顕在意識と潜在意識、自我と無我――。ニューアルバム『PSYCHE』が映し出す人間の深層心理。そしてAngeloの今。
前シングル『SCARE』でその序章を見せていた、人間の深層心理を描いたAngeloのニューアルバム『PSYCHE』。2014年、彼らは様々な出来事を経ながら、自ら修羅の道に飛び込み、地獄の苦しみを超えて今作を完成させた。10月4日の周年ライブから、今作制作の裏側、そしてAngeloのこれからを、キリト(Vo)とKaryu(G)に語ってもらった。そこには、彼らのAngeloというバンドへの思いが溢れていた。
――前回の取材が10月3日だったので、まずは10月4日“天使の日”の感想を伺いたいと思います。
Karyu:映画館に行ったり…慌ただしかったですね。プレミアムなライブでしたよね。
――舞台挨拶もありましたね。
Karyu:なんか、イジられて終わったような(笑)。照れくさかったです。
キリト:映画館で流すためのショートフィルムを作るのが本当に大変だったし、ライブそのものも、ちょっと他とは違う形態の会場で、演出や舞台セットもすごく大変で。それをちゃんとお客さんに楽しんでもらうところまで持っていくのに、すごく費やしたから、とにかく上手くいって良かったなと思います。
――「周年の記念ライブはもっと普通の形でやってほしい、という意見も」とライブのMCで言っていましたが(笑)。
キリト:まぁでも、発表した時点でちょっと出るくらいで。いつもと違うことをやるという時は、そういう変わったことじゃなくて、いつも通りの方がいいのにっていう声は少しくらいはね。うちの場合は割合としては少ないと思うけど。でも、なんでしょう…水たまりを踏めば多少濡れるような、絶対出てくる声だから、全く気にならないですけどね(笑)。それが全部終われば納得してもらえる自信はあるから、なんでわざわざ水たまりを踏んだのか、「なるほど」ってなるから。
Karyu:今の例え、すげーいいですね。名言っぽい(笑)。
キリト:俺のいない時に、どっかで使うんだろ。
――(笑)。では、今回のものも、やって良かったなと。
キリト:もちろん。賛否両論とか、とっくの昔からあるし。そんなことより、マンネリにならないように、やってる自分たちがドキドキするようなやり方をするに決まっているので。そこで実際に目にして体験して、気付いてもらえることがたくさんあるから、やっぱりそういう関係性でありたいと思うんですよね。ファンが何を望んでいるのかというところで僕らはやるつもりはないから、僕らが提示するもので、ファンが驚きながらも気付く。実際に体験してみて「こういうやり方もあるんだ」「それもいいじゃないか」っていう風に、こちら側が提供して、それを向こう側が受けた上で発見するっていう、そういうやり取りじゃなきゃだめだと思っているので。
◆答えを見つけたような気がします(Karyu)
――精神、心を意味する『PSYCHE』という今作のタイトルを見て、目に映るものを通した物事の本質を描いたアルバム『RETINA』(2012年11月発売)、さらに内面的な部分に焦点を当てた『FAITH』(2013年11月発売)からの流れが、ここで完結するのかなと思いました。
キリト:まだあるかもしれないですよ。流れというのは気にしていなくて、無理に繋げているわけでもないんです。後付けで色々と繋げられるでしょうけど、作っている時は別物として出している感覚もあるし。どこかで前後繋がる部分が出てきたりすると、だんだん他の人から見ても繋げやすくなるんでしょうけど。でも、それを言い出すと、ずっと続いていますよ(笑)。だからこそ、ここで完結とかは考えていないですね。
――では、ずばり『PSYCHE』のコンセプトとは?
キリト:深層心理です。人の心理。
――1曲目「Deep Psyche」はアルバムタイトルの“PSYCHE”というワードが含まれている楽曲ですが、アルバムの幕開けとしてどのようなイメージを描いていたのでしょうか?
キリト:アルバムのコンセプト=深層心理に入り込んでいく上で、そのための儀式みたいな。断片的な歌詞が並んでいますけど、曲中の攻撃的な部分だったり、聴いている人にとっても無意識の領域に突入するための儀式というか。〈イニシエーション〉という言葉も入っていますけど、幕開けとしては派手にいこうぜっていう感じです。
――まだアルバムの制作途中だった前回の取材時、Karyuさんが今までで一番しんどそうな印象でしたが、完成した今の心境はいかがですか?
Karyu:半年くらいずっとレコーディングをしていたので、期間が長かった分、自分の中の方向修正もできたし、色々なアイディアが入れられたなと思います。
――「音楽って何なんだろう?」っていうところまで来ている、と言っていましたよね(笑)。
Karyu:あぁ(笑)。
キリト:甘いよ。
Karyu:なんか、答えを見つけたような気がします(笑)。
――「ここで乗り越えたら、何か見えるんだろうなと思います」と言っていましたが。
Karyu:見えてます。何かは言わないですけど。
――Karyuさんの“見えている”感は、キリトさんに伝わってきましたか?
キリト:なんとかギリギリ見えたんじゃないですか。それまでは、ブーブー言ってたから(笑)。
◆修羅の道に飛び込んだ、飛び込ませた…引きずり込んだ(キリト)
――いつも1回目の選曲会で全部が決まることはなく、追加したり、寸前に出来上がったりするということでしたが、今回はいかがでした?
キリト:今回はその最たるものでした。ギリギリここまでかけるかっていうくらい、OKを出すのが遅かったので。本当にギリギリですね。PIERROTのライブ(10月24日、25日)があったり、その後にシンガポール(AngeloのFCツアー)があったので、その前の段階でほとんど上げておかなきゃいけなかったはずが、4曲は空白のまま、それをまたいで、戻ってきてから本格的にやったので、これ以上遅れたらリリースが遅れるっていうギリギリまでやりました。でも、そこまでやって、やっとこの流れが出来ました。
――そうだったんですね。
キリト:しんどかったですけどね。今でもよく個人的に聴き直すんですけど、本当にギリギリセーフだったけど良かったなと、しみじみ思うんですよ。それをメンバーの悲鳴なんかに同情して、僕がラインを変えていたとしたらこれが出来なかったと思うと、「危ねっ」ていう気持ちと、今後もメンバーの悲鳴は聞いちゃいけないなと確信しました。
全員:(笑)
Karyu:それもありますね。特に最後の空白の4曲だった「Climax Show」「声にならない声」「SCENARIO」「A new story」が一番好きです。なんだか余計に愛着がありますね。
――この4曲が最後になったのは、どんな経緯だったんですか?
キリト:それをやらなくても、数は揃っていたんですよ。ただ、俺自身が考えるこのアルバムのクオリティというか、楽曲の質の並びを考えると、どうしても納得できなかったんです。この4曲分は空白を空けると決めて、他での大きい出来事があって時間が空いて、一段落してからもう一回最後の作業時間で、作曲も済ませレコーディングもこなすっていう判断をしました。それは俺自身も自分の曲をボツにして、もう一回作るというところを背負うから、Karyuにも泣いてくれと。作曲という部分では俺とKaryuは、かなり修羅の道に飛び込んだ、飛び込ませた…引きずり込んだ(笑)。
Karyu:(笑)
キリト:その結果、自分もさらに納得いく曲が出来たし、Karyuも可哀想だなとは思ってたけど、最後に「SCENARIO」「A new story」が出てきた時は、無理矢理にでも引きずり出すと、こういう曲が出てくるんだから…やっぱり今後も…可哀想とか思っちゃいけないなと(笑)。
Karyu:初めからそういう曲を出したいんですけどね。修羅の道に行かずとも(笑)。
キリト:やっぱり人間、追い込まれた時の強さっていうのがありますよね。限界だと思ったそこから先の、人間のアドレナリンとか、一線を超えた精神状態の強さみたいなものが曲に出てくると、信じられないクオリティのものがギリギリで出てきたりするので、そういうところでは諦められないですよね。当然最初の段階でそれぐらいのレベルのものが揃って、これだと思ったとしても、もし時間に猶予があれば俺はその猶予に賭けると思うので、楽できることはないんじゃないですか(笑)。
――そうですね。ではこの4曲以外に、急に方向性を変えたり、録り直したものはありますか?
キリト:「報いの虹」は、最初の方のブロックで出来ていたものを、結構いじり直しました。ギターもやり直したし、歌も歌詞も大分変えて。ミックスにしてもやり直したりして、わりと何度もいじりましたね。
――なるほど。「SCENARIO」は、サウンド的にこれまでのAngeloの進化版のような新しさを感じましたが、この楽曲含め、今回、実験的な試みだったなという部分は?
Karyu:今回は全部延長線上というか。ダブステップも前もやっていたんですけど、今回特にフィーチャーしてやってみたら面白いかなと。ギターは基本挑戦しているので、あんまり覚えていないというか…(笑)。
◆最後に来るからすごく意味がある(Karyu)
――最後まで聴き終わった時に、きっとファンのみなさんは「Angeloに付いて来て本当によかった」と実感するんじゃないかなと思いました。「声にならない声」以降の楽曲の、シンプルな言葉でのメッセージ性の強い歌詞は、この2014年、色々あった今だからこそのメッセージなのでしょうか?
キリト:聴いた人にとっては、そういう流れも汲んで受け止められるだろうなとは思っていますけど、自分としてはそれはあまり関係なくて。このアルバムのコンセプトというのが、顕在意識と潜在意識、自我と無我という、相反している部分の対比ですから、言ってみればこのアルバムの前半というのは自我の部分、意識している部分での攻撃性。後半に関しては、とは言えそれと同時に一人の人間が心の底で思っていること、普段は出さないような深層の部分。そういう二部構成的な感じなので、あまり僕自身だったり、このバンドの現実的な環境のことを描写したつもりはないんだけど、ただ時期的に、周りから見た我々の環境を合わせて見れば、リンクしていくだろうなとは思います。
――「螺旋」(2010年10月発売アルバム『Design』収録)という曲に〈それでも止まない声が背中押した〉という歌詞がありますが、今作の「声にならない声」には〈螺旋〉と〈背中押すような声〉というワードが出てきますね。
キリト:それは全く別ですね。「螺旋」の“声”は、ファンの人も含めて弱い状態の自分の背中を押す声ですけど、ここで言うところの“声”というのは、自分なのか誰なのかすらわからない、違う意味での“声”です。自分の中の疑問さえも振り払っちゃうような、迷ってる暇も与えてくれないくらい急き立てる、自分の中で聞こえている使命感だったり、迷いさえ許してくれないという、よくわからない強い声。
――最後の「A new story」は、Angeloを信じていれば大丈夫、と思える歌詞だなと。
キリト:本当に自分に忠実に生きていますから。信じる信じないは、自由です。
Karyu:最後に「A new story」というのがすごくいいなと。これからのAngelo的な。タイトル的には1曲目でもいいですけど、最後に来るからすごく意味があるという感じがしますよね。
――キリトさんの中では、難しい言葉を使うよりもシンプルな言葉で歌詞を書く方が苦労すると以前言っていましたが、今作はこれまでよりもシンプルな歌詞の率が高い印象を受けました。
キリト:曲の世界に合わせてやっているつもりなんですけど、激しい曲で言葉の断片を並べるという、一見脈絡がないと思うぐらいドキッとする言葉、普段使わないような言葉を持ってくる時は、多少意味不明でもいいと思っているんです。歌い上げる曲だったり、歌詞自体を伝えたいと思う曲に関しては、極力シンプルな言葉で伝わるように作るというのは、使い分けていますね。
◆頂上の景色を見なきゃいけない(キリト)
――先ほどからお話に出ているように、他所に行って大きいことをする機会があり、それから今回のアルバムが完成しました。「それを踏まえた上で、次の次元に行った自分がAngeloのヴォーカリストとして、どういう風にバンドを引っ張っていけるかというところを、一番良い形で繋いでいけたら」と前回キリトさんが言っていましたが。
キリト:引っ張っていくというと、ちょっと語弊があるんですけど、バンドだからこそ出来ることだし、バンドという存在に自分自身も助けられている部分があるから、それぞれが自分の役割を果たしていく中で、僕自身が果たす役割というのは、このバンドの先にヴィジョンを作っていくことだと思うし、どこを目指していくのか、どこに進むべきなのかっていう道筋を作っていくこと。それを実際に進んでいくのはバンド自身。そういう意味で自分の役割を果たしていくつもりです。
――行って帰って来た、現在の実感としてはいかがですか?
キリト:Angeloというバンドのポテンシャルは俺自身がわかっていることですけど、それを世の中がどう評価するかというのは、バンドのポテンシャルだけじゃない、時代背景だったり色々なところで見れば、まだまだAngeloというのは登りかけの山みたいなもので。ある程度登って頂上が見えるようなバンドも経験して、そういう頂上の景色をまた見るような機会があって、そこに立たないとわからなかった感情をやってみて思い知るわけなんだけど、それは多分、他の似たような経験をしたバンドの人たち、それぞれで違うと思うんです。自分の場合は、そういう景色を再び見た上で、これはこれで素晴らしいと。ただ本当に今、心底思うのは、登りかけの山をきっちり登るのがすごく楽しみなことだなということ。そういう意味で今のAngeloというのは、十分そこに到達する力を持っているから、その頂上の景色を見なきゃいけない。だからこそ、今回の『PSYCHE』というアルバムは、妥協せずに地獄の苦しみを経て、それでも作り抜いたアルバムです。
――その地獄の苦しみを経て、アルバムが完成したら「アーティストとしての自分が一皮剥けるんじゃないかな」と前回Karyuさんが言っていましたね。
Karyu:次のツアーでガッツリ見せるつもりです! 自分の人生においてすごくチャンスの年で。比べられるというか、そういうチャンスってあまりないので、大事な年です。
――一皮剥けたKaryuさんが見られるツアーが12月24日からスタートするわけですが、10月4日のライブでキリトさんが「今現在が切ないくらいとても大事です。ちゃんと向き合ってきますから、12月のツアーでは「おかえり」って言ってね」と言っていましたよね。
キリト:「ただいま」って言わない限り言えないですよね。それは…そう思ったら言います。…いつ言えばいいんですか?
全員:(笑)
Karyu:難しいですね(笑)。
――(笑)。来年はどんな年にしたいですか?
Karyu:種は蒔いたので、それがどう育つか、育て方がかなりストイックになるんでしょうけど、来年が楽しみですね。
キリト:ある種のクライマックスでしょうね。色々な意味で勝負の年ですよ。
――期待しています。個人的な目標はありますか?
Karyu:ムキムキになる(笑)。
――(笑)。最近筋トレをがんばっているそうで。キリトさんはいかがですか?
キリト:優しくなりたい…。
Karyu:「なる」じゃなくて願望っていう(笑)。
キリト:ずっと思っているんですよ。自分との戦いですよ。鏡を見て「今日も優しくあれるか…」、そして帰ってきて「無理でした…」(笑)。でも諦めないですよ。いつも家を出る時はそう思ってますけど、人間って弱いですから。
――でも8:2の比率じゃなくなったら、キリトさんじゃないですからね。
キリト:いや、常に比率は8:2だと思いますよ。ただその8がキツイから、2が見えづらいんでしょうね(笑)。
――大丈夫です、見えてます。
キリト:少し距離感がある人には見えるんでしょうけど、あまりに身近にいると、何が8で何が2なのかわからないくらい麻痺するみたいですよ(笑)。基本はいつも思ってますよ。優しい人になりたいなぁって。強くないと本当に優しい人にはなれない、だからまずは強くあるべきだと、幼稚園の頃から芦原空手に学んできました。じゃないと優しくなれない、誰も守れない、だから強くなれ、そう生きてきました。
――そう生きて40数年(笑)。
キリト:(笑)。強くはなったと思いますが、優しさの出し方がわからない(笑)。
全員:(笑)
Karyu:不器用なんで(笑)。
キリト:芦原先生、どういうことなんだ。
――(笑)。来年はキリトさんの優しさが増えるかもということで。
キリト:でも、こういうところ(『PSYCHE』後半)に出てるじゃないですか。
――もちろんですよ。
キリト:それでいいと思ったんですよ(笑)。
全員:(笑)
(文・金多賀歩美)
Angelo
<プロフィール>
キリト、KOHTA 、TAKEOの3 人により結成され、2006年8月に正式デビュー。結成5 年目の節目となった2011 年8 月、Karyu(ex. D’espairsRay)とギル(ex.ヴィドール)のギタリスト2 名を迎え入れ、新生Angeloとして動き出す。同年10月、5人での初のアルバム作品『BABEL』をリリース。その後も作品リリース、ライブを精力的に展開。刺激的なラインナップが話題の主催イベント「THE INTERSECTION OF DOGMA」は、2014年8月で3回目を迎えた。10月4日、結成8周年を記念したライブを行い、全国6大都市の映画館にてライブビューイングを同時開催。ニューアルバム『PSYCHE』を引っ提げ、12月24日から全15公演の全国ツアーが決定している。
■オフィシャルサイト
http://angeloweb.jp/
『PSYCHE』
2014年12月17日(水)発売
(発売元:ブロウグロウ 販売元:ソニー・ミュージックディストリビューション)
Angelo7枚目のニューアルバム。シングル『SCARE』でその序章を見せた、人間の深層心理を描いた作品。
【収録曲】
[CD]
01. Deep Psyche
02. SCARE
03. PERFECT PLAN
04. THE CROCK OF ULTIMATE
05. 連鎖
06. Climax Show
07. 声にならない声
08. SCENARIO
09. PRAY
10. 報いの虹
11. A new story
[初回限定盤DVD]
ショートムービー「THE SCARE LURKS INSIDE」