孤高を選ぶAngeloが共鳴、共振を意味する『RESONANCE』で描くものとは。あなたが見ている世界は、残酷か幸福か――。
毎年恒例となっている“天使の日”10月4日に行われた豊洲PITでの12周年アニバーサリー公演で、リード曲「CREVASSE」が初披露されてから約1ヵ月。Angeloのニューアルバムが遂に世に放たれる。Angeloというバンドそのものを表すような異端、異教を意味する前作『HETERODOX』を経て、新たに彼らが生み出した作品に冠されたのは『RESONANCE』=共鳴、共振。しかし、彼らは共鳴を求めたり、作ろうとしているのではない。キリト曰く「決して親切ではないし、ぶっきらぼうな作品」に収められた全10曲、そしてキリトとKaryuによるこのロングインタビューから、Angeloが示す真意を感じ取っていただきたい。
◆新しい引き出しを作れたスキルなら、別なものも作れる(キリト)
――Angeloの新譜は聴く度に驚かされますが、『RESONANCE』も新鮮なこと尽くしでした。いつも良い意味で予想を裏切りながら、「更新し続ける」ということの有言実行率がすごいなと思います。どこから湧き出て来るのか不思議なのですが、たくさんの引き出しからまだ使っていなかった部分を出しているのか、どんどん引き出しが増えていて、都度新しい引き出しを開けているのか、どちらでしょう?
キリト:引き出しは増えているのと同時に、その増えた引き出しを使わないというか。色々とチャレンジしていく中で、やっぱり新しい引き出しは増えるんですよ。だけど、出来た引き出しを使わずに、その新しい引き出しを作れた自分たちの力量で、引き出しじゃないものを使うみたいな。
――今作を完成させて、また新たな引き出しが増えたけど、今作はもっと前からあった引き出しから出しているということでしょうか。
キリト:いや、引き出しを作っているんですよ。変な言い方ですけど、引き出しは作るけど作った引き出しを使うとダメということなんです。だから…引き出しって何だろう?と思うんですけど、自分の感覚だと使うものじゃないなと。新しい引き出しを作れたスキルなら、別なものも作れるだろうというところで。じゃあ、何のために引き出しとしてストックしておくのか、しているのかすら自覚はないんですけど…、長くやればやるほど、その時その時作ってきた手法や引き出しに、いかに頼らないでやっていくかがポリシーというか。何なんだろう引き出しって…(笑)。
――Karyuさんはいかがですか?
Karyu:基本、一緒ですね。
キリト:いや、絶対嘘(笑)! 今、考えてなかっただろ(笑)。
Karyu:ここ数年、もう自分の引き出し空っぽだなと思っていて、アレンジや曲の雰囲気もそうですけど、今までやってないことを常に探して作っています。だから…基本一緒です(笑)。
――これだけのものを毎年アウトプットしていて、普段インプットはどうしていますか?
キリト:大体が音楽以外のところでしていますね。でも、ここ4~5年は、いろんなジャンルの音楽を聴いていて、それまでの自分じゃないくらい音に関する細かいことをすごく気にするようになって。それまでは楽曲の作りさえ良ければという感じで、音の細かい部分はあまり気にならなかったんですけど、ここ4~5年でかなりそっちのオタクになってきているので、自分たちのTDやマスタリングに神経質になってきていますね。
Karyu:僕、トイレで音楽を流しっぱなしなんですよ。そこで自分が普段好んで聴かないような音楽を無理矢理聴くようにしています。
――そうなんですね。さて、『RESONANCE』について伺っていきたいと思います。まず、共鳴、共振を意味するこのタイトルに行き着いた経緯を教えてください。
キリト:前作『HETERODOX』(2017年9月発売)が新しいスタートという感覚があったので、そこから次の動きを考えると、『HETERODOX』で自分たちの原点としたものを、もっと外側に共感、共鳴してくれる人たちに向けてということで、自然とこのタイトルになりました。
――今作はKaryuさんが6曲、キリトさんが2曲、KOHTAさんとギルさんが各1曲の計10曲収録ということで、かつてない曲数の割合ですよね。4人の楽曲を収録することは初期段階で決まっていたのでしょうか?
キリト:今までの流れとして、Karyuとキリトの曲をAngeloでやるということに関しては、割と自然な流れで出来るんだけど、KOHTAとギルの曲に関してはアルバムに収録するものに変換する前に、皆でいじらなければいけないんです。そこで、推薦人というか、Karyuが良いと思うKOHTAの曲だったり、俺がオススメするKOHTAの曲みたいなものがあれば、それをオススメした人間の責任として、こういう形にアレンジすれば使えるんじゃないかみたいなプレゼンをしなきゃいけなくて。
――なんだか面白いですね。
キリト:俺の中で、そのままじゃ使えないけどこういう風に変えれば使えるんじゃないかという曲が、KOHTAの曲にもギルの曲にもあったので、結構いじって皆に提案して、それでメニューに入れられるんじゃないかということになりました。
――ということは、KOHTAさんもギルさんも、数曲出していたんですか?
キリト:そうですね。いつもよりは出していました。
――Karyuさんは今回何曲くらい作ったんですか?
Karyu:デモに出したのはこの6曲で全部ですけど、出してない曲を含めると9曲ですね。
――1枚の作品として、ここ数年のAngeloの中で最もキャッチーというか、歌を聴かせる印象が強いアルバムに感じました。
キリト:この中ではギルの曲「BREATH」が特別ポップだし、KOHTAの曲「REUNION」もメロディアスですけど、どうしてもKaryuの曲との対比でバラエティー色を考えると、歌ものを追加する形になりました。Karyuの曲はリフで押すような変化球の曲が多いので、それに対してバラードも欲しいよねとか、疾走感があっても歌のメロディーがあるものが欲しいなとか、その結果ですね。
◆自信を持って作れた曲(Karyu)
――まず1曲目「ACTIVATE RESONATE」で相変わらず驚かされました。冒頭の〈祝福の鐘〉というワードとクラップ音も相まって、Karyuさんらしからぬ明るさだなと。1曲目は狙っていたんですか?
Karyu:狙ってないです(笑)。でも、最初に完成したのがこの曲だったので、自分的にも始まりな感じはありました。今回、面白いアイディアが思い付いたら、それに沿って曲を作るということをしていて、この曲はサビのドラムを抜いてみようというアイディアから作りました。
――なるほど。リード曲の「CREVASSE」は10月4日の12周年アニバーサリー公演で初披露されましたが、歌詞の内容を照らし合わせると、『RESONANCE』と「CREVASSE」は同時期に生まれた言葉なのかなと。
キリト:歌詞は全部同時期に書きましたね。他の作業が全部終わってから歌録りの期間に入った時に、前日に歌詞を書いて、上がったら歌を録るという繰り返しでした。なので、時期的なものは一緒で、共通するキーワードとして『RESONANCE』があって、全部がそこから派生しているから、歌詞のコンセプトもやっぱり繋がっています。
――「ACTIVATE RESONATE」と「CREVASSE」は共通するワードもあったり、かなり繋がりを感じますが、早い段階でキリトさんの中でこの2曲は繋げようという意識があったのでしょうか?
キリト:確かに、ここの部分は早かったと思います。曲順をカッチリ決めるのは結構ギリギリなんですけど、何となく自分の中で最初と最後の曲は決めてから考えるので、そういう意味では「ACTIVATE RESONATE」を1曲目にするというのは決めていて、そこからの「CREVASSE」というのも決めていましたね。
――「CREVASSE」はイントロからAメロまでのリフ、テンポ感、そしてメロもザ・Angeloという印象です。
Karyu:これは素直に自分の手癖みたいなものから作って、初めはデモに上げるつもりはなかったんですけど、間奏とかでまだやったことがないギターの絡みが出来て「あ、面白いかな」と思えたので、最終的にデモに上げました。
――Aメロとサビが直結しているシンプルな構成で、尺も約3分と短いですよね。
Karyu:そうなんです。Bメロがないですからね。
――3曲目「残響」にも〈裂けていく〉というワードがあったり、4曲目「NEW CENTURY BIRTH VOICE」の英詞部分で言っていることも「ACTIVATE RESONATE」「CREVASSE」と通じていたり、やはり全曲が繋がっているのを強く感じます。「NEW CENTURY BIRTH VOICE」は今作中最もハードで、Karyuさんらしいマニアックな感じがきたなと(笑)。
Karyu:そうですね(笑)。前作の僕の曲はそんなにハードに振り切ってなかった感じがしたので、今回振り切ったものは作りたいなと思って、こういう感じにしてみました。音階に関してはすごくマニアックな使い方をしていると思うので、自信を持って作れた曲です。
――キリトさん作曲のバラードナンバー「ホログラム」というタイトルの意味するところとは?
キリト:ホログラムの構造というのは、人工的な光の波であたかも立体的に見える。人間が見る残像も、残った光の波を網膜で記憶している部分がすぐには消えないという意味では構造上は一緒で。人工的に作ったものを視覚的に認識するのと、元々視覚的にあったものが消えても記憶として見えているという部分では、一緒だと思ったんですよ。要は目で見えているものは光の粒子の波だという考えでいけば、どんなものであれ皆そういう作りになっているということです。なので、残像みたいな感じです。
――今作でのキリトさんのもう一つの楽曲は「残響」なので、方向性は一緒ですよね。
キリト:そうですね。
――「残響」はイントロの明るいコード感がAngeloっぽくなくて新鮮でした。
キリト:疾走感のあるものにしたいと思ったんですけど、そのやり方として所謂自分たちがやってきた引き出しにありそうでないものにしました。ループに対してバッキングが入るタイミングだったり、そもそもループとバッキングの動きがこういう構成になるだろうなと思わせておいて、噛み合う部分が違うとか、イントロで何段階か「おっ」という普通の引き出しではやらないんだなというところを見せられればなと思いましたね。
◆自分に向けて「大丈夫だよ」と言えるような曲(Karyu)
――「荊棘の棘」は個人的には今作中特に好きな楽曲なのですが、Karyuさんらしいマニアックさですよね。
Karyu:僕も個人的には一推しの曲です。
――冒頭は「Umbilical cord」(2016年9月発売のアルバム『CORD』収録曲)に近い雰囲気もありつつ、緩急がかなり激しい上に一筋縄ではいかない、これまでにないタイプの曲ですね。もっと聴きたいという思いが残る曲だなと。
Karyu:世界観的には今までのAngeloにはなかったものが出来たなと思います。間奏の転調部分で不思議な感じになっているのは良い雰囲気が出せたなというのもありますし、実は自分も救いを求めていた感じがあって、自分に向けて「大丈夫だよ」と言えるような曲にしました。
キリト:確かに転調部分の場面の変わり方が絶妙で、Karyuのデモがいろんな部分で非常に細かくなっているので、僕も歌入れをする時にどんな風にやろうかなと色々と実験しながら録ったんです。録っていてもトリップ感があったし、録り終わってもトリップ感が消えなくて、トイレに行く時もずっと同じことをループで言ってました(笑)。病み付きになるっていう(笑)。そういう中毒性があると思いますよ。
――転調のほうではない英詞のところは主メロと被っていますが、ライブではキリトさんはどちらを歌うんでしょう?
キリト:被っているところの英詞はメンバーですね。転調のところは自分で言うと思います。止まりどころをあえて変えながら、俺だけ止まらない…しばらく引きずるみたいな(笑)。
――(笑)。タイトルにある「荊棘」は受難の象徴として?
キリト:そうですね。
――特にサビの歌詞にメッセージ性を感じますが、〈境界線越えた先脳裏によぎった構想は 戸惑わせて傷つけそうな、だけど愛を捧ぐ叫び〉はキリトさんがこれまでに実際に思ったことなのかなと。
キリト:基本的に僕がパフォーマンスするというところの共通した感覚でもありますから。ヴォーカルとしてはそうですけど、バンドとしてもこういう言い方が出来るんじゃないかなという。自分たちのスタンスの特徴を具体的に言葉にすると、こういう風に言えそうな気がするんですよね。ただ楽しいだけじゃないけど、そこに行ってまで掴もうとしているものは何なのかというところです。
――前回、「その時々リアルに起こっていることと世界観がリンクしている。ただそれをあからさまに言わず、作品の中に散りばめていくことで、聴いている人が気付けばいいし、気付かなくてもいい」と言っていましたが、そういう部分では「BREATH」「DEEP VISION」は特にキリトさんの思いが歌詞に描かれているのかなと思ったのですが。
キリト:どうかな。「荊棘の棘」みたいな曲のほうが自分の真意が出やすいです。「BREATH」は架空の話を作っちゃっているようなところもあるので、「荊棘の棘」のほうがもう少し等身大な感じではありますね。「BREATH」みたいな曲は、普通のポップなバンドだったら主流になっているような曲だけど、うちの中では不思議なもので飛び道具みたいになって、歌詞の世界もまともじゃないというか、トリックが詰まっているんですよね。言葉尻一つ捕らえるとポジティブなんだけど、文章にすると一番死にたい願望が強い曲だったりするので…(笑)。それに比べると「DEEP VISION」はもう少し自分のリアルですね。まぁどちらもリアルではあるんですけど、目線としてはよりこちらのほうがリアルかもしれないですね。
――「BREATH」は楽曲として爽やかさすらあります。
キリト:曲の持つ爽やかさをどう捻じ曲げようかということでした。デモはもっと爽やかだったので、大分変えましたね。
――7月27日の「DOGMATIC PARTY」で今作のリリースを発表した際に、Angeloとして初めてギルさんの曲もあるということを言っていましたが、あの段階ではまだどうなるかわからない状況だったのでしょうか?
キリト:入れるとは思っていましたけど、仕上げるのに結構苦労しました。この曲が持つ良さを崩さずに、同時に余計なものを取って変えられるかというところは一番悩んだかもしれませんね。