the GazettE

the GazettEの音世界をより深く描き出し、具現化するミュージッククリップ集。そこから紐解く彼らの作品への思い、そして信念とは――。

2014年、ファンクラブツアーに全力を傾けたと言っても過言ではないthe GazettE。彼らの今年最初で最後の作品となるミュージッククリップ集『FILM BUGⅢ』がリリースされた。再生と共に流れ出す、驚くほど大胆かつ緻密な映像たちは、彼らの執念にも近い熱意で作り上げられたものばかり。「the GazettEの超コアファン」と自らを称したRUKI(Vo)に、自らの信念を貫き続ける作品について、そして、13周年への思いを語ってもらった。

◆お金をかけずに、いかに良い物を作るか

――2014年も終わりますが、今年はどんな年でしたか?

RUKI:今年はファンクラブのことを中心にやっていたので、ある意味、地下に潜った年でした。新曲も出していないですし。でもこれ、うちではよくあるんですよ。今回は1年だけど、前は2年半くらい何も出さなかったこともありましたからね。

――今回の作品『FILM BUGⅢ』が、2014年最初にして最後のリリースになるわけですが、タイトルの『FILM BUG』とはどういう意味なんでしょうか。

RUKI:「FILMがバグってる」っていう意味です。元々はVHSが流通している頃に決めた名前だったんですよ。『FILM BUGⅠ』をリリースする頃にはもうDVDだったんですけどね。昔から名前を考えるのが好きで、ずっと使えるやつにしようと思って付けました。

――今回の『FILM BUGⅢ』には2010年リリースの「SHIVER」から、この作品のために撮り下ろした「TO DAZZLING DARKNESS」を含む全11曲が収められています。かなり多彩なミュージッククリップ集ですよね。

RUKI:監督が一人じゃないからかもしれないです。今回の収録曲は3人の監督にお願いしていて、「SHIVER」「RED」は丹さん(LUNA SEAやhideの映像作品を手掛ける丹修一監督)、「PLEDGE」「VORTEX」は今井さん(清春やsads)の映像作品を手掛ける今井俊彦監督)、「REMEMBER THE URGE」「THE SUICIDE CIRCUS」「DERANGEMENT」「歪」は近藤さん(ライブ映像やDIR EN GREYの映像作品を手掛ける近藤廣行監督)で、「FADELESS」「INSIDE BEAST」で再び今井さん、そして今回撮り下ろした「TO DAZZLING DARKNESS」は近藤さんです。

――曲順を見ると同じ監督の作品が連続していますが、作品の世界観をリンクさせたかったからでしょうか?

RUKI:曲によって、こういう曲だったらこの監督、とお願いする人を変えているせいですね。

――思い出に残っている作品はありますか?

RUKI:「THE SUICIDE CIRCUS」は朝方まで撮影をした記憶があります。超大変でした!

――the GazettEの映像作品はいつも、どうやって作っているのかわからない、国内なのか国外なのかもわからない不思議な感じがします。

RUKI:全部国内ですよ。「THE SUICIDE CIRCUS」も日本の遊園地ですし。

――こんなに海外っぽいのに、意外です。

RUKI:遊園地をライトで装飾したらサーカスっぽい感じになったんです。でも確かに海外っぽいかもしれませんね。ちなみに「DERANGEMENT」は六本木で撮ってます。超近場でしょ?

――(笑)。それにしても映像から撮影のバックグラウンドが透けて見えないですね。毎回予想外の衝撃を与えてくれる映像作品ばかりで驚かされます。

RUKI:お金をかけずに、いかに良い物を作るかなんですよね。そのために何とかがんばる感じです。まぁ、言ってもかけてもらってるんですけどね(笑)。

――映像作品の制作はどのように行われるのでしょう?

RUKI:任せる監督と、一緒に作る監督がいるんですけど、「SHIVER」と「RED」は監督に場所も何もかもお任せして、他の監督は一緒に作りました。作るときは、場所はここ、シチュエーションはこんな感じで、と細かく指定しますね。特に俺は細かく言います。

――アートワークも手掛けるRUKIさんとしては、物申したい感じですか。

RUKI:俺は物申すどころじゃないですよ。監督の真横にくっついてますから(笑)。「ここのカットに、この映像を入れてください」って言ったり。それをやってくれる監督じゃないと一緒にできないんですよね。ただ、丹さんは巨匠過ぎて、こちらから何も言えないので、「丹さんこのカットどうですか?」って聞いて「いや、これがいいんじゃん」って言われると「そっすね!(笑顔)」ってなります(笑)。

――なんだか微笑ましい…(笑)。

RUKI:近藤さんはカット割りが上手いんですよ。別々で撮ったものをくっつけるのがすごく上手くて、俺が考え付かないような組み方をする人です。三人ともこのジャンルでは外せない人たちですけど、変わっているというか…不思議な人たちですね(笑)。でも、日本で一緒にやりたい監督が本当に少ないんですよ。俺、MVを作るときは、いろんな作品を一通り見るんですけどね。SONYのWALKMAN®とのコラボレーションの「LAST HEAVEN」(※WALKMAN®the GazettEモデルにプリインストールされたMV)を撮るとき、新しい監督にお願いしたんですけど、海外の人だったせいか、感覚が全く違ってすごくざっくりしていたんです。うちはざっくりなんて許されないので、一度監督が作ったものを頭から変えていく感じでした。

――通常、映像の全体像は撮り始める段階でカチッと決め込んでいるんですか?

RUKI:いや、「THE SUICIDE CIRCUS」は割と決まっていたんですけど、「DERANGEMENT」なんか撮りながら「メインのショットがないね」ってことになって、急遽、背景が赤いシーンを撮りました。俺の衣装が赤かったので、対比になるようにライトを赤くして、カメラをこう動かしてくださいって伝えて。

――メインのシーンですら、撮影中に生まれるものなんですね。

RUKI:そうなんです。こんな感じだからすっごく時間がかかるんですよ。収録されたMVはどれも時間がかかっていますけど、一番かかったのは「TO DAZZLING DARKNESS」かな。全然終わらなかった…(笑)。自分たちでディレクションすればってよく言われます。

――そんなミュージッククリップ集がクリスマスにリリースされるわけですが。

RUKI:クリスマスに出すようなパッケージじゃないですけどね(笑)。今回のジャケットはデザイナーさんが描いています。いくつか出た案の中からこれを選びましたね。これは人…なんでしょうね。

――やや巨人ぽさもありますが。

RUKI:ジョジョっぽい感じですよね。何かいいなと。とはいえ、クリスマスっぽくはないので、赤いリボンでも巻いてもらえたらと思います(笑)。

◆アーティストよりファン気質

――12月2日、3日で、今年最後のファンクラブライブ(「the GazettE STANDING LIVE TOUR 14 GROAN OF VENOMOUS CELL」 @豊洲PIT)が終わりました。2014年、ファンクラブに全力を傾けたのはなぜだったんでしょうか。

RUKI:これは自分たちのためでもあったんです。曲作りをやめて、一度フラットに戻したくて。でも、活動休止するわけにもいかないから、過去のアルバムを新たに紐解くということをやったんですけど、一般向けにやるというより、ファンクラブにと思って。

――これまでにリリースしたアルバムを中心としたセットリストだったそうですね。

RUKI:そうです。今回のツアー(「the GazettE STANDING LIVE TOUR 14 GROAN OF VENOMOUS CELL」)でアルバム『DIVISION』(2012年8月リリース)と『TOXIC』(2011年10月リリース)、夏にやったツアー(「the GazettE STANDING LIVE TOUR14 PULSE WRIGGLING TO DIM SCENE」)で『DIM』(2009年7月リリース)と『STACKED RUBBISH』(2007年7月リリース)、その前の春のツアー(「the GazettE STANDING LIVE TOUR14 NAMELESS LIBERTY DISORDER HEAVEN」)で『NIL』(2006年2月リリース)と『DISORDER』(2004年10月リリース)と、計6枚のアルバムを1年かけてやりました。かなり懐かしかったですね。

――実際やってみて見えたものはありましたか?

RUKI:当時ライブでこうしたかったんだろうなという、自分たちが段階を踏んでいる感じがわかりました。このアルバムでこれが足りなかったから、次のアルバムでやったんだなとか。となると、一番新しいアルバムはなるべくしてなったんだなと。周囲に左右されたわけじゃなくて、ライブをもっとこうしたいと思ったからこうなったんだろうなとよくわかったんです。だから、すごく自然でしたね。

――ではご自分たちが最初に掲げた「一度フラットに戻す」という目標も達成できたんですね。

RUKI:できたと思います。

――前にRUKIさんが言っていた「自分たちのライブを客観的に見ている」という言葉が印象的だったのですが、今回はその最たるものかなと。

RUKI:そうじゃないとダメというか、「the GazettEだからこれをやる」というよりは、自分が見て、良いなと思えるバンドにしたいという思いが強いですね。多分、自分はうちのファン以上にコアファンですよ。
そもそも、思い入れが強い人がバンドをやっていると思うんですよね。例えば昔XさんやLUNA SEAさんが好きだった人で、中でもそのバンドに対して思い入れが強いコアなファンが、コスプレをしたり、それ以上になると、自分もその場に立ちたいと思う…そんなイメージなんです。

――確かにそうかもしれません。ちなみにRUKIさんは、ファンが求めるものは何だと思いますか?

RUKI:裏切られないことじゃないかな。俺もそうなので。ファンが思うthe GazettEってものに対する筋がずれた時、一番がっかりされると思うんですよ。良い方向にかけ離れるのは良いと思うんですけどね。アーティストって、グレーゾーンに向かう人と、いつもアングラ寄りの人がいて、俺たちはアングラ寄りだと思うんですね。それがバンドとして成功なのか成功じゃないかはわからないけど、大切なのはそれだけじゃないと最近思うんです。もちろん人気が出たい、売れたいっていうのはありますけど、したくないことをしてまでは売れたいと思わないですから。

――the GazettEがこれだけの人気と、なおかつコアなファンを獲得しているのは、そういうスタンスであり続けているからかもしれませんね。

RUKI:こういうジャンルにはこのバンドってあるじゃないですか。自分たちはその一つに過ぎないと思うんですけど、そこで貫いているバンドがいた方が良いと思うんです。例えばBUCK-TICKさんの貫き方。音楽性は変わっても、世界観の貫き方はすごいですよね。メンバーチェンジもなく、ずっと同じでいるってとんでもないことですから。

――そんなBUCK-TICKはデビュー27年目ですが、the GazettEは来年、結成13年目を迎えますね。

RUKI:そうなんです。でも、早いというより、まだそれだけしか経っていないのかという感じですね。もっとやってなかったっけ?って。寿命削ってる感じがする(笑)。

――(笑)。1年の密度の濃さゆえでしょうか。13年間で変わったこと、変わらないことはありますか?

RUKI:変に変わったところはないですね。バンドって人によると思いますが段々図に乗るというか、人任せになる部分が出て来て、本質を忘れたりするんですよ。この部分はレコード会社に任せるとか、MVには手を付けないとか。誰かが悪いわけじゃないし、手に取りやすいようにするために仕方がない部分ではあるんですけど、うちはそれを13年目にして未だに自分たちでやっている。それはすごく素敵なことだと思います。ジャケットとか、インディーズレベルの手間をかけていますからね。お金がかかっちゃいけない部分にかけている、利益を残したい部分を考えない、そういうところが変わらないし、変わらなくていいところだと思っています。

――その姿勢が貫けるのは素晴らしいことですね。

RUKI:そうですね。あとは、昔よりファンのことを考えるようになりましたね。どうしたら喜ぶかとか。かといって喜ぶことを何でもやるわけではなくて、自分たちがやりたいことの中で喜ぶことを提示する。自分たちなりの「おもてなし」です(笑)。バンド的にはファンとの距離感は近くなった気がしますね。昔の方がもっと突き放していたし、ついて来られるやつがついて来ればいいって思っていたけど。

――より大人になったんでしょうか。

RUKI:大人になったというか、丸くなったのかな。ただ、そこは曲とは関係ないっていうのがミソなんですよ。自分がキッズだったら、まさに「そこ! そうだよね!」って感じ。丸くなって曲まで丸くなったらただ丸くなっただけですからね。

――ファン目線を忘れていないというのが言葉の端々から伺えます。

RUKI:自分は、アーティストよりファン気質ですから。自分の理想に近づこうという気持ちが強くて、クオリティを上げるためだったらとにかく勉強する。自分の作品のクオリティに対する自信があるので、そういうことばっかりやっている感じです。ジャケットも世界基準のものにして、どこに持って行ってもしょぼいって言われない、お金がかかっていなくてもかかっているように見える努力を惜しまないですし。平たく言うと変なファンですね(笑)。うちのファンの子たちとは比にならないくらいの、the GazettEの超コアファンだと思います。

――バンドに対するその愛情と熱量が2015年3月10日の武道館公演「the GazettE 13TH ANNIVERSARY [13-T H I R T E E N-]」でも観られるわけですね。このタイトルとティザー映像の不吉さで、一体どんなライブに!?と思ったのですが。

RUKI:内容はライトです。おもてなしセットリストではありますけど、そんな不吉ではなくて。どちらかというと13周年の始まりなので、来た人が楽しめるライブになるといいなと思います。セットリストは新旧問わず組んで、来る人が予想していない感じにしようかと。

――the GazettEの2015年がここからスタートするんですね。

RUKI:来年は結構計画を立てていて、目まぐるしい年になりそうです。何が起こるか、乞うご期待です。

(文・後藤るつ子)


the GazettE

<プロフィール>

RUKI(Vo)、麗(G)、葵(G)、REITA(B)、戒(Dr)。デビューより一貫してセルフプロデュースを貫き、妥協なく追求したハイクオリティなサウンドは国内外で高く評価されている。2008年4月には初の代々木第一体育館2daysをSOLD OUT、そして2010年12月にはヴィジュアル系バンドとしてはX JAPAN、LUNA SEAに続く3組目の快挙となる東京ドームライブを成功させる。2013年には全9公演のthe GazettE WORLD TOUR 13を行うなど精力的にライブ活動を展開。2014年は3本全32公演のファンクラブツアーを行い、その模様を収めたライブDVD『STANDING LIVE TOUR14 HERESY LIMITED — 再 定 義 —』が2015年3月11日にリリースされることが決定している。

■オフィシャルサイト
http://www.pscompany.co.jp/gazette/

【リリース情報】


『FILM BUGⅢ』
(DVD)
SRBL-1641
¥5,500+税

『FILM BUGⅢ』
2014年12月24日発売
(SMR)
2010年以降のミュージックビデオを網羅したミュージッククリップ集。最新アルバム『BEAUTIFUL DEFORMITY』から本作の為に新たに撮影された「TO DAZZLING DARKNESS」も収録。

【収録予定曲】
01. SHIVER
02. RED
03. PLEDGE
04. VORTEX
05. REMEMBER THE URGE
06. THE SUICIDE CIRCUS
07. DERANGEMENT
08. 歪
09. FADELESS
10. INSIDE BEAST
11. TO DAZZLING DARKNESS