wyse × 鉄腕アトム・ジャングル大帝・リボンの騎士=『ヒカリ』。
豪華作品の全貌と、TAKUMAという人物像。
今年2月に行ったTOKYO FM HALLでの19周年記念公演をもって、20年目のスタートを切ったwyse。自身の過去曲と向き合った再録アルバム『TREE -Wish-』の完成を経て、手塚プロダクションとのコラボレーションによるニューシングル『ヒカリ』が遂に世に放たれる。wyse ×『鉄腕アトム』、『ジャングル大帝』、『リボンの騎士』という3形態の描き下ろし特殊パッケージに収められるのは、強い思いと希望、未来を感じさせてくれる表題曲に加え、各作品のイメージに沿って制作された三者三様の楽曲たち。そんな豪華作品について、全曲の作詞作曲を手掛けたTAKUMA(2nd Vo&B)にじっくりと話を聞くと、wyseの今、そしてTAKUMAの人生が見えてきた。
◆同調するより、照らしたり導くほうが美しいと思った
――ここにCDの完成品がありますが、やっぱり可愛いですね。
TAKUMA:素敵ですよねぇ。僕は当分この髪の色でいなきゃいけないなと(笑)。この絵は楽曲制作とは別進行だったので、レコーディングに入った頃に見せてもらった感じだったかな。なので、絵を見ながら曲を制作したという流れではないんです。
――各c/wの3曲はそれぞれのアニメを題材にした楽曲ですが、表題曲の「ヒカリ」はそういう意味での具体的なモチーフはないですよね。コラボすることが決まった上で「ヒカリ」も制作に入ったのでしょうか?
TAKUMA:デモのデモのデモくらいのものが何曲も自分の中にはあるんですけど、手塚プロさんとのコラボの話が進み始めて、上手くいけば何作品か描いてもらえるから、シングルをバージョン違いで出せたらすごくない?という話が出たんです。シングルにするなら表題曲はこれがいいんじゃないかと思ったモチーフから作り始めたんですけど、その段階では曲の全体像も見えてないし、まだメッセージも何もない状態で。だけど、その時にもうタイトルは「ヒカリ」だと思ったんですよ。
――タイトル先行ですか。
TAKUMA:こんなこと初めてですね。いつも「タイトルどうするの?」「歌詞も書いてないのに、まだあるわけないやん」っていうやり取りをスタッフとしているんですけど(笑)、今回はこれしかないというか。wyseの楽曲なんだけど、wyseの作品を作るという感覚だけじゃないアプローチを初めてしたような感じです。5月に出した再録アルバムはwyseの『TREE -Wish-』だし、2月の『Break Off/キミグラデーション』もwyseのシングルを作ったんですけど、今回はwyseと手塚プロさんとのチームとしてのイメージソングみたいな感覚があるというか。wyseのために曲を書いているというより、新たな人たちと一緒になる未来のために作っている感覚が強かったんですよね。そこがこれまでと違う点です。と言っても、それは僕が勝手にやっていることで、手塚プロさんにお願いされたことでもなければ、僕が宣言したわけでもなく、気持ちとしての部分ですけど。
――昨年の独立後初のアルバム『Breathe』の1曲目「Open Your Eye’s」では〈新たな血が融合していく 弱さ断ち切れたら〉と歌っていて、「Break Off」はまさに自分の弱さを断ち切るというのがテーマでしたよね。そこからの「ヒカリ」という流れは、とても繋がりを感じます。〈マイナス的な自分に 居心地 覚えないで〉という歌詞もありますし。
TAKUMA:まさにです。逆に言えば、これまでがあったから「ヒカリ」が書けたということでもあって。光には明るさ、キラキラした感じの印象を持つと思うんですけど、この曲を作る時に他の描き方もあると思ったんです。光は影の存在があるから光になり得るだけで、逆に言えば光があるから影がある、両極が存在するためにはどちらも必要なんですよね。これは明暗の話だけではなく、人間もそうだと思っていて。例えば今、影にいる人がいて、その辛さを分かち合うために同調するというのは、簡単なことだと僕は思うんです。その子がその闇から抜け出してほしいという思いなのであれば、僕は逆に自分たちが光の存在になることで導いてあげたり、照らしてあげることが一つの方法なんじゃないかという考えがあって。ずっと光でいられるわけじゃないけど、そのための努力もするから付いておいで、もしくはこの光を感じてほしい、そしてもしその子が闇から抜け出せて光の存在になれたなら、光と光は共存できないから、今度は君たちが輝けるように僕たちは影になるねという意味合いが、僕の中での「ヒカリ」です。今回のアニメ作品から自分が感じた希望、夢、ロマンが、僕の中で感じる光と近かったらいいなという思いも込めた曲なんですよね。
――色々な意味合いが含まれているんですね。
TAKUMA:「Break Off」とかの断ち切るという思いは、wyse、あるいはTAKUMAが、今までずっと書いてきたことの問いみたいなものでもあるのかなと。だから連動性があるように感じるし、その中での一つの進化形だと思ってもらうのも正解です。僕自身がそもそも闇の人間なので、ネガティブだしメンタル弱いし、表現している曲も昔のものであればあるほど、暗い曲が多いんです。だけど僕自身も変わりたくて、歳を重ねるごとに、明るくいたいし楽しんでもらいたいという風に変わっていって、2018年の現状こうなったみたいなところがあるのかもしれないですね。
――それは何かきっかけがあったわけではなく、徐々にそう思うようになったんですか?
TAKUMA:闇の人間で居続けるのは楽なんですけど、嫌なんですよ。そこに居続けても仕方ないし、僕は変わりたいと思った。変わるためには努力も必要だし難しさもあるけど、そのトライはすべきだというのを、歳を重ねるごとに感じてきたのかもしれないです。それと、自分の周りにいる人たちにはやっぱり幸せでいてほしくて。もし僕がものすごく悲しみの中にいたとして、「俺と同じようにいてくれ」とは思わないし、周りが皆幸せでいてくれたほうが、そっちに引っ張られるし、そのほうが良い。「ヒカリ」はそれに近い感覚です。10年前だとそれを表現するまでには至れなかったから形には出来なかっただろうし、もしかしたら5年後、もっと伝えやすい言葉で良いものを作れるかもしれないけど、タイミングもあるのかなと。
――なるほど。遡ると、15周年の時に作られた「Primal」からも通じていますよね。
TAKUMA:そういうものを描きたくてずっと書いていたところもあるのかもしれないですね。年々その表現法が変わるのは、成長すると言うと良く聞こえますけど、失っているものもあると思うんです。でもきっと、失うことで得られる感覚もあるんでしょうね。今、僕がこういう書き方が出来て、作品に出来たから残せただけで、タイミングがなければ形にもならずに、独りで飲みながらウダウダと言っていただけかもしれない(笑)。あと、これは狙っていたわけじゃないんですけど、年始のライブで、2018年の自分のテーマにしたいワードとして、たまたま「光」と答えていたんですよ。僕は忘れていたんですけど、この間ファンの子たちが教えてくれて。何か導きみたいなものがあったのかなぁと今思っています。
――それはすごい。本当にこれまでの色々な物事が積み重なっての「ヒカリ」ですね。
TAKUMA:手塚作品のファンの方々が聴いて伝わるかどうかはわからないですけど、何か感じてもらえるものでありたいとなった時に、やっぱり希望あるもの、感じ取れてプラスアルファになるようなものがいいなと。それが、同調するよりは照らしたり、導く、何かこっちいいなぁと引っ張られるような要素のあるもののほうが美しいなと思いました。
――ちなみに、TAKUMAさんはライブのMCでも歌詞でも、「未来」という言葉をよく使いますよね。それは昔からですか?
TAKUMA:30歳頃からじゃないですかね。高速道路で事故に遭って死にかけたので。僕が17歳の時に大切な先輩が高速道路で亡くなったんですけど、その時に命のことを考えるようになって、僕はその人の年齢になったら死んだらいいと思いながら生きていたんです。だからwyseの初期はそういう表現の曲が多かったりしていたけど、その人と同じ年齢になった時に、身勝手ながら死にたくないと思ったんですよ。墓に行って「もっと生きていたいです」って言うくらい。で、30歳の時に事故に遭ったけど、何とか生きていた。死って自分が思っているよりも近くにあるものなんですよね。一つひとつのことが大事なんだという当たり前のことすら考え直したし、想像できないところに行こうとしているから、良いことも良くないことも起こるわけで、それを受け入れたり望む自分じゃないと、人生もったいないと思ったんです。もっと良い人生を歩みたいという思いは誰しもあると思うんですけど、それって過去じゃないし、今思っていることだけど未来形の話なんですよね。ということは、話の方向や表現の言葉のチョイスはそうでないと、そういうところに行けない。僕、後悔はしたほうがいいと思っているんです。後悔をすることで受け入れる、じゃないと未来は変わらない。結局そこになるんですよね。
――今のTAKUMAさんが未来を感じさせてくれるのは、こういう経験と思いからだったんですね。
TAKUMA:話をしてわかり合える人ばかりじゃないというのはわかっているので、わかり合える人と話しているのは本当に楽しいです。それだけが全てじゃないですけどね。
――「ヒカリ」は9月1日のアンティック-珈琲店-(以下、アンカフェ)とのツーマンで初披露しましたよね。メッセージ性の強い楽曲の初披露のタイミングというのは重要なものだと思いますが、wyseのことだけではなく、活動休止が決まっているアンカフェへの思いを持って、あのステージで披露したというのが温かいなと思ったし、wyseらしいなと。
TAKUMA:MCで「ここで演るのがベストかわからない」という話をしたんですよね。アンカフェのメンバーは自分たちで決めたことだけど、ファンの方たちはそれらをただ受け入れるしかできない。簡単ではないその状況に僕たちなりに思うところもあったんです。ただ、そういう思いを持って、あるいは含んでステージを作るということは、wyseのファンからしたら本当は関係ないことなんですよね。大事な新曲をそこで発表することに対して、理解してくれとは言わないけど、せめてもの言葉は添えながら演りました。ただ、全員がそれに賛同するかと言ったらそういうわけではない。これを読んでくれて、もしかしたら理解が生まれるかもしれないけど、「ヒカリ」という曲の存在や意味ってこうだと思うんだというのがあったので、アンカフェ側がそうであってほしいし、それを観ているwyseのファンの子たちは第三者的な立ち位置かもしれないけど、その輪の中にいるんだという風になってくれたらいいなと思ったんですよね。これは押し付けじゃなく、そういう曲であってほしいというところから生まれた曲なんだということが根底にあったので、タイミングも含めて、ここでやってあげられたらいいなというのがあったんです。本来は、wyseのファンの子たちに一番に演奏してあげられたら良かったんだろうけど、そうできる日程の流れでもなかったので。
――「昔の自分たちと重なる部分もあったり」とも言っていましたよね。
TAKUMA:絶望的な発想で話す必要性はなくて。まだ時間はあるというのは事実なので、最後の日までの時間をどう考えるかで、物事は全部変わるということが一番大事なことだと思うんです。
――以前から、今作について話したいことはたくさんあると言ってくれていましたが、あのステージで「ヒカリ」を初めて聴いて、確かにこれは話したいだろうなと思ったんです。
TAKUMA:ただ、自発的に話しても仕方なくて、誰との会話かによって変わるんですよ。同じような方向の感覚で話せるかにもよるというか。導いてもらいながら会話が生まれたり、僕自身が気付けることもあるので。別に喋るのが好きなわけではないんですよ。本当は暗いから(笑)。
◆wyseらしさを縛りにして吸収できないことがあるなら、それは取っ払うべき
――各c/wが「僕のヒーロー」(鉄腕アトム Disc)、「Link」(ジャングル大帝 Disc)、「Blue Moon」(リボンの騎士 Disc)です。具体的なモチーフがある中での制作はいかがでしたか?
TAKUMA:初めての試みだったので普段と全然違いましたね。各作品のイメージに沿った楽曲を作るというのは自発的にやったことですけど、主題歌と同じくらい光栄なことをやらせてもらっている気持ちとプレッシャーの中で作っていました。まず取り組むにあたって、この作品たちがどういうものか、DVDを見たりしてもう一度触れ直しました。僕が見たものが全てではないというのは当然わかっていますけど、その中で自分が感じるものが何かあるかなと。
――作品のどこに焦点を当てるかというのもありますよね。
TAKUMA:詞の世界やメッセージで言うと、『リボンの騎士』の「Blue Moon」は二面性。女の子と男の子の心を持っているサファイアの心情を大事にすべきなのかなと思いました。女性の心を描けるほど僕は乙女心はわからないけど…
――ロマンティックだなと思いましたよ。
TAKUMA:だとしたら良かったです(笑)。自分では理解しているんだけど、それを抑えられない歯痒さだったり、止められない思いという二面性の行ったり来たりを描けたらいいなというのと、ドラマティックで、その世界がちゃんと見えてくるような言葉のチョイスをしなきゃいけないなと思いました。
――BメロでTAKUMAさんのヴォーカルになるのがすごく効いていて、ドラマ性がグンと増しますね。
TAKUMA:おっ、ありがとうございます。作っている段階でBメロは転調させていたんですけど、最初は月森で録っていたんですよ。でも、展開は変わるけどガラッとは変わりきらないから、僕が歌うことにして、その声も5~6声重ねて不思議な感じに聴こえるようにしました。その部分で、主人公の心の内側を歌っているような、ちょっと本音が出ちゃっているような感じが表現できればいいなと思って。
――イントロの壮大な雰囲気と、所々に入る可愛らしいアクセントもポイントになっていますね。
TAKUMA:『TREE -Wish-』からアレンジャーの炭竃智弘くんという才能と共に制作にあたっています。僕の生む楽曲、そのイメージ、メッセージ、世界観、方向性を理解する能力というのかな、とにかく全てが完璧過ぎて。進行もギリギリだったので、二手に分かれて同時進行することもあったんですけど、間違うことも何一つとしてなかったですね。『リボンの騎士』の世界を表現するにあたり、僕的にはやはり弦楽器のイメージがあったので、ストリングスとピアノでまず楽曲の骨組みを作りました。そこに仮歌を入れて、ドラムは簡単に打ち込んだもの、ベースもギターも装飾もない状態が、本当の1stデモでした。可愛く聴こえるキメはわざと入れたんですけど、それを炭竃くんも上手く受け取ってくれて、そこからどんどん構築して世界観を広げていきました。
――そういえば以前、炭竃さんのことを「もしかしたら、彼は、僕の見ている世界が見えているのかもしれない」とツイートしていましたね。
TAKUMA:もう一人TAKUMAがいてくれたらと思うようなところの遥かそれ以上のことを担ってくれています。夜中の2時くらいにデータを投げて、翌朝聴いてくれるだろうと思っていると、2時間後くらいにもう返ってくるんですよ。で、「うわー、いいやん!」みたいなやり取りを明け方5時とかにしているという(笑)。そういうことが出来てしまうことや、音楽的なところでとても大きな刺激をもらえるし、一緒に作っていく中で道がズレることもなければ、客観的な立ち位置から意見、提案をくれる。そして『TREE -Wish-』から変えたテーマとして、ライブとは違う良さ、かつ、2018年にやっているということと、今後どういう音が耳障りよくなっていくかという傾向を少し取り入れなきゃなというのがあったんです。その延長線上で今回やれて、彼はそういうサウンドの未来像を見るのに長けているし、僕にはない音の作り方、触り方も持っているから、すごく面白くて。
――なるほど。
TAKUMA:「Blue Moon」のアプローチはもちろんメンバー全員、そしてLEVINさんがドラムを叩いていて、色々な人の要素があって完成しました。大好きな曲の一つです。手塚るみ子さん(プランニングプロデューサー、手塚プロダクション取締役)が絶賛してくれて、僕はそれだけでもう満たされました。wyseでやる曲かと言われると、少し疑問ですけどね(笑)。『リボンの騎士』の曲だから作ったけど、単純にwyseの新曲としてだったら、この曲は作ってないと思います。
――そういう点では、「Link」はTAKUMAさんソロっぽいなと思いました。
TAKUMA:それはあるかもしれませんね。でも、良さを融合していってwyseになるというのは元々そうだったはずだから、wyseらしさを縛りにして吸収できないことがあるのであれば、それは取っ払うべきだというのが、今回究極のところまでいっていると思います。
――「Link」のテーマについても教えてください。
TAKUMA:『ジャングル大帝』のイメージを描く時に、やっぱりジャングルビートのグルーヴは第一にあるけど、力強さやレオが駆け抜けている感をどうサウンドで表現するかということと、森や自然に対する思いがちゃんとあるほうがいいなというのもあって、環境保全の要素がチクッと入っているものにしたいなと思いました。それと、ここではレオが現在を生きているけど、20年後30年後のレオは今日を生きた未来だから、君が生きている時代がそのまま進んでこうなっているんだよと。君は君の時間を生きているようだけど、その結果、君が生きた時間を僕は生きているというリンク。それは他者にも言えることで、全ての自然、動物、命にリンクしている。だから、君一人で生きている世界じゃないということに繋がるメッセージになればいいなと。
――なるほど。「僕のヒーロー」の出だしの歌詞、〈きらきらきーら〉はなかなか書けないワードだなと。
TAKUMA:ビビるでしょ(笑)。実は3曲全部が「ヒカリ」とメッセージ、ワードで繋がっている部分があるんです。この曲で言えば、僕の中ではアトムはキラキラ光る星の印象と近くて。誰しもが知っていて、皆にとっての光の存在だったのかなというのもあるし、王道のヒーロー的な描き方ではなく、アトムと過ごした時間と、その先の時間を描けるといいなと思いました。例えば5歳の僕がアトムと一緒に過ごして、10年くらい経つと中学生になって、距離は少し離れるんだけどまだアトムを覚えている。20年くらい経つと仕事をし始めたりして、アトムの存在はもっと遠いところに行ってしまうだろうと。だけど、どんな時も心の中にはアトムがいて支えになってくれているという思いと共に、アトムはずっとそれを見てくれているんだという表現をしたくて。一度離れたとしても、もしかしたらもっと先で、もう一度近くなるかもしれない。だから、いつまでも僕にとってのヒーローはアトムだし、アトムにとってのヒーローは君だよっていう関係性。僕が思うアトムって、そういう力強さと優しさがあるんですよね。
――力強さと優しさ…わかります。
TAKUMA:作品に込められたメッセージや問題定義ではなく、その存在がどういう影響を子供たちに与えたか、大人になってどういう影響が残ったかというのを大事にしたいと考えました。そして、いつか命がなくなったとしても、まだその先もあるよって言ってもらえるくらいのアトムの存在を描けるといいなと。アトムの世界観の中で死という表現はしたくないですけど、それくらいのリアリティー、ドキッとするようなところまで描くのが手塚作品の特徴の一つでもあるのかなと思うと、ギリギリのところまでの表現は書いたつもりです。〈流れ星〉というワードが入っているのは、人の死を連想させるところがあるからで。流れ星自体が星の死でもあるけど、願い事が叶うとも言われている、すごく不思議な立ち位置のものですよね。尊くて美しいものだけど、その存在自体が儚いもので、そういうのって良いなぁと。曲調はポップだし、軽く感じられて笑顔になり得るものでOKだけど、歌詞をちゃんと聴いた時に何か引っ掛かりが残るといいなと思いますね。
――この曲は月森さんの声にとても合っているなと思いました。「キミグラデーション」と近い可愛らしいテイストですね。
TAKUMA:軽やかに笑顔で歌ってくれるのがアトムの心だと思うので、重く歌われたら意味がないんですよ。笑顔で見守っているような儚さも良いんじゃないかなと。大人が聴いてカッコいいと思うテーマ曲ではなく、子供が踊ったり、そういうところで流れているくらいの曲になったらいいなと思ったんです。そうなった時に〈きらきらきーら〉で始まるというのはすごく適していると思うんですよね。だから、「何この恥ずかしい表現」と言われたとしたら、成功なんですよ。
――今までのお話を聞いて、3曲が「ヒカリ」と繋がっているということが納得できました。
TAKUMA:直接ではないけど、何かしらで繋がっているんです。光と影、二面性、結び付きが、3曲を通してメッセージになっていたら美しいなと。それを繋げてくれているのが「ヒカリ」というワードだったら美しいのかなと思います。
◆この約20年は、準備だったんだなという感覚もある
――『TREE -Wish-』で過去曲と向き合ったこと、最新のサウンドで再構築したことが、その後の制作に影響を与えたことはありますか?
TAKUMA:ありますね。今の自分らで構築することをテーマにしたので、劇的に変わることも大事だというトライだったんです。その中で「Scribble of child」(2000年発売のデモテープ『Lime』収録)とかは特に表現が変わった1曲なんですけど、正直迷ったんです。メンバーに聴かせた時も躊躇いがあって、MORIから「うーん…カッコいいけど、これをwyseの表現としてやっていくのが良いのかどうか」という言葉もありました。僕、その時にTwitterで「ちょっとチャレンジしたいけど、いいかな?」というようなことをわざと書いたんですけど、自分の気持ちを固めるためだったんですよね。『TREE -Wish-』は現在の音の表現方法によって曲が生き続けてほしいという思いも込めた作品だったので。それがあったから、自分の中でwyseとTAKUMAのカテゴリーを分けていたのを、もう少しだけ一緒にするのもいいのかなと思えたんです。だって、wyseのファンの方が聴いたらwyseの曲で、それを僕が歌えばソロになるけど、ソロのファンの方からしたら全部TAKUMAの曲じゃんってなるのもわかるし。今回の3曲が三者三様になっているのは、行ききっているからだと思うんですよ。これが『TREE -Wish-』の前だったとしたら、wyseという縛りの中でもうちょっと幅が狭まっていたと思います。これはやり過ぎだよねって。でも、良いと思えるのであれば、その表現は形にすべきというところに今はいけたかな。
――20年目ということを意識した部分はありますか?
TAKUMA:15周年もソロの10周年の時もそうだったんですけど、言われて意識することのほうが多いですね。過ぎちゃったら戻ってこないわけで、イコールそれはちゃんと自覚して大切にしないと、何も生み出せないということだと思うんですよ。僕は当事者だけど、僕より20周年を大事に思ってくれている人が多いんだと思います。その人のためにも、ちゃんと考えた行動と時間を作らないとダメですよね。期待が高まるようにしてあげたいし、その期待以上のものを作れたら、きっと20周年も良くなるのかなと。結果、自分もそれを見て良かったと思えるだろうし。
――前回、独立してからの激動の1年間を経て、2年目の不安みたいなものもあると言っていましたが、今の気持ちとしてはいかがですか?
TAKUMA:『TREE -Wish-』の制作で未来を思いっきり見るしかない時間を過ごせて、皆の反応を見る限り良かったと思えたことでまた進めたし、手塚プロさんのお話をいただけて、またさらに未来に向かって進めた。そういう意味では不安を感じるというよりは、一つひとつ次のことにチャレンジできているのは嬉しいし、必死で。正直、独立してから意味がわからないくらいタイトな進行でやってきているんですけど、音楽家としては有り難いです。その昔、何もなくて家の窓拭きばかりしていた時期があったので(笑)。
――そんな時が(笑)。
TAKUMA:今回のコラボのお話があったことで、これからどうなるんやろと考えずに済んだというのもあります。気持ちが満たされる感じは凄まじかったですね。ものすごいプレッシャーでしたけど、人生でこれだけプレッシャーを感じることもそうそうないから、それすらも幸せなことだなと。この作品は売れてほしいというより、早く手に取ってほしいという感覚です。良いものを作れたなと思います。今年38歳ですけど、30歳の時にあんなことがあって、この先何もないのかななんて思っていたのが、この2年でこんな幸せなことがあるということにまず感謝、良かったなという気持ちです。15~16歳から音楽をやりだして、約20年後にこんな挑戦のお話をいただけるなんて思ってもいなかったし、適当に生きていたらこういうアプローチは出来なかったなと思って。だからこの約20年は、その準備だったんだなという感覚もあるし、音楽家としてちゃんと準備してきて良かったなって。過去も全部繋がったのかなと思いますね。
――今作のリリース後すぐにツアーが始まります。各2daysでDay1は2011~2018年、Day2は1999~2018年の楽曲で構成されるということで、wyseベスト的なツアーになりそうですね。
TAKUMA:集大成じゃないけど一区切りというか、第何幕かの終了くらいの感覚かな。来年20周年だけど、そこより今だと思うんですよね。ここまでの一連の流れを明確に終えることが大事だと思うので、完結しそうな感じがありますね。ちょっと駆け抜けていますから、大事にしなきゃいけないなと改めて思っているところです。未来に何が起こるかわからないというのは喜びも、その逆も一緒なので、しっかりやりたいなと。いつか必ず壊れますから。だから壊れるまでに何ができるかというのがすごく大事だと思うんです。いつ死ぬかわからないから不安だし、だからこそ生きられるというのもあるけど、わかってしまえば、怖さや悲しみもあるけど、逆算してできることもあると思うので。そういう意味では僕らはこの先どうなるかわからないから頑張っているけど、同時に不安もあるから、一つひとつ一生懸命やるしかない。その一つの結果がこの作品とツアーなので、ぜひ楽しい時間を皆で作れたらなと思います。
(文・金多賀歩美)
wyse
<プロフィール>
月森(Vo)、HIRO(G)、MORI(G)、TAKUMA(2nd Vo&B)によるロックバンド。1999年2月14日結成。2001年12月にメジャーデビューし、精力的に活動を展開するも、2005年2月13日の渋谷公会堂公演をもって解散。6年間の沈黙の後、2011年2月14日に再結成を発表した。その後6年間活動を続け、2017年2月12日のワンマンライブで所属事務所からの独立を発表。8月リリースのアルバム『Breathe』で約16年ぶりのメジャーデビューを果たし、解散以来約13年ぶりとなる全国ツアーが実現。2018年2月、シングル『Break Off/キミグラデーション』をリリースし、TOKYO FM HALLにて19周年記念公演を開催した。現在、手塚プロダクションとのコラボ企画「wyse 20th+OSAMU TEZUKA 90th=110万馬力」を展開中。
■オフィシャルサイト
http://wyse-official.com/
【リリース情報】
『ヒカリ』
2018年9月26日(水)発売
(コロムビア・マーケティング)
【収録曲】
[鉄腕アトム Disc]
01. ヒカリ
02. 僕のヒーロー
[ジャングル大帝 Disc]
01. ヒカリ
02. Link
[リボンの騎士 Disc]
01. ヒカリ
02. Blue Moon
【ライブ情報】
●wyse 20th+OSAMU TEZUKA 90th=110万馬力 COLLABORATION TOUR「ヒカリ」
9月29日(土)さいたま新都心VJ-3(※特別編「wyse祭」)
ゲスト:RYO(KING)、Junichiro(KING)、石月努
9月29日(土)さいたま新都心VJ-3(※chain会員限定)
9月30日(日)さいたま新都心VJ-3
10月20日(土)OSAKA MUSE
10月21日(日)OSAKA MUSE
11月3日(土)名古屋SPEAD BOX
11月4日(日)名古屋SPEAD BOX
12月7日(金)新宿ReNY
サポートDr:LEVIN
12月8日(土)新宿ReNY
サポートDr:MOTOKATSU
●20th ANNIVERSARY JURASSIC ~イチカバチカ2018~『Rage is white monster』TOUR
11月24日(土)名古屋SPADE BOX
11月25日(日)OSAKA MUSE
出演:JURASSIC、wyse、LAID