「天界」「天空」「輝き」「光」――
摩天楼オペラが放つ美しくも劇的なニューシングル『ether』の魅力に迫る!
昨年リリースされたアルバム『AVALON』で唯一無二の音世界を作り上げた摩天楼オペラ。彼らの次なるシングルのタイトルは「光や、天空、天界のような空のイメージ」だという『ether』。美しくも劇的なタイトル曲は、2015 年公開の映画『心霊写真部 劇場版』の主題歌になっており、そこには苑(Vo)の「生命力を強く歌いたい」という言葉通り、強いメッセージが込められている。5月から始まる全国ツアー、そしてその先へと続く新たなテーマ、新たなヴィジョンがここから華々しく幕を開ける。そんな今回の作品について、苑と彩雨(Key)の二人に語ってもらった。
◆明るいものや大きなもの、生命力を強く歌いたい(苑)
――「ether」は、アルバム『AVALON』の流れを汲んでいる印象を受けました。
苑:制作段階では全く意識していなかったんですけど、きっと『AVALON』が自分の中に残っているんでしょうね。曲自体は、映画『心霊写真部 劇場版』の主題歌の話をもらってから作りました。この映画の前作『心霊写真部 壱限目/弐限目』を見て、そこから膨らませています。
――『AVALON』のインタビューの時に、「このアルバムの作曲が終わってから作った曲もあるし、終わった瞬間、次のやりたいことが見えてくる」と言っていましたが。
苑:その時に言っていたものとは全く別のところから作った曲ですね。その時に考えていたものが摩天楼オペラ側のカラーだとすると、そこに『心霊写真部』の要素を併せたものが「ether」です。『AVALON』の時に考えていた次の景色も少し入っているんですけどね。『Orb』(2013年12月発売のシングル)以降、より劇的な展開のロックにしようとメンバーで話していて、『AVALON』で形にできたけれど、もう少しやれるんじゃないかという思いもあったんです。そうやって摩天楼オペラらしい劇的なものを突き詰めていったら、“ダークファンタジー”というものが見えてきて。「ether」にはその部分をほんのりと入れて、「Round & Round」と「蟻の行進」はそのコンセプトを強く出して作りました。
――『心霊写真部』の要素はどんな風に織り込もうと思っていましたか?
苑:『心霊写真部』ってタイトルだけ見ると、ホラーな感じじゃないですか。でも、学園ものだったり、コメディタッチな部分も含んでいて、いろんな顔を持った映画なんですよ。前作の映画『心霊写真部 壱限目/弐限目』が、ハッピーな現実に戻って来られたというエンディングだったので、そこに焦点を当てました。ただ、これまでタイアップ用にゼロから曲を作ったことはなかったので、歌詞を書くのが難しかったですね。どこまで心霊写真部のことを歌えばいいのか、どこまで自分の言葉で歌えばいいのか。先方からは「自由に作ってください」という感じだったので、さあどうしようと。でも、好きなように作らせてもらいました。
彩雨:うちのバンドは結構激しい曲をやっている印象を持つ人が多いかもしれないけど、実際は耳馴染みの良い、心地良いアレンジを昔から継承しているので、主題歌向きのバンドだと思っていたんです。なので、音作りやアレンジも、主題歌だからこうしたということはないですね。今回、キーボードはこれまでのようにストリングス中心のアレンジだったんですが、イントロにバグパイプという民族楽器をちょっと取り込んでいます。さっき話に出たダークファンタジーというキーワードを念頭に置いてアレンジしたんですが、バグパイプがあると北欧のファンタジー感も出るので。
――バグパイプですか。以前はシタールを使っていましたよね。
彩雨:摩天楼オペラは結構民族楽器を使うんですよ。ただ、あの時は民族調の曲をやるという大前提であの音を入れたんですが、今回はそういう前提ではないところに入れたのがこれまでにないアプローチでしたね。ただ僕はバグパイプを触ったことがないので、曲を色々聴いて、実際のバグパイプで演奏できないフレーズにならないように気を付けました。
苑:バグパイプって実際どうやって吹くのかよくわからないし、そもそも全然ヴィジュアルが出てこないよね。竹とんぼがいっぱい付いているようなやつかな。
彩雨:そんな感じ(笑)。
――ところで今回「天空」や「光」というテーマを選んだのはなぜだったんでしょう。
苑:多分、僕が今そういうモードなんだと思います。明るいものや大きなもの、生命力を強く歌いたいと思っているので。
――「2014年の摩天楼オペラは宇宙規模」と言っていましたが。
苑:そう言っていたのに、今年は地球に戻ってきました(笑)。
――今回のジャケット写真やアーティスト写真でも「天空」や「光」が表わされていますか?
彩雨:今回のジャケット写真は、実は月の部分が取り外せるようになっているんです。月をひっくり返すと地球になるという変わった仕様で、自分たちが今どこの星にいるかを見方によって変えられるんですよ。
苑:あと、アーティスト写真で全員金色のものを身に着けているのも光につながるかなと。
――なるほど。アーティスト写真といえば、悠さん(Dr)はバッサリ髪を切りましたね。
彩雨:そうなんです。野音(2014年10月18日に日比谷野外大音楽堂で行われた「AVALON TOUR」ファイナル)の後のファンクラブライブで初お披露目をしたんです。ちなみに髭は、野音の日に楽屋で剃ってました。野音から、僕と悠君は髪色を変えたんですけど、大きなことが終わると何か変えようかなっていう気持ちになるんですよね。悠君もあの野音の日は大きな節目だったんだろうなと。
――節目を経て、悠さんは苑さんと同じ髪型になったんですね。
苑:そうなんです。俺と左右逆の同じ髪型で。今は少し茶髪にしたりしていますけど、一体何のつもりだったのか…。突然この髪形になったので鏡を見ているような気持ちになりました。後姿を見て燿さん(B)が間違えてたもんね。「苑さん、太ったのかと思ったよ」って(笑)。
◆シンセパーツだけ聴いていても体が動く曲(彩雨)
――「Round & Round」は彩雨さん原曲ですが、そこはかとなく「DRACULA」(シングル『Orb』のc/w)の香りがします。
彩雨:こういう四つ打ちビート系の曲が好きなんですよ。今回は「DRACULA」と違ってバンドものなんですけど、サビでみんなが声を出せる曲にしたくて、ライブでメンバーが〈Round & Round〉って歌うことを前提に作りました。なので楽器陣にはちゃんと曲中で〈Round & Round〉と言えるように、余裕をもって弾いてと伝えました。
苑:そこで超絶プレイとかブチ込まれてもね(笑)。
彩雨:そうそう(笑)。
――ライブの光景が浮かぶ曲ですね。
苑:そうですね。ライブで楽しそうな曲、というのが第一印象でした。
彩雨:あんまり早い曲にはせず、ミドルテンポなんだけどライブで盛り上がるような曲にしたくて。そこからアレンジを加えているうちに、いろんなところに映画音楽要素を取り入れたくなったんです。「オペラ座の怪人」のような雰囲気にしたり、Aメロはスパイ映画っぽくちょっと怪しくしたり。ギターもそういう感じで入れてもらったら、いろんな場面が連想されるような曲になりました。
苑:この怪しさから感じるものがあったようで、歌詞は女性目線で書きました。最初から「オペラ座の怪人」のような、という設定がメンバーの中であったので、それを〈オペラ座に隠れた怪人よりも妖艶な声で〉という歌詞に織り込めたのが憎い演出になったなと。できてみると普通なんですけど、最初にこれを思いついたときはちょっとニヤリとしましたね。
彩雨:ここが一番、ダークファンタジー感が出ているよね。
――この歌詞は、かなりインパクトがありました。一方で、〈世界の溝にはまって〉というのがどういうニュアンスなのか気になったのですが。
苑:いつも我慢して生きている女性が、土曜の夜にクラブでもライブハウスでも、どこでもいいんですけど、「私が一番輝くの」っていう心境で踊っているんです。いつも世界というものに縛られてガチガチになって、世界の溝にはまっているけど、もっと回って回って踊るの、と。
――なかなか出てこない詩的な表現ですね。
苑:嬉しいです。書いている時は自分の中に潜っちゃうんですよね。日常とは違う感覚で書いています。
――〈脈を叩くスネア〉という歌詞もライブで盛り上がりそうです。
苑:〈スネア〉という単語が出て来るだけでもロックバンドのライブはアガりますよね。〈ミュージック〉みたいなストレートな詞って、ライブ会場で一瞬で聴き取れたときに昂揚感につながると思うんです。ここは悠もがんばると思うんですよ。まさか、ここで空振ることはないはず。
彩雨:スティック落としたりしてね(笑)。僕は、「Round & Round」はシーケンスが肝だと思ったので、サビ裏でカチコチカチコチいうシンセサイザーを散りばめているんです。いつもだったら「ether」のようにストリングスで大きくかぶせるのがうちのバンドのスタイルなんですけど、この曲はかぶせずにシーケンスで埋めました。そうすることによって曲がよりダンサブルになるし、上からフィルターをかけないので、それぞれの隙間が際立つんです。サビ裏のシーケンスだけでもかっこよくて、シンセパーツだけ聴いていても体が動く曲です。
――今回、〈あと何秒先 何分先 何時間先まで〉という部分は女性の声でハモっているんでしょうか。
彩雨:あれは全部苑の声です。〈Round & Round〉っていうところは少しエフェクトをかけていますけど、それ以外はかかっていないですし。
苑:その部分は、オクターブ上で、ファルセットで歌っているんですよ。いろんな声色に聴こえるっていうのは嬉しいですね。
――この曲は、最後に徐々に失速して歪みながら終わっていくのが印象的でした。
彩雨:あれはAnzi君(G)の案なんです。昔からその手法はアイディアとしては出ていたんですけど、こういうベタな演出は1バンド1回くらいしか使えない手法じゃないですか。前にその案が出たときは使わなかったんですけど、今回は満を持してやりました。この曲は結構作り込まれていて、ライブはライブの盛り上がりがあると思うんですけど、音源は音源にしかできないことをやりたかったので、こういう終わり方にしようと。
――暗示的ですよね。
彩雨:ループしていく感じがしますよね。ただのフェードアウトよりもより深く入っていくような。その感じが結果としては合っているなと。でももう出てこないですよ、1バンド1回ですからね(笑)。むしろ1回の音楽人生で1回かも。
苑:でも、これのアンサーソングみたいなのができたら、そこからの続きみたいにできるかも。わかる人はわかるっていう。
彩雨:なるほど! そうしたら人生2回目ができますね(笑)。
◆ぜひ若手バンドマンに読んでほしい歌詞です(彩雨)
――「蟻の行進」は苑さんらしいタイトルですね。
苑:皮肉な感じが、でしょうか(笑)。この曲は、最初はただひたすらロックしている曲を作りたかったんです。歌詞を書いていったらやっぱりロックは反骨精神だろうと。働いている人間みんなのことなんですけど、がんばって、がんばって、汗水流して働いて。最後は自分で自分の幸せを願ってもいいじゃないということを歌っています。
――ご自身も「蟻の行進」をしている感はありますか?
苑:もちろん。僕も汗水たらして働いてます(笑)。
彩雨:でも、世間一般から見たら、僕たちは蟻が行進をしている中で蝶々みたいにフワフワしているイメージがあるのかも。
苑:そんな馬鹿な! バンドマンなんて、みんながんばって、やっと音楽で食えるようになるんですから。
彩雨:僕もそうですよ。働いて…確定申告をして…
苑:(笑)
彩雨:でも働く人ソングっていいですよね。「明日があるさ」とか、ももいろクローバーZの「労働讃歌」とか。
――「Round & Round」の女性もある意味で「蟻の行進」な日常を送っているわけですよね。
彩雨:確かにそうですね。僕らの曲は、テーマは「光」とか「蟻」とか言っていますけど、普段の生活の中のすぐそこにあるようなものを意識しているんです。
苑:聴いている人が「何を言っているかわけわかんない」という歌よりも、どこかで「ここ、わかる!」って思ってくれる歌のほうがいいですから。
彩雨:そういうのを否定せずにやるのが大事ですよね。「こんな生活したくねーよ!」とか「バカみたいだ!」って言うんじゃなくて。そういうバンドもいると思うんですけど、「そうじゃなくて」っていうのがうちのバンドの良いところなんです。
――〈潜って潜って 毛布被って〉というのも、とても共感できる歌詞でした。
苑:僕も毛布を被ります(笑)。
彩雨:それに、この〈潜って潜って 毛布被って〉って、韻を踏んでいて良いですよね。
苑:そこは意図的にね。ただ、韻を踏むと洋楽っぽくなるとか、リズムが良くなるって言われていますけど、韻を踏みすぎるとリズムが良すぎてコミカルに聴こえるので、ちょっと笑えてしまうという諸刃の剣でもあるんです。ここはギリギリのラインですね。
彩雨:自分は〈チクタクチクタク〉という歌詞が気に入っているんですよ。蟻って行進しても足音はしないし、ここで入れようとすると行進をイメージさせる足音にしたくなるんですけど、そこで時計の針を醸し出す〈チクタクチクタク〉を入れるのがいいですよね。間に一つレトリックの連想を挟んでいるんですよ。手法としては模範解答のような歌詞ですね。周りに時間に関する説明が何もないのが良い。ぜひ若手バンドマンに読んでほしい歌詞です。
苑:教授…! 実はこの歌詞は1時間弱で書いたんですけど、その時ガッツポーズしました。「今日は冴えてる!」と(笑)。
◆『ether』を表現するツアーでありつつ、その先の作品にもつながるツアーに(苑)
――この曲は歌い方も含め、すごく生っぽさを感じました。
苑:他の曲に比べてリバーブ(残響)を少なめにしてもらって、生っぽい感じを出しました。ギターソロもキーボードソロもリバーブはとても少なくして、すぐそこで弾いているような音に意図的にしているんです。
――彩雨さんは途中でギターとの掛け合いがありますね。
彩雨:あれは笛なんですけど、本物ではなく、シンセサイザーっぽい不自然な笛なんです。初めの方は笛っぽい奏法なんですけど、掛け合いが進んでいくにつれて、徐々に笛で吹くには不自然なフレーズに変わって、鍵盤で弾いているような奏法に変わっていくんです。そこも狙いで、ずっと本物の笛の奏者とAnziくんが掛け合いをしているようなフレーズにしたら、笛ですね、で終わっちゃうんですけど、あくまでもシンセサイザーで笛っぽさを出していくのが絶妙なバランスの取り方だと思ったんです。最初は、ダークファンタジーのイメージで、アコーディオンの音にしようと思ったんですけど、アコーディオンはシンセサイザーで弾いているようにするとあまりかっこよくないのと、音の立ち上がりを考えて笛にしました。僕、最近笛にハマっているんですよ。野音のツアーのあたりから笛がマイブームでして。今後も続くかもしれません。
――シタールやエレクトリックピアノの次は笛なんですね。次はどんな楽器が出てくるか楽しみです。さて、5月から始まるツアーは『The Fifth Element TOUR』という名がつけられています。
苑:次はミニアルバムなのかアルバムなのかわからないんですけど、地球規模の題材で次の作品を作っていこうと思っているんです。世界を形成している五大元素はヨーロッパでは「土・水・火・風・エーテル」と言われているので、そこにつながるように『ether』を持っていきたくて。今回は『ether』を表現するツアーでありつつ、その先の作品にもつながるツアーにしたかった。五つ目の元素なんだよ、ということでこのツアータイトルにしました。
――とても規模の大きなタイトルですね。
苑:去年は宇宙規模と言ってたのに、地球に戻ってきてしまいましたけどね(笑)。大きな題材なのでいろんな曲が作れると思います。
彩雨:今回は初めて浜松と長野に行くし、札幌や広島もいつもと違う会場なんです。本数は少ないけど、新鮮なツアーになりそうで楽しみです。個人的に、浜松は僕が使わせてもらっているシンセサイザーの会社があるので、僕は勝手に聖地だと思っているんです(笑)。がんばりたいと思います!
(文・後藤るつ子)
摩天楼オペラ
<プロフィール>
苑(Vo)、Anzi(G)、燿(B)、悠(Dr)、彩雨(Key)の5人から成るロックバンド。2007年12月より現メンバーでの活動を開始。インディーズシーンで精力的に活動し、2010年12月22日、ミニアルバム『Abyss』でメジャーデビュー。2011年7月メジャー1stシングル『Helios』をリリースした。2012年3月、メジャー1stフルアルバム『Justice』を発売。2枚のシングルを経てフルアルバム『喝采と激情のグロリア』をリリース。2014年9月にフルアルバム『ACALON』をリリースし、2014年10月18日(土)に「AVALON TOUR」ファイナルを日比谷野外大音楽堂で行った。2015年5月6日(水・祝)、HEAVEN’S ROCK さいたま新都心 VJ-3を皮切りに全国ツアー『The Fifth Element TOUR』がスタートする。
■オフィシャルサイト
http://matenrou-opera.jp/