KIRITO

『ALPHA』で示す究極の始まりと自分以外のもう一人の存在。進化とはどういうことなのか――

2022年にKIRITO名義でのソロワークスを始動し、それ以前のバンド活動時と変わらぬペースで怒涛の展開を見せてきたばかりか、作品やステージにおいて、さらに鋭利な攻撃力を増し続けている彼が、2023年も待望の新作アルバムを完成させた。前作『NEOSPIRAL』から約1年を経て生み出された全曲書き下ろしの『ALPHA』には、よりブラッシュアップされたバンドサウンドの11曲が収められ、途切れることなく続くストーリーが描かれている。この1年間の活動を振り返るとともに、究極の始まりの第一歩となる最新作についてKIRITOにじっくり話を聞いた。


客観的な目が常に同時にあって、それが一番の指針になる

昨年11月にアルバム『NEOSPIRAL』をリリースして以降、その作品を軸にしたステージを重ねてきた1年間でした。リリースタイミングでの冬ツアー(2022年11月〜2023年1月)、LINE CUBE SHIBUYAでのバースデー公演(2023年2月)、春ツアー(2023年5〜6月)、さらに夏のCLUB CITTA’公演やMUCCとのツーマンも含め、ここまで長期に渡って一つの作品を軸にしたライブを展開するというのは、なかなかないことだったんじゃないかなと。

KIRITO:Angeloの時から1年に1回アルバムが出て、次の作品が出るまではその作品のテーマという感覚ではあったんですけどね。ただ、この1年間の見え方としては、もうちょい踏み込んで『NEOSPIRAL』の感じを引き継いでいったのかもなと思いますけど、やっているほうとしては自然な感じだったんですよね。

この1年間は、やはりステージでもKIRITO名義になってから生み出した楽曲を軸にするという考えが大きかったのかなと。

KIRITO:そうですね。やっぱり『NEOSPIRAL』以前の楽曲は大分前のものだから、その時の自分の感覚や、やりたい音楽性の方向も今とは結構違うので。ただ、ライブとなると曲数的に昔の曲も入れなきゃいけないというところで、そこのバランスを取るために昔の曲をかなりリアレンジして、今の感覚に合わせるということもやりつつ。自分としては年々もっとハードに、もっとヘヴィーにという感覚になってきているから、そういう重量感やエッジみたいなところを揃えなきゃなと思って。

やはり過去曲の大幅リアレンジは、1ステージを作り上げる上で大きな役割を担ったんじゃないかと思います。

KIRITO:それができ得る楽曲の元々のポテンシャルというのもあるから、全部が全部そういうふうにできるわけじゃないんだけど、でき得るものをチョイスして、今の自分の感覚で音を作り直していく感じでしたよね。例えば曲によっては、サビごとメロディーを変えてしまったり、メロディーをなくしてしまったりとかも、今ならではの、今の自分だからそうすることができるし、そうする必要があるという感じだったと思います。

ちなみに、リアレンジする楽曲はどのような基準で決めたのでしょうか?

KIRITO:やっぱり完成形のイメージが湧く曲ということですよね。時間があればもっとできるんですけど、それと同時に『ALPHA』の新曲も作っていたわけで。必要であれば過去曲もリアレンジするけど、新しい曲がメインになっていくというのはわかっていましたから。

『NEOSPIRAL』のリリース時期に「証明」がキーワードになっていて、色々なことを証明してきたKIRITOさんですが、セットリストの組み方と表現力次第で何通りもの見せ方ができることを、ある意味1年間かけて証明することにもなったなと。これは計画通りか偶然の産物か、どちらでしょう?

KIRITO:うーん、自分の流れが自然とそうなっていったから、自然とそこに向かっていったんだと思います。

アコースティックシリーズの「Phantom」公演も、昨年7月のスタートから回数を重ね1年以上が経過しました。今年4月の大手町三井ホール公演では、急遽KIRITOさん一人での弾き語りに変更となる事態もありましたよね。

KIRITO:そうですね。本番3日前とかの話だったので、すぐに決断しないとどうしようもないというか(笑)。あれが元々バンド形態の演奏だったら多分できなかったけど、「Phantom」シリーズは基本的に弾き語りで歌うスタイルなので、JOHN(G)が急に具合が悪くなってもできたという感じですかね。

あのステージ上での「できるかできないかではなく、やるかやらないか、この二択だけで生きてきました」という発言も印象的で、そういうKIRITOさんだからこそ実現できたステージだっただろうなと思います。

KIRITO:やると決めたからには、やるしかないということですね。

ところで、KIRITO名義になって以降、年齢に逆行するようにさらに攻撃力を増していっていますが、それは内面的なモードの表れでもあるのでしょうか?

KIRITO:どうだろうなぁ。時間が進めば年齢を重ねるのは当たり前ですけど、元々ある攻め続けるという感覚によって、作品としては時間と共により尖っていくようになって、それをどんどんブラッシュアップしていくことを年齢関係なくやっている以上、そうなっていくんですよね。それと同時に年齢も重ねていくわけだから、変に逆行していくような見え方になっちゃうけど、自分の感覚としてはやっていけばやっていくほど尖っていくのは最初からわかっていたというか。それを表現する自分が年齢を重ねていくこともわかってはいたけど、自分としては逆行という感覚はないですね。

根本には“KIRITO”というアーティストはこうであってほしい、こうありたいみたいなKIRITO像が常にあるのでしょうか?

KIRITO:それは基本にありますよね。常にいわゆるロックキッズとしての目で、こういうミュージシャンがいたらカッコいいだろうなとか、そういうミュージシャンが次にこういうことをやったら、より驚くし、さすがだなと思うだろうなと。だから、KIRITOという自分が作った偶像みたいなものが、次にどの一手を出せば「うわー!」って思えるかという客観的な目が常に同時にあって、それが一番の指針になるんですよね。

村田さん(本名)とKIRITOさんがバチバチになったり、葛藤することはないんですか?

KIRITO:あー、どうだろうなぁ。葛藤ではないんだろうけど、KIRITOとしてもキツい時というのは当然あるわけで、そこに対して背中を押すじゃないですけど、「村田が期待している以上は負けられないな」という時も、あるっちゃありますよね。それがあるからこそ、踏ん張って負けないでやっていけるというのもあるし。でも、その期待が時にしんどい場合も人間だからあるけど、結局そのしんどさを乗り越えなきゃ、どのみちダメでしょというのがあるから、やっぱり関係性としては良いんだと思いますよ。

相乗効果を生む関係性なんですね。

究極の始まりの第一歩をきちんと踏んだという意識

「『NEOSPIRAL』がそもそもブチ切れていたのに、その次はさらにブチ切れている」「最狂度更新」というSNSの投稿もありましたが、ソロワークスのリスタート1作目、それを経ての2作目という部分で、作品作りに対する心持ちの違いはありましたか?

KIRITO:『NEOSPIRAL』を作ったことによって、そこで見えた反省点だったり、もっとこうしたいと思うアイデアはやっぱり生まれるので、1年を経てそれを今回の『ALPHA』にと繋げた時に、当然『NEOSPIRAL』から見ればブラッシュアップされて進化して、より先鋭的なものになるというのはありますよね。だから、それをちゃんと受け継いでやっていけば、僕がよく言う、最新が最高の形になるわけです。去年のものより今年のもののほうが良いに決まっているし、来年作るものはもっと良いに決まっているという、当たり前の流れを作っていきたいと思いますよね。

『NEOSPIRAL』は、よりやりたいことをやったという感覚とのことでしたが、今作はさらにその上をいくという感じですか?

KIRITO:やりたいことしかやっていないという感じですね。

今作のタイトル『ALPHA』は物事の始まりを意味しますが、先日のKIRITO CHANNELで、「『NEOSPIAL』が新たな螺旋=新しい種としてソロ名義がリスタートするというイメージで、『NEOSPIAL』からの『ALPHA』。ALPHAという言葉にはいくつか意味があって、究極の始まりの存在、生物の種の完璧な始まりの状態が『ALPHA』という意味でもある」と話していましたよね。それを踏まえると、ある意味『NEOSPIAL』を経て『ALPHA』で“KIRITO”として現時点での完全体になったという意味合いも含まれるのかなと?

KIRITO:完全体というよりは、『NEOSPIAL』からの究極の始まりの第一歩をきちんと踏んだという意識ですね。それが完全体かというと、まだまだだと思うんですよ。また次はもっと進化するし、今後も絶対に進化していくんだけど、今、自分の新しい種の始まりとしては究極のところであることに間違いないですね。完全体ではないかもしれないけど、究極の始まりという言葉をあえて使っているという。

楽曲「NEOSPIRAL」に〈究極の愛情で進化は遂げられる〉という歌詞があったので、まさに『ALPHA』に繋がるなと思ってハッとしました。

KIRITO:そうですね。構想としては『NEOSPIAL』と同時に『ALPHA』というテーマがあったので、自分の中では二部作みたいな感覚がありますよね。『NEOSPIAL』と『ALPHA』で一つの表現したいものみたいな感じで。

なるほど。今作収録曲のタイトルとしても、アルファとオメガが出てきますし、やはり始まりと終わりは同義語であるという、KIRITOさんが描くものは一貫していますよね。

KIRITO:物語というのは続いていくから、「THE SUCCESSOR「OMEGA」」は究極体であると同時に、「THE SUCCESSOR」ということで受け継ぐものとしての究極体ということなので、アルファから受け継いだものは次にも受け継がれるという、やっぱり先は続いていくんだよということは言っておきたかったですね。

「映画1本分の良いストーリーができた」とも言っていましたが、ストーリーを具現化させるには歌詞とタイトルが必須となるわけで、作曲をしている段階で、ある程度の歌詞の内容も浮かんでいるものですか?

KIRITO:曲によりけりなんですけど、そこまで考えて作っている時もあれば、そうじゃないものもあって、単純にサウンドとしてどこまで深く作れるかというところで完成させた上で、そこから歌詞をということも多いですね。

ちなみに、今作収録の「RITE OF PASSAGE」の歌詞に〈失う哀しみと迎える高揚〉〈纏いつく恐怖心と芽生える好奇心〉と、それぞれ相反するワードが並んでいますが、KIRITOさんはとしてはいつも後者がすんなり勝つんだろうなと。

KIRITO:やっぱり進化とか、前に進み続けることとはどういうことなのかを考えれば、失うと同時に出会うものがあって、もちろん失う時には悲しいだろうし、乗り越えなきゃいけない痛みとかもあるけど、それでも新しいものに出会いたいという好奇心のほうが勝るからこそ、前に進もうとするわけですよね。その全てがどういう関係値なのかというところを表現したかったですね。良いことばかりじゃないし、当然悪いことばかりじゃない。それを経てでも進もうとするモチベーションは何なのかって考えれば、それは好奇心なんじゃないかということです。