2024.10.05
DEZERT、lynch.@DIAMOND HALL
「DEZERT Presents 【This Is The “FACT”】 TOUR 2024 VS lynch.」
DEZERT主催のツーマンツアー初日、名古屋ダイアモンドホール。言うまでもなく今回の対バン相手、lynch.の本拠地である。DEZERTがわざわざ相手のホームに乗り込んで対バンするのは、年末の武道館ワンマンを見据えての武者修行的な意味合いがあるのだろうが、そんな後輩の意気込みに先輩たちはどう応え、何を諭してくれるのか。このツアーの見どころはそこにあると踏んでいる。ちなみに開場BGMがいつもの「イエスタデイ」ではなく「レット・イット・ビー」だったのは、先攻lynch.によるセレクトによるものだ。さすがlynch.先輩、後輩との絡み方を心得ていらっしゃる。
オープニングSEとともに姿を現したlynch.の5人。地元ということもあってかフロアの盛大な声援が飛び交う様子はさながらワンマンライヴのようだ。幕開けの「OBVIOUS」とともにフロアから一斉に突き上がる拳とオイコール。一方ステージに目をやると、いつも以上に伸び伸びとプレイに興じる5人の姿に目を奪われる。東京のライヴにはない圧倒的なホーム感。やはり彼らにとってここは離れることのできない大切な場所なのだろう。
続いて新作『FIERCE-EP』から「EXCENTRIC」を投下。8月に千秋楽を迎えたツアーでも感じたことだが、活動休止からの『REBORN』を経たことで、バンドは新しい武器を手に入れた印象がある。これまでのlynch.とこれからのlynch.。その両面を躊躇なく盛り込んだ新曲に対するオーディエンスのリアクションも痛快だ。来年20周年を迎えるバンドの新たな可能性を大いに感じた。
前半3曲を終えたところでMC。先日のこのツアーにまつわるWEBメディアでの対談でも明かされた、千秋に対するエピソードに葉月が触れる。初対面のイベントで挨拶がなかったこと、前回のツーマンライヴの会場入りに遅刻したことを引き合いに出した上で「今日は午前中から来てた! 大人になったよ!」とフロアを盛り上げる。そもそもlynch.は葉月のみならずつねに礼節をわきまえ、取材などの時間にも遅れないバンドであり、ひと言で言えば「真面目」な人たちである。一方かつての千秋がそんなバンドとは対照的なキャラクターだったことは、ファンの誰もが知るところ。ゆえに互いを意識しつつも探り合うような関係だった両者が、この日の対バンを通じてどこまで寄り添い、繋がることができるのか。それが今日のテーマなのだ。
MCの後は「斑」でバカ騒ぎが再開されると、咆哮の限りを尽くす葉月を中心に、メンバーのアクションや動きがステージ上で同調する。その動きがフォーメーションのように美しいのは、20年という年月の賜物以外の何物でもないだろう。さらに「どっちのファンも関係ない。ひとつになっていいライヴにしましょう」という葉月の訴えとともに始まった「THE OUTRAGE SEXUALITY」でフロアの一体感を増幅させてから「GALLOWS」そして「pulse_」を連続投下。荒々しい感情と突き抜けるような喜びが交錯する中、早くもライヴはエンディングを迎える。「僕たちが武道館をやることが決まった時、それに向けて作った曲があるんですが、最後にその曲をDEZERTに捧げます」という餞とともに「ALLIVE」を披露するラストにグッときた。2022年、コロナ禍の延期を食いつつも開催にこぎつけたlynch.の武道館。しかも活動休止からの再開を経てようやく辿りついた場所は、彼らにとって何物にも代え難いものだったはず。そんな苦難を乗り越えたバンドからエールを贈られるDEZERTは、本当に幸せ者だ。葉月が最後に「ステージあっためておいたんで!」という言葉を残し、lynch.はステージを去った。
出囃子も煽りの照明もないステージに登場したDEZERTの4人。無造作で飾り気のないオープニングは、ケンカ腰で対バンに挑む彼らのスタンスを表明しているように見えるが、おそらく今日の彼らにそんな意図はないだろう。声援というより怒号が轟くフロアに向けて、まずは「「擬死」」が放たれる。死んだふりをすることで弱い自分から目を逸らす男の歌が、ライトで赤黒く染まった4人を嘲笑うかのようだ。明らかにlynch.とは対照的な暗澹としたステージ。音の壁でフロアを圧倒するlynch.に対して、DEZERTは音の渦でフロアを蹂躙するバンドであることを思い知らされる。
続いて千秋の「一緒に吠えてくれるか?」と合図とともに新曲「心臓に吠える」を投下。待ってましたと力強く拳を突き上げるオーディエンスに、激しいパフォーマンスで応える4人が頼もしい。さらに「「殺意」」と「ミスターショットガンガール」を立て続けに披露。音楽的な振り幅の広さを誇示するような曲の並びでフロアを揺さぶり、高揚させていくようなライヴを彼らがするようになったのは、コロナ禍以降のこと。それまでの予測不能で行き当たりばったりだったステージから一転し、バンドがエンターテインメントを意識するようになったことが、メジャーデビューや武道館への道に繋がっていくのだ。
ここで千秋のMC。「さっき玲央さんに『千秋くん変わったね』って言われて…大人になっちまったDEZERTです」と、さっそく葉月のMCを受けてのリアクションでフロアを湧かす。かつてのように先輩に挨拶すらできない捻くれ者のままじゃ、武道館にはたどり着けない。それを知った今だからこそ、DEZERTはこのタイミングでlynch.と共演する必要があったのだ。「戦うんじゃなくて繋がるんだ」と、今日の対バンにかける思いを吐きだしてから披露された新曲「私の詩」。千秋の本音と本懐で満たされたメロディを、3人の演奏が優しく包み込むサウンドに聞き惚れる。続く「神経と重力」では4人のフリーキーなセッションから曲が始まるスタイル。千秋もギターを抱え、奔放なセッションを自ら先導するのは、戦う相手は対バンではなく自分たち自身であることを自覚しているゆえのことだろう。さらに「匿名の神様」でオーディエンスが左右にスライドする横モッシュが発生したかと思えば、「一緒に歌っていただけますか」と「「遺書。」」でシンガロングを求める。千秋の口調が他人行儀なのはlynch.のファンを意識してのことだ。しかし、それでも歌わなかった人を挙手させてまで全員歌うことを要求するところは相変わらず。ラストは「心の底からありがとうって言わせてください」と前置きしてからの「TODAY」で、恭しく本編の幕が下ろされた。
そしてアンコールでは葉月と玲央を呼び込んでのセッションが披露されることに。SORAと玲央が握手を交わす一方で、「敬語使ってるね」と葉月から指摘されると「使いたくて使ってます!」とハキハキ答える千秋も後輩キャラに徹してフロアを盛り上げる。さらに彼はこのあとやるlynch.の曲名を漏らしてしまうハプニングを経て「ADORE」がスタート。DEZERTの演奏をバックに自分の曲を歌い上げる葉月には、先輩後輩という関係を越えたミュージシャン同士の繋がりに歓喜する表情が浮かんでいた。
締めくくりはDEZERTの「「変態」」。フロアに作られたウォール・オブ・デスに葉月と千秋が降りる場面もあり、このツーマンで両バンドの距離が縮まったのは明らかだ。ライヴ中、千秋が何度も「繋がる」という言葉を口にしていたが、それが今のDEZERTの真ん中にある思いであり、このツアーも先輩たちの胸を借りることで、その思いをより確かなものにした上で、武道館の舞台を迎えたい。そういうことなのだろう。
アンコールを終えたところで「さしでがましいですが、最後に言わせてください」と、最後に玲央が放った言葉は、あえてここに書くことを控えたい。義理と人情に溢れた彼の言葉と、器のデカい先輩に背中を押されたDEZERTの繋がりは、どちらのバンドの未来も照らす光となる。清々しいバンドマン同士の交流に、胸がすくような思いをしたツーマンライヴだった。
◆セットリスト◆
【lynch.】
01. OBVIOUS
02. EXCENTRIC
03. EVOKE
04. 斑
05. INVINCIBLE
06. UNELMA
07. THE OUTRAGE SEXUALITY
08. GALLOWS
09. pulse_
10. ALLIVE
【DEZERT】
01. 「擬死」
02. 心臓に吠える
03. 「殺意」
04. ミスターショットガンガール
05. 私の詩
06. 神経と重力
07. 匿名の神様
08. 「遺書。」
09. 君の脊髄が踊る頃に
10. TODAY
En
01. ADORE w/葉月・玲央(lynch.)
02. 「変態」w/葉月・玲央(lynch.)
(文・樋口靖幸(音楽と人)/写真・Megumi Iritani)