2023.07.08
NUL.@代官山SPACE ODD
「NUL. tour 2023 “HIGH AIM”」

HIZUMI(Vo)、MASATO(G)、岸利至(Prog)の3人編成で2019年に始動したNUL.が、KOHTA(B/PIERROT、Angelo)、石井悠也(Dr)をサポートメンバーに迎えた5人体制で「LIVE TOUR 2022 “EVILA”」を行ったのが昨夏。今年1月にも同メンバーで追加公演を開催したが、そこから約半年の期間を経て、再びツアーという形でこの5人が集結することとなった。

6月9日にスタートし、7月8日に代官山SPACE ODDにてファイナルを迎えた「NUL. tour 2023 “HIGH AIM”」。全5公演という少ない本数ながら、旅を共にしてきた5人のバンド然とした結束力とパフォーマンス、その良好な関係性が感じられる最終夜となった。無論それは、前ツアーを経ているという事実も重要なファクターとなったであろう。

NUL.はこれまでに2枚のアルバムを発表しているが、それぞれフルボリュームの作品ゆえ、それだけで既に27曲ものレパートリーが存在する。前ツアーはアルバム『EVILA』を携えたものであったことから、当然その収録曲が中心となったわけだが、今ツアーはそういったフィルターなしにフラットな状態でセットリストを組み上げることで、現時点での5人体制NUL.のベスト・オブ・ベスト的なステージになったとも言える。

また、ツアーファイナルの3日前には当日のセットリストを公開するという試みがなされたが、その真意をHIZUMIに尋ねたところ、「事前に知りたい人も知りたくない人もいるから、公開して、見るか見ないかはお客さんに委ねようと思って」とのことで、実際喜びの声も届いたという。

楽器隊によるバチッとしたアタック感の強靭なユニゾンから「八咫烏 -ヤタガラス-」で幕を開けたこの夜。続くトリッキーなリズムからサビで一気に弾ける「From Deep Underground」は起爆力抜群で、HIZUMIがスタンドマイクをフロアへ大きく掲げる場面もありながら、場内の熱を早速グンと押し上げる。間髪入れずにNUL.の始まりの曲「XStream」が投入され、HIZUMIとMASATOが前方へ繰り出すと、すかさず中央の空いたポジションにKOHTAがイン。その後も随所で、こういった阿吽の呼吸のステージングが見られたわけだが、それらは明らかに前ツアーよりもスムーズかつ俊敏なアクションだったと感じる。

アルバムの表題曲である「EVILA」では、鍵盤やドラムパッドにコーラスと、あらゆる役割を担う岸のパフォーマンスにも目を奪われ、一瞬の静寂を挟み「soulcage」を皮切りにダークサイドのブロックへ。一定のリズムをリフレインするKOHTAと石井によるリズム隊の安定感はさすがで、続く「Cube」では岸がカウスパッドで音を操りつつ、鍵盤で奏でる怪しげなフレーズが印象的。さらにHIZUMIの緩急のあるヴォーカリゼーションと、歌と歌の間を鋭利に突き刺してくるMASATOのギターの破壊力が凄まじい。鋭利さをそのままにMASATOのギター始まりで「残光」、そこから「死遊の天秤」へと繋いだ場面は、人間味のある心の揺れを表現しながら、闇の中に一筋の光を見せてくれるものだった。

スリリングでドラマティックな展開が魅力的な「BLACK SWAN」、エフェクティブな「SEED IN THE SHELL」を経て、奏でられたのはダークなバラードナンバー「灯願華」。切々と歌い上げる、突然消えてしまった人への思いが胸を打つ。「Dictate」からは思いきりギアチェンジし、「バカになっちまえよ! ぶっ壊れていこうか!」とHIZUMI。5人がアイコンタクトを取りながらメンバーコールも含むこのナンバーで、まずはフロアをぶち上げると、曲終わりにオーディエンスから「フ〜ッ!」という歓声が上がった。どうしたって盛り上がる「ジル」では満場のOiコールが響き渡り、HIZUMIとMASATOが前方下手へ繰り出せば、KOHTAが上手でプレイ。岸が打ち鳴らすドラムパッドも楽曲の勢いを増幅させる。

「めっちゃ盛り上がってるねー。そういうの好きよ。もっともっと会場の温度を上げてやろうかー! メチャクチャになっちまおうぜー! 踊れー!」というHIZUMIの言葉を合図にシャッフル曲「GREEDY BLOOD FEUD」に突入すれば、HIZUMIがステップを踏み、フロアの熱さも増し増し。一段と大きくなるオーディエンスの声に対して、「全員の声聴かせろー!」とHIZUMIはさらなる熱狂を求めた。「まだまだ行くぞー!」と「KaliMa」へ。オリエンタルなムードを感じさせるNUL.流のダンスチューンに、邪悪なHIZUMIの歌声が乗り、フロアは飛び跳ねて応戦。本編ラストはエレクトロな要素も多分に含んだキャッチーなロックナンバー「Plastic Factory」で最高潮の盛り上がりを見せ、フィニッシュを迎えたのだった。

アンコールでは、一つひとつの言葉を訴えかけるように歌うメロディアスな「nomad」、HIZUMIのハスキーな歌声とMASATOのギターリフの重なりがたまらない「SUNBREAK」と、カラーは違えど聴かせる2曲を立て続けに披露。HIZUMIからオーディエンスに対し、「なんか今日、お前ら獣みたいだな。すげーカッコいいよ」と愛ある言葉が投げかけられた。

また、各メンバーにも話を振る中で、石井のスティックの削れ具合がヤバいことが判明。それは、この日のステージがいかに白熱したものであったかを証明するものだったし、ツアーを振り返りMASATOがリズム隊を「もうメンバーかなと」と言ったことに対し、石井がすかさず「そのつもりでやっているんで」と答え、KOHTAもサムズアップをしてみせた場面は、その関係性が垣間見られた瞬間だった。さらに、岸は「今日は感無量です。最高だったから面白いことは言いません! 始動して4年、ここまで来られたんだなと思うようなライブでした」と実感のこもった言葉を残したのだった。

不条理な世界を渡るために、ここに邪魔な毒を置いていけよと歌う「POISON EATER」で、まさにオーディエンスのリミッターを外し、「abnormalize」をもってこの夜は完全燃焼の終幕となったわけだが、「次、9月にWESTで会おうか!」というHIZUMIの言葉通り、9月16日にはSpotify O-WESTにて次回公演「LIVE 2023 “BULLSEYE”」の開催が控えている。そして、本公演も引き続きKOHTAと石井悠也のリズム隊がサポートを務めることが決定した。NUL.がこの会場でワンマンを行うのは2019年11月以来、約3年10ヵ月ぶりとなる。そこで彼らがどんな景色を見せてくれるのか、楽しみに待ちたい。

◆セットリスト◆
01. 八咫烏 -ヤタガラス-
02. From Deep Underground
03. XStream
04. EVILA
05. soulcage
06. Cube
07. 残光
08. 死遊の天秤
09. BLACK SWAN
10. SEED IN THE SHELL
11. 灯願華
12. Dictate
13. ジル
14. GREEDY BLOOD FEUD
15. KaliMa
16. Plastic Factory

En1
01. nomad
02. SUNBREAK
03. I don’t seek, I find.
04. POISON EATER

En2
01. abnormalize

(文・金多賀歩美/写真・@Lc5_Aki)


【ライブ情報】
●LIVE 2023 “BULLSEYE”
9月16日(土)Spotify O-WEST

NUL. オフィシャルサイト