2023.09.16
NUL.@Spotify O-WEST
「LIVE 2023 “BULLSEYE”」

HIZUMI(Vo)、MASATO(G)、岸利至(Prog)によるNUL.が、過去2回のツアー同様にKOHTA(B/PIERROT、Angelo)、石井悠也(Dr)をサポートメンバーに迎えた5人体制で、9月16日Spotify O-WESTにて「LIVE 2023 “BULLSEYE”」を開催した。

「この先どうなるかわからないけれど、僕的には明日が終わったらリスタートするつもり」とは、前日の岸のSNS投稿。これがバンドの総意であるか否かは不確かではあるものの、事実、アルバム『EVILA』(2022年8月)のリリースと同時に5人体制のステージとなり約1年が経過、そしてNUL.がこの会場でワンマン公演を行うのは、始動2ステージ目となった2019年11月以来、実に約3年10ヵ月ぶり。加えて、いよいよ『EVILA』以来の新曲2曲がお披露目となることがアナウンスされており、そんな様々なファクターが重なったこの日は、NUL.が次の未来へ向かうための一つの区切りと捉えるには十分なものと言えよう。

HIZUMI
MASATO
岸利至

その幕開けを飾ったのは、新曲「DIVE」。岸による様々な機材を駆使したNUL.らしいデジタルサウンドをふんだんに取り入れつつ、MASATOが奏でるギターの不思議な音階も耳に残る。怪しげなムードを漂わせながら、サビではコーラスワークも相まって一体感を増し、曲終わりにはすかさずフロアから「フ〜ッ!」という声が上がった。そこに続いたのが深い闇に引き摺り込むような「Cube」であったことが実に自然で、もしかしたら「DIVE」という楽曲は、その配置によって様々な見え方をする可能性を秘めているのかもしれないと感じられたのが興味深い。

本編中盤に披露された、もう一つの新曲「INFERNAL」は、この日のMCで「俺が作ったのをHIZUMIがものすごくぶち壊してきて、ウォーッ!?と思ったけど、いいじゃん!という感じで合作となりました」とMASATOが述べたように、HIZUMIとMASATOの初の共作によるもので、なおかつ岸がアレンジを手掛けたことから「3人で作った感じ」(岸)とのこと。「ノレる曲なので、身を委ねて」とHIZUMIが言った通り、スリリングかつ勢いのあるロックナンバーにフロアは抜群の応戦ぶりを見せたのだった。

KOHTA
石井悠也

この日、あらゆる場面を経ながら全20曲が披露されたわけだが、1ステージ全体の印象として強く残ったのは、前ツアーファイナルのある種スポーツ的な体力勝負の熱量を重視したステージとは異なり、より表現という部分に重きを置いたものであったと感じられたこと。それはやはりこのO-WESTという会場に起因しているところが大きく、物理的にもリズム隊のポジションが一段上げた配置となっていたり、大型スクリーンが常設されていることから、VJを入れた演出で視覚的にも楽曲の世界観をより色濃いものとしていった。

また、構成としても本編で言えば全16曲を細かく7ブロックに分け、主に1ブロック2〜3曲を一つの塊としてパフォームしていたことが、実に良い効果をもたらしていたと感じる。「暴れる準備できてんのか!?」というHIZUMIの掛け声を合図に「EVILA」、そしてMASATOとKOHTAが前方へ飛び出した「abnormalize」と続けたブロックで序盤の熱量を一段階引き上げれば、聴く者を惹きつけるどっしりとしたミディアムナンバー「八咫烏 -Yatagarasu-」と新曲「INFERNAL」の間に、落ち着いたテンポ感ながら体を揺らせるエフェクティブな「SEED IN THE SHELL」が配されたことにより、前後を繋ぐグラデーションが生まれた。

HIZUMI
MASATO
岸利至

静寂を挟み、岸が紡ぐ鍵盤の不協和音によるおどろおどろしい始まりから5人の音が重なり混沌としたムードで進んでいく「Ground Zero」、赤に染まったステージに重く響くMASATOのギターと低音域のHIZUMIの歌声の重なりを起点としてエモーショナルに展開していく「残光」というダークな2曲が続いた場面は、まるで「Ground Zero」が序章であったかのように「残光」がよりドラマティックに響き、次いで披露された「Another Face」の曲終わりでは場内に拍手が沸き起こった。

HIZUMIのヴォーカルも楽器の一部のように合わさる、ほぼインストと言っていいトリッキーな「Dictate」で、メンバーコールも含みながらフロアを揺らしたのが後半戦への入口となり、「辛いこととか今は一旦忘れようぜ。踊れー!」(HIZUMI)と、「GREEDY BLOOD FEUD」を皮切りに本編最終ブロックに突入し、盛り上がること必至のライブチューン「ジル」「Plastic Factory」を連投。岸と石井が抜群のタイム感で華やかにフロアを盛り立て、KOHTAがHIZUMI、MASATOとそれぞれ絡むシーンも見られながら本編を終えると、5人は満足げな表情を浮かべ、ひとたびステージを後にしたのだった。

KOHTA
石井悠也

さらに、アンコールのメッセージ性の強さは胸を打つものだった。浮遊する無数の灯籠の映像を背景に、突然消えてしまった人への思いを切々と歌い上げた「灯願華」、そして〈まだ「生きたい」と願う ときに「死にたい」と放つ〉と心の揺れを描いた「死遊の天秤」が続き、MCを挟んだ後「あとはもう暴れるだけでいいかい!?」(HIZUMI)と再び熱量を上げたラスト2曲においても、不条理な世界を渡るために、ここに邪魔な毒を置いていけよと歌う「POISON EATER」の曲中に「ここにいるって叫べー!」とHIZUMIが絶叫すれば、起爆力抜群のNUL.の始まりの曲「XStream」で〈枯れ果てた声刻め 生きた証を〉と歌い、生と死、存在証明というNUL.の核にあるものを示す形で、このステージを締め括ったのだった。

NUL.の次回公演は10月17日、岸の誕生日当日に吉祥寺SHUFFLEで行われる「NUL. LIVE 2023 “Origin regression Act” on K’s BD」。原点回帰を意味するタイトルが示すように、3人編成でのアクトとなることも明らかになった。すなわち冒頭に記した通り、今回の「BULLSEYE」公演は現体制での一旦の集大成であったことは間違いない。さらに、12月27日にはMASATOのバースデーライブ(タイトル未定)が高円寺HIGHで開催されることも新たに決定した。特別な夜になるであろう両日と、NUL.の新章に期待したい。

◆セットリスト◆
01. DIVE
02. Cube
03. From deep underground
04. EVILA
05. abnormalize
06. 八咫烏 -Yatagarasu-
07. SEED IN THE SHELL
08. INFERNAL
09. Ground Zero
10. 残光
11. Another Face
12. Dictate
13. Kalima
14. GREEDY BLOOD FEUD
15. ジル
16. Plastic Factory

En
01. 灯願華
02. 死遊の天秤
03. POISON EATER
04. XStream

(文・金多賀歩美/写真・堅田ひとみ)


【ライブ情報】
●「NUL. LIVE 2023 “Origin regression Act” on K’s BD」
10月17日(火)吉祥寺SHUFFLE

●MASATOバースデーライブ(タイトル未定)
12月27日(水)高円寺HIGH

NUL. オフィシャルサイト