KIRITO

KIRITO新章の初アルバム『NEOSPIRAL』が完成。ヴォーカリストとして大きな節目を迎えた2022年、渾身の作品を通して証明するもの、見据える未来とは――

今年1月をもってAngeloが無期限活動休止となって以降、いち早くソロ名義での本格始動を発表し、配信リリースや全国ツアー、アコースティック公演の開催など、怒涛の展開を見せてきたKIRITOが、待望のフルアルバム『NEOSPIRAL』を完成させた。タイトルから既におわかりの方も多いと思うが、彼がこれまで描いてきたストーリーは決して途切れることなく続いている。その一方でサウンド面においてはやりたいことをとことん追求し、アップデートした新たなKIRITO像を魅せてくれる。2022年の活動と渾身の新作について話を聞いた今回、KIRITOの口から度々発せられたのは「証明」という言葉。その真意を読み解き、作品をじっくり堪能してほしい。


自分が音楽を作って発表していくうえでの最終形態のような意識

1年前のインタビュー時に「形は変わっても、求めてくれる人を受け止める場所というのを僕自身がなくすことはないです」と言っていた通り、今年1月のAngelo活動休止前ラストライブを終えて3日後に早くも“KIRITO”名義でのソロ始動発表、その後アコースティックライブ、配信リリース、全国ツアーと怒涛の展開を見せてきたKIRITOさんですが、見える形での活動ペースを絶対に緩めたくないという思いが強かったですか?

KIRITO:まず止まらないのが一番かなと思っていましたね。自分自身の中でもファンの人に対しても、両方の意味合いで。

大変な時こそ燃えるタイプであるKIRITOさんの底力の見せ所でもあったと思います。

KIRITO:タイミング的にも色々なことがある流れの中で、自分にとっても大きな節目だと思ったんですよね。PIERROTがあって、Angeloがあって、最終的にKIRITOという人間そのものでやっていくというのが、自分が音楽を作って発表していくうえでの最終形態のような意識があったから、その手始めというところで色々な思いがあったし、色々証明しなければいけないので、ちゃんとしないとなと思っていました。

たらればになってしまいますが、もしAngeloが続いていたとしても、今のようなソロ活動をやっていた可能性はありますか?

KIRITO:いや、Angeloをやっていたらこの形はやっていないかもしれないですね。やっぱり今までバンドがある時は、自分の中での表現欲求や手段を100%バンドに注いでやってきたから。ただ、それが実際のところどういうことなのかというのは、ファンの人も言葉としてはわかっていても物理的にはわからなかったと思うんですよ。だけど、今回はまさに全てを自分でコントロールして、作品を出してパフォーマンスするわけだから、それがどういうことなのかが初めて物理的に見えるというか。今までバンドに注ぎ込んできたKIRITOの100%を全部ソロに注ぎ込むとこうなるというのを、物理的に見せるタイミングだと思ったんですよ。

そんな2022年はいつも以上に時間の経過は早く感じましたか?

KIRITO:うーん。ソロなので全てのパートにおいて100%コントロールして関わって作ってという部分では、多少仕事量は多くて大変さはあったけど、バンドでもそういう感じでやってきたので、全体的にはそんなに大きな違いはないですね。

50歳の節目でもあった今年2月24日のKIRITO Acoustic live 22’「THE NIGHT BEFORE AWAKENING」@LINE CUBE SHIBUYAがAngelo活休後のKIRITOさん初ステージとなったわけですが、デビューした当時、ご自身が50歳の時に歌っていると想像していましたか?

KIRITO:いやー、想像していなかったですね。花火のようにパンッと派手に打ち上がって早めに終わるかなと思っていたんですけど、壮大に続いているなと感じています(笑)。

50歳のイメージとKIRITOさん自身の今の状況に、ギャップは感じていますか?

KIRITO:昔は、自分は太く短くというタイプだとずっと思っていたから、40歳まで生きていないと思っていたんですよね。30代で死ぬかなと思っていたのが、40代を経て50歳になってというところでは、ちょっと予測とは違ったし、なってみて思うのは全然変わってないなということですね。細かい部分では違っているんだろうけど、見た目も中身も多分10代後半とあまり変わってない感じ(笑)。

パフォーマンスも全く50歳には見えないです。

KIRITO:結果的にそうなっていますね。

2018年にソロ活動を再開させてからのアコースティックライブでは、ギター、ピアノ、弦楽カルテットを迎えた大所帯でのステージを重ねてきましたが、2月の公演ではギター、ドラムとのトリオ編成、7月から始まった「Phantom」公演ではギターと歌のみという最小編成で行われました。ヴォーカリストとして新章に突入した2022年、これまでとは違う形で見せていきたいという思いがあったのでしょうか?

KIRITO:オーケストラだったりカルテットだったりピアノだったり、歌が基本にあれば、表現の仕方は色々できるなとは思っているんですけど、その中でもミニマムな形で、ほぼ歌だけで勝負するというやり方もありだなと。だから、今後いつになるかわからないですけど、一人だけでというのもあるかもしれないです。色々やり方はあるよなと思っています。

KIRITOさんの中では、2月公演は「Phantom」公演を見据えたうえでの序章のようなところもあったのでしょうか?

KIRITO:それはあったかもしれないですね。

「Phantom」公演では全曲においてKIRITOさんもギターを弾きながら歌う形態をとっていますが、それによって改めて気付いたことはありますか?

KIRITO:アルペジオでもリフでもいいんですけど、それはあくまで歌のメロディーを乗せるうえでの音であって、つまり歌のために最低限あるという感覚ですね。ただ、改めてAngeloでもPIERROTでも、こんなに良い曲がいっぱいあるんだという忘れていたものを思い出せました。遡るほどに当然歳も若い時に作ったものだし、色々粗いなと感じるのが普通だと思うんですけど、そういうのがないというか。自分で言うのもバカっぽいんですけど、本当に最初から良い曲しか作ってないなと思いましたね。

今年は久々に披露したPIERROTの楽曲もあって、ファンの方の反応も大きかったですよね。

KIRITO:そうですね。「Phantom」公演に関してはアコースティックなので、AngeloやPIERROTだったり、これまでたくさん作ってきた曲たちをセルフカバーのような形で歌っていくというのは、これからもありだなと思っていて。自分で作っているんだけど忘れちゃっているものも多いので、また自分で聴き直して良いなと思うものをピックアップして歌っていくのはいいんじゃないかなと思っています。

いろんなことの証明になる作品

7月の「Phantom」公演@KANDA SQUARE HALLの中で、アルバム『NEOSPIRAL』のリリースが発表されましたが、タイトルを知った瞬間にものすごく納得しました。昨年、Angeloのアルバム『CIRCLE』の時に「円の終着点は終わりではなく次の螺旋の始まり」と話していましたが、今回のアルバムを『NEOSPIRAL』というタイトルにすることは、正直いつから頭に描いていたのでしょうか?

KIRITO:おっしゃった通り、そういう考えがあるからサークルは帰結しないというか、螺旋構造だということを念頭に置いて昨年喋っていたので、『CIRCLE』を出す頃には『NEOSPIRAL』の構想はありましたね。

3月から4月にかけて連続配信リリースした3曲「ANTI-MATTER」「INTO THE MIRROR」「RAID」の時点でメッセージは読み取れましたが、今作全体を通してやはりそこが核であると感じました。いつもアルバムの楽曲は全て同時期に歌詞を書くので自然とワードがリンクしたりするとのことでしたが、今回は配信の3曲が先に完成しているうえで他の9曲を書いたという流れになりますよね?

KIRITO:作業的にはそうですね。ただ、構想としては12曲の全体の立ち位置というのは頭の中にあったので、配信曲はその中にある3曲という感覚でしたね。やっぱり『NEOSPIRAL』全体のストーリー、「テロメア」から始まる流れというものがあるうえでの3曲なんですよね。むしろ『CIRCLE』を聴き直してみてもらえればわかるんですけど、「テロメア」という言葉は『CIRCLE』の1曲目「COUNTDOWN」に既に出ているものなので、自分としてはストーリー的には完全に繋がっていますね。

『CIRCLE』と『NEOSPIRAL』を続けて聴くのもありなんじゃないかなと思っていました。

KIRITO:それは全然ありですよ。

「Angelo活動休止のその先、僕が作ってきたストーリーは終わっているわけじゃないということを見せていきたいと思います」と話していた通り、メッセージ性の部分ではそれを表現しながらも、サウンドとしては“KIRITO新章の初アルバム”ということを意識した部分が大きいですか?

KIRITO:もちろん。それまで僕が言ってきたことが、言葉だけだとファンの人たちもぼんやりしていたものが、明確に物理的に証明されることで、もしかしたらあの時言っていたことはこういうことなのかとわかると思うんですよね。「証明する」というのは何を証明することなのかとか、これまで言ってきた「意地」に関しても、何に対して意地でもという意気込みでやったのかとか、そういうことも『NEOSPIRAL』には入っています。なので、いろんなことの証明になる作品だなと思っています。

12曲収録というフルボリュームの曲数も、ある種KIRITOさんの意地なのかなと。

KIRITO:そうですね。そこは察してもらえればいいと思うんですけど、今までAngeloも毎年10曲とかのスケールでアルバムを出してきて、例えばそのペースが早いとかキツいとか辛いとか大変とか、そういうネガティブなものに対して「いや、それはできることだよ」と証明する自分の気持ちも一つの意地だったと思います。考えてみたら僕は音楽を始めてからずっと、「できる」と言う自分と「できない」と言う自分以外の声があって、常に「できない」という言葉に対して、できると証明してきた人生だったんですよね。だから、それと同じ気持ちかな。「できない」と何十年も聞いてきたので、「いや、できるよ」と行動で証明するしかないなと。

なるほど。外に対しても、自分自身に対してもということですか?

KIRITO:いや、外に対しても身内に対してもということですね。自分自身はできるとわかっているんですよ。最初「できない」と言われたことに対して、できることを証明して「あ、結局できるんだ」と毎回なるんですけど、だからできるって言ってんじゃんという繰り返しでしんどいなと(笑)。できるもんはできるんだよっていう気持ちでずっと来たので。

そんなKIRITOさんが今作で最もチャレンジしたなと思う曲は?

KIRITO:今回はどの曲もやりたいことだけをやるみたいな感じで作ったから、チャレンジというよりは、よりやりたいことをやったという感覚ですね。とは言え、多分バンドだったらここまでできなかったと思うんですよ。そういう意味ではソロだからこそ、ここまでやれたと思います。

バラードは別として、今作は全体的にドラムがタイトで弦楽器が重めのサウンドだなと感じましたが、レコーディングやトラックダウンでKIRITOさんが特に重要視した部分というのは?

KIRITO:やっぱり重低音の部分ですね。どこまでやれるかという。難しいんですよね。例えば低音を出したいからと言って低音のレベルだけ上げればいいのかというと、マスタリングとかの過程の中でどうしてもリミッターがかかってしまったり。ここを上げ過ぎるとここがダメになるみたいなすごく難しいバランスの中で、例えばキックのアタック音やベースのうねりだったり、低音の部分はすごくこだわりましたね。

ちなみに10月4日「天使の日」にトラックダウンが完了したそうで。

KIRITO:それは本当に偶然ですね(笑)。

何とも不思議な巡り合わせでしたね。そして、リード曲が「NEOSPIRAL」ではなく「Discord」というのがまたKIRITOさんらしいなと。この楽曲にした決め手を教えてください。

KIRITO:一番わかりやすく今までとの違いが見えやすいかなと。曲調もそうだし、自分のヴォーカルスタイルもまた一つ違うものが見せられる曲だと思って。英詩だったりシャウトだったり、今までどちらかというと自分の要素の中であまり見せていなかった部分を逆に前面に出しているので、そういう点ではわかりやすい曲かなと思いました。

今作中、一番激しい楽曲ではないかなと。

KIRITO:そうですね。ハードさ、ヘヴィーさで言うと、また違う部分でもっとすごい曲もあるんだけど、「Discord」の場合はわかりやすくぶっ飛んでいるかなと思います。

先日、MVを公開した際のファンの皆さんのコメントもかなり盛り上がっていましたね。KIRITOさんはMVの時点で頭を振り過ぎたそうですが(笑)、ライブ映えしそうな楽曲でもありますよね。

KIRITO:今作は結構どの曲もライブ映えするんじゃないかなと思いますね。