常に進化し続けるvistlipがニューシングル『COLD CASE』を完成させた。
これまでの作品から大きく様相を変えた意欲作に見るバンドの現在、そして未来とは――。
前作『OVERTURE』からわずか3ケ月、vistlipが新たなシングルを完成させた。今回の作品は、これまで彼らが提示してきた“綺麗な”シングル作品とは一味違う、“おどろおどろしい”タイトル曲を筆頭にしたロックな1枚。結成8年を迎えた今、バンドの根本に立ち返り、更なる飛躍に向けて大きく舵を切った今回の作品を、智(Vo)は「この曲で自分としてはすごく今後が見えてきた気がする」と語ってくれた。彼らにとっても新たな挑戦だったという今作について、智(Vo)、Tohya(Dr)に話を聞いた。
◆挑戦の意味もあって「COLD CASE」をリード曲にしようと決めた(智)
――この夏は3マンライブ(vistlip、ダウト、R指定による「JAPANIZM MARKET’15」)、4マンライブ(vistlip、己龍、BugLug、R指定による「均整を乱す抗うは四拍子」)も行われましたが、振り返っていかがでしたか?
智:あっという間でした。でも、2ヶ月一緒に過ごして、なんだか長かったです。
Tohya:しばらく自分たちモードを忘れていたけど、ようやく自分たち一本になった感じですね。
――他のバンドと絆は深まりましたか?
Tohya:深まりましたよ。何しろ友達がいない智さんが、友達を作ってましたからね!
智:うん。認め合っているからこそ、できることだと思います。
――その中で今回のシングルのタイトル曲「COLD CASE」は、既にお披露目済みなんですよね。
智:そうです。4マンライブでは全箇所やりました。
――以前、智さんが「ノリが今一つ納得いかなかった」と言っていましたが、今回はこれまでにないテイストの曲だったのでライブを見に来た方々もすんなりはいかなかったのかもしれませんね。最初に再生した時、てっきり間違えて違うアーティストの曲を再生したかと思いましたから。
智:あはは(笑)。いや、世の中には需要ってものがあると思うんですけど、例えばvistlipがこれまで発表してきたシングルをライブでなかなかやらないのは、きっとライブのスタイルとか、そこで見せたい自分たちと、発表してきたシングルの質感に若干のズレみたいなものがあるからなのかなと。自分たちの到達地点を見据えたときに、vistlipは一体どんなバンドなんだろう…そう考えたときに出した一つの答えが「COLD CASE」です。
Tohya:ライブでシングル曲が使えない、ということは実際ありました。詞の世界観が強めだったり、単純にポップで他の曲となじまなかったり、流れがよくなかったりして使いづらいんです。
智:自分たちのライブでの人格にふさわしいものって何だろうって考えたときに、それはポップではなかったんです。そして今のvistlipが求めたものに“おどろおどろしさ”があった。そこから挑戦の意味もあって「COLD CASE」をリード曲にしようと決めました。c/wの「SIREN」はダークでvistlipらしいと思うんですけど、おどろおどろしさがなかったんですよね。
――この3曲で1枚が構成されているというところに挑戦を感じました。これまで必ず入っていた綺麗な部分が一切ないという潔さが素晴らしいなと。
智:確かにそう考えたらそうかもしれませんね。これまで、必ず1曲は綺麗なものにしてきましたから。でも今シーズンはその綺麗さの考え方が違ったんです。「綺麗にすることでvistlipになる」みたいな方程式に、俺たちがすがっているような気がしていて、「またこの感じか」っていうのがすごくあった。デモ曲にも綺麗な曲はいっぱいあって、最初はいつもの感じで選曲したんです。だから綺麗な曲ももちろん入っていたんですけど、それでシングルを組んでプレイリストで聴いたときに、これをあと何年繰り返すんだろうと思っちゃったんですよ。まるで安定を求めているような音楽で、ファンを楽しませ続けることとか、刺激を与え続けることが本当にできるのかなと思って。そうしたら、きれいな曲で構成されたシングルっていうのが自分の中でダサく感じてしまって、急遽Tohyaに作らせ始めたんです。
Tohya:あれは、レコーディングの3日前か4日前だったかなー…。
――何ですか、その怖いスケジュールは。
智:あはは(笑)。で、Tohyaに「こういう曲を1日で作ってくれ」ってお願いしたら3時間くらいで「COLD CASE」を作ってきたんです。すごいなと思って、「じゃあ、あと2曲ぐらい作ってみよう」って言って。
Tohya:鬼だよね(笑)!
智:だって3時間で1曲できるなら、1日あれば3曲くらいできるだろうと思ったから、「次こういう曲作って」って言うのを繰り返して。で、3時間でできたのが「COLD CASE」と「SIREN」です。「BAKE」は元々あったので。
Tohya:ちなみに、もう1曲あったのはボツになりました。
智:明るい曲だったんですけど、テーマに当てはまったんですよ。なので「それは違ぇよ」と。
――それにしてもヒリヒリするスケジュール感ですが、これまでにもこういうことはあったんですか?
智:元々ある曲をギリギリまでイジることはあったけど、ゼロからっていうのはなかったね。
Tohya:うん。直前にゼロからっていうのには驚いた。言われたのも驚いたし、曲ができたのにも驚いた。「俺、できるんだ!」って(笑)
智:曲、すぐ来たもんね。俺、待ってたんだよ。「飲みに行こうかなー」って思いながら。
――正座して待っていてあげてください!
智:えー、だってその間に俺ができることって何もないじゃないですか(笑)。
Tohya:俺は、智から送られてきた参考曲を1時間くらい聴いた後、マシンのように作ってました。不思議なことに、本当にスッと道ができたんです。しかも、できた曲に対しての智からの指摘もそんなに多くなかったんですよ。サビのメロをちょっと変えてとか、構成をこうしてって言う程度で。
――さすが8年目ともなると阿吽の呼吸ですね。でも今回この難題がクリアできたから、次回は要求が上がって2時間で1曲、とかになるのでは。
Tohya:もうあの苦しい思いはしたくないので、時間があるときにストックしておきます(笑)。でも自分はギリギリだからこそ力が発揮できるっていうのは昔から感じていたんですよ。逆に余裕があると大したものができない。自分で勝手に締め切りを作るといいんでしょうけど。余裕があるとやらないんですよね。だから、あの作戦はいいのかもしれないな。
智:作戦(笑)? でも、今回はメンバーのアレンジもなかなか大変そうだったよね。俺たちが何時間かでできたんだから、お前らは寝ずにアレンジしろよって言っちゃったし。Tohyaが一人でやってのけたんだから、みんなも同じようにやるべきだって、若干厳しい口調で言っちゃった気がします。あんな風に言う必要はなかったんだけど、眠かったから、つい(笑)。
Tohya:俺はレコーディング前日に「COLD CASE」のフルコーラス版をみんなに送ったんですけど、その時に「全部完成するまで寝るなよ」みたいなメールを書きました。
智:絵文字とか何もついてない廃人みたいなメールだったよね(笑)。
Tohya:その時は邪悪なTohyaになってたからね。
◆今はロックしたい時期なんだよね、きっと(Tohya)
――「COLD CASE」はギター陣が張り切ったのではないかと思われる楽曲です。
智:どうでしょうね。俺は彼らの気持ちとか、しっかりとした音楽のルーツとかがわからないから、「COLD CASE」を提示した時にどういう風にしてくるんだろうとは思っていましたけど。
Tohya:今回は俺がギターソロまでイメージを作っちゃったので、ウワモノ以外は僕が作ったリフだったりします。
智:でも俺、やっぱり「COLD CASE」が好きなんだよね。ライブでやっていてもすごく雰囲気があって。うちは世界観があってもそんなに雰囲気がなかったりするんですよ。
――世界観と雰囲気というのは智さんの中でどういう定義ですか?
智:曲に込められた世界は、詞と相まって提示することができるんです。でも「COLD CASE」みたいにイントロを一発聴いただけで、すごく悪い言い方をすると、気持ちを沈ませるというか、そういうことができる曲ってそんなにないと思うんですよ。
――曲が持っている力がすごいということですね。
智:うん。冒頭でも言ったけど、自分たちが最終的に求めるであろうもの、ほしいものって、そういう曲なんじゃないかなと思って。映像とか、俺の詞で、ライブで雰囲気を見せようとはするんだけど、本当に5人全員がその中に入り込めることはそんなに多くない。俺たちが視覚にもこだわっているなら雰囲気ってものが絶対的に必要だなと思うし、その世界で会場を一瞬で飲み込む力が必要なのかなと。この曲で自分としてはすごく今後が見えてきた気がします。
――Tohyaさんから曲が上がってきた時点で、これがリード曲になると思っていましたか?
智:いや、それまでのvistlipってものがあったから、「これ、シングルのリードっぽくはないね」って送りました。リードにはならないし、むしろ今回はリリースせずストックになるだろうと思って。そうしたら、海(G)と瑠伊(B)が、これをリードにしようって言って来たんです。それまで、俺とTohyaは今までたくさんの“visltipの曲”を作ってきたから、これをリード曲にすることに多少の恐怖があったんですよ。「これをリリースした時にファンがどう思うだろう」っていう、いわゆる需要に応えるタイプの考え方だった。
Tohya:でも、海と瑠伊はそういうのをあんまり気にしないからね。
智:うん。単純にこれが1曲目だったらインパクトもあるし、画も作りやすいし、今までと違うからやりたい!って、本当に子どもみたいに直観で言っていて。それを聞いたとき初めて、自分の保身に気付いたんです。何かを払拭したくてTohyaにこういう曲を作ってもらったのに、それをビビってお蔵入りにしようとしている。そんなんじゃだめだと思って、これでやろうと決めたんです。
Tohya:バンドにはこういう時期もあるって思ってもらうといいのかなと思います。今までの曲も自信をもってやってきたし、visltipを築き上げる大事な作品たちだけど、今はロックしたい時期なんだよね、きっと。
――vistlipのロック期到来ですね。
Tohya:ただ、もしかしたら来年あたり急に、世界観重視の神秘的なバンドになってる可能性もあるね。アルバム全曲に「ファ~」って音が入ってたりして。
智:(笑)。それかセカオワみたいになってるとかね。「COLD CASE」は何だったんだよ!ってなるな(笑)。
◆繰り返すことの重要性をすごく意識した(智)
――では、c/w曲について聞かせください。
Tohya:「SIREN」は智から提示された楽曲があって、そこに昔のヴィジュアル系の王道っぽいメロディと最近のリズムパターンを入れた融合体です。僕はそんなにリズムパターンに詳しくないんですけど、昔のヴィジュアル系って速くてメロディアスってそんなになかったんじゃないかと思うんです。LUNA SEAくらいかな。それをやったらハマりました。「BAKE」は4曲作った内、3曲綺麗な曲だったんです。それで、まだ時間あるなと思って適当にドゥンドゥンドゥンドゥンってリズムを打ち込んで「とりあえず激しくて、ライブで暴れられるようなのできねーかなー」と思っていたら、これも2時間くらいで作れちゃいました。そうしたら智が一番楽に作ったこれを「使えそうだ!」って。「あれ? 他のは…?」って思いましたけどね。豪華客船を三つ揃えたのに、ヨットが採用された感じです。
智:あはは! そうだね。
Tohya:でもわかりやすくてノリやすいですからね。いつもサビはじっくり聴かせたくなるけど、この疾走感を生かした作品にしました。
智:今回、歌詞も行き詰まったりはしなかったかな。3曲揃っていたので、全曲同時に書いていました。『LAYOUT』の時からそういう手法にしています。
Tohya:一番効率がいいよね。曲も1個やりはじめて行き詰まったら次の曲ってやります。
智:全部一気に詰まったりはしませんからね。違う曲でフレーズが出ていて、「これこっちの曲の方が合うな」って思ったら移動して、で、元の曲の歌詞が減っちゃって困るっていう(笑)。同時にやるって言うのは3通りのパターンを書いているのと同じなので自分的にはやりやすいですね。
――歌詞といえば、今回「COLD CASE」と「SIREN」で同じ言葉が繰り返されていますよね。これまでにないパターンだなと思ったのですが。
智:今回、そこを結構意識しています。自分の歌詞は本のように読みさえすれば楽しめるんですけど、歌詞が全部違うんですよ。だから例えば街中でvistlipの曲を聴いたときに、聴いた人の頭に入らない可能性がある。それってどうなんだろうと思って。アルバムだったらまた変わってくると思うんですけど、シングルで歌詞が一切頭に残らないっていうのは違うなと。だから繰り返すってことの重要性をすごく意識しました。
――繰り返されている部分は残ってほしい言葉なんですね。
智:そうです。これまでストーリー重視の歌詞って、無理に全部違う言葉で書いている部分もあったんですよ。それは裏を返すと、重要な部分は同じ言葉でもよかったんじゃないかと。大事なことなので2回言いました、じゃないけど、無理に変える必要はなかったんじゃないかなと思って。一つの言葉で語れるならそれに尽きますよね。それをどれだけ落とし込むかだと思うんです。逆に言えば語りきれなくて繰り返せない時も出てくるのかもしれない。コンパクトに詰めて理解させるっていうのはまたスキルがいることだなと思うし。僕は小説を描いている作家ではないから、歌手としてしっかり勉強していきたいと思います。
――歌詞を見ると、「SIREN」はかなり血なまぐさい歌詞ですよね。いっそおどろおどろしい「COLD CASE」に入れてもいいんじゃないかという言葉が多々見受けられました。
智:これは「SIREN」をリード曲にする気がなかったっていう意思表示でもありますね。だからこそあそこまで書いているっていうのもあるんですよ。
◆アルバムのヴィジョンもかなり明確になっているので、楽しみにしていてほしい(Tohya)
――「COLD CASE」のMVが解禁になりましたね。
智:そうですね。今回、自分のやりたいことが実現できたかっていうと、残念ながらそうでもないかな。本当は色々破壊したかったんです。お店で撮ったんですけど、グラスを割ったり、椅子を蹴り飛ばしながら演奏して、自由度の高い暴力的なMVを撮りたかったんだけど、そんなの無理に決まっていて。だって俺たちが撮り終わって2時間で営業開始しますっていうお店だったんですよ。だからどうしても破壊はできなくて、すごく残念でした。「それに代わる何かを撮れないのか!」って言って「これは?」「これは?」ってパニックになりながら撮りました。そんな中、スタッフさんがグラス落として割ってたし。
Tohya:割ってたね(笑)
智:ホントびっくりした。そのグラス俺に割らせろよ!と(笑)。そういう意味ではちょっと残念ではありましたね。
Tohya:割る用のグラスはこっちで買って行けばよかったかな。
智:そうだね。でも、割れたグラスを回収する時間もなかったからね。あと、海に生肉を食べてほしかったんですけど、飲食店だったので、営業に差しさわりがあるということでダメでした。やりたかったんだけどなー。それに代わる何かを考えたりして、大変でした。
Tohya:生肉のことは今初めて知ったんですけど、俺が食べたかったですね。
智:食べたかったんだ(笑)。馬刺しとか?
Tohya:普通に馬刺しなら食いたい(笑)。
智:まぁ、こういう画を撮りたければ、まずは撮影用のお店を建てるくらいの予算を確保しないとだめですね。
――今回のシングルが売れたら、ぜひ破壊用及び生肉食べる用のお店を建ててください。
智:そうですね! 売れたらお店を建てて、そこで暴力的なMVを撮りたいと思います(笑)。
――前回の『OVERTURE』も含めて、次のアルバムが楽しみですね。
Tohya:そうですね。ヴィジョンもかなり明確になっているので、楽しみにしていてほしいです。
――そして12月18日には国立代々木競技場 第二体育館で「Right side LAYOUT[SENSE]」が行われます。
智:『COLD CASE』の3曲はセットリストに絶対入ってくるので、まずは聴いてもらって。ただリリースからその間に披露する機会がないから、本当に初披露になっちゃうと思うんですよ。だからFCとかでTohyaのフリー動画とかを配信しようかなと。
Tohya:やろうよ。この前あんまり撮れなかったけど。
智:「COLD CASE」のMV撮影の時に撮ろうと思ったのに、イントロしか撮れなかったからね(笑)。忙しくなっちゃって結局それ以降も撮れてないし。いつも曲のノリ方はファンの子に任せちゃうんですけど、珍しく3曲ともどうしようって自分なりに考えてみようと思うので。まぁ、多分俺は声だけ入ってると思いますけど、見てもらえたらなと思います!
Tohya:俺も撮影がんばります!
(文・後藤るつ子)
vistlip
<プロフィール>
智(Vo)、Yuh(G)、海(G)、瑠伊(B)、Tohya(Dr)の5人からなるロックバンド。2008年4月、ミニアルバム『Revolver』でデビュー。2014年4月にリリースしたシングル『Period』では初のオリコンチャート9位を獲得。2015年3月、アルバム『LAYOUT』をリリース。7月7日に8周年記念ライブ「vistlip 8th Anniversary Live [OVERTURE]」をZepp Tokyoで行った。8月5日には8周年を迎えた初のシングル『OVERTURE』をリリース。12月18日には国立代々木競技場第二体育館でワンマンライブ「Right side LAYOUT[SENSE]」が決定している。
■オフィシャルサイト
http://www.vistlip.com
【リリース情報】
『COLD CASE』
2015年11月11日発売
(発売元:マーベラス/販売元:ソニー・ミュージックマーケティング)
結成8周年を迎えたvistlipが放つニューシングル。15thシングル『OVERTURE』からわずか3ヶ月でリリースされる今作は彼らの新たな一面が垣間見える1枚に仕上がっている。
【収録曲】
LIMITED EDITION
[CD]
01. COLD CASE
02. SIREN
[DVD]
DVD (ROUGH the vistlip~心清らかにvistlip )
vister
[CD]
01. COLD CASE
02. SIREN
[DVD]
LIVE CLIP 「Catastrophe」from Left side LAYOUT[idea]2015.06.14
& vistlip tour documemt DVD Teaser 収録
lipper
[CD]
01. COLD CASE
02. SIREN
03. BAKE
【ライブ情報】
12月18日(金)国立代々木競技場 第二体育館
Right side LAYOUT[SENSE]