プラスをよりプラスにするほうがいい
今作はオープニングSE的なインスト1曲を含めた新曲5曲に加えて、過去3作品『Seven Deadly Sins』(2018年4月発売)、『Notice of Arrival』(2019年7月発売)、『SCREAM on the WALL』(2021年11月発売)から満遍なく3曲ずつ選曲されていますよね。
CHIYU:おー、全部3曲だったんですね。その曲数のバランスは意外と気にしていなかったかもしれないです。今聞いて、そうだったんやくらいな感じでした(笑)。でも当初、時系列順の曲順にしようとしていたから、それでバランスを見ていた部分もあったかもしれないですね。ただ、限定盤にこれまでの作品のリード曲のMVが入るから、それは外して考えようというのは前提としてありました。
では、既存曲の9曲を決めた上での新曲の制作だったのか、新曲を制作した上で既存曲を決めたのか、どちらでしょう?
CHIYU:全体で12〜14曲にしようと思っていたんですけど、この曲(既存曲)を入れようという構想はあって、その中で足りない色の曲はどんな感じだろうというところから、新曲を作っていきましたね。だから、ここにもっとこういう感じの曲があったらなとか、ここはベースを弾かずに歌うゾーンの曲を増やしたいなとか、そういう感覚でオケ自体は作っていました。
ライブをやるための曲作りと同じ感覚で、今回の新曲を作っていったんですね。
CHIYU:そうですね。あと単純に、ベースを弾かずに盛り上がりそうな曲は絶対に1曲は作ろうと思っていて、「Infinity & Beyond」は弾かないんですよ。今までもベースを弾かない曲はあったんですけど、ミドルテンポの結構落ち着いちゃう曲しかなかったので、盛り上がる曲はずっと欲しかったんですよね。
「Infinity & Beyond」はイントロやサビでタオルを回しそうな雰囲気がすごくありますよね。
CHIYU:マイクだけなので、俺タオル回せるやん!と(笑)。ベースを弾かずに一緒にイエーイってやりたかったんですよ(笑)。普通のバンドのヴォーカルはできるじゃないですか。で、ギターソロとかの間に水も飲めるし。ベースを弾いていると、ああいうのもできないから、マジでしんどいんですよね(笑)。
(笑)。オーディエンス参加型のパーティーチューンで、盛り上がること必至ですね。
CHIYU:「無限の彼方へさあ行くぞ」って言っていますからね。これは完全に『トイ・ストーリー』のパロディーです。バズ・ライトイヤーの名セリフ「無限の彼方へさあ行くぞ」は、英語で「To infinity, and beyond!」なんですよね。もしもシリーズをやりたくて、これはもし『トイ・ストーリー』のタイアップが来たらというテーマの歌詞です。今までやっていない手法だったので、それも挑戦という意味で今回やりたいなと思って、タイアップだったらどんなアレンジをするんやろというところから始まりました。
そうだったんですね。
CHIYU:それが楽しくなってきて「Get over it…」の歌詞も、もしもシリーズなんですよ。ほぼ答えを言ってしまっている部分もあるんですけど、これはもし『僕のヒーローアカデミア』のオープニングをやったら、がテーマです。インストを除いて1曲目だし、オープニングで考えたらどうかなと思って。それプラス、アニメのタイアップって応援歌っぽいじゃないですか。だから、自分やファンの子に対しての応援歌という部分もあります。それと、今回のデザインは自分が一歩踏み出したから繋がった縁で、それが決まったことによってアートワークが全部決まったくらいの出来事だったので、「Get over it…」はそういう一歩踏み出す勇気みたいなもの、背中をちょっとでも押せたらなという思いもあって。
CHIYUさんの歌詞って、全体的にポジティブですよね。
CHIYU:多分、根暗なものはあまり書けないんですよね(笑)。俺が根暗なものを書いていたら、マジで心配したほうがいいっすよ(笑)。
心配します(笑)。
CHIYU:そっちの方向のものを書いてみようと挑戦することもあるんですけど、マイナスのところを無理にプラスにしようと頑張るよりは、プラスをよりプラスにするほうがいいなと、自分自身の考え方がどこかで切り替わったんですよね。プラスを伸ばそうみたいな。そのほうが自分にとっても嘘にならないから、いいかなと。だから確かにそっち方向の歌詞が多いかもしれないですね。
そのほうがCHIYUさんらしいし、無理をして書くとリアリティに欠けるものになるでしょうし。
CHIYU:あまり離れ過ぎず、近過ぎずがいいんでしょうけどね。もちろん完全な作り話も書きますけど、結局色々な人の話を聞いて自分で飲み込まないと出ないので、もっと外に出てそういうインプットは増やさないとなと思いますね。
ちなみに「Get over it…」のイントロアウトロの感じはCHIYUさん節だなと思って。
CHIYU:あぁ、節になるんすね…! 困ったらやる手法かもしれないです(笑)。この曲の本当の最初ってドラムだけだったんですよ。で、大体ドラムのフィルみたいなやつは俺の手癖なんですよね。曲を作る時、基本的にはテンポを決めてドラムから作るんですけど、まず参考になる感じの曲のBPMだけ一緒にしちゃうんですよ。そうすると曲のノリは大体似るので。この曲は俺のドラムの癖が結構出ていますね。「Egoistic GAME」(『Notice of Arrival』リード曲)とかは特殊で、テンポを決めてメロから作ったので、ちょっとノリも違ったりして。だから、何から作るかで方向性が決まるかもしれないですね。
この曲は間奏にユニゾンが入るので、ライブでの見どころでもあるなと。
CHIYU:この変なゾーンはアレンジャーさんが「ちょっと変えました」って持ってきてくれたんですけど、リズム感がないヤツとやったら秒で崩壊しますね。
しかも、曲終わりのキメもユニゾンじゃないですか。
CHIYU:そうなんです。元々サラッと終わっていたので、せっかく間奏でそれを入れるなら、最後もちょっと変な終わり方にしようとなって、それを付け足したんですよ。
ここがちゃんとキマらないと…。
CHIYU:曲が終われないっすよね(笑)。JOHN君に関しては、KIRITOさんのライブで一緒にやっているから多分大丈夫ですけど、宏崇と一緒にやったことは今まで一回もないので、アイツがどこまで叩けるかそんなに知らないんですよね。ただ、今までの流れとか名義も変えるという話をした上で、「俺、やりたいっす!」みたいなテンションだったから、その男気を買ったみたいなところで。だから実際、無茶苦茶ヘタやったらどうしよ(笑)。まぁあれだけ色々やっているので、大丈夫だろうとは思っているんですけどね。
ファンのために書こうということしか出てこなかった
「月と影と私」はCHIYUさん特有の、中盤のアダルトブロックに入ってくる曲ですね。
CHIYU:変なヤツですね(笑)。この曲は元々「film#0」(『Notice of Arrival』収録)のもうちょっとポップ版を作りたかったんですけど、作っていく段階でどんどん暗くなっていったんですよ(笑)。でも、歌詞をちゃんとすれば、このブロックにいけるなと思って。これまでアルバムのテーマが自分の中で色々とあったんですけど、今回はもうCHIYUという軸があるから、新たに付け足さなくてもいいかなというのがあって。じゃあ何で作品の軸をまとめようかなと思った時に、どこかに必ずお客さんとのコール&レスポンスがあるというのを主軸として新曲4曲を作っていて。この曲はクラップゾーンもあるので、最初はもっとクラップで盛り上がる感じにしたかったんですけど、意外とスッといっちゃったという感じですね。
そうなんですね。「film#0」への繋がりはとても綺麗だなと感じました。
CHIYU:ちょうどいいですよね。「月と影と私」は月の光っている部分と裏の部分が真っ二つになって、その二面性みたいなものを歌でも表現したくて、オクターブ上と下のダブルでずっと入れているんですよ。表の顔と裏の顔という。そういうレコーディングも初めてやったと思います。結構不思議な聴こえ方をするんですよね。
下から入って、最後が上で終わるのは、どういう意図なのか気になっていました。
CHIYU:月は回転しているから、光る部分が変わっていくじゃないですか。同じ人でも、要はオクターブ下の人がどんどん上の人になるくらいの時間経過とか、そういうのも1曲を通して表現できたらなと。ライブでは、最初は下を歌って上は重ねておいて、後半は上を歌って下を重ねると思います。だからこれは多分ずっとダブルで歌いますね。
歌の部分でのCHIYUさんの表現を感じられるのも魅力ですね。
CHIYU:これは自分でやっていてもすごく不思議でした。ちなみに中間の英語だけの部分も、前半の2行と後半の2行で人物が違うんですよ。男女に例えると、前半は男側の意見で、後半は女側の意見。この曲は全てが対極になるのがいいなと思って作っていきました。
ちなみに、「あいすくりん」から繋げて解釈することもできるなと。
CHIYU:別ではありますけど、確かに繋げようと思えば繋げられますよね。とりあえず、決して幸せな恋ではないと思いますね(笑)。ハッピーエンドにさせてたまるかと思って(笑)。
これがポジティブソングではない側面のCHIYUさんの歌詞の世界ですね。そしてラストの「Diary of Life」は最もメッセージの強い楽曲です。
CHIYU:活動が切り替わるタイミングということで、派手にドカンと見せたかったから、元々は「Infinity & Beyond」をリードにしようとしていたんですけど、レコーディングが終わってマスタリングの時に、やっぱりリードを変えたいという話をして(笑)。「Infinity & Beyond」にしちゃうと、このアルバムがブレてしまうなと、CHIYUという軸のベストアルバムを作るのであれば、リードは「Diary of Life」じゃないと締まらないなと思って最後の最後でこれに変わりました。
曲としての勢いより、メッセージを重要視したわけですね。
CHIYU:今までの自分が培ってきた色もちゃんと入れているし、今まで応援してくれた皆の色も入っているし、どんどんそういう色を重ねていきましょうというのを明確に伝えておきたかったので。皆がウォーウォー歌ってくれたらいいなというのもありつつ、ライブの最後の締め括りにふさわしい曲にしたいというイメージで曲自体は作っていて、あとは歌詞次第で生きるか殺すかみたいな曲だなというのは美月(Sadie、The THIRTEEN)とも話していて(笑)。ただ、ちゃんとしたライブの締め括りにする=ファンのために書こうということしか出てこなかったので、今の自分の素直な気持ちをちゃんと書けば、皆は受け取ってくれるし、返してくれるだろうと信じて書きました。
〈もし明日死ぬとしたら生き方が変わるのですか?〉のブロックの歌詞が、この楽曲の肝だろうなと。
CHIYU:そうですよね。自分もここ好きなんですよ。じゃあどういうふうに生きたらいいのかって、正解はわからないですけど。確か、歌詞を書く段階で最初にここだけあって、これは絶対にどこかに入れたいと思っていて、サビ頭にしようかと思っていたくらいなんですけど、何かちょっと違うなと。一番思いが伝わりやすそうなのが落ちのブロックかなというところで、皆がウォーウォー言ってくれている声を聴きながら、自分の今の考え方がどれだけ変わるかな、ライブでどういうふうに受け取れるかなとか想像して、ここにこの歌詞を持ってきましたね。
そうなんですね。
CHIYU:そもそものきっかけはTikTokか何かで見たやつで、「一億円あげる代わりに明日死にます」と言ったら、受け取らないと言う人が多くて、「じゃあ、今生きているということは一億円以上の価値があるってことでしょ?」みたいなのがあって、確かにそう考えればそうやなと。そういうところから、この歌詞を思いついたんですよね。
その後のサビにある〈勝たなくていい 負けるな〉という歌詞に救われる人もいるだろうなと。
CHIYU:自分にも言い聞かせている言葉ですね(笑)。例え一生我慢し続けたとしても、負けを認めなければ負けじゃないというのもあるじゃないですか。そういうことも言いたかったなと。それと、冒頭で何か喋っているところは、聴き取れないくらいの感じになっているんですけど、「始まりのこの場所で」と言っているんですよ。だから、この場所を大事にしますよという意味も込めています。本当はもっと聴き取れないようにしようかと思ったんですけど、意外と聴き取れたなと思って(笑)。
(笑)。ちなみに、この曲は構成の数が多いですよね。
CHIYU:いやー、マジで面倒くさかったですね(笑)! 毎回メロが違うから(笑)。確かFメロ、Gメロくらいまであったんですよ。でも、この曲はライブ映えしそうですよね。この曲をやれば、ちゃんとライブが終われるなっていう。もちろん、こっちがちゃんとできればですけどね(笑)。この曲はお客さんありきじゃないと完成しないので、そういう意味でもライブ映えするだろうなと思っています。
秋のツアーが昨年の聖誕祭以来、約10ヵ月ぶりのソロのライブになりますね。
CHIYU:これだけ空いたのは初めてですね。
なおかつSLAPSLYのお披露目、新体制初のステージにもなります。
CHIYU:どうなるんでしょう(笑)。えー怖いなぁ、助けて(笑)。まぁでも、限られた時間でとにかくやり切るしかないので、メンバーも含めてどれだけ初日から体に入れ込んでいけるかですね。ファイナルはもう慣れているから、ある程度想像がつくでしょうけど、とにかく初日なんですよ。やっぱり新体制というのもあって、どんなもんなんやっていうふうに見てくる人もいるでしょうし、SuGのツアーで改めて知って来てくれる人もいるだろうし。そういう人たちをしっかり掴めるようなライブをしなきゃというのは、わかってはいます(笑)。初日と最終日の会場はステージのLEDビジョンが使えて、シンプルに見え方も変えられるので、そういうところでのインパクトも見せつつ、もちろん曲のクオリティーも上げて、あとはどれだけファンの子の内の内にちゃんと届けられる歌が歌えるかが肝だと思うので…毎日カラオケに行こうかな(笑)。
そこ(笑)。
CHIYU:歌ってなさ過ぎて、ちょっと怖いんですよ。体調を崩して風邪をひいてから、声の出が変になってしまったので、早めに戻さないとなと。ベースを覚えるのもあるんですけど、そこはもう十何年もやってきているから大丈夫なので、とにかく心に届けられる歌ですね。
冒頭でも話が出ていましたし、昨年の聖誕祭でも「ソロの活動が空けば空くほど感覚が失われていくんです。失われた時にライブ、また失われた時にライブという負の連鎖も本当によくないなと思っている」と言っていたので、ここからは以前よりコンスタントなライブ活動をしていくことになるのでしょうか?
CHIYU:(マネージャーに)どうでしょう?
マネージャー:やりたいですよねぇ。CHIYU君が人気者だから、色々サポートのオファーが来ちゃうんですよ。
CHIYU:そうやってまた感覚は失われていくようです(笑)。2週間で130曲覚えた俺を褒めてください。
すご過ぎますよ(笑)。
CHIYU:ハハハ(笑)。でも、もう少しコンスタントに曲を出して、それに伴ってライブも増やせるといいですよね。ベースは勝手に手が動くんですけど、歌詞って出てこなくなったら全然出てこないんですよ。だから、忘れる前にライブを入れてくれると思います。
マネージャー:うん、大丈夫です。
CHIYU:聞きました!? 「大丈夫」って言いましたよね(笑)!?
期待しています(笑)!
(文・金多賀歩美)
SLAPSLY
CHIYU(Vo&B)
オフィシャルサイト
リリース情報
New Album『OUTBURST 〜The best of the CHIYU〜』
2023年9月27日(水)発売
[通常盤](CD/ジュエルケース)FAM-10006 ¥3,500(税込)
(発売元:FUN ALL MUSIC/販売元:ダイキサウンド)
[限定盤](CD+DVD/トールケース/32Pブックレット)FAM-10006L ¥7,500(税込)
(発売元・販売元:FUN ALL MUSIC)
※オフィシャルWEBショップ、ライブ会場等で販売
収録曲
[CD]※共通
- SLAPSLY in da house
- Get over it…
- V.I.P.
- 愛欲の華
- TRICK STER
- wiΘ U
- あいすくりん
- 月と影と私
- film#0
- Infinity & Beyond
- apathy house
- AMArican Dream
- FREAKY DANCE
- Diary of Life
[限定盤DVD]
・ミュージックビデオ
- 無限の風
- Egoistic GAME
- 未完成のヒマワリ ~acoustic version〜
- Keep it real
- Diary of Life
・OUTBURST MAKING
ライブ情報
●SLAPSLY 1st TOUR「SLAPSLY in da house 〜OUTBURST〜」
10月28日(土)SHIBUYA REX
11月3日(金・祝)名古屋 ell.SIZE
11月4日(土)心斎橋 OSAKA RUIDO
11月11日(土)代官山 SPACE ODD
SLAPS MEMBER:JOHN(G)、宏崇(Dr)