GOTCHAROCKA

より濃度を高め、世界観の強い作品に仕上がった『MONARDA』。その全貌と制作の裏側に迫る

8月18日が始動記念日のGOTCHAROCKAにとって、バンドの動きが1年で最も活発になるのが夏という季節。今年も遂に彼らの新作が完成を迎えた。内面的な闇と本質を表現することを軸にした昨年発表の前作ミニアルバム『CAST』の流れを汲みつつ、さらにその濃度を高めることに注力したという今作『MONARDA』。その結果、今のGOTCHAROCKAだからできると自負する、よりドラマチックで世界観の強い作品が誕生した。


今感じているもので、今作ったものを出したい

樹威

今年もGOTCHAROCKAの季節到来です。昨年のこの時期はミニアルバム『CAST』(2023年7月)をリリースしましたが、あの時はアルバムをこれから作っていくための過程段階としてミニアルバムがちょうどいいんじゃないかという着地点に至ったとのことでした。今年もミニアルバムにしたのは、どんな経緯だったんでしょう?

樹威:去年のあの段階では確かにフルアルバムを作る過程と言っていたと思うんですけど、その後『CAST』の曲を冬ツアーでもメインでやっていた中で、なんとなく次もフルアルバムじゃなくていいんじゃないかとなった気がしますね。で、結局どうするとなった時に、ミニアルバムがいいんじゃないかと。

JUN:『CAST』は当時「俺らにとってカッコいい曲を作ろうよ」と言ってスタートしていて、その後に『Transparent butterfly』という会場&オフィシャル通販限定シングルを12月に出して、多分いい感覚があったんですよ。世界観の強いGOTCHAROCKAらしい曲みたいな方向性で進んでいる感じで。アルバムって単純に曲数が必要で、色々なキャラクターが増えることになるじゃないですか。それよりはミニアルバムぐらいの曲数にした方が、今やっている濃い世界観みたいなのは強く出せるのかなと思ったんですよね。

樹威:僕ら、イベントでもほとんど最新の曲しかやらないんですよ。それって結構、他のバンドから「すごく勇気あることしてるな。逆に痺れる」って良い意味で言われるんですけど、僕らとしては普通に当たり前のこととしてやっているしなっていう。現状、イベントでまだ『CAST』の曲をやっていて、ここでフルアルバムが出てガラリと変わるのは、何かちょっと違うなと思っていました。

ミニアルバムの5〜6曲というのは、ワンマンのセットリストを入れ替えるのにもバランス的に良さそうな曲数ではありますよね。

JUN:確かに。アルバムだと 10曲ぐらい一気に増えるじゃないですか。もう衣替えみたいな(笑)。でも今は、上に重ね着していっているかのような、良い意味で濃度が増している感じなので、ミニアルバムでよかったなと思いますね。

アルバム『POLYCHROME』(2020年10月)の時は「新しいGOTCHAROCKA」を目標に掲げて制作し、『CAST』は良い意味で自然に曲を作ってみようかなというスタンス+3人それぞれの個性をもっとフィーチャーしていくためのシンプルさ+「カッコいい作品を作りたいね」という話から始まったとのことでしたが、今回の制作はどのように取り組んだのでしょうか?

JUN:『CAST』で良い感触があって、今回はもっといきたいな、もっと濃度の濃いところにいったらどうなるんだろうっていうのがスタートではありました。僕の中ではそれがコンセプトだったのかもしれないですね。

樹威:8月の周年の曲があったり、12月にも『Transparent butterfly』を出しましたけど、その流れが地に足がついている感じ、ストーリー的な感じがあったので、次にJUNがメインで曲を作ってくる中で、多分こうなるだろうなと予測できたというか、曲の方向性だったり、思っていることは一緒な感じがしたんですよ。で、やっぱりデモを聴いたら、こういうのが欲しかったなというのもあったし。自分としてもやりたいことは漠然とたくさんあったんですけど、ぶっちゃけ、どんなものが来てもこなせるだろうっていうのもありつつ。結果、上手く流れに沿って来た感じにはなったなと思いますね。

十夜:都度、それぞれの曲の印象や持っているものが違うので、新たにそういう曲に触れられるのは単純に新鮮で楽しみですよね。ただ、『CAST』や『Transparent butterfly』の二人の制作を見ていたり、一緒にライブをやってきて感じる空気感から、二人が今回どういう方向性で来るのかという予想みたいなのはあって。一緒にやっている年数もあるのかなとは思うんですけど、二人のイメージと真逆のことは思わないので。こういう作品にしたいと思っているんだよねっていう話を僕はあまり直接しないんですけど、なんとなく感じているのも伝わっているなと思っているから多分言わないんだと思いますね。

今回の選曲会はどれくらいの曲数があったんでしょう?

JUN:10曲くらいじゃないですかね。最近作った曲だけで選んで、それ以前のはもうデータを開かなかったですね。

樹威:それ以前のもやったら、80曲くらいになる(笑)。

JUN:目眩がしそう(笑)。以前に作ったものもぼんやり覚えていたりはするんですよ。だけど、感覚がもう変わっているのがわかるから、今感じているもので、今作ったものを出したいなっていうのが強いですね。

ただ、そうなったのは『CAST』からでしたよね。『POLYCHROME』の時にデモが40曲あって、選曲会で聴くのに3〜4時間かかったという話が忘れられないです(笑)。

全員:(笑)

JUN:途中、完全に他のことを考えていましたよね(笑)。

樹威:何年か越しに日の目を見る曲があったりしたしね。

JUN:だから、一応聴いておくかみたいな(笑)。骨董品みたいな感じ(笑)。

樹威:「グエリラ」は骨董品だったよね(笑)。

JUN:結成当時からあったやつが、『POLYCHROME』に入るという(笑)。

樹威:まぁでも、あの時に選曲会がしんどかったから、それ以降やめたところもあるかもしれないです(笑)。

素直にこれをやれて、この美しさを出せる、こんな武器はないでしょ

JUN

ところで『CAST』の制作時に、「元気な曲ではなく、内面的な部分の汚いところやギスギスしたところ、でも何か美しさもあるというのを音で表現したい」というJUNさんと、「段々とコロナが明けてきて、光が差し込んだように見えているところが一番闇かなと思っていたので、楽観的な気分じゃないなと、明るい歌詞は書きたくなかった」という樹威さんの感覚が一致したとのことでしたよね。今作全体のイメージとして、その流れを汲んでいるように感じたのですが。

樹威:本当にそうですね。歌詞の話で言えば、『CAST』の楽曲を書いた時には、そこから1年経って多分こういう思いになるだろうなと、1年後はもっと奥まったところにいようっていう気持ちで書いていた気がしますね。

今作の歌詞は死や終わりが軸にありますよね。

樹威:そうですね。全体的にテーマは死生観です。

JUNさんとしては前回、そういうものを音で表現するとなった時にノイジーな感じを意識したと話していましたが、今回のサウンド面ではどんなことを重要視しましたか?

JUN:気持ちは変わってないですね。サウンド面って楽器がどうとかというより、世界観の色付けだと思うので、そこの部分の濃度を上げたいという思いで。ノイズがかったものって、僕はすごく深みを感じるんですよ。雑音でもあるけど、美しくも聞こえるというか、美学的なものを感じて。それで表現することの独自性みたいな部分と、歌詞は死がテーマになっているという部分も、アートめいた感じで世界観が広がるものだと思うから、それをもっともっとさらに濃度濃くやりたいというのが今回強かったですね。だから音の表現もそうですけど、曲のドラマチック性には結構気を使いました。どういう流れだと感動するかなとか、どういう流れだとすごく悲しげだけど温かく聴こえるんだろうみたいなところは、自然と自分の中でのOKラインの基準になるというか。

『CAST』の時は、リード曲「宵」が生まれるまで「なんかもう一歩なんすよね」という前段階があったとのことでしたが、今回はいかがでしたか?

JUN:「宵」の時って、「なんかもうちょっと、もうちょっとや」と思っていたので、まだよかったなと思うんですよ(笑)。そう思えるってことは、逆に言えば何かピースがはまればいけるんじゃないか、みたいなことだったと思うので。だけど今回は、どのピースにするか自分の中でハッキリしないまま作曲していて、最後にできた曲が今回の表題曲「MONARDA」なんですよ。

そうなんですね。

JUN:選曲会に何曲か持っていきましたけど、その何曲かを経てやっと「MONARDA」に辿り着いたことは間違いなくて。今回難しかったな。さっき言ったようなことを求めてずっとやっていたんですけど…そうか、やっぱり「宵」の時と近いっちゃ近いのか。先ほどから言っている濃度の部分で、もうちょっといけるやろうというのは曲数を作りながら感じていきましたね。で、たまたま最後になって「MONARDA」ができたんだと思います。

「MONARDA」を作った段階で、JUNさんの中でこれは表題曲だろうという感覚はありましたか?

JUN:いや、ないっすね。曲作りのスタート段階で思っているゴール地点は、結構どの曲も同じ感覚でやっていて。今となってはこれが表題曲になっていますけど、どれになってもやりようがあるな、アプローチの仕方はあるなと感じていたから、あとは皆で決めようと思っていました。ただ、一番思っていたのに近いなと思ったのは「MONARDA」ではありましたけど。本当に選曲会の数日前にできたので、最後にピースが揃ったわって安心したのを覚えています(笑)。

十夜:選曲会で聴いた時に、この曲はハッとするポイントが明確にあって、まずイントロで言うとギターだったりバンドの演奏のフレーズがすごく好みで、カッコいいなと。そのセクションが終わってからガラッと雰囲気が変わるじゃないですか。そこでもう予想外というか、もちろん良い意味でハッとして。急に別世界に連れていかれたみたいな感覚がすごく心地よくて、これをどういうふうに樹威さんが歌って、どんな雰囲気の歌詞になるんだろうなっていうのは、すごく思いましたね。

構成が多くて、それぞれ雰囲気が違いますよね。ちなみに〈幸せ〜〉のセクションと、その後の〈Um..〜〉から始まるセクションは、どちらがサビ扱いなんでしょう?

JUN:構成が多くなっちゃったんですけど、作っている最初の段階からBメロはなしと決めていたので、僕の中ではサビ、大サビっていう感覚ですね。

冒頭がとても印象的です。前回JUNさんが、樹威さんのファルセットのカッコよさを改めて実感したと話していましたが、そういう部分の影響もあったりするのかなと。

JUN:それはデカいっすね。だって、素直にこれをやれて、この美しさを出せる、こんな武器はないでしょっていう。ファルセットだけど狂気感もあるし、哀愁もあるしという、その良さは今『CAST』からの流れでやろうとしているGOTCHAROCKAの音楽、美しさみたいなのにピッタリやんと思いますよね。

樹威:実は最初、ファルセットじゃなくて地声で1回入れて、やっぱりファルセットがいいとなったんですよね。雰囲気が全く変わってくるので。結果、良い感じに着地したなとは思いますね。

作品タイトルにもなった「MONARDA」というワードが出てきたのは、どんなきっかけだったんでしょう?

樹威:この曲を聴いて最初にパッと思い浮かんだテーマが、葬式みたいな感じだったんですよね。「MONARDA」というタイトルを付けたのは、歌詞を書いている時に色々調べていた中で、モナルダっていう花があるのか、あぁこれベルガモットかみたいな。それで安らぎの花的な意味合いで付けましたね。あと、何かが燃えている、花が燃えているとか、そういう映像もイメージとして頭の中にあって。だから今回のジャケットは僕的にはすごくイメージに近いんですけど、特にそんな話はしていなかったのに伝わっていたんですよね。

次の「Break The Spell」は英語のささやきの繰り返しで始まります。今作は割と冒頭が特徴的なものが多いなと。

JUN:自然とそうなりました。最近すごく推しているファズのノイズギターをどうしても使いたくて。「いっぱい使ってるで」って自分で自分に突っ込みながら「でも、しつこいぐらいいっぱい使うで」と、よくわからない決め事みたいな感じでやっていました(笑)。もちろん曲によってキャラクターは変えてはいるんですけどね。そういうので印象づけたいなと思ったので、いっぱい入れています(笑)。

〈USHIRONO SHOUMEN DARE?〉という歌詞があったので、「かごめかごめ」について調べたのですが、あの歌詞の解釈は色々な説があるようで。

樹威:そうですよね。僕、昔から気になっていたんですよ。後ろの正面って、どっちなんだろうと。ただ、この歌詞は社会的な意味合いです。ここにいるけど、見えているのに見えてないわっていう感じを表現しました。

今作も樹威さんならではのワードが散りばめられていますが、この曲にある〈ED2SHANNIM〉とは、どういう意味合いなんでしょう?

樹威:あ、それは逆から読むと〈みんな死んで〉になるんですよ。

なるほど…! ずっとわからなくて頭を悩ませていました。

樹威:例えば、平和を祈るんじゃなくて、平和になりますようにじゃなくて、この物語は、みんな死んでくれっていうふうに言っています。

〈We’re all puppets waiting for death〉という部分も直訳すると〈私たちは皆、死を待っている人形〉で、印象的なフレーズだなと。

樹威:最近思うことですね。色々な社会情勢で思ったりすることを今作の中で一番書いているのが、この曲かもしれないですね。