2023.10.17
NUL.@吉祥寺SHUFFLE
「NUL. LIVE 2023 “Origin regression Act” on K’s BD」

「勝手知ったる場所ということで、せっかくなので思い切って3人だけで、気持ちを戻しつつ、3人の魅力をガンガンと出すようなライブにしようと思う」――これは去る9月16日、Spotify O-WESTで開催された「NUL. LIVE 2023 “BULLSEYE”」公演にて岸利至(Prog)が発した言葉で、自身の誕生日に行われる「NUL. LIVE 2023 “Origin regression Act” on K’s BD」公演に向けたものであった。

そこから1ヵ月を経た10月17日、その祝福の舞台となったのは、2007年のオープン当初から岸がこれまでに何十回とステージに立ってきた、まさにホームと言える吉祥寺SHUFFLE。そして、昨年8月以降サポートメンバーのリズム隊と共に5人体制で約1年間ステージを展開してきたNUL.だが、先に記した発言や原点回帰を意味する冠が示すように、オリジナルメンバーHIZUMI(Vo)、MASATO(G)、岸による3人編成でこの日を迎えることとなった。

余談だが、この日は2023年最後の天赦日であり、天赦日×大安という二つの吉日が重なった最強開運日。天赦日は何事もうまくいく「天が万物の罪を赦す日」、大安は一日を通して何をやってもうまくいく「大いに安し」を意味することから、新しいことを始めたり、これまで躊躇していたことにチャレンジするのに良い日とされており、まさに新たなスタートを切るには絶好の幸運日となった。

HIZUMI
MASATO
岸利至

そんな特別な一夜は誕生日当人の岸プロデュースdayとなり、オープニングSEが流れ出した時点でフロアがワッと湧いたのだが、これは後のMCで岸から説明があった通り、元々、彼のソロ曲だったものをアレンジしてabingdon boys schoolで使用していた楽曲で、ソロver.を今回のSEにしたとのこと。「感動しました」と言うMASATOに、岸が「気付いてくれて嬉しい」と話す場面も。

この日のステージセッティングは主役の岸がセンター少し奥、上手にMASATO、下手にHIZUMIという三角形を成す新鮮な立ち位置で行われ、前公演でお披露目かつ発売したばかりの最新作2曲「INFERNAL」「DIVE」でスタートを切ると、様々な場面を経ながら全19曲が披露された。特筆すべきは、全ての楽曲がこの日のための新アレンジとなった点。ことアルバム『EVILA』(2022年8月発売)の収録曲に関しては、基本的にこれまで5人編成のステージでのみ演奏されてきたゆえ、3人編成での披露自体が初めてのこと。なおかつ、そもそもアルバム自体がリズム隊の生音ありきで制作されたものだというから、その変化はかなりのものと言えよう。

重厚なミディアムナンバー「死遊の天秤」はわずかにダンサブルな空気を漂わせ、そこに続いた「Another Face」は、よりリズムを強く感じるバランスに。ダークサイドの「Cube」はHIZUMIの歌声の間を鋭利に突き刺してくるMASATOのギターが特徴の一つだが、そこに重なる岸が打ち鳴らすドラムパッドのアタック音が、なかなかに重要なパーツとなっていると感じられた。また、「踊ろうか!」というHIZUMIの言葉を合図に突入した「Dictate」からの本編終盤ブロックでは、クラブさながらのデジタルビートでフロアを揺らしたのが印象深く、実際のところ岸はいかにクラブのノリを作り出せるかということに注力してアレンジしたのだとか。

HIZUMI
MASATO
岸利至

アンコールでは「自分にバースデープレゼントを用意しました」(岸)と言い、これまでの吉祥寺SHUFFLEでの出来事を振り返り、「ソロもやらせてもらっていて。今日やってみようと思います。でも、せっかくNUL.のライブで素晴らしいギタリストがいるので」とMASATOを呼び込み、「Psychedelic Super Overdrive」へ。次いで「,call&*re-sponse」でHIZUMIが加わり、岸との掛け合いも見られれば、MASATOのギターが絡み合い、まさに3人で作り上げる新たな形となった。

なお、本編をほぼノンストップで駆け抜けたこともこの日ならではで、「1回チャレンジしてみたかった」と岸。「ノンストップライブ、リハでやってみていけると思ったけど、誤算が…酸素が薄い(笑)。地獄だけど、最高の地獄でした」と言ったHIZUMIに対し、「100%NUL.のことしか考えられないようにしたかったんですよ」と、岸はその真意を述べたのだった。そして、「酸素を吸いに行ってきますね」と一度ステージを後にしたHIZUMIが、バースデーケーキを手に再登場し、フロアから「Happy Birthday」の大合唱が自然発生するという一幕もありながら、「もう一度、地獄へ行こうか」(HIZUMI)と、「POISON EATER」「abnormalize」「XStream」の連投で白熱の光景を描き出したのだった。

鳴り止まないアンコールを求める声に、「今の声を聞いたら、出てこないわけにはいかない」(岸)と、正真正銘、予定にはなかったダブルアンコールが実現。「今回用にアレンジした楽曲は全て演奏したので、何をやるかは岸さんに委ねます」とHIZUMIが言えば、「イントロを聴けばわかると思うから、曲名は言わない(笑)。チューニングBのやつ」という岸の言葉から、本編ラストナンバーでもあった「ジル」を再びプレイ。この日、随所で3人が向かい合いアイコンタクトを取る場面が多く見られたが、中でもここでの間奏のそれは最も印象的な1シーンだった。満場のOiコールが響き渡り、プレイを終えた3人のハイタッチをもって、この夜は幕となったのだった。

いわゆる小箱と呼ばれるサイズのライブハウスで、VJなし、配信なし、ノンストップかつ直球で純度100%のNUL.を魅せた潔い一夜を終え、彼らの次回公演は12月27日に高円寺HIGHで行われるMASATOのバースデーライブ。この日はもちろんMASATOプロデュースdayとなるわけだが、NUL.のステージにおけるVJでお馴染みのユニットHello1103にステージにも上がってもらい、これまでにない音と映像のコラボを披露する予定とのこと。さらに、岸から「来年はNUL.ヤバいっすよ。皆さんついて来てください」という発言があったことも記しておきたい。また新たな景色を見せてくれるであろう祝福の日と、それを経て迎える2024年のNUL.の動向を見逃さないでほしい。

◆セットリスト◆
01. INFERNAL
02. DIVE
03. EVILA
04. I don’t seek, I find
05. SEED IN THE SHELL
06. 死遊の天秤
07. Another Face
08. Cube
09. Dictate
10. Kalima
11. GREEDY BLOOD FEUD
12. Plastic Factory
13. ジル

En1
01. Psychedelic Super Overdrive[kishi solo track]
02. ,call&*re-sponse[kishi solo track]
03. POISON EATER
04. abnormalize
05. XStream

En2
01. ジル

(文・金多賀歩美/写真・Yoann、Mandah)


【ライブ情報】
●NUL. Live 2023 “Resonance of Noise” featuring HELLO1103
12月27日(水)高円寺HIGH

NUL. オフィシャルサイト