ニューアルバム『SOLOIST』がついに完成。
ロックでアカデミック。大人で純真。清春が歌う“人生の歌”――。
『SOLOIST』完成を前にして行った前回のインタビューから約3ヶ月。ついに完成を迎えた今作は、これまでライブで披露されながら未音源化だった楽曲の数々と、12月から行われたTOUR 天使の詩 2015『21』前に新たに生み出された楽曲たちが収録され、結果的に約10年分の清春が1枚に集約された作品。「やりたい曲調だけをピックアップした」「全部自分の王道」という今作が誕生することになったのは、ごく自然の流れでもあり、それは一つの区切りとなる“10枚目”を見据えるものとなった。そんな“9枚目”のアルバムについて、そして清春の今後について、じっくりと話を聞いた。
◆全部自分の王道だし“清春節”みたいなものが入っている
――『SOLOIST』ついに完成おめでとうございます!
清春:ありがとうございます、もう話すことないんじゃないですか(笑)?
――いやいや、前回はまだ8曲のラフミックス段階でしたし(笑)。最初に新作制作の発表があったのが昨年5月で。その時は10月発売予定で、その後12月からのツアーが始まるまでには、となり、結果3月30日のリリースとなりました。
清春:とても間に合いませんでしたねぇ。ツアーが終わって、綺麗な形で出ますね(笑)。
――制作において、清春さんが一番時間をかけている部分はどこなんでしょうか。
清春:歌うこと自体はそんなに時間はかかってないんだけど、選ぶことと、確認が…。全てはニュアンスなんですよ。
――以前、「僕の歌って密かにコブシが細かく回っているというか、音符が1個の音符の中で結構動いているので、そのニュアンスが難しい」と言っていましたよね。
清春:そうなんだよね。ぼんやり聴いていると音は合っているんだけど、よく聴くと外れていたりすることがあって。自分で歌っておきながら、それを僕とエンジニアの二人で“清春さんの歌”対策をするんです。ある程度選ぶ時のことを考えながら歌ってはいるんですけど、難しい…手が届くか届かないかという微妙なところがあるんですよ。自分の気に入る音程に届いていれば、変な話、どういう曲でもいいんですけど、届かない場合がすごく悔しい、歯がゆいですね。
――レコーディングは早々終わっていても、最終形になるまでに時間がかかっているんですね。
清春:オケもみんな上手いので時間はかからないし、歌入れよりはエディット作業だね。
――12月に13曲中10曲の期間限定ストリーミングがあり、ツアーのスタートと同時に2曲先行配信(「EDEN」「ナザリー」)、ツアーが終了してリリースという流れになりました。一般的にはリリースしてからツアーを回るという形が多い中、それとは真逆になりましたが、基本的にライブでやっている曲が音源になる清春さんとしては、こちらのほうが自然ではありますよね。
清春:結果的に良かったと思いますよ。ライブでファンの人が集中しているので。
――ツアー初日の前半は清春さん曰く「新曲発表会」のような若干の緊張感もありましたが、もう完全に馴染みましたか?
清春:馴染んでいるし、新旧の差が激しいよね。「海岸線」は古い曲だけど、それ以外の『SOLOIST』に入っている曲と他の曲をやっていると、以前の曲が古くなったなという感じがする。毎回そうだけど、今回は特に思うな。
――地方の方などは、このツアーで初めて『SOLOIST』の曲を聴けたという方もいると思いますが、各地での反応はいかがでしたか?
清春:ツアーが終わってCDを聴いてくれた時に、「ハッ!」ってなると思いますよ。「あっ、この曲!」って。曲順もライブとほとんど変わってないので。全会場、5曲目までは一緒ですね。そもそも、この収録順はライブの曲順から決めたんですよ。
――そうなんですね。ライブでずっとやっていて音源化していなかった曲たちと、最近作った曲が収録され、結果的にこれまでの数年分の清春さんが1枚に集約された作品ですよね。
清春:今作がソロアルバム9枚目なんだよね。10枚目を0と考えるのか1と考えるのか、という感覚はあるね。10で0に戻るのか、新たにスタートするのかというところで言うと、自分がやっている音楽はこういうものなんですというものが、10枚目で総括できるようなものになったと思います。10枚目にいく前のラストスパートを切っている感じがしますね。
――なるほど。
清春:前作にしてもその前にしても、曲調は今作のようなものも入っているじゃないですか。今回、やりたい曲調だけをピックアップした感じですよね。例えば『UNDER THE SUN』(2012年11月発売)だったら「流星」、『madrigal of decadence』(2009年7月発売)だったら「innocent」とか、そういう好きなラインというのはあまり変わらないし、外したいラインを外していって残したいものは残して、それプラス新しくチャレンジしたいものはチャレンジする。3拍子のもの、シャッフルっぽいもの、ジャズっぽいもの、暗めで開ける感じのもの、ムーディーな感じのもの、全部自分の王道だし“清春節”みたいなものが入っているんじゃないですかね。やっていきたい曲調と、録っておきたい曲調を集めた、まとめに入ってきている感じ。
――これまでライブで聴いてきた曲が多いので、今作は本当に“ザ・清春”という印象が強いです。
清春:今作がターニングポイントなのか、その手前なのか。10年前から最近まで入っている作品というところで、やっぱり僕の中ではこれは9枚目という感じがしますね。知らない人にとっては普通の新しいアルバムなんですけどね。去年66公演プラグレスライブをやったおかげで、2015年の国内ライブ最多数アーティストは僕らしいんですよ。黒夢やsadsもあったし。あのプラグレスがあって、静かな環境で歌うというのに慣れてきちゃっていて、もはや今作もちょっとうるさく感じちゃうんです(笑)。なので、次はもう見えてるよ。さらに音数が少ないアルバムを作る。
――音数を減らして良いものも作るというのは、極致ですよね。
清春:うん、難しい。アコースティックなものを作るのは簡単なんですけど、そうではなく…住みやすい家を造るみたいな感じですよね。必要最低限のものしかない家みたいな。
――シンプルライフというものですね。
清春:余生を見ていますからね(笑)。
◆ロックという言葉で誤摩化さないものをやれた、第一歩
――今作では是永巧一さんが3曲、森俊之さんが2曲アレンジされていますが、三代堅さん以外の方は久々ですか?
清春:1stアルバム以来じゃないですかね。黒夢やsadsを除くと、それ以降ずっと三代さんでした。でも、そういう時期なんだと思います。そろそろ僕も色々な人と勉強しないと、自分が成長できないという時期に来ていると思うし、バンドからソロになってずっと三代さんがいてくれて、ソロでのバンドサウンドも追究したし、アコースティックもやったし、色々やったんですけど、50歳を目の前にしてさらに上のスタジオトップミュージシャンとやりたい。ロックという言葉で誤摩化さないものをやれた、第一歩だと思います。ロックなんだけどアカデミック。
――是永さんは近年ギターで数曲参加していましたが、アレンジャーとしての是永さんと接していかがでしたか?
清春:昔、黒夢の『ピストル』(1996年4月発売シングル)をやってもらったので、是永さんのアレンジの仕方は大体わかっていたんだけど、今回は全然違った。昔はもっと怖かったです。「ダメだ、その歌」「その発音、全然聴こえない」とか言われてたんですよ(笑)。でも今は認めてくれている感じで「すげーね、この曲」「一緒にやりたいね!」って。
――約20年の歳月を経て。
清春:是永さんみたいな人を見ると、自分も人として成長しなきゃなと思いますね。あんなに変われるんだなって(笑)。
――50歳になった時の清春さんは、変わっているかもしれませんね(笑)。
清春:めちゃめちゃ遊んでたりしてね(笑)。電球が切れる前に、偶然一回光が点くみたいに(笑)。
――(笑)。ところで、1月末時点でまだタイトルを悩み中だった曲が、結果「瑠璃色」になりましたね。
清春:そうでしたね! 色々悩んだんですよね。「Lapis Lazuli」とか「エレジー」とか。でも歌詞の中にある言葉のほうがいいだろうということで。
――最近結構お気に入りの曲ですか?
清春:ライブでは気に入ってますね。CDでは、もしベストとかを作ることがあれば、もう一回歌い直したいです。ライブで慣れてきたから、今ならもっと上手く歌えるはず。あと、森さんのアレンジはすごいので、迂闊には立ち向かえないですね。「瑠璃色」「メゾピアノ」もやっぱり音楽的によく出来ているんですよね。もちろん是永さんもすごいんだけど、ギタリストと鍵盤の人の違いなんだよね。
――「瑠璃色」のイントロ、アウトロのメインのフレーズが印象的ですが、清春さんのデモ段階であったものですか?
清春:ないです。デモにはギターとベースとドラムしか入ってないので、あれは森さんにやっていただいたものですね。ちょっと原田真二さんの「キャンディ」みたいだなと思ったんですけどね。僕もそれを目指していたんです。「原田真二さんみたいにしてください」「ああ、いいねぇ! でも外国の人が原田真二さんのオマージュをしたみたいな感じにしよう」と。
――その会話で成立するところがさすがです(笑)。
清春:いや、よくわからないなと思いながら「そうですね」って(笑)。森さんはすごく喋るんですよ。「いやこれ、かっこいい! 最っ高!」って、めちゃくちゃオーバーリアクション。
――なんだか楽しそうですね(笑)。
清春:「ギター、余計なこと弾かないで!」「いやぁ、すげー!」とか。もう急に大好きになりました。名字が同じ「森」ということもあるんですけど。
――確かに(笑)。これまでにお仕事をご一緒したことは?
清春:ないですよ。もちろん知ってはいたんですけど、鍵盤の人なのでちょっと遠くて。最近、井上陽水さんのカバーアルバムで「シルエット・ロマンス」(大橋純子)と「リフレインが叫んでる」(松任谷由実)をアレンジされていて、それを聴いて一緒にやってみたいと思ったんです。で、お話してデモを渡して。
――とても良い出会いになったようですね。ところで、ファンの方にしかわからないことを楽曲の中に入れるというのが、清春さんの中では最近恒例になっていますよね。前回お聞きしなかったのですが、「MELLOW」もアルバム『MELLOW』(2005年3月発売)と関係があるのでしょうか?
清春:関係していますよ。曲も歌詞も少し前からあって、『MARDI GRAS』(2013年11月発売、全334曲にもおよぶ歌詞をつづった清春初の詩集)を出した時に「MELLOW」というタイトルを付けたと思うんです。今の自分から見た、アルバム『MELLOW』を出した頃の自分。ちょっと青さがあって、今の自分から見ると円熟してなかった、メロウじゃなかったんだなっていうような。
――なるほど。「ロラ」というのは一体?
清春:世界で初めてボーカロイドを作った会社が出した、標準版のボーカロイドの女の子の名前がロラなんです。なので、架空の女性という意味なんです。普通はROLAだと思うんですけど、これはLOLA。何か色々と深読みしてる(笑)?
――(笑)。ちなみに、「海岸線」と同じ日に作ったという「HORIZON」は『MELLOW』に収録されているんですよね。そんな部分でも点と点が繋がるというか。
清春:なるほどね、確かに。「HORIZON」は地平線という意味なので、「海岸線」と対になっているんですよね。歌詞の中にも〈地平線〉って出てくるし。だから繋がっているというのはわかっている人はわかっているだろうけど、ファンの人でも10人もいないと思う。
――前回清春さんが言っていた通り、今作は本当にラブソングが多いですが、ライブでの幸せな空間が目に浮かぶものばかりです。ライブで聴いているからというだけではなく、歌詞の内容的にもそうだなと。「メゾピアノ」と「麗しき日々よ」の流れが完璧過ぎて…。
清春:嫌な奴でしょ(笑)?
――泣かせたいのかと(笑)。
清春:いやいや(笑)。人生の歌ですね。「麗しき日々よ」は3年前のツアー中に出来て、こないだもライブで歌って、確かに色々な人が泣いていましたけど。遠くに行った時に歌いたい曲ですね。〈遠くでも会えたよね〉という歌詞があるし。…泣かせにいってますか?
――はい(笑)。両方とも〈旅〉というワードが入っていて、「メゾピアノ」の〈僕らが好きだったあの愛しく長い旅は終わる〉というのがまた…
清春:僕とファンの人たちが共有してきた時間の終わり…僕が辞めるのかファンの人たちが辞めるのかわからないですけど、その時に「あぁ、このことを歌っていたんだ」って思ってくれるといいなと。
――「メゾピアノ」があって、「麗しき日々よ」の歌詞に〈ソプラノの響き〉があるという流れがまた美しいです。
清春:わかりました? 僕、嫌な奴なんですよ(笑)。でもそれ気付いた人、初めてだよ。するどいなぁ。