LM.C

LM.C『怪物園』インタビュー

遂に完成した最新フルアルバム『怪物園』。何者でもないLM.Cを求め走る彼らが行き着いた15年目の答え。今、その門扉が開く――

前作アルバムから3年7ヵ月という長い月日を経て、世に放たれるアルバム『怪物園』。その謎めいたタイトルに、皆様の期待も大いに高まっていることと思う。このアルバムについてAiji(G)は「アルバムの中で色々な旅ができるような作品」だと語ってくれた。開園から閉園まで、繰り広げられる音の旅は、15周年を迎えた彼らが辿り着いた一つの答えでもある。今回お届けする超ロングインタビューでは、収録された全曲と、二人が見つめる現在と見据える未来についてたっぷり語ってもらった。久々のツアーもスタートし、今まさに門扉が開かれた怪物園。ぜひじっくりとご堪能あれ。


説明はできないけれど行くべきところはわかっている(maya)

今回、これまでのLM.Cにはない、全く新しいタイプのアルバムタイトルに驚きました。

maya:タイトルは基本的にひらめきでしかないんですよ。あえて奇をてらってつけたわけではないんです。活動を開始してから15年と少し経つんですけど、作品や活動全てにおいて、自分たちが持つイメージやキャパシティのようなものを少しずつ広げていきたいと思っていて。今回もそういうことの表れだろうと思ったし、それが結果的に自分たちにとっても今まで応援し続けてきてくれた人たちにとっても、刺激を感じるタイトルになったという感じですね。

タイトルありきで曲を作っていったんですか?

Aiji:アルバムタイトルは最後ですね。

この曲たちに対して、このアルバムタイトルを持ってきたというのは驚きです。

maya:そのへんは天才が現れましたね(笑)。2018年に前作フルアルバム『FUTURE SENSATION』を出して、そこから3年半以上経つ中で、新曲をどういうふうに展開していくのかを話し合ってきたんです。活動の流れを考えたときに「アルバムはどうする?」という話になって、そのときに「フルアルバムはちょっと…」と言うメンバーがいたんですよ。言葉は違うんですけど、現状イメージできないという話が出て…まぁ私なんですけど(笑)。

今、思いっきりAijiさんを凝視しながら話していたのに(笑)。

maya:このアルバムの起源として、そういうことが最初にあって。その時は、フルアルバムで出すことが今の自分たちに似合うんだろうかと思ったんです。ここ数年の自分の音楽の聴き方を考えると、それは求めていないと思ってしまって。そういうmayaと、活動の節目としてのバランスを考えたときに「フルアルバムを出せたらいいよね」というAijiさんがいて、お互いの気持ちもわかるというところで平行線でした。

その状態を打開したのは何だったのでしょう?

maya:ここ数年、時代の変化もあって、その中で新曲を作り続けようと少しずつ作業していく中で、『Brand New Songs』(2020年にリリースしたツアーパンフ+3曲入りCD)とは別に、ミニアルバム的な作品を作ろうということで始まったんです。そのときは単純にある程度曲数がまとまった形で何かリリースしよう、というところからのスタートでした。そこで『怪物園』というタイトルが閃いたんです。多分どこかでアルバムにできるならやってみたいと思っていたのかもしれないですね。でも『Brand New Songs』の曲も大事だし、このままいくと、この3曲が置き去りになってしまうような気がしていたんだと思います。それで、この3曲を足せば曲数としてはフルアルバムになるということもあって、色々なことが同時に頭を巡って『怪物園』というタイトルがハマった感じです。Aijiさんに「元々別だったものを足してやってみるのはどうですか?」と提案したら「いいんじゃない」と答えてくれて。

それはいつ頃ですか。

Aiji:11月ぐらいかな。そのタイミングで音源を出すと決めたので。

maya:リモートの打ち合わせで、タイトルと共に伝えた気がします。

インパクトのあるアルバムタイトルだったので、それに向かって曲を作ったという流れだと思っていましたが、全く予想外の展開でした。

maya:コンセプトアルバム的なことでは全くないんですよ(笑)。

Aiji:SEは「そういう曲がほしい」と言われたので、タイトルに引っ張られているかもしれないですけどね。

Aijiさんは、このタイトルを初めて聞いた時の印象は?

Aiji:あまり驚きもなかったというか、mayaが言っているように、自分たちが飽きないためにも何かしらのブラッシュアップは必要だと年々思うようになってきているんです。そういう中だったので割としっくりきましたね。

maya:我々の中で、必然性があるんですよ。

それにしても、日本語のタイトルはとても新鮮です。

maya:LM.Cとしては、今はこれだなという感じです。昨年10月に15周年を迎えたんですけど、わかりやすく15周年の前後に出すフルアルバムにするなら、もう少しそれまでのLM.Cの流れを汲んでもいいのかなとも思っていたんです。ただ、ここ数年の世の中の状況を踏まえるとわざわざそれにする必要もないし、それでは楽しめないと感じていた部分があって。我々は、その時に合うかどうかをすごく意識しているんですよ。例えば10周年の時のような流れで15周年を迎えていたら、もっとわかりやすいLM.Cっぽさを打ち出して、長めのワールドツアー的なものを企てていたと思います。でも、そういう状況ではない中で何ができるかをずっと考えていました。当初の「フルアルバムはどんなものを出せばいいのかイメージできない」という思いは、そういうこともあってのものだと思います。

このタイミングでこういう作品を提示されて、ファンの方々も嬉しいと思います。

maya:そうですね。今仲間でいてくれる人たちは、アルバムが出るというだけで我々と共に喜んでくれる気がします。まずそこに幸せを感じますね。その先の作品や曲の好みは分かれても、今なお活動が続いてフルアルバムが出ること自体を喜んでくれると思うんですよ。

今回のアルバムは自主レーベルからのリリースですが、常々ライブの中で曲を育てたい、曲を大事にしたいと言っていたLM.Cにとって、理想的なのではという気がしました。

Aiji:今自分たちでレーベルをやるのは、いいタイミングだと思っています。作品のリリースは、自分たちはメジャーの中にいたときも割とやりたいペースでやらせてもらえていたんです。作品は、音楽家として出さなくてもいいとは思っていないんですけど、自分たちが納得する形で、ある程度タイミングをコントロールできるほうが向いているし、日本の音楽業界の消費される様なスピード感にはどこか疑問を持っていたところがあった。それは今回解消できたと思います。コロナがなければ1年半くらいかけてツアーもしっかりやって、3~4年に1枚アルバムを出すくらいが良いペースなんだろうなと思うんですよ。15年やってきて自分たちの歩幅がハッキリとわかるので、現状の環境的には今の自分たちに合っていると思いますね。

それにしても、今回のアー写は過去最高に表情が見えませんね。

maya:ヴィジュアル系なのにね(笑)。

Aiji:そうだよね(笑)。それもさっきの話に戻るんですけど、自分たちはとてもわかりやすいことをどこか無意識に追及して、ヴィジュアルや作品で打ち出し続けてきたと思うんです。でもここに来て、15年間積み重ねてきた自信もあると思いますけど、顔が見えるということには既にこだわっていないし、今作のイメージ的にはそういうことではない気がしたんですよ。もちろんファンからしてみれば顔は見えたほうがいいんでしょうけど、もっと雰囲気やイメージを大事にしたり、記号的でもいいと思ったんです。

謎めいたジャケット写真にも同じような意味を込めたのでしょうか。

maya:これ、何に見えます?

何でしょう…マンションとかホテルのような気もしますが。奇界遺産に出てきそうな風貌ですよね。

Aiji:正解です。フランスにあるマンションらしいんですよ。これも紆余曲折あって、いつもmayaからタイトルを聞かされたときには必ず、ジャケットやヴィジュアル的なイメージを想像してみるんです。逆に言うとそれが見えればOKなんですね。でも正直なところ『怪物園』ではなかなかそれが見えなくて、言葉に寄っていけばいくほど、ヴィジュアル系としては成立するけどLM.Cとしては成立しないことが多々あったんです。でも、カメラマンさんにこの写真を見せられたときに、俺もmayaも「これがいいんじゃない?」ということになったんですよ。今おっしゃったように、何なのかよくわからないじゃないですか。何物かがわからないことがいい、今回はそんな気分だったんですよね。

明確にわからないほど、想像が膨らみます。

Aiji:今の時代、画像検索をすればすぐに答えが出てきてしまうんですけど、それは知ろうと思うことから始まるわけだし、そこから何か始まってくれたらいいなと思っています。

ところで『怪物園』と聞いて、これまでの印象から「GHOST † HEART」や「…with VAMPIRE」に近しいものを想像していたのですが、そうではないんですね。

maya:それとはまた違いますね。

Aiji:今回、自分たちでもはっきりとわからない感じがいいんじゃないかなと思っていて。自分たちで想像できてしまうくらいだと、それを超えられない。自分たちが思い描いていたものを超えようと思ったら、想像できない何かじゃないといけないと思うんですよ。LM.Cが『怪物園』というタイトルでアルバムを出すということは正直想像できない未来だったし、そこがいい。この作品が歩き出して、どうなって、どう成長していくのかで、未来が変わっていくのかなと思っています。最近は特に何物かがわからない感じがいい。そういうモードです。

maya:これまで「GHOST † HEART」やハロウィンに似合うようなモチーフの曲をやってきたんですけど、今回気をつける点として周囲には、それにはならないようにと伝えました。ハロウィン的なホラーでもないし、日本の物の怪や妖怪でもない。だから難しいし、説明はできないけど、我々は行くべきところはわかっている。そういうこともあって、カメラマンの方とジャケットの打ち合わせをする中でいくつか写真をもらって、ピンとくるもの、ひらめきを大切にするという作業をしたんです。いわゆるホラーに寄ってしまえばモチーフとしては楽なんですけど、そこではないと思ったので。最終的に曲の並びも含めて上手くまとまったと思います。

Aiji:「怪物園」という言葉をテーマにクリエイターと話すと、十中八九、見世物小屋的な方向に行ってしまうんですよね。でもそうじゃない。そこは俺もmayaもブレていなくて、言葉で伝えたわけではないけど、感じているところは一緒で、そこの答えは矛盾していないと思っています。LM.Cというものをブランディングして世界を作っていく、ということはお互い意識として持っているけど、何かになりたかったわけではなくて、結果LM.Cになりたかったという15年だった。今回それが炸裂していると思いました。曖昧をずっと求めているというか、何者でもないLM.Cを求めて走っている気がしています。その行く先が今回の作品であり、ここからまた未来に繋がっていくんだろうなと思っています。

LM.Cが行き着いた15年目の答えであり原点回帰(Aiji)

今回の作品について「15年かけて辿り着いた音楽たちが収録された」というAijiさんの言葉がありましたが、揃った楽曲を振り返ってみていかがですか。

Aiji:今回は本来自分が得意と思っていたことしかやっていないので、新しいトライというよりも、自分が得意なムード感を作り切ったという感じがしています。LM.Cが行き着いた15年目の答えでもあるけど、自分的には原点回帰というか、自分が10代の頃に「こういう楽曲をやれるロックバンドになっていたい」とぼんやり思っていたものを形にできている気がします。アルバム『VEDA』(2017年リリース)以降そういう感じですね。

より焦点が絞れてきているんですね。

Aiji:そうですね。その中で今だからできる表現、楽曲を作っているという感じですね。

先ほど曲の並びの話が出ましたが、前作アルバムもお二人の曲の並びの案はほぼ同じだったそうですね。今回はいかがでしたか。

maya:毎回大体一緒ですね。

Aiji:今回は最初と最後が決まっていたから、ストーリーの作り方としてはありがちではあります。自分も歌入りの楽曲では「Elephant in the Room」が1曲目だろうと思っていましたし。ただ、自分の場合はどうしてもサウンドスケープ的な並べ方になってしまうんですよ。歌詞の流れや時系列はmayaにしかわからないので、最終的にはmayaに委ねます。

前回のアルバムはライブの光景を想像しないで作ったそうですが今回は?

maya:maya的にはどちらともという感じです。ライブツアーを予定していたし、まだ以前のようにはライブができない状況だろうなということも意識としてあった。だからといってそういう光景を全く意識していないのかというと違いますし。

Aiji:自分も、ここ数年はあまりライブの光景を想像せずに作っていることが多い気がします。もちろん、無意識に意識してしまっているかもしれませんけど、特別気にすることはなかったかなと。それよりももっと1曲ずつ、それぞれの作品としてどうあるべきなのかということに思考がいっていた気がしますね。

作品への向き合い方が変わってきているんですね。

Aiji:特にコロナになってからは時間があったので、作品によりしっかり向き合えたと思います。以前と比べたら、ほぼ無制限に時間があったので、作曲期間じゃなくても作っていましたし。極論、今までであれば1時間で済むことを2時間かけてじっくりやっていました(笑)。

なんて贅沢な(笑)。アーティスト人生でこんなに余裕を持ってやることはなかなかないのでは?

Aiji:ただ時間的余裕がある代わりに不安もあります。ビジネス的な部分もそうだし、将来的なこともそうです。コロナ禍では「この先どうなるのかな。ライブはいつできるんだろう。活動自体どうなっていくんだろう」って、気持ち的にはちょっと不安定になりましたよね。そんな中であっても、自分たちはミュージシャンなので、作品を作ることをやめないのが一番だと思ったし、そこにすごく重きを置いて生きていました。刀は磨いておかないと錆びてしまいますからね。

不安で動きたくなくなってしまう人も多いですよね。

Aiji:そうなんですよ。自分もそういうふうになりかかっていました。このモードはヤバいと思って、とにかく作り続けていました。アクセルを踏むのではなく、アイドリングし続けることが大事だと思っていました。

mayaさんもずっとアイドリングをしていましたか?

Aiji:いや、多分しっかり止まっていましたね(笑)。

maya:それで「バッテリーがヤバいですよ!」と車からメールがきてしまう感じです(笑)。

Aiji:でもそれぞれが思う通りの生き方をした上で、何が大事で何がいらないのかがこの期間でわかったと思います。それはすごく良かったんじゃないかな。

maya:表現というか、外枠や見え方は違っても結局一緒なんですよね。自分の場合、この2年は自分たちの経験として大切な時間だと思って過ごしてきました。言葉を並べる人にとって素晴らしいのは、どんなことでも作品に繋げることができることなんですよね。だからアンテナは畳まないように意識して、何もしていないときも「これが何かに繋がっていくんだろうな」と思って、繋げないといけないということではなく、自然に繋がってきてしまうという感じで生きてきたんです。詞を書くとき、喜びも悲しみも全てが活きてくるんですよ。

作詞家にとっては全てが糧なんですね。

maya:どの曲も、いつも通り作詞をするという意味では全然できないんです。簡単にできるものではないですし。ただ同じ時間でできなくても何とかするから、向き合うことをやめないでくれということは自分自身と話し合いました。これまで、LM.Cで100曲以上の歌詞を書いてきているので、書こうと思えばテクニックで書けてしまうんですよ。このメロディーにはこの母音が合うとか、サビの頭はこうくればわかりやすいとか。でも特に今回は、そこで収まらないでということを自分と話し合ったんです。何を目的としているのかをはき違えると、この先楽しくなくなる。だからここ数年の時間を活かすというか、フルアルバムを作るために結果的に3年半以上の時間がかかったことを無駄にしない、という気分でした。エンジンは切っていたとしてもね(笑)。

お二人がコロナ禍をどういう気持ちで過ごしていたのか、ずっと気になっていました。

maya:少し前に、YOSHIKIさんの番組でGLAYのHISASHIさんと一緒になったときに、この自粛期間、ライブができないときにどうしていたの?という話題になったんですけど、「ライブをしていました」「曲を作っていました」という人たちの話を聞いてHISASHIさんが「すごいね! 俺何もできなかった!」と言っていて、すごくいいなと思ったんですよ。自分も、ライブが延期や中止になって、振り返ると何もしていなかったんですけど、HISASHIさんが、それをあの場で言ってくれたことで、すごく気持ちが楽になって。皆大変なんだなと感じることができたし、色々な人がいるなとも思えた。その時、こういうことを言葉にするのは大事だなと思ったんです。「GLAYでもそうなんだぜ」って言えるじゃないですか。

良いタイミングで良い言葉を聞きましたね。

maya:そうですね。そういうこともアルバムに活きています。直接言葉になっているわけではないですけど、それぞれがこういう過ごし方をしている、だからできることをやろうというあの言葉で、救われた視聴者も多かったんじゃないかな。共有しているという感じがありましたし、そのためにもアルバムは完成させたいと思っていました。