2025.04.23
NUL.@渋谷La.mama
「NUL. LIVE 2025 “Distorted Circle #3″」

4月23日、渋谷La.mamaを舞台に「NUL. LIVE 2025 “Distorted Circle #3″」が開催された。歪んだ・歪な円を意味する「Distorted Circle」というワードが表すように、同タイトルはHIZUMI(Vo)のバースデー公演として2023年から冠されてきたもの。ただし、三度目の開催となった今年は、NUL.の3ヵ月連続リリース&ライブ開催の第1弾であることの意味合いが大きく、過去2回とは趣の異なる一夜となった。
HIZUMI、MASATO(G)、岸利至(Prog)からなるNUL.は、オリジナルメンバー3人のみでのステージはもちろん、その編成を活かし、これまでに様々なゲストミュージシャンを迎えてライブを展開してきた。当夜は、昨年の「Distorted Circle」公演に引き続き二度目の出演となる人時(B)と、今回がNUL.初参加のshinpei(Dr/ex.SuG)を迎えた初の組み合わせによるステージとなった。



「暴れていこうか!」というHIZUMIの第一声とともに、NUL.史上最も高速のハードチューン「Crumble」でまさにトップギアのスタートを切ったこの日。5人による凄まじい音の洪水に初っ端から圧倒されるのも束の間、その熱をさらに増幅させるように「Hyena」でフロアを揺らし、ドラマティックな展開を魅せる「God Alone knows」が続いた。そんな攻撃力の高い最新アルバム『AVA』(2024年10月発売)収録曲の連投に、「アツいっすね。まだ3曲しかやってないのに」とHIZUMI。
早くもキラーチューン「ジル」が投入され絶好調の盛り上がりを見せたのち、重厚なサウンドに乗せ、絶望からの再生を力強く歌った「SUNBREAK」、因果や運命に抗い、自らの意思で未来を切り開くことを描いた「Karma-Agnostic」という流れは、音楽面での見事なグラデーションを生み出しながら、メッセージとしてもより強く、色濃く表れる形となった。
「ライブはいいですね。生きてる感じがします。今日を迎えるまでの間、身内が亡くなったりしてメンタルがヤバかったんだけど、ライブがあるとまだ頑張ろうと思える、次の約束みたいなものがあるから、やって来られたんだなと。人はいつ亡くなるかわからない。ちゃんと伝える時は伝えるべきだなと思ったり、今までは歌で伝えればいいと思っていたけど、これからはちゃんと言葉で伝えていこうと思います」
HIZUMIがこう述べたのは、「THE LAST DAY」の披露を前にしてのことだった。いつか訪れる最期の日を思い、〈あとどれだけの愛込めた唄を残せるのだろう?〉と歌うこの楽曲を皮切りに、突然消えてしまった人への思いを切々と歌い上げた「灯願華」、〈まだ「生きたい」と願う ときに「死にたい」と放つ〉と心の揺れを描いた「死遊の天秤」、これら3曲が続けて披露された場面は、儚さや混沌とした内なるもの、心の機微を表現する楽器陣の演奏とともに何とも胸を打つものだった。



その後、一瞬にしてフロアをトランス状態にした「Dictate」でギアチェンジを図り、トリッキーなリズムと緩急のある構成が魅力の「From Deep Underground」、NUL.流ダンスチューン「KaliMa」の連投で天井知らずの白熱ぶりを見せると、「レコーディングが、さっき言ったメンタルやられている時期だったから、自分を鼓舞する曲になったらいいなと思って。だから、皆にとってもそういう曲になったらいいな」(HIZUMI)と、この日リリースされた新曲「黎明」が、本編最終ブロックで満を持して披露されることに。
改めて補足すると、この楽曲はHIZUMIが初めて作曲を手掛けたもので、1年前の「Distorted Circle」公演で初披露された際には、アレンジ面で未完成の状態だった。当時のレポートを引用すると、“シンプルな構成とキャッチーなメロが光る「黎明」は、インダストリアルロックを基軸にダークで複雑なナンバーが並ぶNUL.の中では、ある意味で爽やかささえ感じる異質な楽曲”と記していたわけだが、1年越しにめでたく完成を迎えた最終形態は、もちろん大枠の形はそのままに、見事にNUL.のカラーへと昇華していたのだ。加えて、〈過去を背負い今を生きる天命の名を〉というリリックも実に印象的に響いた。
また、1年前時点で“バンドに新たな風を吹かせる存在となる予感”とも記したが、当夜のMCで岸がこの楽曲に触れ、「僕のアイデアをHIZUMIが却下、却下、却下(笑)。意志が強いなと思ってサポート役に回って、良い曲になったんじゃないかなと思います。いわゆるNUL.サウンドもいいけど、いろんなタイプの曲を生み出していく、いいきっかけの曲のなるんじゃないかな」と述べたように、今後、バンドとしての表現の幅が、より広がっていくことにも期待したい。
MASATOの鋭利で魅せるギタープレイ、人時の確実かつグルーヴィーなベースフレーズが圧巻だった「XStream」、HIZUMIがステップを踏み、岸による〈JUST ROCK IT〉のコーラスも映える「GREEDY BLOOD FEUD」、岸のパッドとshinpeiのドラムが合わさったアタック感がインパクトを放った「HYBRiD BEAST」で本編は締めくくられたのだった。



アンコールではゲスト二人の声も届けられ、shinpeiが「最近、後輩とやることが多かったので、めっちゃ緊張しています」と話せば、「僕は逆に普段、上の人たちとやることが多いので、今日は(年齢的に)下も上も一緒にやれて楽しいです」と人時。そんな和やかなやり取りがありながら、当然アンコールも終始凄まじい熱量で展開していった。中でも「Plastic Factory」のラスサビでHIZUMIがフロアにマイクを向け、オーディエンスと〈共に瞬間を生き1秒前越えて〉と歌った場面は忘れ難い。そして、「ラスト1曲だけ。もうぶっ壊れていいからな? 俺、死ぬ気でやるから」(HIZUMI)と、当夜のラストナンバーとなったのは、不条理な世界を渡るために邪魔な「毒」を置いていけよと歌う「POISON EATER」。フロアから特大のOiコールが上がり、この場にいるすべての人たちの存在証明をもって、終幕を迎えたのだった。
当レポート冒頭に、この夜はバースデーライブというよりも、NUL.の3ヵ月連続リリース&ライブ開催の第1弾であることの意味合いが大きいと記した。だが終わってみれば、祝福のセレモニーこそなかったものの、「黎明」が完成した背景や、死生観が強く映し出されたステージは、生きることの表現すなわち生誕公演としてふさわしいものであったと言えるのではなかろうか。“死を意識し、生きるを考える”とは、アルバム『EVILA』(2022年8月発売)のメインテーマでもあったが、無論それは一作品に限ったことではなく、NUL.の根底にあるものに違いない。彼らの始まりの曲「XStream」にも〈最期の瞬間に笑える その為に今を〉とあるように。
「3ヵ月連続でやれるのが嬉しいです」(MASATO)、「また来月会いましょう」(HIZUMI)という言葉通り、NUL.の次回公演は5月15日の池袋EDGE。同時に新たなシングル『Awakening』がリリースされる。さらに今年はイベント出演も決定しており、今後も精力的な活動が期待できそうだ。まずは『Awakening』の完成を楽しみにしつつ、5月公演での再会を心待ちにしたい。


◆セットリスト◆
01. Crumble
02. Hyena
03. God Alone knows
04. ジル
05. SUNBREAK
06. Karma-Agnostic
07. 違法解放区
08. DΦPE SHΦW
09. THE LAST DAY
10. 灯願華
11. 死遊の天秤
12. Dictate
13. From Deep Underground
14. KaliMa
15. 黎明
16. XStream
17. GREEDY BLOOD FEUD
18. HYBRiD BEAST
En1
01. abnormalize
02. I don’ t seek,I find
03. Plastic Factory
En2
01. POISON EATER
(文・金多賀歩美/写真・瀧本葵)
【リリース情報】
<3ヵ月連続Digital Single>
●第1弾『黎明-reimei-』
2025年4月23日(水)配信
●第2弾『Awakening』
2025年5月15日(木)配信
●第3弾『COMA』
2025年6月14日(土)配信
【ライブ情報】
●NUL. LIVE 2025 “The Awakening”
5月15日(木)池袋EDGE
GUEST MUSICIAN:YUCHI(B/sukekiyo)、HIROKI(Dr/D)
●NUL. LIVE 2025 “Coma”
6月14日(土)渋谷Star Lounge
GUEST MUSICIAN:YUCHI(B/sukekiyo)、石井悠也(Dr)
●X OVER
5月30日(金)OSAKA MUSE
出演:ニーチェ、NUL.、Re:sistance、PULSEPHILIA、トチ狂フ.
NUL. Support Musician:KOHTA(B/PIERROT、Angelo)、HIROKI(Dr/D)