされたフロアは一気にクラッシュ。壮絶なヘッドバンギングの嵐に飲まれた。続いたのはアッパーなメロディが気持ちいい「ミスターショットガンガール」。「昨日の夜中1時に千秋から急に歌詞覚えてって連絡がきた」と語るRoyz昴を迎え入れこの日ならではのコラボも披露。ただ、本来この1曲でお役御免だった昴を強引にステージに取り残し、千秋がフロアに降りた「「変態」」とさらに攻撃的なナンバーを連打。フロアの千秋から「お前も武道館やりたいんだろ? すげえ五文字言ってみろ」と挑発された昴が「時計見ろ!」とステージ上から百点満点のアンサーをすると大盛り上がりに。これは千秋の照れくささによるところでもあるが、DEZERTは予定調和を嫌い続けているバンドだ。決められたことに刺激を受けない体質とも言えるが、何でもアリは自分たちで創り出すものでもある。武道館を目前にしてこの変わらぬ姿勢が正しいかどうかはさておき、4人の結束力はその音からもステージからも顕著で、彼らが変わらずに変わり続けながらここまで歩んできたことが見て取れる。ただ、その結束力は彼らだけでなく、支持し続けたオーディエンス、彼らの音楽に惚れて身を粉にしてきたスタッフチームも同様である。まさに武道館決起集会の様相を呈した「再教育」の異常な盛り上がりは、勢いだけのバンドでは決して生みだせない熟成された情緒的なエモーショナルを感じさせた。
1番手で出演したVerde/のShouは「武道館ワンマンに向かう彼らの肩にはすごい重責が乗っかっている」と慮ったが、まさにその現実と向き合い続けたからこそ、彼らのライヴには雑味やブレがない。この2日間に渡った“これまで2マンしたことがあるバンド”との対バンについて、要は他のバンドのお客さんを武道館に来てもらいたくて組んでるものじゃないかと、前夜の千秋はあけすけに語った。千秋は元来とにかく嘘をつけない男であるが、結果として今のDEZERTの持つ説得力と出演した8バンドの愛情の前には、そんな打算めいたものは1ミリも感じ取ることができなかった。
「中指を立てても自分の弱さを思い知らされるだけだった」
「コロナで初めてお客さんが離れる不安、バンドが続けられなくなる不安を感じた」
核心に迫る発言に続いたのは、コロナ禍に生まれた「ミザリィレインボウ」。優しいメロディに無数の手が上がる様は、荒地に咲き誇るひまわりのように美しかった。今にして思えば、コロナに苛まれたあのときに、無様でもいいから架けたいと願った虹は決して七色の彩りではなかったのかも知れない。だが、たくさんの愛で溢れた日々は続き、待ち焦がれた夜明けはすぐそこまで来ている。それは色よりも物よりも大切な想いだったのではないだろうか。万感を込めてこの日もラストに演奏されたのは「オーディナリー」。来る12月27日、夜明けの日に贈られる、約束の1曲だ。この曲が生まれた2016年よりも、穏やかでより力強さを感じるアレンジになったが、散々悩みぬき変遷した歌詞は当初のものに回帰したそうだ。過去の証明は人生の肯定でもある。
「攻撃するだけの音楽じゃ死ぬとき俺は後悔する。だから人を幸せにするような音楽を鳴らしたい」
千秋はこうも語った。躓きも迷いも葛藤も、何一つ間違っていなかったことをDEZERTは武道館でもきっと音で運んでくれることだろう。この祝祭に愛をもって色を添えた全てのアーティストとオーディエンス、そしてスタッフに心から敬意を表し、夜明けの日を待ちたい。
◆11.01セットリスト◆
【メリー】
1. 絶望
2. 愛国行進曲
3. Zombie Paradise ~地獄の舞踏曲~
4. ジャパニーズモダニストwith千秋(DEZERT)
5. 梟
6. 黒い虹
【RAZOR】
1. 埋葬 with千秋(DEZERT)
2. GRAVITY EMOTION
3. SAMURAIソードMAN
4. 千年ノ色彩
5. DAMIAN FLY
6. LIQUID VAIN
【ΛrlequiΩ】
1. 消えていくオレンジの空へ
2. 墓穴
3. omit
4. STIGMAS
5. ダメ人間 with千秋(DEZERT)
6. 世界の終わりと夜明け前
【deadman】
1. rabid dog
2. ミツバチ
3. lunch box
4. re:make
5. 静かなくちづけ
6. 宿主
7. dawn of the dead
【DEZERT】
1. 心臓に吠える
2. 匿名の神様
3. 「殺意」
4. 「宗教」
5. 君の脊髄が踊る頃に
6. 包丁の正しい使い方〜終息編〜with 猟牙(RAZOR)・暁(ΛrlequiΩ)
7. TODAY
8. オーディナリー
◆11.02セットリスト◆
【Verde/】
1. UNREAL
2. Hope/
3. Adam
4. 闇ニ散ル桜 with千秋(DEZERT)
5. Red/
【Royz】
1. ANTITHESIS
2. VENOM
3. 紫苑
4. キュートアグレッション
5. GIANT KILLER
【LM.C】
1. OH MY JULIET.
2. Chameleon Dance
3. MOGURA
4. The BUDDHA
5. BOYS & GIRLS with千秋(DEZERT)
【vistlip】
1. B.N.S.
2. EVE
3. DIGEST
4. Dead Cherry
5. DANCE IN THE DARK
6. LION HEART
【DEZERT】
1. Call of Rescue
2. 「君の子宮を触る」
3. ミスターショットガンガール with 昴(Royz)
4. 「変態」with 昴(Royz)
5. 再教育
6. ミザリィレインボウ
7. オーディナリー
(文・山内秀一/写真・冨田味我)
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