想定済みの現実、交差する世界線、自ら証明する破壊と再生の物語。新たな始まりとなる『CROSS』が示唆する未来とは――
例年以上に様々な形でステージに立ち続けてきた2024年のKIRITOが、そんな状況下でも年に1枚というペースを崩さず、待望の新作アルバム『CROSS』を完成させた。この1年の活動における伏線、ひいてはこれまでのアーティスト活動全てが繋がると言っても過言ではない今作だが、それすらも壮大なストーリーの一過程に過ぎないという。最新が最高であることを証明するバンドサウンドとともに、KIRITOが描く物語の真意を読み解いてほしい。
今の自分が過去の自分から答えやヒントを見せてもらえる
今回もまずはこの1年を振り返りたいと思います。前作アルバム『ALPHA』(2023年11月発売)を引っ提げたツアー「ALPHA-CODE」(2023年11月〜2024年1月)は、本編前半で作品の収録順通りに楽曲が披露されましたが、バースデー公演「THE MISSION OF BETA」(2024年2月)では、ほぼ全編にわたって前々作『NEOSPIRAL』(2022年11月発売)と『ALPHA』の楽曲が1曲ずつ交互かつ収録順通りに組まれたセットリストで、本当に驚きました。
KIRITO:元々そういうつもりで作っていたので、そうなるだろうなっていうところを、あのライブで見せた感じですね。
ライブタイトルにあったBETAはALPHAの先であることはもちろん、試験版の意味もあるというところで、これはやはり次に控えていた春のツアー「ALTERNATIVE SPECIES」(2024年4〜6月)に向けた試験版の意味合いだったのでしょうか?
KIRITO:まさにそうですね。
春のツアーでは、二作の楽曲がほぼ収録順での並びであったことは2月公演と共通していながらも、組み合せ方に変化がありました。
KIRITO:やっぱり『NEOSPIRAL』はAngeloが一度終わってからのソロ活動の最初の作品だったから、自分的にはまた新しい幕開けという感じで、そこに『ALPHA』の楽曲が加わることで、よりパフォーマンスとして見せる選択肢が揃ったなという感じはありましたね。
初日とファイナルでも組み合わせ方の違いが結構ありましたが、ツアーの中でのセットリストというのは、やりながら変えていくものですか?
KIRITO:正直に言えば、自分がセットリストを決めるにあたっては、本当にリアルタイムで決めていければいいなとは思うんですけど、演奏だったり音響、照明、皆さん全体のことを考えると、早く出せと言われるものではあるので、早く出したいですよね。ただ、理想を言えば、その時に感じる一番良いものは、結構リアルタイムに出てくるんだけどなというせめぎ合いです。
7月にはアコースティックシリーズの「Phantom」公演があり、「THE TIMELESS VISIONS」というサブタイトルが冠されていました。この時にKIRITOさんが「10年前、20年前、経験値も当然今より浅いはずなのに、今の自分から見ても、僕の作詞の言葉の置き方は侮れないなと」と話していて、ご自身でもそう感じるんだなと。
KIRITO:そうですね。当然何でもかんでもってわけじゃないんだけど、自分の生きてきた軸で考えると、歌詞の世界観を作ることに関して言えば、大昔の若い時から何か1本軸が見えてやってきたんだなと。そこに関してはすごく時間を遡ってみても一貫しているんだなと思います。それってすごいことというか、今の自分が過去の自分から答えやヒントを見せてもらえるぐらい、最初からその先が見えていたんだなと実感しましたね。
8月には有村竜太朗さんとの初ツーマン「THE CHEMICAL DESTRUCT – ANTI-PARTICLE – KIRITO vs 有村竜太朗」があり、なんだかすごいものを見たなという奇跡みたいなステージでした。
KIRITO:同年代で今も第一線でやっている人は少ないし、ここまでやってこられているということには理由があるわけで。そういう意味で余計に今、同期で頑張っている人に対してはすごく連帯感を感じますよ。楽しかったですね。
ツインヴォーカルでのパフォーマンス自体KIRITOさんには珍しい機会ですし、竜太朗さんの曲を歌う光景は新鮮でした。
KIRITO:考えてみると、確かに僕はそういうふうに人の曲を歌うことはあまりないほうだと思うので、やっぱり新鮮だったし、資料をもらった時に初めてその曲を聴いて、歌詞も見て、すごく良い曲だなと思って自分の曲より真面目に練習しましたね。
そして、9月にも「Phantom」公演があり、10月にはDIR EN GREYとPIERROTの「ANDROGYNOS – THE FINAL WAR -」が開催されたという流れでした。8月の竜太朗さんにしろ、「ANDROGYNOS」でのDIR EN GREYにしろ、それぞれ対峙した2アーティストのコントラストがとても強かったのが印象的です。
KIRITO:そうですね。決して今の時代の若い人と自分らの世代と比較してどうこうってつもりはないんだけど、自分らの世代は放っておいてもコントラストが見えるぐらい、オリジナリティがものすごく尖ったアーティストたちでせめぎ合っていた時代なんだろうなとは思いますね。今でもそういう世代の我々みたいなアーティストは、似たようなものでは決してなくて、それどころか普通に並ぶだけで本当に全然違うコントラストを持った形になる。2バンドを並べるだけでもそれが見えるってことは、やっぱりそういう時代を生き抜いたんだろうなと思います。
確かにあの時代、似ているアーティストってあまりいなかったなと。
KIRITO:あまりこういう言い方をすると、今の若い人を否定するように聞こえたら嫌なんだけど、確かにそういう時代だったとしか言いようがないなと。うん、それぐらいにしとこうと思います(笑)。
そんなこんなで、今年のKIRITOさんは色々な形でほぼ毎月ステージに立っていたわけですが、その中で『CROSS』を完成させたというのは、例年以上に大変だったんじゃないかとお察しします。
KIRITO:うーん、大変でしたね。無茶だったと思います(笑)。
でも完成させてしまったという(笑)。9月の「Phantom」公演のサブタイトル「CROSSING LINE」は、やはり『CROSS』を見据えたものだったわけですよね?
KIRITO:そうですね。
ここまでお話してきたKIRITOさんのライブタイトル、「ALPHA-CODE」 「THE MISSION OF BETA」 「ALTERNATIVE SPECIES」 「THE TIMELESS VISIONS」 「CROSSING LINE」という流れも『CROSS』への伏線のように感じられます。
KIRITO:やっぱり常に伏線は張っていますよね。それが上手く作用しているなと思います。まぁ、そういうやり方で昔からずっとやってきたなとも思うんですよね。一応伏線を張っておいて、それが結果的に回収されることになるやり方だった気がする。
今思えば、9月の「Phantom」公演で「時間って素敵なもので、もう何もかもダメだと思っても時が経てば素晴らしいものになったりするし」など、“時間”について話していたのも『CROSS』に繋がっているなと。
KIRITO:色々思いを巡らせて、それが結果的に伏線になったりするんだけど、ちゃんと回収することになるかどうかまでは、正直わかっていないんですよね。そうなるだろうなっていうような思いから描いてきたものが、やっぱりそうなっていくというところでは、上手くできているなとは思いますけど。ただ、何でも自分の思い通りにしているとかそういう偉そうなことじゃなくて、何となくそうかもなと思いながらやってきたことが、そうなっていく感じです。
長いスパンで、より壮大なスケールで見せることになる
改めて『NEOSPIRAL』と『ALPHA』は二部作のような関係性でしたが、そういう意味では『CROSS』は独立した作品として制作に臨んだのでしょうか?
KIRITO:『NEOSPIRAL』と『ALPHA』は、『NEOSPIRAL』の段階で収録曲「ANTI-MATTER」で言っているように、物質と半物質というところで。その昔、元は一つだったものが分かれて、それがまた重なることによって対消滅で消えてしまうっていうストーリーだったので、そういう意味では『CROSS』はそのうえでできた創世記みたいな。『NEOSPIRAL』と『ALPHA』が対消滅によって消えた後、世界が始まるみたいなイメージです。
なるほど。9月の「KIRITO CHANNEL」で、『CROSS』というワードについては色々な意味があるけど、世界線がクロスするという意味では、歌詞の世界と同時にKIRITOさんの現実世界も色々な次元でクロスしている時期でもあると話していましたよね。つまり、こういう時期に出す作品であることを前提として制作した部分が大きかったのでしょうか?
KIRITO:発表される時期を考えれば、僕が歌詞を書いたりしている時期には当然いろんなことが決まっている状態だったわけです。そういうことも含めて、かつて分岐していった自分の世界線がまたクロスしていくことも当然分かっていたことなので、そういう流れも全部考えながら作っていったことになりますよね。いろんなことを示唆している形になっていると思います。
1曲目「CROSS OVER THE WORLD LINE」は楽曲としてのインパクトと強さがあって、アルファベット表記になってからのKIRITOさんを象徴するサウンドだと思います。これは1曲目を想定した曲作りだったのでしょうか?
KIRITO:もうこれは1曲目にしようと思っていました。歌詞のストーリーとしてももちろんなんだけど、単純にサウンドが、やっぱり一発目にこれが来れば、強いパンチ力というか、聴いた人も「おお!」ってなるんじゃないかなと、そういう思いもあって。
歌詞で言うと、これまでKIRITOさんが描いてきたことが端的に表れているなと。
KIRITO:そうですね。アルバムの一発目としても、いろんなことを示唆している部分もあるし、言ってみたら、そのアルバムを飛び越えて現実世界のことまで、これから起こるであろうことだったり、それによって巻き起こる連鎖っていうものも色々と示唆しているような曲になっていると思います。
Angelo活休前最後のインタビューの時に、物事には必ず終わりがあることを奇しくも自ら証明する形になったと話していましたが、終わりと始まりは同義語で、破壊と再生を繰り返して物語は続いていくというKIRITOさんが描き続けてきたことを、今また自ら証明して、それがこの歌詞にも表現されているなと感じました。
KIRITO:そういうことはずっと言ってきたし、作品にもしてきたと思うんですけど、確か今年の春のツアーだったかな、どこかのMCで言った覚えがあるんですよね。これから長いスパンで、今まで言ってきたことがどういうことなのかってことを、世間を賑わしつつも今回は結構壮大な仕掛けをするつもりと。そういう感覚に近いですよね。例えば始まりと終わりが同義であるってこともそうだし、世界線が分かれていったり重なったりだとか、次元って何だろう、世界線って何だろうみたいなことだったり、そういうことをちゃんと伏線を張って回収するには、今回はちょっと長いスパンで、より壮大なスケールで見せることになると言っていたと思うので、そういうつもりです。
それこそ春ツアーのファイナルの時に、「今年はいろんな情報が入ってきて、KIRITOはどこに行くのかと思われるかもしれないですが、行動で見せていきます。一つ言えることは、その筋書きを書いているのは俺だということ。皆さんも笑みが溢れるような、『やってくれるな』という感じにしかならないので、安心して楽しんでいきましょう」と言っていました。そのうえで今作を聴くと「まさに!」という感動があって。
KIRITO:もうそういうことなんですよ。アルバム『CROSS』自体もその過程の一つでしかないっていう言い方もできるぐらい、もうちょっと先を見てもらった時に、まだまだ色々ありますよというところで。何か大きなものを表現したいなとは思っています。
「CROSS OVER THE WORLD LINE」での〈想定済みの現実〉〈思惑どおり書き換わった〉や、「Golgotha」での〈予定通りの回帰を果たそう〉、「A NEW BIBLE」での〈全てが筋書きだったと知る〉など、こういう言葉選びは今だからこそのものでもあるのでしょうか?
KIRITO:そうですね。ソロもそうだけど、Angelo、PIERROTと遡っても、やっぱり自分が貫いてきた考え方の軸みたいなものはこういうことなんだっていうのを、やっていけばやっていくほど、もうちょっと明確に伝えたいなという思いは常にあるんですよね。ただ、それって一言で言える簡単なことではないから、僕がやることの一つひとつを点と点で繋いでみてもらえば、言いたいことが何かもうちょっとわかるんじゃないかなっていう思いがあって、その一つひとつを今やっている感じですかね。
過去のワードとのリンクは意識的なものと無意識なもの両方あると思うのですが、例えば「Golgotha」での〈約束したあのゴルゴタへ〉、「月の残像」での〈誰もいない丘〉は意識的に入れたものでしょうか?
KIRITO:はい、意識的ですね。全部自分で作ってきたものだから、そういうものを持ってくることも自由にできるんですけど、あんまりそういう手法に偏らないようにとも思っていたので、ただ言葉を持ってきたっていうことではなくて、そこに本当に意味があるから、そこに置くことによって聴いている人が「こういうことでもあるのかな?」って、ちょっと想像を膨らませてもらえればいいかなと。「瓦礫の花」にある〈真っ赤な花〉も、そういう意味で入れています。
その「瓦礫の花」が10月11日にMV公開、10月12日に先行配信となりましたが、温かさと優しさに溢れたメロディとメッセージに、涙したファンの方も多かったんじゃないかなと思います。
KIRITO:MVでリードトラック的に抽出すれば、その曲のイメージが強くなると思うんですけど、そこから今回のアルバムを聴いてもらえば、実際いろんな曲があるので、全然違うじゃんっていう印象を持つ人も多いと思うし、そういう点では良い意味で遊んでいるというか。「瓦礫の花」みたいな印象を持ってアルバムを聴いてもらった時に、1曲目が「CROSS OVER THE WORLD LINE」みたいなとんでもない曲だったりすれば、それだけじゃねーぞっていう驚きを感じてもらえると思うんです。だから、驚かせるための前振りという意味もあるのかなと。
アー写とMVでのギターヴォーカルのKIRITOさんの姿もとても新鮮で、リード曲のタイプもヴィジュアルも過去二作とは真逆のベクトルですよね。「瓦礫の花」は先行配信やリード的な立ち位置とすることを決め打ちで制作したのでしょうか?
KIRITO:いや、そんなに決め打ちじゃなかったですね。周りの人の意見も聞きながら、今回はこういう感じの見せ方もいいかもねと。そうは言いつつも、ちょっと極端すぎないかな?と思ったりもしたんですけどね。こういうアルバムだと思われても、実際は全然違うしなと(笑)。でも、単純にMVでポンって見せるという意味では、こういう曲もありますよってことでいいと思うし、それがトリックじゃないけど、アルバムの前振りになるのも面白いだろうし。ただ、どんな見せ方でもよかったんですけど、確かに前作、前々作がヘヴィーでハードなナンバーだったので、スコンと予想を裏切るという意味でもいいんじゃないかと、こういう振り切った見せ方をしましたね。あとはアルバムを聴いてもらって、色々驚いてもらえたらいいんじゃないかなと思います。
1曲を通して温かいですが、最後の英詞も実はすごく大切なメッセージだなと。
KIRITO:結構そういう大事なとこほど、英語にしてぼかしたりするんですよね。僕の場合、ちょっとダイレクトだとなんなんで、みたいな部分は英語にするようなところがあるので。訳すというワンクッションを置いて伝わったらいいかなっていう。でも、その分結構大事だったりもするんですよね。
ワンクッションあると、逆に残るでしょうね。
KIRITO:そうですね。訳すっていう能動的な行動を1回取ってもらって。
ちなみに、この曲はライブでもギターヴォーカルで披露するのでしょうか?
KIRITO:いや、多分それはやらないです。この1曲だけのために機材とかを用意するのは大変なので。
あ、確かに。ふと思いましたが、今回のヴィジュアルがこれまでのイメージと真逆ではあるものの、ツアーの衣装などはやはり今までの雰囲気になるのでしょうか?
KIRITO:いやー、そこもね、まだ考えてなくてわかんないですね。本当にその時に思ったようにやると思うので、ツアーが近づいてきている今の段階ですら、どうって言えないです。