GOTCHAROCKA

宵回る街の華やかさと闇、そこにある本質。ミニアルバム『CAST』に収められた全6曲を紐解く。

GOTCHAROCKAが流通作品としてはシングル『愛錠』以来1年ぶりの新作となるミニアルバム『CAST』をリリースする。純粋に「カッコいい」作品を目指して制作したという今作には、歌詞とサウンドの両面から、内面的な闇とその本質を表現することを軸としながら、GOTCHAROCKAらしい遊び心も散りばめられた全6曲(限定盤は5曲)を収録。全国ツアーも間近に控える今、2023年上半期の出来事と、この夏を盛り上げること必至の最新作についてじっくり話を聞いた。


今年のGOTCHAROCKAは1月に冬ツアーを終えた後、2〜4月にもワンマンがありつつ、結構イベントライブも出演していますよね。改めてイベントの醍醐味や心掛けていることを教えてください。

樹威:同じイベントの冠でも、例えば東名阪があったり、東京だけというのもあるじゃないですか。そこでちょっと違ってくるなと。東名阪だと大阪や名古屋でやってみて、どういう傾向か把握した上で後々のセットリストを変えていくこともできますよね。あと、ワンマンだと約2時間の中で緩急を付けられますけど、イベントは20〜30分で短距離走みたいな感じなので、そんなに全力を出しているわけじゃないはずなのに、すっごい疲れますね。いつもハーハー言って楽屋に帰るのはイベントのほうなので、何だか不思議だなと。

イベントの時の樹威さんは攻めの姿勢を感じます。

樹威:あまりがっついている感じを出さないようにしようとは思っているんですけどね(笑)。

JUN:ワンマンのほうがいろんなアプローチができる分、本質を見せやすいというのはやっぱりあるんですけど、できる限りイベントもできたらいいなと、いつも思っていて。セットリストの話で言ったら、「あの曲もこの曲もやりたい、だけど時間的に無理やわ」ってなるんですけど、決定したセトリの中で、いかに1曲1曲そこに入ってやれるか、激しい曲だろうがバラードだろうが、感覚的にはワンマンをやっているかのように濃度100%でいたいという目標は常にあります。

なるほど。

JUN:色々なバンドがいるから刺激をもらえるし、楽屋でコミュニケーションも取れるという良さもありますよね。ただ、負ける気はしないという気持ちでステージには立っています!

十夜:他のバンドのファンのお客さんや、色々なバンドが出ているから行ってみようというお客さんもいるじゃないですか。そういう人たちにめっちゃアピールしようと思って気負っていくと、僕はあまり良かった試しがないんですよ。気負っていき過ぎたテンション感を、30分くらいでは回収しきれなかったというのがGOTCHAROCKAの初期の頃とかはあったので。セットリストを二人が組んでくれるんですけど、やっぱり出ているバンドさんだったり、出順も考えて組んでいる曲なので、とにかくそれをしっかり弾くという感じにしています。それでも行き過ぎちゃう時はあるんですけど、なるべくそうならないようにはしていますね。

GOTCHAROCKAのワンマンとしては、2月から声出し解禁となりました。

樹威:お客さんが声を出せない形が2年間くらいあって、それはそれで楽しみながらやっていたんです。なので、声出し解禁となった時に「わ、やった!」という感じがものすごくあったかと言うと、逆に「あれ? どんな感じでやるんだろう?」という不安もあって。本当に声を出してくれるのかな?とか、また変な世界に変わってしまうんじゃないか?という慄きもあったんですけど、実際に声を聞いたら、やっぱりもっと聞きたいなと思ったし、自分たちのテンションの上がり方も違ったなと。以前は「声は聞こえなくても伝わっているよ」と言っていたけど、やっぱり出してくれたほうが伝わりますね。

4月16日にはGOTCHAROCKA初の黒服限定ライブもありましたね。

樹威:バレンタインデーやホワイトデー付近でいつもやっている企画ライブがあるんですけど、2〜3月はそんなにライブの本数もなかったので、4月にもう1本やれたらいいなと。それで黒服限定はやったことがないから、試しにやってみようかという軽いノリでした。

樹威さんが羽根のストールをしているのも懐かしくて(笑)。

樹威:(笑)。Twitterでコメントを見ていたら、「デスノート持ってます?」って書いてあって、最初意味がわからなかったんですけど、リュークのコスプレだと思われたのかもしれなくて、何だか複雑な気持ちでした(笑)。

いつもカラフルなJUNさんが黒の衣装を着ているのも新鮮でした。

JUN:真っ黒な服を着ているんですけど、自分にはカラフルに見えましたね(笑)。黒い服を着てもあまりダークにならないなと思って(笑)。僕も頭に羽根をいっぱい付けていたんですけど、ライブ中に落ちてくるんですよ。いっぱい落ちてくるなと気にしていたら、「これ、樹威さんの羽根やんけ! 俺のちゃうやん!」と(笑)。

樹威:羽根が落ちることも懐かしい(笑)。

樹威さんもMCで言っていたように、十夜さんは割と普段通りという(笑)。

十夜:普段、黒いのが多いので。

JUN:習字で言う、二度書きみたいなことやもんね。

全員:(笑)

あのライブは「こんなに多幸感溢れる黒服限定ライブってある!?」と思いました。そこがやっぱりGOTCHAROCKAだなと。

JUN:どうセットリストを組んでも、ダークサイド100には振れないんすよね(笑)。

樹威:そうだよね(笑)。

光が差し込んだように見えているところが一番闇かなと(樹威)

樹威

ちょうど1年前は10枚目のシングル『愛錠』をリリースしましたが、この時期に出す作品として今回ミニアルバムにしたのは、どのような経緯だったのでしょうか?

樹威:去年『愛錠』を出して、今回シングルではないだろうなということだけは頭にあったんです。で、次のリリースをどうしようかとなった時に、アルバムをこれから作っていくための過程段階かなという着地点になったので、ミニアルバムがちょうどいいんじゃないかというところに収まりましたね。アルバム『POLYCHROME』(2020年10月)を出して、もう3年くらい経っているはずなんですけど、コロナ禍があったせいで、立ち位置的にまだ新鮮さが残っている感じがあったのも大きいと思います。

5月の「みちのくダヴルドラゴン」(YouTubeで公開している樹威とyo-ka(DIAURA)の番組)で、樹威さんは「曲数が多い作品の制作が『POLYCHROME』以来久々だったから、精神的にちょっとプレッシャーだった」ということを話していましたよね。

樹威:『POLYCHROME』の後、新曲という点ではそんなにまとまった曲数を出していなかったですからね。シングルだと1曲1曲の立ち位置を考えて、それぞれ出せばいいですけど、アルバムだと集合体じゃないですか。それも「どんな感じだったっけ?」というのを自分が覚えているのかなという不安もあって、そういうふうに言ったと思いますね。

JUN:やっぱり次どうするかなというのを、ずっと考えているんですよ。すごくぼんやりは頭の中にあるんですけど、それを音にするとしたらどんな感じなんやろなと、ふと頭をよぎる日々が去年の夏ツアーが終わった後くらいから続いていて、10月頃から曲を色々と作っていたんです。『POLYCHROME』の時って、完全に「新しいGOTCHAROCKAです!」というのを目標に掲げて作っていたなと思って、それが作れたというのが大分身にもなっている感覚があったので、今度は良い意味で自然に曲を作ってみようかなというスタンスがちょっと続きました。…感覚の話って難しいな(笑)。

ですよね(笑)。

JUN:まずヴォーカル、ギターの個々の個性みたいなものを、もっと表現していける作品を作っていきたいなというのがぼんやりあったので、一つワードとしては「シンプルさ」というのも課題としてあって。ただ色々と削いでいくってことではなくて、必要な魅力をさらにフィーチャーするためのシンプルさ。ゴールはないんですけど、そこから曲をコツコツ作っていったら段々と見えてきた気がして、確か「今こんな感じで作っているんですよ」って、車の中で樹威さんに曲を聴いてもらったことがありましたよね。

樹威:うん。

JUN:「何かもう一歩届かないんすよね。見えてきているんだけど、何か足りないんすよね」みたいなことを言っていて(笑)。その足りていないものって何かと聞かれても難しいんですけど、そこからもう一度新しく曲を作り出して辿り着いたのが今作の「宵」なんですよ。単純な言葉ですけど、「カッコいい作品を作りたいね」という話はしていたんですよね。僕らには色々なパターンの楽曲があって、色々なアプローチ全てカッコいいとは思っていますけど、僕らが今、こうして10年以上やってきて「カッコいいでしょ?」というワードを掲げて出せる曲って何やろ?というのが、また一つコンセプトとしてあって。そういうところから試行錯誤して生まれていきましたね。

樹威:多分、「あと一歩なんです」っていう曲を車の中で聴いた時に、今回は明るい話題のことはあまり書きたくないなという話をした気がします。

JUN:あっ、そうっすね。歌詞がまだない状態で作曲を始めるので、音の表現や音楽的なストーリーでの見方をしているんですけど、樹威さんがその言葉を言った時に、見方は違えど思っていることは一緒だったんですよね。パーッと元気な曲というより、もっと内面から何かを表現するのがイコール、カッコいい曲に繋がるなと思っていたので。内面的な部分の汚いところやギスギスしたところ、でもそこにも何か美しさもあるやんというのを、音で表現したいなという感覚がありましたね。

今作は全体的に暗い歌詞が多いなというのは、真っ先に感じていました。

樹威:はい(笑)。絶対にそうしようと思っていましたね。もちろん理由はあるんです。段々とコロナが明けてきて、光が差し込んだように見えているところが一番闇かなと僕は思っていたので、そこを抜けた時にすごい光が当たって気づくものが、一番デカいギャップなんじゃないかなと。「光が差し込んできてるじゃん、皆ハッピーです」って言うのは、まだまだ先かなと何となく感じていたのもあって、そういう楽観的な気分じゃないなと僕は勝手に解釈していたんですよね。

先ほどのJUNさんのお話から考えると、今作は「宵」が生まれた段階で作品の全体像が見えたという感じでしょうか?

JUN:僕的には「宵」ができて正直気が楽になりましたね。メインを張れるというか、作品の主軸になる部分が一個あるという安心感はあって、そこから違うアプローチの曲もいくつか作って、後に選曲会をして収録曲が決まったので。「宵」ができた安心感は大分デカかったです。僕としてはリード候補で作った曲ですけど、何も言わずに選曲会に出しました。

樹威:楽曲自体は選曲会でいっぺんに決めましたけど、その時点で、これがリードがいいとなったよね。でも、もし仮歌を入れたりして全体的に見てみて違うとなったら、またその時に考えればいいかという感じでした。

ちなみに『POLYCHROME』の時はデモが40曲あって、選曲会が吐きそうだったと話していましたが、今回は?

JUN:今回は過去のものから引っ張ってこないでおこうと、制作のスタート時点で思っていましたね。なので、全部この期間に作った曲です。

樹威:そうだね。前のはもういいんじゃない?となって。

JUN:そういう点で言ったら、「もう一歩なんすよね」と言っていた時に作っていた曲は、1曲も選ばれていません(笑)。やっぱりアレは前段階だったんやな(笑)。

(笑)。今作を聴いていると、あっという間に一周するなと。最早イベント出演もこの6曲、この収録順でバッチリではと思うくらいです。

樹威:お、それは褒められているんですかね(笑)。

JUN:去年の夏ツアーが終わってから作曲を始めた時の脳みそとしては、アルバムのような大きなクリエイティブを考えないとなと思っていたんですよね。でも、今回結局ミニアルバムになったわけじゃないですか。ミニアルバムでアルバムのようなものを表現する必要はないし、ワンマンツアーも控えているし、ライブ感もありつつその先を見据えた世界観を今から作り出すということだったので、結構テンション良くてライブが楽しくなる楽曲が集まった仕上がりにはなっているなと思いますね。

十夜さんとしては、「宵」を最初に聴いた時の印象はいかがでしたか?

十夜:選曲会の時に今JUNが話していたような前情報を何も知らずに0の状態で聴いて、この曲は一歩抜けて聴こえましたね。この曲すげーと思って、メモしました。一周聴きながら、後で思い出せるようにある程度メモするんですよね。それで一周聴き終わった時に樹威さんが「この曲」と言っていて、僕も一緒でした。何か新しく聴こえたという印象が強かったですね。

「宵」はまず冒頭が印象的で。和テイストな歌メロと、それにピタリとハマる〈宵回る街に〉というワードの組み合わせがさすがだなと。

樹威:これ、やっぱり和テイストに聴こえるんですね?

JUN:冒頭の激しくなるまでの間が全部和っぽい感じがするってことですよね?

個人的には歌のみの冒頭〈宵回る街に 2gの光を〉の部分ですね。

樹威:あー、まぁまぁそうっすね。なんかわかります(笑)。

JUN:これ、和っぽくしようとかマジで全く意図してないんですよ(笑)。それが何人かに言われて、「あっ、そう聴こえるんや!?」と(笑)。

(笑)。〈宵回る街に〉という言葉の力が大きいかもしれないですね。

樹威:確かに、「宵」という言葉自体が和ですからね。

その言葉と樹威さんの声質のマッチング具合がそうさせているんじゃないかと。

JUN:ファルセットが入ってきて、あの音階だとそういう感じは確かにありますね。樹威さんの歌で始まるというのは、曲を作る時に決めていたんですけど、そこがまさかの和に繋がるとは(笑)。

この楽曲は現代風刺的な歌詞がとても樹威さんらしいなと。

樹威:明るい感じじゃないというのは先ほど話しましたけど、光が当たっている状況の中、俺と私には当たっていないという感じなのかなと思っていて。1曲目にこの歌詞を書くことになって、トータルで見て街の華やかさをまず書きたかったんですけど、華やかさと言ってもキラキラしていたりカラフルなだけじゃなくて、そこに夜の闇みたいなものが混じってきて初めて繁華街というものが成り立つ気がしていて。朝になって、この街汚いなということもバレたりするじゃないですか。華やかさってそういうことなのかなというのも基盤にはあって。あと、僕が上京してきた最初の頃は、東京が嫌だなと思っていたんです。その頃の感情もリンクさせたいなと思いました。

ちなみに、頭のほうで〈Please take off your mask, cuz I wanna see your face.〉(訳:顔が見たいのでマスクを外してください)という歌詞もありますよね。

樹威:そこは風刺的なところではありますね。歌詞の流れで意味はわかると思うんですけど、これは夜の街の歌なんですよね。僕、メインストリームではない景色を見るのが好きで、いろんな動画を見ていたら新宿の大久保公園の映像が出てきて。それを一通り見て、こういう着地点の歌詞になりました。