GOTCHAROCKA

今、素直に向き合えた「穴」と、ツアーを見据えた「沼」。タイトルからは想像不可能な2曲の全貌と、その制作背景を紐解く

今年もGOTCHAROCKAの季節がやって来た。始動記念日である8月18日に開幕する13周年ツアー「390 degrees」を前に、彼らが新たなシングル作品『穴/沼』をリリースする。この時期に発表する作品としては、感覚的に近年とは異なるモードで制作に臨んだという今作。その強烈なインパクトを放つタイトルからは想像不可能な2曲の全貌と、完成に至るまでの背景を紐解く。


自分が積み重ねてきたことをストレートに出せる曲を歌いたいなと

樹威

2025年もGOTCHAROCKAの季節到来です。今年は恒例のスケジュールもありつつ、例年とは異なる動きもある年になっていますが、まず1月に年内のスケジュールを一挙に発表したのも時代だなと。昨今、結構先の予定まで早めに発表する方が多いですよね。

樹威:そうですよね。僕らですら、そこまですごく早いっていうわけではないぐらい、もっと先の予定まで発表しているバンドもいますよね。数年後とか。

例年とは異なるという点で、5月に全8公演の関東近郊ツアー「13年目ノ禁遊戯」が開催されました。しかもファイナルが前橋という、なかなか珍しい機会だったんじゃないかなと。東京でのファイナルの時とは、少し雰囲気が違うのではと思いますが、いかがでしたか?

樹威:完結はしているはずなんですけど、まだ続いていきそうな感じもちょっとするなっていう感じで終わっていて。そういう点で、一区切りではありますけど、逆に気が緩まなくて済む部分もあったかもしれないです。でも、東京で終わる必要性って、集客的な問題とかもあると思うんですけど、そういうのを気にしなければ、別にどこで終わろうが、どんな人数でも盛り上がることができるので、僕らはあんまりそれを気にしてないバンドかもしれないですね。

JUN:稲毛と前橋は、僕らは今回初めてライブをやったんですよ。「13年目ノ禁遊戯」というタイトルだけど、意外とやったことのない場所という新鮮さはありました。

前橋が初というのは意外です。

JUN:群馬県だと高崎になることが多いので、前橋はなかったんですよね。あと、ファイナルは東京が多いというのはすごくわかるんですけど、東京でライブをする時って、自宅から出発するじゃないですか。出先のホテルから向かうほうが楽しいなっていう(笑)。

樹威:体力的にも、そのほうが楽だったり。都内だと、意外と移動で結構時間がかかったりするんですよね。

JUN:1時間前に出ないといけなかったり、他のこともできちゃうし。地方に行っていると、ライブだけのために動けるし、ツアー感があって楽しいですね。

十夜:お客さんも皆それぞれ住んでいる場所は違うかもしれないですけど、やっぱり僕らが初めてのところに行くと、熱量高く来てくれているのがわかるというか。僕らも楽しんでいるけど、お客さんの熱量もすごく高く感じたので、初めての場所はお互い気持ちが入るきっかけの一つにもなるなと思って。すごく新鮮で楽しかったです。

そして、今回のヴィジュアルの黒白赤の衣装が、やっぱりいいなと思って。3人だからこその完璧なバランスですよね。

樹威:まぁ、イメージカラー的なものですけどね(笑)。

JUN:国旗みたいな感じで(笑)。どこでしたっけ?

十夜:エジプト?

樹威:あ、エジプトだ(笑)!

でも、パッと見た時の絵ヂカラがありますよ。しかも、今作の「穴」の歌詞にある闇、光、愛にもピタリとはまるなと思って、ハッとしました。

全員:お〜っ!

JUN:それ、こっちが言ったことにしてもらっていいですか(笑)。

樹威:そうか。僕が光、十夜が闇(笑)。

JUN:俺が愛(笑)。

ですね(笑)。それにしても今作『穴/沼』がまたインパクト大のタイトルですが、情報が発表された時、ファンの方々はどんな反応だったんでしょう。

樹威:発表時にお客さんと対峙していないのでわからないですけど、まぁでも、面白いタイトルだなっていう感じだったんじゃないですかね。

JUN:どんな曲なん?っていうのが、頭を巡ったでしょうね。「これでええの?」っていう人と、「どういう曲なんだろう?」っていう人に別れるかもしれないですけど(笑)。

タイトルから全く想像がつかないですもんね(笑)。今年、この時期に出す作品がシングルになったのは、5月にもシングル『CO-ADDICTION/The Ruler’s Play』を出したことが大きな要因でしょうか?

樹威:そうですね。ツアー「13年目ノ禁遊戯」を回るにあたって出した2曲は、結構激しめだったので、僕らはもっといろんな変化球とかも見せられるよっていう部分で、今回また違ったアプローチをしようと、自然となった感じですね。

昨年のミニアルバム『MONARDA』の制作は、一昨年のミニアルバム『CAST』の流れを汲みつつ、もっと濃度の濃いところにいったらどうなるんだろうというのがスタートでしたが、今回はどんなところから?

JUN:その、めっちゃ濃度が濃いのを作りたいと言っていたやつは、『MONARDA』でちゃんとできたなと思ったんですよね。それと同じタイミングで、実は「穴」の超原型を作っていたんですけど、その時はこれは今やらなくていいかなっていう感じだったんですよ。そこから今年5月に2曲激しい曲を出して、そのツアーも終わって、なんか良い意味で区切りをつけられるタイミングというか、整理できるような感覚があったんです。それで次どうすんねんって思った時に、ちょっとだけ作っていた「穴」の超原型がしっくり来て。データを開いた時に、これを形にしたいなと思いました。

なるほど。

JUN:そこで『MONARDA』の時のように濃厚な作品を作るんだとか、そういう欲は良い意味であまりなくて、今、素直に向き合える曲を作りたいなっていう感覚がありました。気持ちの問題で一旦区切りとしてリセットできる、その時に引っかかった曲が「穴」の原型だったので、素直にこのまま曲にしていきたいなと、スッと曲に向き合えたというのが、その時必要としていたことなのかなっていう。何か作らなきゃいけないという感覚は良い意味でなかったですね。

では、メインの曲はこれでいこうと決めて進めていったのでしょうか?

JUN:いや、そういうつもりで作っているわけではなかったです。他にも作りたい曲とか考えはもちろんあったりする中、すんなりこの曲を形にしたいなと思って入っていったので、気持ちのどこかで、これをちゃんと作ったら何かのきっかけになるかもと思っていたのかもしれないです。だから、とりあえずこの曲を良い曲にしようと思って、他のことを考えずに作曲した感じですね。

今作の選曲会では、他にも候補は複数あったのでしょうか?

樹威:今回は選曲会をするというよりは、もうJUNが「今作っている曲があって」というので聴かせてもらって。ギターが結構フィーチャーされる感じで、サビは割と歌が前に出そうな感じだなという印象だったので、皆それぞれの魅力を出せる曲としていいんじゃないかなと思いましたね。なので、もし皆がいいならこれが表題曲でいいんじゃない?っていう形で決まっていきました。

それこそ『MONARDA』の時、樹威さんは曲の方向性だったり思っていることはJUNさんと一緒な感じがして、メイン曲は多分こうなるだろうなという予測ができたと話していましたが、今回もそうでしたか?

樹威:僕もフラットに曲を作るみたいな感じで着地したいなと思っていました。激しくいくとか、色々面白いことを入れてみようとか、そういうことじゃなくて、今までの自分が積み重ねてきたことをストレートに出せる曲を歌いたいなというのがあって。『MONARDA』の時は割と激しい曲で、情熱的に歌う方向だったんですよね。だから1年経って僕の中では、これはライブでやっている時のほうが音源以上の力を出せる曲なんだろうなと思っていて。音源だったら、今回はもう少し情熱を抜いて、フラットに歌えるような曲を歌いたいなと。そういう意味ではJUNと一致していた部分はありますね。割と「穴」のサビとかも歌いたいメロディという感じがしたし。

バランス感を考えて作れば作るほど濃厚、濃密な曲になっていく

JUN

十夜さんとしては、「穴」と「沼」のデモを聴いた最初の印象はいかがでしたか?

十夜:もうある程度、今回はこういう感じで行こうと思うというもので、曲を送ってもらって聴いたんですけど、まず「穴」のほうは、耳に入ってくるギターのフレーズが印象的で、リフが曲を引っ張っていっているなと感じました。ギタリストだからというのもあるかもしれないですけど、自分としては客観的に聴いたつもりで、その中でフレーズがすごく新鮮でカッコいいなと思いましたね。その時はまだ樹威さんの歌は入っていなかったんですけど、樹威さんが歌ったら、声の艶感が乗って曲の色気も増しそうだなと思って。素直にこれをやりたいな、良い曲になるだろうなという手応えが最初の印象でありました。逆に「沼」はちょっと世界観が強めのカッコよさがあったので、これもカッコよくなりそうだなという良い印象を持ちましたね。

やはり「穴」の特徴的なギターフレーズは、一聴して耳に残りますね。

JUN:ありがとうございます。良かったっす(笑)。『MONARDA』の制作時には、もうこのリフが存在していて。ギタリストからすると、リフなんて自分が弾いていて「あ、なんかええやん」っていう判断でしかないんですけど、これはメインを張れるなというストックフレーズみたいなものがあるんですよ。それで、これはちょうどいいなと。一旦フラットにして曲を作るといえども、その曲のどこにいろんな癖の付け方をするかは、すごく重要で。聴いてくれる人たちが楽しいとか、ライブで観たいな、聴きたいなと思うものにするには、その曲が持つアクみたいなものが大事だなといつも思っています。だから、ギターのリフはそういうポイントとしてすごく大切ですよね。ライブでちゃんと弾かなあかんなと思ってる(笑)。

今回の2曲とも、ギターリフがライブで見どころの一つですよね。

JUN:まぁ癖ですよね。ああいう特徴的なものを入れたがるっていう(笑)。

「穴」は歌メロだけを拾うと、割と綺麗な曲だと思いますが、楽器陣のフレーズがリズミカルで、やっぱりお洒落感がありますよね。

JUN:言葉で言うのは難しいですけど、センスよくってすごく大事(笑)。作っている本人にしかわからないですけど、自分的に鳴ってほしい音とか、これが鳴った時にヴォーカルが乗るとちょうどいいんだよっていう、そこのバランス感をちゃんと作った時に出てくる曲のカッコよさは、すごくエネルギーを持つものだから。別になんとなくでも、曲ってカッコよくなると思うんですよ。どう気持ちを乗せるかのほうが大事だったりすると思うので。ただ一応、楽器のアンサンブルとヴォーカリストの感情が乗る、このバランス感というのは、考えて作れば作るほど濃厚、濃密な曲になっていくパターンもあるから、この曲はそういうことがすごく必要な曲だったんだなと自分でも思います。だからやっぱり、『MONARDA』の時とはモードが違ったんだなと。あの時は手をつけようと思わなかったので。今だからこの曲にのめり込めたのかなっていう。

GOTCHAROCKAとしては、ヴォーカルが一番聴こえやすいパートを実は最近増やしているとのことでしたが、今作にも随所にありますね。

JUN:そうですね。今回、僕が好きなのは「穴」のBメロのウィスパーのところですね。

あれは珍しいですよね。今までこんなアプローチをしたことってありました?

樹威:確かに、ここまで強調したウィスパーはなかったですね。実はこの曲の歌録りの時、コンディションがあまり良くなかったのは覚えていて。ただ、結構ライブが続いていた時で、喉を使っている時にしか出ない艶感みたいなものが出そうだから、今のタイミングで録ったほうがいいなと思って、頑張って録っていました。だから、レコーディング的には結構苦労した覚えがありますね。最終的にあまり熱くならないように、リズムを気にしながら歌を乗せていったほうがいい曲だろうなと思って録りました。

十夜さんは、レコーディングはいかがでしたか?

十夜:僕が弾いているフレーズは、ほとんどが16分音符のリズムで弾いているから、割と縦のリズムを意識して録音しました。あとは曲として熱くなるところは、逆にあまり熱くなり過ぎないように意識しましたね。

「穴」は音を聴かずに歌詞だけ読むと、温かなミディアムナンバーのような印象を受ける内容だなと。

樹威:そうですね。あったかく書いたつもりです。

JUN:確かにそうっすね。この曲って「思っていた通りの感じや」とは、ちょっとならないかもしれない。

ウィスパー部分の一節〈闇ひとつ 光ふたつ 愛 少し残して〉は、歌詞としても結構この曲のキーな気がしていて。

樹威:そこは別に深い意味を込めたとか、そういうのはないんですよ。でも、そこが分岐点になっていて、そのウィスパー以降で場面転換しているんですよね。それ以降はわかりやすい言葉を選んで、わかりやすい表現にしようかなと。その前は少し抽象的な感じで、どういうことなのかな?っていう感じが、全体的にいいかなと思いました。やっぱり『MONARDA』や前の作品だったら、多分もう少し遠回しにとか、言葉の響きを重視していたと思うんですけど、今回は歌詞も自然体な感じがいいのかなって。

確かに、〈うまくいかないこともたくさんあったけど〉〈うまくいえないこともたくさんあったよね〉とか、特に雰囲気が違うなと思いました。

樹威:ちょっと古臭いというか(笑)。エモーショナルとはまた違う、今までもあった言葉、表現かもしれないけど、あえて突っ込んでいったほうがいいかなと。

それと〈思い出せなかったありがとう〉って、秀逸で美しい言葉だなと思って。

樹威:あまり使わない言葉ですよね。多分、20歳ぐらいだったら絶対そんなこと言わないんですよ(笑)。

JUN:大人やなー(笑)。

樹威:思い出すとか、「ありがとう」なんて言えるわけない(笑)。でも、やっぱり年を重ねて、色々キャリアを積んできて、思い出して許せることもたくさんあるしなと。イコール、素直になれましたっていうことですかね。

JUN:その歌詞を歌った後からギターソロに行きますけど、1回しか出てこないコード進行を使うんですよ。その音がすごく優しい音階を使っているから、俺はなんかスゲー歌詞に合っている感じに聴こえて。「あ、いい人」っていうのもおかしいけど、穴にはまった時やなと(笑)。