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悲しみが悲しみを超えてしまう前に――。激動の1年を経て完成した『Break Off/キミグラデーション』が、wyseの新たな未来を切り拓く。

昨年、所属事務所からの独立という大きな決断を経て、8月にリリースした約16年ぶりのメジャーデビューアルバム『Breathe』を引っさげ、全国ツアーを開催したwyse。TOKYO FM HALLでの19周年記念公演を目前にリリースされる最新作『Break Off/キミグラデーション』は、エンジニアに比留間整、アレンジャーに三代堅、ドラマーにMOTOKATSUを迎え制作され、「wyseでありながらも、劇的に変化していく」第1弾作品に仕上がった。さらに、ライブ音源が3形態に各10曲ずつ収録されるという異例のシングルでもある。wyseにとってまさに激動だった1年、だからこそ生まれた今作について、月森(Vo)とTAKUMA(Vo&B)のロングインタビューを前後編に分けてお届けする。

◆この1年だけで再結成してからの6年間以上に進んだ気がする(月森)

――wyseにとって“初めて”の7年目、独立して新体制になった2017年を振り返って、いかがでしたか?

月森:音楽をやる上で、ダラダラやるのが嫌だったんですよね。本気で意味のある、自分たちの納得できる道を進もうと話し合ってから、どこまでできるかという不安と楽しみもありつつやってみた結果、ファンの人たちは側で見てくれていたからわかると思うんですけど、想像していた以上に頑張れたんじゃないかなと。明確に目標を決めて一つひとつクリアしていこうという活動方法ではなかったけど、全力で走りきって、気付けば結構走ってたねという。もちろん手伝ってもらった人たちのお陰でもありますけど、僕としては必死で走っていたので、気が付けばこの1年だけで再結成してからの6年間以上に進んだ気がしています。

TAKUMA:思うことはめちゃくちゃいっぱいあるんですけど、結果的にチャレンジして良かったなと思えたことが一番大きいですね。もちろんそれまでも精一杯やってきたけど、どういうふうに精一杯動くべきかを考えて動いた1年だったし、踏み出すことに対して不安のほうが多いのも当然なんですけど、それは、やったことがないことをしようとしているからだし、初めてのことをするということは景色も全部違うわけで、さらに全てにおいて結果が生まれていくということですよね。ファンに対しても、ライブに対しても、一つひとつ結果が伴い、それを問われるので、やはり正直な気持ちは不安だったんだと思います。そういう意味では全て精一杯やって、結果的に意味があったのかどうかと言うと、やって良かった1年だったなと今はそう思えています。

――なるほど。

TAKUMA:あの時の決断をしなくても、3年後、5年後もwyseをやっていたかもしれないですけど、どういう状態でやっていたいのかということだと思うんですよね。今までと同じ状態のままでの5年後の可能性より、壊れてもいいから精一杯走ってみて可能性を広げるほうが、未来がある気がしたんです。確実に成功するとか、安心感があるところに進んでいくのではなかっただけに、すごくプレッシャーや不安は大きかったですね。でも、決断した瞬間に物事が全く変わっていって、人との出会いも増えた中で、今のスタッフと一緒にやることにもなりましたし。今回の「Break Off」にも繋がるんですけど、受け入れるということ自体がすごくトライだったんです。その結果がメジャーから作品を出すということにも繋がりました。実は数年前にもメジャーの話はあったんですけど、その時はそれを選ばなかったんですよね。だから、今回の決断以降は全てが劇的に変わっていったし、今まで選択してきたものとは異なる選択を取り続けてきた1年だった。

――プレッシャーが良い方向に結び付いていったんですね。

TAKUMA:事務所を離れたってちゃんとできるという気持ちもありましたけど、どのレベルでやるのかということが問題で。規模を縮小するなら普通にできるけど、あれより縮小する意味はもうないくらいだったので。そうじゃなくて独立するというのは、理解はしていたけどやはりものすごく大変でした。メジャーデビューすると決めたけど、まず曲がないわけで。でも、それを示せる1年にならないと未来はないと思って。僕らだけでやっていたら、アルバムを作らずに、手に取ってもらいやすいシングルに…という気持ちになっていたと思うんですけど、結果的にアルバムにしたことによって今のwyseをバーンと出せて、全国ツアーにも行けた。全てにおいて、今やらんといつやるの?ということだけが続いたから、すごくしんどかったですけどね。

――そうだったんですね。

TAKUMA:でも、そんな時間を過ごすのって、3年後、5年後できるかと言ったらわからないですよ。人生、チャレンジできる時がそんなにあるわけではないと思うんですよね。結果それが続いていけば、10年後もすごく良い状態でwyseをやれているだろうし、未来を変えられている可能性があるというか。確信なんてないじゃないですか。絶対にこれで行けるよという道があれば楽ですけど、ないので、チャレンジし続けるしかないのかなと思います。

――結果的に、決断して正解だったと今は思えているんですね。

TAKUMA:今はね。だけど、スポーツでも2年目が怖いとか言うじゃないですか。今は今で怖いですよ。一般的に人って慣れっこになっちゃうもので、僕らがこれだけ活動を続けているからこそ、いつでもいる存在になっていると思いますけど、色々なアクションを起こすと共に、僕らも変化しなきゃいけないし、刺激を生み出さなきゃいけないのかもしれないですね。

◆自分の弱さを断ち切る(TAKUMA)

――2月14日がwyseの結成記念日ですが、今作『Break Off/キミグラデーション』は19周年を迎える直前の2月7日にリリースされます。

TAKUMA:『Breathe』を出して次の作品をどうするとなった時に、周年ライブを跨ぐか跨がないかで劇的に未来が違うよねという話になって。周年の前であれば1月でも別に良かったんですけど、それが2月後半とか3月だと、未来にスタートしていくというテーマ性が変わってしまうというか。一区切りしてから新たなものというふうになるのか、このシングルと共に1年を始めていくから、よろしく頼むよという日になるのかで違う。僕らは後者を選んだほうが良いと思ったんですよね。

――「Break Off」は歌詞中の言葉から取ると「遮断」を意味します。ストレートに捉えると、別れを描いた恋愛ソングですが、作詞曲者のTAKUMAさんの中では他の真意があるのかなと。

TAKUMA:これは僕の歌詞のスタイルでもあるんですけど、人って、読んだ時にその人の中での解釈で、こうだと断定して読むんですよ。その時に、含みがあるだけで全く違う世界観に取れたりすると思うんですよね。恋愛って生活の中で身近なものの一つであると僕は思っているので、恋愛の物語に取れるキーワードをあえて選んだりもしています。だけど、僕の中では気持ちを断ち切るというのがテーマで、もっと言うと、どっち視点で何を断ち切るのかがテーマでもある。だから、読んだ方が恋愛的な意味で相手への思いを断ち切ると取るのは間違ってないんですけど、いつか違う言葉が引っ掛かって「こういうことかな?」と思ってくれたら、それはこちらとしてはさらに嬉しい話で。3パターンくらい捉え方があるんです。

――ツアーファイナルでTAKUMAさんが言っていた「悲しませるためにやっているわけじゃなくて、やるからには喜びを、笑顔を作るために頑張るから」という言葉も、この楽曲に重なる部分がありました。

TAKUMA:要はそういう遮断なんですよ。サビの部分で言うと、〈悲しみが 悲しみを超えてしまう前に〉という言葉自体にまずポイントがあるんですけど、〈すべての記憶の回路を遮断してしまえたら〉ということは、遮断するとは言い切ってないんですよね。出来たらいいのにと言っているけど、その次の段落から全く違うことを言っているんです。例えば、第三者に対しての思いを遮断してしまえれば楽だけど、遮断すべきは違うことじゃないのかということを歌っています。楽になることを考えている自分の弱さを断ち切れという。僕らの人生で言えば、これまでやってきたこととこれからの不安、同じことを辿ればいいんじゃないかという安心感、色々なことがグシャグシャになっていく弱さを断ち切れというのもあるし、恋愛で言うところの、君との思い出を断ち切れたら楽になれるのにと言っていることも、そう言っているお前の弱さを断ち切らなきゃいけないんじゃないのかというのが主軸です。今後、人のことを疑ってしまったり、これからの活動の中で不安要素が出てくるかもしれない。それを断ち切れたら強さだけど、そんなことを考えている自分の弱さを断ち切りなさいと。だから、1回信じたものをどこまで信じられるかの強さというのが「Break Off」のテーマです。

――こういうTAKUMAさんの歌詞の意図を、月森さんに伝えることはあるんですか?

TAKUMA:毎回、そういう話はしないようにしています。

月森:取材で初めて「そうだったんや」ってなりますね。大抵の場合は、知らないほうがいいと思う。だって、俺は今このタイミングで知って、読む人も今、そういう意味やったんやってなるので、読んだ人以外はそれを知れないわけで。一般的には知らないまま聴く。そのフラット感のほうがいいと思うんですよね。だから…(TAKUMAに向かって)余計なことは言わなくていい(笑)。

全員:(笑)

TAKUMA:難しい問題ですよね。恋愛的な言葉で捉えて、すごく良いと思っている人に対して、僕がこの言葉を投げかけるのは、断定しているものに違うことを植え付けるので、それを別のストーリーだねと面白く考えられる人だったらいいんですけど、「あれ?」ってなっちゃう人もいるのかなと。

月森:その人の中で生まれた感情は、それはそれで正解なのに、作者が違うことを言っているんだったら、自分が考えていたことは間違いなんだねと思っちゃうのは、すごくもったいない。

TAKUMA:僕はサイドストーリーになればいいくらいなんですけどね。なるほどと思う人はそれでいいし、私は今は違うなと思っても、いつかそれも含めて感じてくれたら嬉しい。映画みたいなものですね。MORI(G)も絶対そういうふうに思っているから、「どう捉えた?」とは聞かないし。MORIと話をしていてちょいちょい「そっちじゃないけどなー」と僕は思うけど、そっちじゃないストーリーを作ってくれているというのは、正解だし成功なんですよね。これしかないというものを作るのは、ある種簡単で。それしかない以上のものにすることのほうが、魅力、ロマンがあるというか。それを挑戦したくてやってきているので、全員が違うふうに受け取って、違う言葉が出るほうが「あぁ! なるほどね!」と思えます。

――月森さんはどう捉えたんですか?

月森:(笑)。TAKUMAはこういう書き方をすることが多いので、歌う度に自分のその時の精神状態で本当に毎回変わります。最近何があったとか、メンバーなので大体知られてしまっている中で、こういうことを思っているんやろなと思われているだろうし、大抵それは合っているんでしょうけど(笑)。「Break Off」に関しては、レコーディングした時は恋愛の物語として歌いましたね。

――ライブで歌う際は、その日の気分で捉え方が変わる場合もあるんですね。

月森:余裕で変わりますね。

TAKUMA:作った時点で〈悲しみが 悲しみを超えてしまう前に〉と歌っていたので、そのワードをスタートとして書き始めていきました。「どういうこと?」と引っ掛かる言葉だと思うので、それがタイトルでもいいぐらいなんですけど、その言葉が何に掛かるのかがものすごく大きいから、そこがコケると何かよくわからないことを言っているというふうになるというか(笑)。自分が抱えている悲しみに居心地の良さを感じてしまうと、どんどん抜けきれなくなる。ネガティブに居続けるのって楽なんですよ。依存しやすいし、そこにいるのが気持ちいいとすら思い始める。ポジティブに居続けるほうが本当はしんどいし、難しい。そっちのほうが光があって気持ちがいいはずなのに、ネガティブという要素は引きが強いというか。見えているものも見えなくなるし、あるものもないように感じちゃうから、小さな幸せすら気付かなくなるということでもあると思うんですよね。だから、何をBreak Offするの?ということです。誰かを遮断して孤立していくのは楽だよね。そうじゃなくて、受け入れるためにそのつまらん自分を遮断していかなきゃいけないんじゃないの?っていう逆の発想です。

――なるほど。そして「キミグラデーション」は可愛らしい曲ですね。

月森:これ、なんで可愛いんでしょうね。最初のギターのフレーズとか特に可愛くないのに(笑)。

――(笑)。ポップな曲調と月森さんの声のマッチング、二人の掛け合い、歌詞に出てくる〈グミ〉というワードかなと。

月森:タイトルもね。俺、このタイトルはwyseの中で1~2位を争うくらい好きです。

――〈ハニカミ合った二人〉というワードがポイントになっていますよね。

月森:レコーディングの段階から手拍子も入っているし、全体を通してものすごくライブ曲だと思っていて。なので、意味を深く伝えようというよりは、状況描写みたいなもののほうが近いです。ただただ〈ハニカミ合った二人〉だったねという歌い方をわざとして、全体を通してラフに聴けてラフに楽しめるようにしています。裏をかいてじっと聴く曲じゃないと思うので、楽しんで聴けるようにあまり深みのある歌い方はしてないですね。映像を歌っているような感じ。

TAKUMA:ツアーを回っていて、こういう曲があったらなと思ったものを形にしていったというのが、まず軸としてあって。最初、サビが英語だったんですよ。文法はおかしいと思うけど、「ハニカミ」が「honey coming up」みたいな感じで。だけど、そんなカッコいいことを書いたら、ちょっと寒いなと(笑)。で、作り直したんですけど、ハニカミ合っていた人たちが最後は笑い合っているという流れが大事で。僕、周りが思っている以上に神経質で、歌詞を書くのが一番ストレスなんですよ。ずっと家にいても書けないから、よく公園に行くんですけど、昼時に幼稚園の子らが遊んでいるのを見た時に、これを書こうと思ったんです。無邪気に走り回っている光景を見て、「いいもんやなぁ」みたいな気持ちで書いたから、結構ポップな歌詞になったという。言葉を繋げていっているうちに、ライブも子供たちと近いところがあるなと思ったんですよね。最初はちょっと構えていたりするけど、最後には一緒に笑い合っている絵面とか、光がある感じにも取れるし。もう一つは、子供に対してもライブに来てくれるファンに対しても、みんな同じじゃなくていいっていうことを言えたらいいなと。サビに行くまでの部分で書いていることですね。

――きっかけは、ものすごくほんわかしたものだったんですね。

TAKUMA:もしファミレスで高校生を見て書いていたら、年齢層がグッと上がるので〈グミ〉は使ってないし、〈ハニカミ合う〉っていうちょっと可愛らしい言葉は使ってないと思うんですよね。それこそ英語を使っちゃっていたかもしれないし、「キミグラデーション」という言葉も出なかったかもしれないですね。

――「キミグラデーション」は二人で歌い分けているツインヴォーカル曲ですが、両A面シングルの1曲はこの形にしようと制作に取り掛かったのでしょうか?

月森:いや、歌う瞬間までどこをどっちが歌うか決まってなかったです(笑)。

TAKUMA:毎回そうなんですよね。そもそもデモで僕が全部歌っているんですけど、月森が歌うイメージは全く違うので、「Break Off」はここは俺が入ったほうがいいんじゃない?という部分は入るし、必要なければ入れないという感じで。月森が見ている画なのか、月森を見ている画なのか、視点の違いを歌で分ける時もあるんですけど、「Break Off」には必要なかったので僕は後ろでずっと歌っています。「キミグラデーション」は現実的にサビが一人で歌えなくなっちゃったという(笑)。

――確かに(笑)。

TAKUMA:一人で歌えるように書き変えてしまったら、どこか削がれていくというのもあったし、ライブ曲なので入れ替わったほうが盛り上がるんじゃないかなというのもあって。最後は同じラインを二人で歌っているけど、ライブの時は僕がハモリにいくし。結局この中で描かれているものって、基本的に二人だと思うんですよね。それを月森と僕が歌っていて、ハニカミ合っていたのが最後は笑い合って「なー(笑顔)!」っていうのもありかなとか(笑)。

月森:(笑)

――実は、月森さんとTAKUMAさんがイチャイチャしている曲…と思ったんですよね(笑)。

全員:(笑)

TAKUMA:ライブで絶対盛り上がる曲になったと思います! 既に2~3回やったんですけど、これからもっとライブでポイントになる、やっていて楽しい曲になりそうだなと。絶対笑顔になれるし。

月森:ここ最近、「行くぜ!」というカッコいい感じで、ピリッとした空気でやる曲が多かったのもあって、こういう曲が入るとすごくライブがしやすいです(笑)。

後編へ続く