2018.7.5
AKIHIDE@マイナビBLITZ赤坂
「AKIHIDE MUSIC THEATER -Electric Wonderland-」

6月20日にソロとしては6枚目にあたるニューアルバム『機械仕掛けの遊園地 -Electric Wonderland-』をリリースしたBREAKERZのギタリスト・AKIHIDEが、自身の誕生日にあたる7月5日にマイナビBLITZ赤坂にて「AKIHIDE MUSIC THEATER -Electric Wonderland-」を開催した。

ちょうど2年前の誕生日に行ったライブ「AKIHIDE MUSIC THEATER 想い出プラネタリウム」で披露した「プラネタリウム」と「Wonderland」から新たな作品への構想が始まり、その後に行った「AKIHIDE Premium Night Show 月の舟」、そして昨年9月から四季をテーマに秋、冬、春、夏と開催してきた「AKIHIDE SEASON LIVE 2017-2018」で、まだ作品化していない楽曲たちを披露しながらビルドアップしていき、1つにまとめ上げ、新作の完成へと繋げていった。これまでよりもじっくりと時間を掛け、新たな発見もある中でより作品と向き合いながら完成させた新作は、ギターと唄、そしてストーリーや作画を自ら手がけた120ページに及ぶ絵本で紡いだ、彼のマルチラテラルな才能を注ぎ込んだ作品になっている。多彩なサウンドアプローチによって感性が刺激される楽曲たちと、現実社会や人生への問題提起をはらみつつもファンタジックな世界へと引き込んでいく絵本によって、非日常へと誘っていく。そんな作品の世界観を体現すべく、今回のライブが開催されたのだ。SEASON LIVEの集大成とも位置づけられたスペシャルな一夜となったライブの模様をレポートした。

まことしやかに“雨男”の異名を取るAKIHIDEの本領発揮か!?と心配された雨雲も去り、空が明るさを取り戻した赤坂周辺は、開場の17時半よりも前から多くのファンで賑わっていた。ライブ開始は19時。少し早めの開場となったのは、彼がこれまでに創作してきた数々の作品を展示したアート展が館内で開催されるからだ。こうしたアート展は、2年前にEX THEATER ROPPONGIで開催した「想い出プラネタリウム」の時以来2度目となる。館内には、記念撮影が行えるニューアルバムのジャケット写真のセットの再現や、絵本の原画の一部、アルバムが出来上がるまでの制作風景を捉えたメイキングPHOTO、構想やアイデアをメモした手書きノートの実物など、クリエイターとしての類い稀なる才能に加え、緻密さや実直さ、作品に対する彼の深い思い入れが感じ取れる空間が広がっていた。また2日後に控えた七夕にちなんで、会場に展示された「願いの樹」に願い事を書いて飾るというファン参加型の企画も行われた。AKIHIDEを始めバンドメンバーや、絵本の主人公であるお化けロボットのフィーリーや、その大切な存在となるリスのアリスの願いも飾られるなど盛り沢山の内容で満喫させてもらった後は、いよいよお待ちかねのライブの幕開けだ。

定刻の19時になると突然暗転。時計の秒針が刻一刻と時を刻む音が鳴り、まるで時空をタイムトリップするようなスペーシーなSEが場内を包み込む中、下手からバンドメンバーが姿を現した。少し間をおいてAKIHIDEが登場。ステージ中央に到着したところで、絵本冒頭の一節を朗読し始めた。そして「ようこそ! Electric Wonderlandへ」と言って放たれたオープニングナンバーは、CD同様「プラネタリウム」だ。エレクトリカルなアプローチでありながら、ライブでは一音一音にプレイヤーの息吹が感じられるような、よりヒューマンな演奏で魅了してくれた。

「音の魔法を操る素敵なミュージシャンと一緒に、その深く深くへと旅していきましょう。さあ不思議な時間の始まりです」そう静かな口調で語り、2曲目もニューウェーブの要素が強調されたナンバー「Wonderland」を披露。曲中で早くもメンバー紹介を挟み、ミュージシャンたちに敬意を払うといった、いかにもAKIHIDEらしい懇切さを窺わせた。

続いては、「春に舞う綿毛の弾むような気持ちを込めた楽曲です」と紹介された「タンポポ」。高音から低音まで奥行きのある音色を饒舌にアコギで奏でていく。ソロパートでは各人が超絶テクニックでオーディエンスを虜にしていった。

ここで再びAKIHIDEがストーリーテラーとなり、絵本の世界へと導いていく。このように、この日のライブは曲間でAKIHIDEのナビゲートを挟みつつ、音の旅を進行させていった。殺伐とした物憂げな世界観を複雑な構成や変拍子を組み込んだサウンドで構築した「砂の海」、ガットギターの切なくも温かな音色と優しい歌声が心を揺さぶった「ブリキの花」、独特な雰囲気を纏ったアダルトなナンバー「月夜のララバイ」ではウッドベース、ピアノ、アコギ、ソプラノサックスへと、凄まじい高速フレーズのソロの応酬を繰り広げ、場内をひと際湧き立たせた。終始絶妙な音量バランスと、安定したリズム、計算し尽くされたフレージングで支える城戸絋志のドラムも素晴らしい。

次の「月の舟」はAKIHIDEが1人残り、アコギの独奏を届けてくれた。力強くつま弾かれた弦の響きが何とも心地よい包容力を醸し出し、オーディエンスはみな自然と音に身を委ねている様子だった。続く「Namida」は、小林岳五郎の豊潤なピアノと、AKIHIDEの柔らかなガットギターの音色のみのアレンジで披露。2人の美しい音像がいつまでも胸を締め付ける名演だった。

中盤を迎え、メンバー全員がステージに戻り届けられたのは「風の歌」。サックス奏者の中村尚平が奏でる情緒豊かなフルートの音色、アルコ奏法で届けられた砂山“Sunapanng”淳一の卓越したウッドベースソロ、風が吹く様子をストラトで巧みに表現したAKIHIDEのギターテクニックと、ブラボーなプレイが次から次へと繰り出されていく。この日最も激しさを増した「瓦礫の王様」でも各人のテクニックがステージを彩り、それぞれの個性を浮かび上がらせた。そして、ニューアルバムを象徴する1曲とも言えるヴォーカルナンバー「Ghost」をドロップ。サウンド、歌詞、歌声が三位一体となり、表現者としてのさらなる進化を感じさせてくれた。

さあ、ここでスペシャルゲスト、奇跡の歌声と称される注目のシンガー蓮花が呼び込まれた。絵本に登場する天上の声を持ったキャラクター“時計姫”のイメージに合うとAKIHIDEからのオファーを受け、アルバムの1曲「My Little Clock」のヴォーカルを彼女が務めている。この日も、ポリリズムを多用した複雑なサウンドの中で、清らかに響き渡る見事な歌声を聴かせてくれた。さらにもう1曲、『天空の城ラピュタ』の主題歌「君をのせて」を蓮花のヴォーカルによりカバー。旅情感溢れる演奏と、伸びのある歌声ですっかりフロアを掌握した。堂々たるステージングで花を添えた蓮花の今後にも期待したい。

本編残すところ2曲となり、シーズンライブでもお馴染みの人気曲「朝顔のマーチ」が登場。オーディエンスの息のあったクラップで一体感を増し、ドラムとベースのシャレた掛け合いも楽しかった。そしてラストはCDでも最後に収録されている「夕凪のパレード」だ。MCでは、「僕は夕焼けを見るのが好きです。それは決して同じ夕焼けが二度と見れないからかもしれません。綺麗だなと夕焼けを眺め、目を閉じ、また開いた時には夕焼けはオレンジから深い紫に、そして夜の黒へと色を変えていきます。僕達は色んなものを手にしては失くしていきます。でも何かを失くす事で手に入れたものやその景色を奇跡と感じられる事が出来るのであれば、失くす事もまた奇跡の1つなのかもしれません。今日のこの素敵な時間も終わっていきます。この瞬間、皆さんと出会えた奇跡を大切に、感謝の思いを噛み締めながら次の楽曲を送りたいと思います。皆さんにとってまた素敵な朝日が昇ってくることを願って」と彼らしいメッセージを届け、開放感に満ちた癒しのナンバーで本編を締め括った。

アンコールは、バンドメンバー&スタッフからのサプライズでAKIHIDEの誕生日を歌とケーキで祝う場面から。AKIHIDEは「聴いてくださる皆さんが居るからこそ色んな音楽に挑戦でき、今作も全身全霊を尽くして作ることができました。誕生日というのは僕にとってお祝いしてもらうというよりも、応援してくださる皆さんに感謝すべき日なのかなと改めて思いました。本当にありがとうございます。」と、心からの謝意を表した。

そして、七夕にちなんで「星祭りの夜に」、ソロライブの定番曲「黒猫のTango」の2曲をインプロビゼーションをふんだんに盛り込みながら届け、およそ2時間半にわたるライブは華々しくエンディングを迎えた。出演者全員での挨拶の後、1人残ったAKIHIDEは再び絵本を取り出し、「最後に1つ歌を送らせていただきたいと思います。」と告げ、物語のラストに登場する「おやすみの歌」を大切に読み上げ、晴れやかな笑顔を咲かせながらステージを後にした。

ニューアルバムに添えられた絵本は、棄てられた遊園地にひとり残されたお化けロボットのフィーリーが、“大切な想い出と新しい自分に出会う物語”だ。今日のライブも同様に、ある人は郷愁を、ある人はまだ見ぬ明日への希望を、彼らの素晴らしい演奏によってそれぞれの胸に宿らせたことだろう。そしてこの感動をタネに、AKIHIDEはまた次の作品の花を咲かせてくれるに違いない。
音、コトバ、絵、歌声……自身の持つ様々なクリエイト能力をさらに磨き上げ、「ジャンル=AKIHIDE」とも言うべきブルーオーシャンな道をこれからも意欲的に切り開いていって欲しい。

◆セットリスト◆
01. プラネタリウム
02. Wonderland
03. タンポポ
04. 砂の海
05. ブリキの花
06. 月夜のララバイ
07. 月の舟
08. Namida
09. 風の歌
10. 瓦礫の王様
11. Ghost
12. My Little Clock ※Vo.蓮花
13. 君をのせて(カバー) ※Vo.蓮花
14. 朝顔のマーチ
15. 夕凪のパレード

EN
01. 星祭りの夜に
02. 黒猫のTango

(文・松原由香里(From music freak magazine編集部)/写真・達川範一(Being))