vistlip 〜海~

Zepp Tokyoでの最後のライブを終えたvistlip。慣れ親しんだ会場に別れを告げ、さらなる未来を目指す彼ら一人ひとりに、現在の思いを聞いた。~海編~

10月17日にZepp Tokyoで開催された「vistlip 13 th Anniversary Live “Screams under the Milky Way”」。2011年7月7日に初めてZepp Tokyoでワンマンライブを行ってから10年。たくさんの思い出を刻んできた大切な場所での最後のライブを終えたメンバー一人ひとりに話を聞いた。最初に語ってくれたのは、リーダーの海(G)。ライブ直前のインタビューで「やり残したことがないようにしたい」と語った彼は、その思いを遂げることができたのだろうか。


生き返ったような、違うものに生まれ変わったような感覚

ライブを終えた今の心境は?

海:やりたいことはやりきれたと思います。やり残したことがある状態では、終わらせたくなかったので。

出来上がった衣装についてはいかがでしたか?

海:去年の時点で描いていた絵のまま衣装を作ってもらえたのは、良かったですね。ただ、絵自体をステージで再現できたのは良かったんですけど、ライブでの動きやすさやメンバーによってはかなり熱かったとも思うので、欲を言えばそういう部分はもう少し工夫できれば良かったかなと思う部分はありますね。

メンバーそれぞれの衣装のキャラクターは、海さんが考えたんですか?

海:そうですね。メンバーのキャラクターと、見た目の印象と、ファンの子たちが思ってくれているイメージを想像しながら、ホラー映画などからコンセプトを考えていったんです。一人に複数の要素を入れて衣装として落とし込みたくて。メンバーの衣装を決めるときは、割といつも自分の衣装を最後に決めるんですけど、今回も先に他のメンバーに思いついた題材を多く選んでしまった後だったから、自分をどうするか悩みましたね。ちなみに、メンバーは僕がデザインを描き上げるまで、自分のコンセプトがどんなキャラクターか知らなかったと思います。

海さんのキャラクターは、レザーフェイスとミイラでした。ライブで智さんから「お肉屋さん」と言われていましたね(笑)。

海:レザーフェイス自体が、元々(人)肉屋ではあるんですが、自分でもデザインを描いているときからそのままにしたら「肉屋だな」とは思っていて。その印象を緩和するのための羽織ものって考えてガウンみたいなノーカラーのシャツを合わせました。もともとツギハギのメイクと包帯ありきで考えていたので、あの包帯部分がないと全然衣装っぽくなくなってしまいますね。

ところで、ライブ前のインタビューの時点では「Rosalia Lombardo」の映像に悩んでいて、智さんから「ロザリアの絵を描いてよ」と言われていましたが、本当に描きましたね。しかも、いつもの海さんの絵のタッチとは全く違ったので驚きました。

海:あの絵は鉛筆デッサンで描きました。vistlipで鉛筆デッサンの絵を使うのは、欲しい雰囲気的に違ったので、今までやってこなかったんです。この曲の演奏中、実際のロザリア・ロンバルド(※イタリアの聖ロザリア礼拝堂に葬られている少女。防腐処理が施され生前の美しさが保たれている)の写真を使うという案もありました。でも何より初回のリハーサルをやったときに、曲の持つ色、空気感が変わったなと思ったんです。ずっと演奏をしているうちに、楽曲が変わっていくことはよくあるんですけど、全然演っていなかった曲を久しぶりに5人で合わせたときに、リリースした当時の「Rosalia Lombardo」とは全然違うと思って。これだと元々考えていた映像では合わないと思ってしまい、形に出来るまでかなり悩んで苦しみましたね。

海さんが描いたロザリアの閉じた目が開く瞬間が何度かありましたよね。あれは海さんのアイディアなんでしょうか?

海:そうですね。今回久しぶりにこの曲を演奏したときに、何を変えたわけではないけれど、生き返ったような、違うものに生まれ変わったような感覚があって。それを映像の中でも表現しようと思って。それで「世界で1番美しいミイラ」と言われているロザリア・ロンバルドが、瞬きをしたというニュースがあったのを思い出して。今回のライブで使った演奏中の映像の中で、1番時間をかけて考えて作った映像になりました。

「Rosalia Lombardo」の映像の世界観はとても素晴らしかったと思います。そして、この曲から「B」に至るまでが、vistlipだからこそ表現できる、ストーリー性のあるライブを作り上げていたと感じました。このブロックで、そもそもなぜvistlipが2011年7月7日にZepp Tokyoで初めてライブを行ったのかという歴史が表現されていたかと思います。

海:どんなライブでも、自分の中で「今回のライブの主役はここ」というところがあるんです。今回それは「Rosalia Lombardo」だと思っていて。個人的には、この曲から「B」までが1番重要なメインポイントだと考えていました。演奏はもちろん、映像も色味や質感、バランスなどをすごく考えて作り上げていきました。「chapter:ask」では、映像で歌詞を出しましたが、文字のフォントや絵の質感などに、すごく悩みました。最後に歌詞が全部終わって、アウトロだけアラベスクが出てきて動きもそれまでと大分変わってます。

あのデザインは「SINDRA」のジャケットで使われたものですよね。

海:実はあれを入れるアイディアは、僕からは何も指示をしていないんですよ。一緒に映像を作っている方から「ちょっとデザイン入れてみたので見てみてください」と言われて。意図も説明は特になかったしこっちからも特に聞かずに見たんですが「これは正解だ!」と思いました。「chapter:ask」は「SINDRA」のカップリング曲ですからね。あれはすごく良かったと思います。

今回のライブの自身のプレイで、1番良かったなと思ったところは?

海:今年の七夕にZepp Tokyoでライブを演ったときと、会場で響く音が全く違うように感じて。いつものギターで弾いたら雰囲気が曲に合わないと思って、ギターを変えて本番に臨みました。変えたことで正解な音に持っていけた気がするので、良かったですね。

他のメンバーの「これが良かった!」と思ったところは?

海:個人的に1番良かったなと思うのは、瑠伊のベースですね。本人は嫌かもしれないけど、「ORDER MADE」で瑠伊がアップライトベースを弾いたときに、曲終わりでベースがハウったみたいなんですよ。僕にはその音が、何かが泣いているように聴こえて。「すごい空気作るじゃん! 誰だよ、この音!」と思ったんです。やろうと思ってできることじゃないから、すごいことするなと思っていたんですよ。それで、終わってからその話をしたら、「ハウっちゃったね」と残念そうに言っていて。「あれ? あの音で背筋に寒気が走ったの、俺だけ?」とは思ったんですけど。その曲に限らず、セットリスト的にもベースが肝になるライブだったと思うんですよ。今回リハーサル終わり直前まで、瑠伊がスタッフと一緒に色々やっていて。もしかしたら心境的なものが出たのかなとも思うんですけど、感情的になり過ぎているわけでもなく、全体的に心地よいベースを弾いていたと思います。それから、智が歌に入り込んでいてすごく良かったんですけど、「お前これ戻って来られるのか!?」と、心配になるくらいのところが何曲かありましたね。なんというか、場面によって歌の表情だけじゃなくてその場の色が変わった感じがしました。

アンコールの「-OZONE-」が、Zepp Tokyoで演奏する最後の曲になりました。あのとき、どんなことを思いましたか?

海:事前に予想していたとおり、演奏している途中で「これで、この会場は最後なんだな」という感覚が足元から来ました。ライブをしていると、何かが来る感じというのがあるんですよ。上から降ってくるときと、前からぶつかってくるときと、後から迫ってくるときと、下から来るときがあるんですけど、今回の下から来る感じは長年味わっていなかった感覚でした。

“最後”を最も意識したのはどの段階でしたか?

海:「-OZONE-」のサビ前くらいに、最後なんだと思いましたね。そして、サビを弾いているときに、ふと、ギターソロでステージの真ん中に行こうと思い立ったんです。これは何も打ち合わせをしていなかったんですけど、自分が行ったら、まだYuhが弾くところじゃないのにあいつもセンターに来ていて。「おー! 来るんだ!」と思いましたね。何の打ち合わせもしていなかったから、智が「こいつらいきなり来やがった! どうしよう」と焦っていて可愛かったです(笑)。

可能な限り悔いを残さないようにやっていきたい

海さんとYuhさんが「-OZONE-」のときにセンターで弾いたのは、最初のZepp Tokyo公演のステージでもありましたよね。

海:自然と初めてZepp Tokyoでライブをやったときの「-OZONE-」のシーンの再現になっていたんですね。多分智はあのとき瞬間的に、俺とYuhにスポットを当てようと思って、センターから下手に移動したんだと思うんですよ。あの曲はすごく自然なvistlip感が出たなと思いましたね。Zepp Tokyoは、すごく大切な場所だったし、ずっと演り続けた場所だったから、色々思うところがありました。それがライブで出たのが、あの瞬間だったのかなという感じがします。

改めて、これまでのZepp Tokyoでのライブで、1番記憶に残っていることは?

海:2011年の最初のライブですね。始まる直前まで、「大丈夫かな?」と心配になるくらい、メンバーの緊張感がすごくて。その姿を見ていて、何とも言えない感情になったことを覚えています(笑)。しかもその日は、何人集まってくれているかも事前にメンバーに伝えていなかったんですよ。

ほぼソールドアウト状態でしたよね。

海:はい。でも、それをメンバーに言うのはやめようと思って。それまでに経験したことのない数のお客さんが来ていると伝えて、緊張感を煽っても仕方ないのかなと。なので、「全然人来てないかもしれないから大丈夫!」とか言ってました(笑)。そう考えると、最後のZepp Tokyoは、メンバーは直前までフラットで、気負わずにライブを演っていたなと思います。

この10年、vistlipは、Zepp Tokyoで良い時間と経験を重ねてきたんですね。さて、Zepp Tokyoを出た今、今後vistlipとして、一人のアーティストとして、どう歩んでいきたいですか?

海:やれることはやりきったし、節目にもなったし、一つの転換期にはなるかもしれない。でも、やりたいことはまだ山のようにあるので。特に来年は15周年だし、しっかりやっていきたいです。長年やっていると、vistlipが自分たちだけのものじゃなくなってくると思うんですよ。そういう意味も含めて、今までと同じやり方ではなくなってくるかなと。新型コロナウイルスの影響で色々崩れたし、ふざけんなよと思うことがたくさんあったけど、そんなことを思っていても仕方がないから、前向きに捉えるしかない。逆にコロナのおかげで、考える時間や見極める時間ができたので、今まで以上にメンバー主導で動けることがあると思います。実は、Zepp Tokyoで最後にした告知は、関係各所にも半ば強引に承諾をとって「もう発表するから!」というくらいの勢いで発表しちゃったんです。あの告知が全てまとまったのはライブの2日前ですからね。今決まっている先の予定、伝えてあげたいとかそんなえらそうな感覚ではなくて、どうしてもあの場で伝えたいと思ったんです。

きっとそんなvistlipをもっと支えたいし、力になりたいと思っている方も多いのではないでしょうか? 海さんが今話した「伝えたい」と、ファンの「支えたい」がこれからもっと深まっていくのではないかと思います。

海:ファンはもちろん、いろんな人から「もっと頼って欲しい」とよく言ってもらえます。そう思ってくれるのはありがたいし、嬉しいです。でも、僕個人としては、そこは良い意味での一方通行でいいと思っていて。お互いがやりたいことをやった結果、それがちゃんと噛み合っているという状況に持っていくべきだと思っています。

あの日のライブのMCで、智さんから“良い未来”という言葉が語られました。vistlipにとっての良い未来とは?

海:後悔がないこと。これは僕の信条でもあります。過去には戻れないじゃないですか。昨日これをやっておけば良かったなと思うことがないように、可能な限り悔いを残さないようにやっていきたいと思います。

(文・武村貴世子/編集・後藤るつ子)

vistlip

智(Vo)、Yuh(G)、海(G)、瑠伊(B)、Tohya(Dr)

オフィシャルサイト

ライブ情報

【ライブ情報】
●Merry Bell 2021
12月17日(金)CLUB CITTA’

●V.I.P.LiST limited LIVE「HYSTERIC MEDIA ZONE」
12月26日(日)高田馬場AREA

●「HAPPY BIRTHDAY TO THE CENTER LINE」
2022年1月18日(火)新宿BLAZE

●V.I.P.LiST限定イベント
2022年2月

●V.I.P.LiST&MEMBER LiST限定 東名阪ONE MAN LIVE

●7th ALBUM 東名阪ONE MAN LIVE

リリース情報

●7th ALBUM 発売
2022年春