アリス九號.

ヒロト

ただ気の合う友人みたいな感覚にもう一度なりたかったのかな

「REPLICA」の作曲者名義が将さんとヒロトさんの連名ですが、これはどういう作り方をしたのでしょうか?

ヒロト:実は、このアルバムに向けて作ったわけじゃないんですよ。去年、15周年記念公演が終わって、翌月にちょっとした夏休み期間みたいなものがあったんです。その時に、「引っ越してから家に来てないし、家に来てお話ししない?」って誘って(笑)。特に深い話があるわけでもなく。独立してから、余裕もないくらいすごく駆け抜けていたので、しばらくそういうのがなかったんですよね。で、ちょっと一息ついたところで、昔そういうことをよくやっていたなと思って。地元を二人で歩きながら話したり、お互いオススメの音楽や映画を教え合ったり。そういう意味でも昔に戻るじゃないですけど、次の未来を歩むに当たって、またそういうところからスタートしたいと思ったんでしょうね。

なんだか良いお話ですね。

ヒロト:その時に、「REPLICA」の基になっている構想がちょっとあったので、アコギとピアノの音で聴かせて「でもこれはイメージだから」と伝えたら、将君が「すぐにできそう!」と言うので、録音しながら進めていって原型ができました。全く想定していなかったセクションに歌が乗ってきたりしたのが面白くて、その感じで打ち込んでベーシックを作って、この本イントロで流れているピアノのフレーズと、メロディーと伴奏だけというものを作っておいたんですよね。それを今作で音源化することになったという流れです。なので、1年掛かって仕上がった曲という。

連名の曲にも様々な形がありますが、これは本当に一緒に作ったんですね。星が煌めくようなミディアムバラードを将さんとヒロトさんが二人で生み出したということが、なんだかエモいなと。

ヒロト:そこは少し意図的かもしれないですね。でも、こういう曲にしようということじゃなくて、二人でやったらこうなるよという意味合いでの意図かな。初期の頃はそういう作り方をよくしていたんですよ。で、星にまつわる歌詞の曲が多かったり、「FANTASY」(2006年2月リリースのシングル)も二人の原体験に近いものがあって、そこから作ったりとか。「平成十七年七月七日」(2005年7月リリースのミニアルバム『ALICE IN WONDEЯ LAND』収録)もそうだったし。

将さんとヒロトさんの16年間の軌跡が感じられる曲でもありますね。

ヒロト:それはすごくあるかもしれないですね。『IDEAL』のタイミングから、ちゃんと会社としてやり出して、単にメンバーということだけじゃない関係値にもなってきた中で、ただ気の合う友人みたいな感覚にもう一度なりたかったのかな。それがこのタイミングで、どう音になるのか、自分が知りたかったんだと思います。

歌詞については何か話しましたか?

ヒロト:全然。昔からそうなんですけど、何かイメージがあれば伝える、だけどそこから先は任せるよという感じなので、時には思っていたのと真逆になっていることもあるし。でも、そういうプロセスを経て、これが将君が伝えたいメッセージだったんじゃないですかね。とても時事感も出ていますよね。

恋人や友人に向けてとも取れるし、バンドからファンの方々に向けてのメッセージにも取れるなと。ただ、愛がありますよね。

ヒロト:うん、この曲には愛があると思います。

今回、作曲がNaoさん名義のものが2曲ありますが、初めてですよね? それと、将さんと沙我さんの連名はあるものの、沙我さん名義が1曲もなくて、こんなことってあるんだと驚きました。

ヒロト:バンドってそういうバランスでできているんだなと。できない時はできないし、できる時はできるということなんでしょうね。そのできるタイミングがNaoさんは16年経って今来て、沙我さんはできないタイミングが来ていたっていうことです。

Naoさんの曲は2曲ともキャッチーですね。何となく「BIRTHDAY」のほうが、よりNaoさんっぽさを感じます。

ヒロト:確かに。「Glow」のほうは、Naoさんが思う初期のアリス九號.を、今のNaoさんが形にしたらこうなった、みたいなイメージなんですよね。

なるほど。しかも歌詞が、2020年の今の状況とバンドの決意表明に取れます。

ヒロト:そうですね。それがアルバムの最後の曲という。

そこが素晴らしいですよね。

ここにしかないものを、僕らは紡いでいきたい

7月5日のLINE CUBE SHIBUYA公演は、まだ有観客ライブをやっているアーティストがほぼいない中での、いち早い再開だったわけですが、決断したのはいつ頃だったのでしょうか?

ヒロト:6月頭くらいからそういう話になって、探って探って、おそらくやると決めたらやれるだろうと、中旬くらいに「やりましょう」となってからは、最善を尽くして当日を迎えました。状況やシステムによって守らなきゃいけない人の数が違うわけで、うちらはチームとしてごく少人数で活動していて、フットワーク軽く動けるスタイルだから早かったというだけなんですよね。だから、他と比べて早いかどうかはどうでもいいんですけど、自分たち的にやって良かったなと思いますね。7月に入ってメディアがまた感染拡大とか煽り出している時だったので、そもそも地方によっては県外に出られなくて来られない人もいたし、チケットを持っていても半分くらいの人が来てないんです。

そうだったんですね。

ヒロト:でも、あの瞬間を迎えたことによって、一気に見えたこともあるし、オンラインで置き換えが不可能な領域の体験はやっぱりあるなと思えました。有観客でやったから良いとか、やってないことが良いとかではなくて、ただ僕らはその選択をしてステージに立った、そんな中でも来たいと思ってくれて、なおかつ状況が許した人がそこに集まった、その事実だけというか。現状のライブにまだ来られない人や、来たい気持ちよりも不安のほうが優っている人もいるだろうし、誰が正しいという話ではなくて、ただそこにいられる人で、この場所を紡いでいくというのは、バンドとして今やりたいことです。そこに状況が許す人が参加してくれたらすごく心強いし、その人たちと一緒に最初はホールから始まって、STUDIO COAST(8月29日の16周年記念公演)をやって、CLUB CITTA’(9月17日の虎バースデー公演)をやって、今ようやくライブハウスまで辿り着いて。やっぱりライブハウスはライブハウスで、そこにしかない体感というものがあるなと再認識したし、ファンの人からもそれが伝わってきたんですよね。ここにしかないものを、僕らは紡いでいきたいと思います。

11月28日からは地方を回るツアー「黒会」があり、12月25日にはよみうりランド 日テレらんらんホール公演、そして1月には、なんばHatchとEX THEATER ROPPONGIで「黒会」ファイナルが予定されています。

ヒロト:ようやく地方を回れます。

2015年のインタビューで、「ライブ中、自分の外から全部が見えるような瞬間がたまにあって、その感覚は過去に4、5回くらいしかないんだけど、それに近いものは感じられるようになってきた」ということを言っていましたよね。

ヒロト:あの時、その感覚は過去に3回だったはずなんですけど、4、5回と言っていたんですね。盛ってたな(笑)。今はまた感覚が違ってきていて、最近特に自由な気分というか、すごくナチュラルにステージに立てるようになっているんです。捉われるものがなくなったんですよね。バンドってこうだよねとか、アリス九號.のヒロトってこうだよねというのを、ある種自分で定めて、その中でやっていたような気がするんですけど、それがなくなりましたね。

そうなんですね。

ヒロト:今日話していたことに繋がるんですけど、今年に入ってからすごく自分の内側に向き合い出して、上半期ですごく変わったんですよね。それを今、現実に人に伝えられる、見せられる形にし出していっている段階で。ちょっと語弊があるかもしれないですけど、7月5日のライブは、その試運転というか、これでいいのかな、こうしたらそれが表現として形になるのかなというのをトライしていたと思うんですよ。その後、8月29日のライブをやった時に、「あ、これでOKだ!」というのが自分の中であって。この感じでステージに立つと、捉われていない音楽の表現ができるというのを、あの場所で体感したんです。まず思うものを目一杯、形にしてみようとやってみたのがソロのライブ。それをどうバンドで、自分が捉われていた部分をどんどん外していけるかというのが今という感じですかね。

ヒロトさんが目指しているのは、ギターに特化せず、音楽全体で表現するということなのかなと。

ヒロト:ギターが軸足であるのは変わらないんですけど、それにプラス色々な武器、装備品を手にしようとしているというか。今まではギターしか持ってなくて、ドラクエに例えると裸一貫で剣だけ!みたいな状態だったのを、色々な効果がある武器を手にして、進んでいこうとしている感じかな。

色々な武器があれば、色々なところに挑んでいけますからね。

ヒロト:そうなんです。それで色々な表現ができるっていう。魔法も唱えられる盾や、魔法の効果を高められる鎧、それを一個一個手にしていっている感じ。その武器を持つことによって、結果バンドも強くなっていくので。

(文・金多賀歩美)

アリス九號.

将(Vo)、ヒロト(G)、虎(G)、沙我(B)、Nao(Dr)

オフィシャルサイト

リリース情報

New Album『黒とワンダーランド』
2020年11月11日(水)発売
(NINE HEADS RECORDS)

[通常盤]NINE-0033 ¥3,000+税

※FC限定豪華盤(完全受注生産)の受注受付は終了しました

収録曲
  1. Wonderland With Black
  2. MANDALA (मण्डल)
  3. Catwalk
  4. REPLICA
  5. 透明の翼
  6. BIRTHDAY
  7. Glow

ライブ情報

●アリス九號. ONEMAN TOUR 2020 「黒会」
11月28日(土)新潟NEXS
11月29日(日)郡山HIPSHOT JAPAN
12月4日(金)青森QUARTER
12月6日(日)札幌PENNY LANE24
12月18日(金)福岡DRUM Be-1
12月19日(土)広島SECOND CRUTCH
12月21日(月)高松DIME

●PREMIUM ONEMAN「WHITE PERIOD V」
12月25日(金)よみうりランド 日テレらんらんホール

●「THE MIRROR」-ONEMAN TOUR 2020″黒会”FINAL SERIES-
2021年1月9日(土)なんばHatch

●「THE END」-ONEMAN TOUR 2020″黒会”FINAL SERIES-
2021年1月23日(土)EX THEATER ROPPONGI