新たな音作りで魅せるアバンギャルドな大人のロック。テクニカルな要素と遊び心が際立つEP『GLITTER』に詰め込まれた煌めく6曲。
前作EP『ICY』(2021年3月)から約10ヵ月を経て、このたびThe THIRTEENが新作EP『GLITTER』を完成させた。「アバンギャルドな大人のロック」を目指したという今作は、フルアルバム『ENIGMA』(2020年1月)までの流れを汲みつつ新たな挑戦も伺えた『ICY』をさらに発展させ、いわゆるヘヴィーサウンドという概念ではなく、メロディーラインやギターフレーズ、新たな音作りで魅せるものへ振り切った作品となった。よりテクニカルな要素と遊び心が際立つ最新作『GLITTER』の制作秘話をたっぷりとお届けする。
新しいThe THIRTEENの軸の中に入り込みやすい一つのライブモード的なもの(真緒)
フルアルバム『ENIGMA』で過去EP4作からの流れが一つの完結を迎えて、『ICY』はその次のフェーズとして、『ENIGMA』までの流れを汲みつつ新しい挑戦もしていましたが、今作はそれをさらに発展させて、より音楽的な挑戦と遊びを感じるというか。前作より振り切ってシフトチェンジした印象を受けました。
真緒:御名答です。『ICY』を作った段階で、一つ自分たちの中で新しい挑戦を仕掛けていこう、音作りからもう一つ武器を持とうというのがありまして、その延長で『GLITTER』を作ったんですけど、コロナ禍が少し落ち着いて、もう一度ライブに入り込めそうな流れが見え隠れしていた時期に作ったというのが大きくて。というのも、コロナ禍でのライブは、お客さんが声を出せなかったり、今まで通りの我々のスタンスのライブを繰り広げることがなかなか難しいなと感じていたんですよね。そのタイミングで一つ前に『ICY』を作っていたというのは良かったなと思いました。その部分をグッと押し出した作品になっていて、いわゆる耳で聴いたり、声は出さずとも頭を振ったり、パッと聴いて率直に楽しそうだなと思える音楽にフォーカスしたというか。なので、今回はバラードも作らなかったですし、次のツアーを迎えた時に、新しいThe THIRTEENの軸の中に入り込みやすい一つのライブモード的なものが、今回の作品かなと思っています。
コロナ禍でのライブを想定して曲作りした部分が大きいということですね。
美月:そうですね。制作段階では状況は少しずつ落ち着いてきてはいましたけど、きっとまだ声は出せないだろうなというのは一番にあったので。激しい曲を作っても100%表現できないフラストレーションが溜まったままというのもどうかと思うので、そこは考慮して制作しました。
シャウトを一切入れないのも『ICY』と同様ですよね。
真緒:わかりやすくシャウトとかヘヴィーなサウンドというのは、真骨頂と言えばそうなのかもしれないですし、自分たちの中で慣れ親しんだものでもあるんですけど、自分の中での挑戦という意味では、そういうものを無しにしたとしてもライブを満喫できたという状況を作りたいと思ったんですよね。ギターサウンドもズンズンしたものからジャキジャキしたものに変わって、歌もデスヴォイスとかあったものがなくなって、メロディーラインや新しい音作り、そういったもので魅了できるようにするという挑戦ですね。
今回、全曲ギターの存在感がすごいなと思って。どの楽曲も特徴的なフレーズがあります。
美月:ギター自体が変わったので、前までは重低音命だったのが、ギターの特質上、今は響きだったりフレーズの表現に変わって。まず曲の作り方が変わったので、そういう意味ではギターが結構フィーチャーされているかなと思います。
作り方はどのように変わったのでしょうか。
美月:元々はライブでの激しさを想定して作っていたので、どちらかと言うとヘヴィーさのほうを重視していたのが、今はフレーズ重視、弾きたいことを弾くという感じなので、まずそこが違いますね。
『ICY』の時に、今までちゃんと作ったことがなかったカッティング、ジャジーなギターフレーズを作ったということでしたよね。
美月:そこからでしたもんね。ギターを変えて、そっち方面も考えるようになったので、勉強中です(笑)。
ところで、『GLITTER』というタイトルが視覚的にも表現されている今回のアー写は、街中がイルミネーションで彩られる年末年始のキラキラした雰囲気にも合いますね。
真緒:タイトルとアー写の紐付けは結構悩んだんですよね。『GLITTER』という言葉ってちょっと難しくて。特に女性は、メイクアイテムのグリッターを思い浮かべると思うんですよ。だから、アー写も薄いメイクだと変だし、上手くアバンギャルド感が出つつ、ちょっとアーバンな感じというか。都会っぽいもの、今のご時世にも合ったものということを含めたタイトルでもあって。
美月:楽曲ができてからヴィジュアルを考えたので、それこそコロナが終息に向かうという意味合いもあって、モノクロからカラーに戻るイメージで色を入れようかなと。いつも派手ではあるんですけど、その中でもこれまでは抑えてはいたんですよ。だけど、今回は本当に派手に。頭も何色かわからないやつがいっぱい付いていますし、目にもギラギラが付いています(笑)。なので、いつもよりはカラフルなものにしましたね。
The THIRTEENって意外と順当なコードがあまりない(美月)
11月上旬に一足早くデモ音源を聴かせていただきましたが、今回完成した音源を聴いたら、結構変わったなと。
美月:大分変わりましたね(笑)。
真緒:あの時はまだ乗っかっていないものがいっぱいあったので。
そして全6曲のバランス感が今回も素晴らしいです。
真緒:EPやアルバムは割とバランス感をこだわりますね。やっぱりライブを見据えながら作っているので、本編なりアンコールにちゃんと散りばめられるような構図にはしていきたいというのがありました。
1曲目「Tokyo Sympathy」と2曲目「Focus」が大人なムードで、それぞれ意外性のあるオープニングとリード曲を目指したもの、3曲目「GAME」と4曲目「moody blues」がテクニカルかつ遊び心、5曲目「Flare」は今作中もっとも今までのThe THIRTEENらしさを感じる曲、そして6曲目「daydreamer」がボーナストラック的な位置付けというバランスですが、実際どのような順番で曲作りしていったのでしょうか?
真緒:最初は「Focus」からですね。今作の全体的な色としてアバンギャルドな大人のロックがテーマだったので、「Focus」でその基軸を作って、次が「Tokyo Sympathy」かな。そこから「GAME」ができて、先にボーナストラックを作ろうと思って「daydreamer」を。並行して美月君に何曲か託したので、その裏で「Flare」と「moody blues」に取り掛かって…だから、大体同時進行な感じですね。
なるほど。今回はデモ音源と完成音源を聴き比べて気になったことを伺いつつ、各曲に関して真緒さん、美月さんが思うお互いの良きポイントを挙げていただければと思います。今作で美月さんは新しい機材を使ったということですが、「Tokyo Sympathy」の完成版は、デモより更にノイジーになったなと感じました。
美月:そうですね。ブリブリなノイズ感が欲しかったので、デモで弾いたやつにさらにプラスアルファした部分もあって、よりやったことのない感じにしてみました。
Aメロがかなりノイジーな音になっていましたが、あれもギターですか?
美月:デモの段階ではギターとドラムだけだったんですけど、ノイズ感とロー感が欲しかったので、シンセベースにブリブリなファズをちょっとかけました。
では、お互いの「Tokyo Sympathy」のポイントを教えてください。
真緒:基本、僕らの構図ってデモの段階ではベース、ドラムも美月君が打ち込みますし、全体的な骨組みはお任せして僕は歌を担うという感じなので、こういう音が欲しいとか漠然とした要望はあるんですけど、「これちゃうわ、やり直して」とかはあまりないんですよ。僕はサラッとした状態でデモを出すので、その後、美月君が進化させていった結果、ヴォーカルのレコーディングの時にヘッドフォンから流れてくるものが、初めて聴くものが多いんです。それで驚かせられることがあるんですけど、「Tokyo Sympathy」もファズを使うということは聞いていたものの、実際の音は初期段階では聴いていなくて。1フレーズをループさせて流れるような曲を作りたいというのが根底にあったんですけど、音作り、フレージングの良さは、マスタリングを終えた時に一番感じました。広がりも出ましたし、ギターフレーズも簡単だけど耳に残りつつ、すごくハイブリッドな感じというか今っぽさのある音になったなと感じましたね。
美月:一つのサビの中の前半後半で雰囲気が変わっているんですけど、仮歌前の段階では前半のメロが2周していただけだったんですよね。真緒さんが一度歌ってみてから、この音を使いたいということになって、コードを変えていきました。順当なコードでは対応できなかったので探り探りやって、最終的に「譜面に起こしてください」と言われたら僕も何かわからないものになりました。四つコードがあるんですけど、三つ何のコードかわからないです(笑)。そういうフック感みたいなものは僕には出てこないアイディアで、曲をトータルで聴いた時に良い意味でやっぱり引っ掛かりがあるので、そこはすごいなと思いましたね。
真緒さんは結構「この音で歌いたい」というリクエストを出しますよね。
真緒:僕もギターは最低限弾けるんですけど、厳密なコード進行の中での濁らせ方というか、ちょっと当たっているというか、ジャジーなものって正解がなかったりして。かと言って当たり過ぎていてもスッと入ってこないし、そのコード感というのがわからないので美月さんに託して(笑)。要は通常のコードでも歌えるんですよ。でも、当たっているんだけどここに持っていきたいという部分を補正してもらうような感じです。そこはギタリストじゃないとわからないと思いますし、僕も音楽理論がものすごくわかる方ではないので、何となく感性というか、頭の中に浮かぶメロディーや、ここにはこういう空気があったらカッコいいなというものに、強引に整形手術をしてもらう感じですね(笑)。
そういうやり方ってなかなか珍しいんじゃないかなと。
美月:ヴォーカルの人はあまりそういうことを言ってこないですよね。バックがちょっとマニアックな空気感を出したいから変なコードを使って、「メロディー当たるからこっちに変えてくれへん?」と言って、ヴォーカルが「歌いにくい」って文句言うみたいなことはありますけど、うちはその逆ですからね。もうちょっと浮遊させたいというのが結構多いので、The THIRTEENって意外と順当なコードがあまりないかもしれないですね。
「Focus」はAメロのヴォーカルのエフェクトはデモ音源にはなかったので、ガラリと変わったなと。
真緒:そうですね。この曲もスタート段階と最終形態が大分変わったんですよ。そもそも16分のリズムで、0カウントスタートのものが欲しくて。うちって結構前奏が長かったりするので、頭からギターとヴォーカルでパンッと入るようなものが欲しかったという前提があったんです。要はどこまでデコレーションしましょうかということなんですよね。もちろんギター、ベース、ドラムの骨組みはあったんですけど、結構ギリギリの段階…マスタリング1日目くらいで「何か足りねーな」となって、エンジニアさんに「もうちょっと広がりが欲しいな」と。例えばクリスマスケーキがあったとして、そこにサンタさんのオブジェがあったら、もう一段階綺麗にクリスマス感が出せるのに、みたいなことってあるじゃないですか。
なるほど。
真緒:そんなことを言っている時に、美月さんがすぐにピアノを入れてくれたんですよ。あっ、整った! サンタさん入った!と思って(笑)。マスタリングの最終日くらいにようやく今の形に落ち着いた感じでしたね。人によるとは思うんですけど、ギタリストって割と主張しがちな気がしていて。だけど美月さんは「Focus」も然り、全体バランスをしっかりと見ているギタリストだなと思います。音抜け感もそうですし、ギター、ベース、ドラムにヴォーカルが乗っかっていて、僕が高いキーの部分を使ったりする時、どうしても下と上の隙間ができてしまったりするんですけど、そこを何で埋めようかということを考えてくれたり。そういった総括的なものが見えているなというのが印象的でしたね。
これはかなりお褒めの言葉ですね。
美月:ありがとうございます!
真緒:うむ(笑)。
美月:こういうのをやりたいというのは舵を取ってもらったので、僕はそれを具現化する担当みたいな感じで。Aメロは言葉数が多いというのも、16分がやりやすいテンポ感というのも作る段階で真緒さんが言っていたので、どういうものを作るか見えているというところの凄さは感じますね。サビも高いですし、言葉数も多いし、これを歌うのは大変だと思います。Aメロなんて一回コケたら返ってこられへんなと(笑)。その辺の技は、普通のヴォーカリストにはないというか。ヴィジュアル系ではあまり聴かないようなヴォーカルワークだなと思います。
確かに、めちゃくちゃ難易度が高いだろうなと思います。
美月:カラオケに入れられても歌えないと思います。
真緒:僕もまだ無理ですから(笑)。
(笑)。12月1日のCHIYUさんとのツーマン@高田馬場CLUB PHASEで初披露しましたが、これだけ変わっている曲でありながら、ライブに自然と溶け込んでいるのがすごいなと思いました。やってみていかがでしたか?
美月:必死っすよ! 本当に大変でした。合うと楽しいんですけど必死ですね(笑)。皆、前は向いていますけど、プレイに集中していました(笑)。
真緒:ベースドラム陣も結構大変だと思いますね。このテンポ感と16分って結構難しいので。