Angelo

Angelo

異端、異教を意味する最新作『HETERODOX』が映し出すAngeloの決意表明。キリトが示す、生きるということ。

10月4日“天使の日”の11周年アニバーサリー公演を目前に、前作『CORD』から1年ぶりとなる待望のニューアルバム『HETERODOX』がリリースされる。まさにAngeloというバンドそのものを表すような「異端」、「異教」を意味するタイトルをあえて掲げた今作で、彼らが描き出したものとは――。バンドのフロントマンであり、その世界観を司るキリト(Vo)にじっくりと話を聞くと、今作を通したAngeloの今、そして生きるということの本質が見えてきた。

◆異端と言われているものをスタンダードなものにしてみせる

キリト

――キリトさんはアルバム『PSYCHE』(2014年12月)以来かなり久々のインタビューです。実はその時に、来年(2015年)の目標は「優しくなりたい」と言っていたのですが、その後いかがですか(笑)?

キリト:あ、そうですか(笑)。そういうことは最近は意識していないですね。多分、変わってないかと。

――Karyuさんとギルさんが加入して6年ということで、11年間のAngelo活動歴の半分を超えました。この6年はキリトさんが思い描いていたヴィジョン通りに進んできましたか?

キリト:音楽的には行きたい方向に行けていると思うので、それは期待以上という感じです。

――前作『CORD』(2016年9月リリース)からちょうど1年というタイミングで、ニューアルバム『HETERODOX』がリリースされます。いつも修羅の道の果てに作品が完成していますが、今回はいかがでしたか?

キリト:今回もそうでしたね。身も心も削られて…。

――削られて(笑)。『HETERODOX』は異端、異教を意味するということで、これまでにもキリトさんは異端と言われることは多々あったかと思いますが、ご自身ではそういう実感はありますか?

キリト:言ってみれば最初からそうだったと思うし、そもそもが自分にその意識がなくても評価としては異端とか、そういう言われ方をしてきたので。ただ、自分の中ではそれがスタンダードだと思ってやってきたんですよ。今もそうなんだけど。まぁ、そういうものだと思うんですよね。周りもちゃんと見て、客観的に自分はちょっと変だよなって思っている人っていないと思うんですよ。

――確かに。

キリト:自分はスタンダードだと思っているんだけど、結果的に異端ということになっているのは昔からそうで。言ってみたら自分的には根本の部分だから、今回それをあえてタイトルに持ってきたというのは、逆説的な意味があるというか。多分、ファンの人たちや周りの人たちから見れば、『HETERODOX』=異端をタイトルに持ってくるまでもなく、「そんなこと、わかってるよ」っていうことだと思うんですよ(笑)。それをあえてタイトルにするというのは、異端と言われているものをスタンダードなものにしてみせるという意気込みというのかな。

――それが11月から始まるツアーのタイトル「REVERSAL OF HETERODOXY」にも結びついているんですね。7月に「evil」のMVが先行公開されましたが、この楽曲を選んだのはどのような意図があったのでしょうか?

キリト:先に出来たという(笑)。諸般の事情により先に仕上げる必要があったので、これを完成させちゃって、あと「STRING」(4月リリースのLIVE DVD&Blu-ray『Angelo Tour「THE COUNTLESS CORD」at AKASAKA BLITZ』収録の新曲)は先に出来ていたので、残りの8曲はその後ゼロから作った感じですね。Karyuの曲は早めに出ていましたけど、僕は毎度のことながら物理的にギリギリでした(笑)。

――実はアルバム『RETINA』(2012年11月)のインタビューの際、「例えば悪魔も色々な説を見れば、神に対する愛情は他の人間や神と同じようにあるんだけど、ちょっと歪んで「なぜ自分だけが」というところから始まっていたりすると考えると、色々なストーリーがある。だから“悪魔”をタイトルにして曲を書けば、もしかしたらものすごくラブストーリーかもしれない」ということをキリトさんが言っていて。「evil」で描いているものもそういうことに近いのかなと。愛するが故の憎しみというか。

キリト:そのお話をしたことは覚えていないんですけど(笑)、ただ、そういう考え方は常にありますよ。対極にある言葉というのは本当に紙一重なもので。生と死、光と闇、全てにおいて両極のものは紙一重でしょ? 僕の中では同義語くらいの捉え方なんですよ。生を考えるということは、同時に死を考えるということ。例えば女って何だろうって考える時、同時に男って何だろうって考えざるを得ない。そういう意味で、正義と悪という概念に関しても、ほぼ同義語。両極に見えて、背中合わせなんですよ。

◆平坦な日常ではきっと作れない

Karyu

――今作全体の印象として、『HETERODOX』はAngeloそのもの、Angeloの意思を表しているように感じました。直接的なメッセージソングではなく、キリトさんらしい哲学的な表現の裏に真意を感じます。まず、1曲目の「SINGULAR」からまさに意思表明ですよね。

キリト:そうですね。Angeloというバンドが生まれた成り立ちみたいな感じでもあります。

――〈賛否ひしめく〉というのはキリトさんがよく言っていることでもあるし、ラストの〈前触れなく現れる合図 見逃さないでいて〉がファンの方々に向けたメッセージにも取れます。

キリト:突然変異は前触れなくやってくる。進化というのは徐々にじゃなくて、突然ガラッと変わるものだということで。

――この曲はリズムもメロもものすごく複雑で難解ですよね。自然の流れでは生まれない、理論上は成立していないのではというくらい。この曲を1曲目にした決め手というのは?

キリト:やっぱり、Angeloの中で新しい引き出しかなと思ったので。まず一発目で驚いてもらえたらなというところで、一番今までになかったタイプの楽曲を1曲目に持ってきました。

――まさに意表を突かれました。「HETERODOX」で描いている、破壊と再構築を繰り返して未開の領域へということもAngeloの根底にあるものですよね。ライブ映像作品に収録されていた「STRING」を今作にも収録したのはなぜですか?

キリト:配信やシングルカットをせずに、最初からアルバムを見据えていました。僕の場合、原曲を作るのは遅いんですけど、タイトルを決めるのは早いんですよ(笑)。テーマというか。歌詞を書く前にタイトルを決めちゃうんです。そこで一つの流れを作って、その流れに沿った歌詞を書くという変則的なやり方をするので、「SINGULAR」の後に「STRING」というのは、結構早い段階から決めていました。何となく、世界観は見据えて作っていましたね。

――歌詞の中に〈ファクト〉と〈リザルト〉(※2015年にリリースしたEP盤2作が『FACTOR』『RESULT』)というワードが入っていたり、「STRING」という言葉自体が一連の出来事という意味もあること、そして随所に散りばめられた様々なワードからも、この曲はAngeloにとっての今年の一連の出来事を表したものなのでしょうか?

キリト:全部そうですよ。Angeloの歴史を見れば、その時々リアルに起こっていることと世界観がリンクしている。ただそれをあからさまに言わず、作品の中に散りばめていくことで、聴いている人が気付けばいいし、気付かなければそれでもいいし、というやり方で。「STRING」は色々な出来事の点と点を紐付けるという意味合いもあるんですが、僕の感覚的には、超ひも理論の量子力学の意味合いが強いですね。『FACTOR』と『RESULT』のコンセプトが既に量子力学だったんですよ。結果には要因がある、要因があって結果があるという、量子力学の基本的な考え方。そこから来ているので、この曲に〈ファクト〉と〈リザルト〉という言葉が入るのは、自然な流れなんです。

――なるほど。それにしても、今作のKaryuさんの楽曲はこれまでよりさらにマニアックさが増しているなと。

キリト:変拍子も多いしね。

――「Scheme」はリズムが難しい上にリズムパターンも多くて、作ったKaryuさんもすごいですがTAKEOさんはやはりさすがだなと。ヴォーカルのリズムの取り方も難しそうですが、レコーディングはいかがでしたか?

キリト:変拍子は得意なので、割とすんなりいきましたね。

――では今作中、一番時間がかかったのは?

キリト:僕は歌録りは早いんですよね。どれにしようかな…(笑)。割と全部すんなりいきました。

――キリトさんの楽曲「胎動」では、今作の中で唯一〈僕〉というワードが出てきます。

キリト:あんまり意識してなかったけど、曲の世界に沿うので、あえて「俺」という曲もあるし、相手に対しても「君」もあれば「あなた」もある。曲がそうさせているんですよね。

ギル

――この楽曲は胎動そのものと、新しい物事が動き出すという意味のダブルミーニングでしょうか?

キリト:そうそう、そういうことです。

――近い意味合いのものとしては「ORIGIN OF SPECIES「ALPHA」」は種の起源ということですよね。

キリト:「胎動」と「ORIGIN OF SPECIES「ALPHA」」は、さっき言っていた生と死みたいな、対義語のようで同義語という、僕の中で対になっているんですよ。同じことを歌っているのに、見え方が対極にある。サウンドもそうだしテンションも。躁と鬱みたいな(笑)。でも言っていることは近いんですよね。

――「ORIGIN OF SPECIES「ALPHA」」のほうは〈死〉から始まっていますね。

キリト:やっぱり生と死は繋がっていますからね。死ぬということは同時に生まれるということ、生まれるということは死に向かっているという繰り返しですよね。

――轟音とサビの開ける感じのコントラストがたまらない、キリトさんらしい曲でもありますが、ライブ映えしそうですね。

キリト:あっ、これは珍しくライブの具体的なところまで考えました。英語の部分は掛け合いになると思うので、盛り上がると思いますよ。

――「珍しく」ということは、普段はあまり考えることはないんですか?

キリト:出来てみて、ライブ向けだなと結果繋がることはあるんだけど、作っている段階ではそこまでは考えてないですね。

――「Resolve」はタイトルがまさに決意を意味しますが、ラストの歌詞〈想いを伝える代わりに捧げよう 修羅となる姿〉がAngeloそのものだなと。

キリト:そうですね、決意表明みたいな感じです。

――常に修羅の道を行くバンドですからね(笑)。

キリト:特に作っている時はそうなんですけど、年々それが顕著に過激になっていくんです。制作期間って、死に近いというか、死を意識するんですよ(笑)。瀬戸際で死が見える(笑)。それくらい自分を追い込んでいるんです。だから、精神状態としてはスレスレの状況なんですよね。でも、そういうものなんですよ。自分が作品を作ろうとした時は、そこまで追い込まないと。で、そこまで追い込まれて出てくる言葉というのが、やっと納得できるレベルの表現なので…、危険な職業だなと思いますね。一歩踏み外したら、戻れなくなっちゃうので。

――危ないです。

キリト:まぁこのアルバムの制作時期…色々と嫌になるようなことがあったんですよね(笑)。だからひどい精神状態で。だけど、いつも制作時期にそういう感じになるんだなという、因果だなぁと思いました。だからこそ、結果こういうものが作れるんだと思うと、平坦な日常ではきっと作れないですよね。何で自分ばかりそういうことになるんだろうって、投げやりになる気持ちもあったけど、そういう業なんだと毎回思って、その年の制作を終えるんですよ。で、次の年になるとまた始まる(笑)。さらに過激になって(笑)。