バンドの新たな可能性を拓く最新アルバムが完成。象徴的なタイトルとかつてない試みで構成された珠玉の作品に迫る
昨年11月に待望の日本武道館公演を見事成功させ、その復活を高らかに宣言したlynch.。間髪入れず大晦日には18周年ライブを開催し、3月1日にはニューアルバムのリリース、続く全国ツアーと、怒涛の勢いで突き進んでいく。そんな彼らが新たなアルバムに冠したタイトルは『REBORN』。まさに今の彼らを象徴する言葉だが、今回は5人それぞれの楽曲を2曲ずつ収録するというかつてない試みも相まって、新たな一面と未来への更なる可能性を感じさせる作品となった。「この5人で演奏していればlynch.」とは葉月の談だが、それぞれの個性が際立ちながら、バンドとして見事に調和した最新作について5人に話を聞いた。
初の武道館公演、お疲れ様でした。lynch.にとって大きな節目になったのではと思います。振り返ってみていかがですか?
葉月:終わったばかりのときは、とにかく無事に終わって安心しました。体調を崩したりしなくてよかったなと思って。もし何かあればまた延期になる可能性もあったわけじゃないですか。すごいプレッシャーでしたけど、リハーサルもしっかり仕上がっていたので、健康でさえいれば良いライブには絶対なると思っていたので。
健康以外は何の問題もないと言い切れるのは素晴らしいですね。
葉月:そうです。健康なら大丈夫(笑)。
あの日のライブで玲央さんが流した涙が印象的でした。
玲央:そうですね。思い返すと、本当にライブをやってよかったなと思うことが多くて。武道館公演が決まった時もそうだったんですけど、自分の家族や昔から応援してくださっているファンの皆さんがすごく喜んでくれたんです。あと、終演後に若いバンドの子達とやりとりをしたんですけど、コロナ禍になってエンタメ業界全体が冷え込んで、なかなか思うように活動できない中、何とか前に進みたいと思う子がたくさんいて。その子達が、18年というキャリアで初めて武道館に立ったバンドを見て、「まだまだ頑張ります」と言ってくれたのが嬉しかったですね。
とても心強かったと思いますし、背中を押してくれるライブだったと思います。
玲央:彼らのリミットを少しでも伸ばせたんだったら、やった意味は十二分にあるなと思いました。それに、これから何か始めようと思う人達にこれが届くといいなという気持ちあったので、伝わって本当に良かったと思っています。
悠介さんはいかがでした?
悠介:僕は、すごく特別だったという感覚はあまりなくて。lynch.としての久々のライブだったので、とにかく良い演奏を心がけようという気持ちでいました。緊張するかなと思ったんですけど意外にしなかったし、広く感じるかなと思ったんですけど実際にステージに立ってみたら、「ここ武道館だよな…狭いな」という不思議な感じで、ライブハウスでやっているような感覚でもあったし。やっぱり、ファンの人たちと久々に過ごす時間でもあったので、武道館が特別だったというより、一緒に過ごした時間がすごく特別だったんだなと思っています。
MCでも「場所じゃなくて、皆さんと一緒に過ごす時間や届けてくれる思いが大事だ」という話をしていましたよね。
悠介:そうですね。そこは大きかったなと思います。
明徳:自分は、まずは無事に開催できて本当によかったと思っていて。本当にいろんなことがあった上でのあの日の武道館だったので、できてよかったと思うし、そこに誰一人欠けずに集まることができて、あの場所で「本当にありがとうございます」と改めて言えたことが一番でしたね。
あの日、明徳さんの口から武道館公演に至るまでの経緯が語られましたが、ファンの方々も涙をこらえながら聞いていましたね。
明徳:絶対あの日に言おうと決めていたんですけど…正直緊張しました(笑)。あの日、ステージからは思っていたより客席が見えて。上の方の後ろの方まで見えたので、すごく近く感じました。
晁直さんはステージから見た印象を「人が入ると景色が全然違う」と言っていました。
晁直:そうですね。ただ、あの光景を目の前にしてもちろん感動はしたんですけど、結果的に良い意味でいつも通りになったと思います。武道館だからどうだという特別な感想もなくて、むしろ僕個人としては、特別なことを考えていたら良いものはできていなかったかもしれないなとも思ったりするし。だから逆にいつも通りで良かったと思っています。lynch.は11カ月のライブのブランクがあって、復活でいきなり武道館…となると、大概の人は身構えると思うんですけど、無事にそこまで持ってこられたことは良かったなと思うんです。
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今回のアルバムは『REBORN』という、まさに今のlynch.を象徴しているタイトルが冠されていますが、タイトルありきで制作したのでしょうか。それとも、できた曲の顔ぶれからこのタイトルに至ったのでしょうか。
葉月:どっちでもないかな。タイトルは最後の最後に決まったので、間違いなくタイトルありきではないです。これはジャケットデザインがあがってきたとき、そこに『REBORN』て書いてあったんですよ。なのでデザイナーさんが仮にはめてくれていた言葉がそのまま採用された感じです。その場では決まらなかったんですけど、最終的にタイトルを決める期日になった時に、玲央さんから「『REBORN』でいいんじゃないですか」と。
今までにないパターンですね。さらに今回は、一人2曲、全員の曲が同数収録されるという、こちらも今までにはない内容となりましたが、これはどの段階で決まったんですか?
葉月:割と最後の方ですね。元々、みんなで持ち合おうとは言っていたんです。最終的にどうしようかという時に、全員の曲が2曲ずつというのは良いコンセプトになるんじゃないかということで。悠介君は4曲持ってきていたので、その中から2曲選ばせてもらいました。
明徳:制作の最低ノルマが一人2曲だったんです。悠介さんは4曲出してくれていたんですけど、俺らは2曲だけで(笑)。最低ノルマで奇跡的にうまいこと固まった感じです。
『EXODUS-EP』(2013年8月リリース)の時は、たくさん持ち寄った曲の中から選ばれた6曲だったと聞いていたので、持ち寄った最低限の曲のみで構成してこのまとまりというのは素晴らしいですね。事前にテーマを共有したりはしたのでしょうか?
葉月:それはなかったですね。
玲央:すり合わせは特にしていないんですよ。あんまり事前にすり合わせちゃうと、各々の個性が出てこなくなる懸念もあったので、各自に任せていた感じです。その子のプレイ面で、もっとこうした方がいいんじゃないかという話はちょこちょこあったんですけど、メロディーやリズム、構成という曲の土台になる部分には、各々の原曲者が最後まで監修するということで話が進んでいました。
5人の個性が一つにまとまると、また圧巻です。
玲央:オムニバスにならなくてよかったなと思いました(笑)。
アルバムを出すことは夏頃に決まったそうですが、曲はそこから作り始めたのでしょうか?
晁直:そういう人もいるかもしれないですけど、僕は活動が止まった時点から曲を作るということが頭にあったので、環境を整えたりしながら少しずつ始めていました。原曲の素材としてポンポンポンとメロディーは作っていたんですけど、5月ぐらいに「7月末に皆さん1曲出してください」という話になって、とりあえずそれに向けて形にした感じです。
ご自分の中でテーマはありましたか?
晁直:どうだったかな。とりあえず曲作りに関しては、多分この中では僕が一番技量が下なので…(笑)。何しろコードに対してメロディーがつけられないし、メロディーに対してもコードがつけられないから、とりあえず形にするのでいっぱいいっぱいでしたね。
『EXODUS-EP』の時、葉月さんが晁直さんはきっちり曲を作ってくるタイプだと言っていたので、そういう印象を持っていたのですが。
晁直:本当ですか!?
玲央:それ、悠介と逆じゃないかな。
葉月:あのときはドラムだけじゃなかった?
玲央:うん。ドラムとサビのメロだけのオーディオファイルだった気がする。
葉月:「どうしろと…?」みたいな感じだったよね(笑)。あと、あの時のAK(明徳)の当初のデモは、本当にデモらしいデモだったな。だってタイトルが「サマー」ですよ「サマー」! ダークにしようって言ってるのに!
明徳:黒歴史を掘り返さないでください!
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今回の2曲は割と時間をかけて作ったんでしょうか。
晁直:作る時間はあったんですけど…難しいですね(笑)。1曲目も結局、最終的に葉月君に手伝ってもらって。
「ANGEL DUST」は共作でしたね。それにしても、今回の晁直さん曲はヴォーカルの高音や低音が容赦ないなと思ったのですが。
晁直:だって葉月君の限界値とかもわからないし、それを考慮していたら曲が作れないから、とりあえず作って出して修正してもらおうと思って(笑)。
葉月:え、過去の曲を聴くとかはしないんですか…?
晁直:あ、そうね。そういう方法もあったかもね(笑)。
今回、シャウトの音が高めだなと思っていたのですが。
葉月:「THE FORBIDDEN DOOR」はいつものレンジで、なんなら太いです。ずっとスランプで、前はできていたのに最近できなかったやつを久しぶりにやれた感じでした。でも確かに「ANGEL DUST」にはやり慣れないやつが出てきたな。サビの前の、〈唯、未だ、嗚呼〉の部分は重なっているんですけど、あの半分歪ませて高いキーを出すっていうのは最近身につけました。歪ませた方が高い音出るぞ、と調子に乗って出した感じですね。新しい要素は結構あります。語りみたいなやつも「THE FORBIDDEN DOOR」でやったりしていますし。
葉月さんがソロインタビューの時にやってみたいと言っていたラップが、ここで入ってきたなと思っていたのですが。
葉月:そうそう。だけど「Hey Yo!」みたいなことではなくて、ちょうどいいところをと思っていたんです。とりあえずは一旦いい感じになったので、ここからまた突き詰めていきたいなと。
ところで今回、葉月さん曲の「ECLIPSE」ではなく「CALLING ME」でMVを撮るというのがとても意外だったのですが。
葉月:意外な方がいいなというか、「ECLIPSE」だけは嫌だったんですよ。こっちだと普通ですもん。別にこれが悪い曲ということではなくて、「ECLIPSE」だと、あーはいはいという感じになりそうだなと思って。「CALLING ME」の方が面白いものができそうじゃないですか。
確かに。そして、ソロのインタビュー時に話に出た片仮名の〈ギラギラ〉もここに出てきましたね。
葉月:そうですね。僕がソロをやっている中で、lynch.の良いところってこういうところだよなと思ったのは大体こういう曲調なんです。それをちゃんといい形にできたから、MVを撮りたいなと提案させていただきました。
そこは満場一致で?
葉月:最初はリズム隊の二人が「ECLIPSE」がいいですって言っていたんですけど、僕がその後で、いやいやすみません「ECLIPSE」だけはちょっと…と言って(笑)。
玲央:僕は「CALLING ME」か「THE FORBIDDEN DOOR」のどちらかがいいと言ったんです。「ECLIPSE」は確かに良い曲なんだけど、こちらにしてしまうと置きにいっている感じがある。『REBORN』というタイトルもあるし、冒険して振り切らないとダメなんじゃないかと思ったので、じゃあ「CALLING ME」に…ということになりました。
『REBORN』というタイトルにふさわしいMVですね。
玲央:「CALLING ME」は曲の尺が短くて、3分ないくらいなのに色々新しいんですよ。
葉月:史上最速で撮り終わったMVですからね。2時間くらいで終わりました(笑)。演奏の画しかないので、すごくシンプルで無骨でいい感じです。