2022.09.23
BUCK-TICK@横浜アリーナ
「BUCK-TICK 2022 “THE PARADE” 〜35th anniversary〜 FLY SIDE」

メジャーデビュー35周年を迎えたBUCK-TICKが、横浜アリーナで2日間にわたって行なった記念公演「BUCK-TICK 2022 “THE PARADE” 〜35th anniversary〜」。WOWOWでは両日の模様を放送・配信するが、まずは“FLY SIDE”と銘打ったDAY1、9月23日(土)の模様をレポートする。

オープニング映像に続いて鳴り響いたのは、「ICONOCLASM」の鋭い金属音とサイレンのようなギターリフ。紗幕状のLEDスクリーン越しに櫻井敦司(Vo)、今井寿(G)、星野英彦(G)、樋口豊(B)、ヤガミ・トール(Dr)の姿はまだ、透かし見ることしかできない。極限まで期待が煽られる中、次曲「BABEL」で樋口が繰り出す、ひたひたと魔が迫り来るような不穏なベースイントロに乗せLEDスクリーンが上がり、全貌がようやく露わに。後方LEDには、神殿の土台なのか柱なのか、謎めいたメタリックなモチーフが出現、やがて巨大な塔へと積み上がっていく。序盤で早くも現実を忘れさせ、観る者を引き込んでいくミステリアスな幻想世界。可動式のLEDスクリーンを活かした映像演出は照明と相まってリアルな奥行きを生み、眼前に次々と見知らぬ風景を描き出していった。

「唄」からの5曲は、初日と2日目とで全く異なるラインナップ。「月下麗人」を披露し終えると、「いらっしゃいませ。楽しんでね?」と語尾を上げ色っぽく挨拶する櫻井。アジアの湿った夜の花街を思わせる映像を用い、「舞夢マイム」の隠微な世界観を視覚的にも表現すると、「狂気のデッドヒート」では今井、星野、樋口が花道へ歩み出てプレイ。ヤガミは寸分の狂いもない鉄壁のプレイでステージを守っている。「禁じられた遊び-ADULT CHILDREN-」は、優しい曲調とは裏腹に、バレエを踊る映像内の少女たちがやがて真っ逆さまに落下するショッキングな映像で幕切れとなり、度肝を抜かれた。歌い終えて櫻井は「全てのアダルトチルドレンに捧げます」と一言。たとえ歌詞に直接的な表現は無くとも、彼らの音楽の美しさは、人の痛みや苦しみに寄り添い、慈悲に裏打ちされている。今回のライブでは、BUCK-TICKというバンドの真摯さを、いつにもまして痛感することとなった。

櫻井敦司
今井寿
星野英彦
樋口豊
ヤガミ・トール

パイプオルガンを思わせる荘厳な音色をギターで鳴らし、「相変わらずの「アレ」のカタマリがのさばる反吐の底の吹き溜まり (2022MIX)」を呪文のように歌う今井。櫻井の姿はステージに見当たらず、その頭部がスクリーンで浮遊。閉じ込められた場所から出ようとするように激しく叩き付ける手の映像がコラージュされ、もはやライブというより前衛アートを体感しているような気分になる。続く「楽園」はモスク風の紋様がステージに投影され、ヴェールをまとった聖女のような櫻井が登場。エキゾティックな音階とハードロックが融合した異色のミディアムナンバーは、その美しさで観る者を陶酔させ、同時に、殺し合いを止めない人間の業、傍観者に留まる“僕”の自問自答までをも描き出す。「REVOLVER」ではムードを一変。明滅するライトの中、その歌声に、音に怒りすら感じさせる激情をメンバーはそれぞれに迸らせた。漆黒の星空と遊園地、戦火を思わせる赤い照明に息を呑んだ「ゲルニカの夜」。この日初披露となった新曲「さよならシェルター」はメジャーキーの明るい曲調だが、殺し合いを〈狂っている 狂っているよ〉と明確に訴える。35年という長いキャリアの折々で生み出してきた楽曲たちは、現在の社会情勢に驚くほどピッタリと重なり、普遍的なメッセージを携えていた。BUCK-TICKというバンドは、美やファンタジーを駆使して常に真実を描き、傷付いた人々の心に寄り添ってきたからこそ、ライブ表現もこれほどまでに強い説得力があり、胸を打つのだろう。

「Go-Go B-T TRAIN」はカラフルでサイケデリックなアニメーションを背に、ミラーボールの光を浴びながら享楽的にパフォーマンス。星野はギターを身体から遠ざけるような、大きなアクションで熱くカッティング。イントロに乗せたメンバー紹介から始まった「Memento mori」に続き、会場を後方まで射抜くレーザー光線に包まれた「New World」では、オーディエンスの心の声に耳を傾けるように時折マイクを差し出した櫻井。本編はここで一旦幕を閉じ、会場には静寂が広がった。

ゴージャスなキャバレー風の映像世界の中、アンコール1曲目の「Django!!!-眩惑のジャンゴ-」が始まると、シルクハットと身を埋めるような羽根のストール、艶やかなラインダンサー風衣装で登場した櫻井。太腿を露わにしたその妖艶な姿のまま、32年前にリリースして以降、代表曲として聴き継がれている「惡の華」を披露。最後は、シンバルを鳴らし続けるヤガミのほうをメンバーが向き、呼吸を合わせてフィニッシュ。大きな拍手が鳴り響いた。「あまりしゃべらないようにしていましたが…」と櫻井は述べつつ、「35年もやってきました。また明日もやります」と語り始め、「35年前の、その時のアルバムから懐かしいやつ、聴いて下さい」との紹介から「ILLUSION」を披露。透明感に満ちたピュアな歌声、ロマンティックなアンサンブルは、全く色褪せることがなかった。

一度ステージを去って再登場すると、「Go-Go B-T TRAIN」のカップリング曲「恋」を厳かに歌唱、演奏した。銀河を思わせる暗闇と眩い光の世界がスクリーンに広がる中、続けて「夢見る宇宙 -cosmix-」を披露。振り返ればリリースは東日本大震災後のタイミングであり、慈しみ深い鎮魂歌。櫻井は両手でマイクを握り、仰け反るように渾身の力を込め切々と歌い届けていく。「ツンとすますのもいいと思ったんですが…」と、通常はMCの少ない櫻井には珍しく口を開くと、「絶賛、今、レコーディング中でございます。感傷に浸っている間など、ございません。〆切が迫っております」とユーモラスにコメント。「35周年、皆さんにお礼を一言。ありがとうございます」と加え、10月からの全国ツアーにも言及。「皆さんまた、元気でいて、コンサートを楽しみましょう」と呼び掛ける。今後の活動を列挙し、「まだまだ行きます」という力強い言葉も飛び出した。「皆さんにも祝福を!」と最後、ファンを讃えるように拍手を送ると天を見上げて「Solaris」へ。3曲から成るアンコール第二幕は、生と死をテーマに据えながら、美しい夢、幻を音楽によって描き出してきた彼らの軌跡を象徴していた。この日披露したのは全21曲。この「BUCK-TICK 2022 “THE PARADE” 〜35th anniversary〜 FLY SIDE」の模様は、10月23日(日)午後6:00から放送・配信されるのでぜひご覧いただきたい。

さらに、DAY2の“HIGH SIDE”では、過半数を入れ替えたセットリストで繰り広げられ、我々を驚かせることになる。その夜一体何が起きたのか…後日レポートでお届けしよう。

(文・大前多恵/写真・田中聖太郎)


【番組情報】
●BUCK-TICK 2022 “THE PARADE” ~35th anniversary~
FLY SIDE:10月23日(日)午後6:00
HIGH SIDE:11月23日(水・祝)午後9:00
[WOWOWライブ・WOWOWオンデマンド]
※WOWOWオンデマンドでは、放送終了後~1ヵ月間のアーカイブ配信があります
収録日:2022年9月23日、24日
収録場所:神奈川・横浜アリーナ

<関連番組>
●BUCK-TICK 魅世物小屋が暮れてから~SHOW AFTER DARK~ in 日本武道館
10月21日(金)午後5:30
[WOWOWライブ・WOWOWオンデマンド]
※WOWOWオンデマンドにてアーカイブ配信中

※全番組、WOWOWオンデマンドの無料トライアル対象外です

番組サイト
BUCK-TICK オフィシャルサイト