SLAPSLY

前作『EXCITED』と対を成す新作『RELAXED』が完成。二部作の完結編が示すものとは。掴め、覚醒を――

ベースヴォーカルCHIYUによるソロプロジェクト“SLAPSLY”が、前作EP『EXCITED』と対を成す新作『RELAXED』を完成させた。視覚・聴覚ともに前作との対比を表現するにあたり、振り切ることをテーマに掲げた全5曲収録の今作は、SLAPSLYとしても新たな扉を開く意欲作となった。その制作過程を紐解きながら、二部作の完結編として描かれた作品の核心に迫る。


こういう系の曲調って今までになかった

『RELAXED』完成おめでとうございます!

CHIYU:マジでギリギリ(笑)。なんとか形になりましたね。

音源について触れる前に、まず今回のCHIYUさんのゴシックなヴィジュアルが新鮮だなと思って。

CHIYU:やっぱり新鮮に感じます? 黒髪自体が高校生ぶりとかなんですよ。卒業してから20数年間、基本的には毎回ブリーチしていたから。これ、厳密にはブルーブラックという色なんですけど、ブリーチしたから綺麗に色が入ったところもあるんですよね。ファンの人たち的には、黒髪ってすごく新鮮みたいで。なおかつ真っ黒なゴシック寄りの衣装なので、アーティスト写真の公開時に皆ビックリしたと思います。「『RELAXED』なのに、全然リラックスしてる感ないけど大丈夫?」みたいな意見は多かったんですけど(笑)。このタイトルで、まさかこんなヴィジュアルで来るとは思っていなかったみたいで。ゆる着で撮ると思っていたんですかね(笑)。

『RELAXED』だから(笑)。

CHIYU:例えば、有村竜太朗さん(Plastic Tree)みたいなイメージやったんかな? フワフワっとした、ああいう感じを想像していたのかわかんないですけど、自分的にはバチバチにゴシックに振り切れたのは、今回やりきってよかったなと思いますね。

前作『EXCITED』(2024年10月発売)がピンクの背景でカラフルな衣装だったので、しっかり対比が生まれていますよね。

CHIYU:そうですね。見た目的にもバッチリ対になっています。前作のMVを撮っている時にメイクさんとの会話でゴシック系もいいねという話になって、そこからどんどん広がっていった感じなんですよ。だから、最初からゴシックにしたかったわけではなくて、作りながら、そのほうが今までやったことがないし、世界観がちゃんと広がりそうだなという明確なビジョンが見えたから、そっちに振り切ってみました。

取材日現在、『RELAXED』のジャケ写はまだ公開されていないですが、前作『EXCITED』のインタビュー時に「ジャケットにも伏線を散りばめているので考察しておいてほしい」と話していましたよね。前作リリース時点で、それについてファンの方からのリアクションはありましたか?

CHIYU:どうなんやろ。多分「何か言うてるわ」くらいにしか思ってないんちゃうかな(笑)。前作の時点で、限定盤と通常盤の裏面のデザインが繋がっていて、今作の限定盤と通常盤を合わせると、4枚で一つの絵になるようにもなっているし、表のジャケ写も、前作がプラスで今作がマイナス、前作が男性の手で今作が女性の手というふうに、対比を作っているんですよね。CDケース横の部分も対比になるようにアー写を撮ったし。全てが対極になるように、バランスを取って最初から撮影していったので。これを早く4枚並べてみたいんですよ。

元々『EXCITED』の制作時に8曲あったのを5曲にして、残り3曲を今回に振り分け、そこに2曲追加したのが『RELAXED』になるわけですが、『EXCITED』の時にあった3曲はどれだったのでしょう?

CHIYU:1曲目と5曲目以外の真ん中3曲なので、「Nothing is Over」「Gift」「ESPOIR」ですね。アルバムの本筋を成立させるために、スタートと終わりをこうしたら、ちゃんと着地するかなっていうところで、新たに2曲作ったのを最初と最後に持ってきました。だから極論を言ってしまえば、真ん中はどんな曲でもよかったんですよ。最初と最後の説得力的なところがちゃんとできれば、しっかりはまるなという構想はあったので。

1曲目「「L」」がリード曲ですが、この“L”が何を指しているのか、ズバリ聞いてもいいのでしょうか?

CHIYU:はい。いろんな“L”があるんですけど、MVの監督がサマエル(死を司る天使)や、サキエル(水を司る天使)とか、そういうものをもじったようなところから世界観を広げていってくれたんですよ。実はそこまでタイトルがなくて、曲ができてMVを撮る直前まで、どうしようって悩んでいたんですけど、意外とこれが上手いこと全部繋がるんじゃないのかなと思って、「「L」」をタイトルにしました。

かなり珍しいタイトルの決まり方だったんですね。

CHIYU:多分、バンドだったら他のメンバーの意見から広がっていくこともあるんでしょうけど、自分の場合はアレンジャーやMVの監督ぐらいしか、広がっていく要素がないんですよね。だから、絶対こうしたいというもの以外は、もう基本的にお任せするスタンスに変わってきているんですよ。広げてほしいから。最近、アレンジも「ここはこうしてほしいけど、あとはなんかいい感じに」くらいしか言わなくて(笑)。もちろん、これはちょっと違うなという時は、ちゃんとすり合わせをしますけど、基本的にはスムーズに進んでいきますね。「こうなるんやったら、これをもっと広げましょうよ」とか、「これどうですか?」「なるほど」ってアレンジャーとどんどん話が膨らんで、変わっていくパターンが多いです。

前回は「fleek=fleek」をリード曲にすると決め打ちで作ったとのことでしたが、今回はいかがですか?

CHIYU:今回は最後に作った2曲のどっちだろうで、ずっと悩んでいました。だけど、頭のどこかに、前回はリード曲で終わっていたから、今回はリード曲からスタートしたいなというのはあったんですよ。で、こういう系の曲調って今までになかったんですよね。近いものはあるんですけど、ちゃんと振り切れている感じのはなかったから。あと、ヴィジュアルをゴシックにするには「Fanfare」ではないだろうと(笑)。だから、最終的に曲調としてゴシックに合うほうに決めたというのもありますね。

まさに「「L」」は新しさがあって、とてもドラマティックです。

CHIYU:ちなみに今回、全曲アレンジャーが違うんですよ。「Fanfare」だけ初めての人ですけど、それ以外は今までにもやったことがある人なので、この人に合いそうな曲だなというのを、あえて決め打ちで振っているんですよね。だから、よりいい感じに広がってくれた感はありますね。五者五様というか。

それは今回あえて、いろんな方にお願いすると決めていたんですか?

CHIYU:「Gift」だけソロの最初からやってくれている人ですけど、それ以外は一つの会社のチームなんですよ。ナナのマニピュレーターのZeeFさんがいるところで、元NoGoDのKyrieさんとか、いろんな人がいるから、そのチームに残り4曲を一括振りしようと。それで4曲振ったら、ZeeFさんもなんとなく意図がわかっているから、この曲はこの子かな、みたいな感じで割り振ってくれて。そうそう、俺もそのイメージみたいな感じで、バンバンッて決まった感じですね。

どうせやるなら振り切ってみようというのが今回のテーマ

「「L」」と「Nothing is Over」は結構ヘヴィーなラウド系の方向で、ドラムがかなり印象的ですが、レコーディングは今回のMVとツアーに参加のRyoさんですか?

CHIYU:いや、基本的に俺の曲は、全曲生ドラムを入れたことはないんですよ。もう今の技術だと、打ち込みってわからないからいいかと。だから逆に言うと、ライブをするとなった時に「これ、人間が叩けるドラムじゃねーっすよ」と言われる時はあります(笑)。「これは手が8本ないと叩けねーっすね」って言われたり(笑)。「そうなんだ。へー」で終わりますけど(笑)。基本的にはアレンジャーの人がある程度音とかを決めてきてくれて、ミックスやマスタリングで調整するという感じですね。

今は打ち込みでもこれだけ重い音にできるんですね。

CHIYU:そうですね。もっとローを出そうと思ったら出ますけど、そこまでローを出す感じのキャラでも曲でもねーなっていうところで。これが例えばThe THIRTEENの曲とかだったら、もっと出していいと思うんですよ。でも、俺の感じで、それはやらなくていいかなっていう。

とはいえ、この2曲は特にドラムが割と今っぽい感じの音色だなと思って。

CHIYU:「「L」」は特にですけど、ヴォーカルの次にドラムをデカくしているんですよ。だからやっぱりドラムの印象がすごく強く出ていると思うし、最初のミックスから、もうドラムがほぼメインぐらい出せばいいと結構上げたので、確かに今っぽいミックスなんじゃないですかね。どうせやるなら振り切ってみようというのが、個人的な今回のテーマなので、ヴィジュアルのゴシックもそうだし、ドラムも上げられるだけ一気に上げてまえと。

ちなみに、この曲の構成が、いまいち自分の解釈が合っているのかわからなくて。

CHIYU:あー、俺もよくわかんないんですよ、これ(笑)。なぜなら、同じメロがないから。だから同じ歌詞がないんですよ。

確かに。1番はA、A’、B、サビですか?

CHIYU:そうそう、そんなノリです。2番は1番と同じだとなんかなっていうのもあったので、メロも結構変わっていって、1番と同じような流れだけど、A、A’、D、サビぐらいなイメージではいます。

なるほど。2番は特にドラムのフレーズが効いていますよね。

CHIYU:結構出てると思います。アレンジで〈交わる影〉のところにキックがめっちゃドコドコッて入ってきた時、俺も大爆笑しました(笑)。そのアレンジが来た時KIRITOさんのツアー中(サポート)だったんですけど、ちょうどその場に一緒にサポートしているHiroki(C-GATE)がいたので、「これ、人が叩けるドラム?」って聞いたら、「いいっすね。いけますよ!」とか言っていて(笑)。なるほど、じゃあこれは大丈夫なんだなと。カッコいいけど、叩けるか叩けないかのジャッジが自分ではわからなかったので、物理的に大丈夫なのかをすぐに聞けたのはよかったです。

「Nothing is Over」は、冒頭が前作収録の「Slayyyyy」に近い雰囲気があるなと思ったのですが。

CHIYU:俺、どちらかというと「「L」」のほうがそう思ったんですよね。でも、確かに言われてみると、これもそんな感じはありますね。ただ、この曲に関してはザ・Kyrieさんっていう感じがするんですよ。Kyrieさんが前にアレンジしてくれた「Diary of Life」(2023年9月発売のアルバム『OUTBURST 〜The best of the CHIYU〜』収録曲)とかの節があるなと。前作での「Anser indicus」もKyrieさんなんですけど、その流れの軸が1個欲しいなと思って、2曲目に持ってきた感じですね。

なかなか騒がしい曲ですよね。

CHIYU:騒がしいし、うるせーおっさんおるし(笑)。

(笑)。今回も「Nothing is Over」「ESPOIR」の 2曲に、Guest Screaming Vocalで美月さん(Sadie、The THIRTEEN)が入っていますね。

CHIYU:前作時点であった曲だから、その歌録りの段階で既に録っていたんですよ。「Nothing is Over」のサビの折り返しとかのワードはいくつか候補があったんですけど、「とりあえず全パターン言っといて。後で組み合わせるわ」って。結果5パターン録って、3パターン使っていますね。だから、幻のパターンもあったよっていう(笑)。でも、美月に叫ばせてるワードって、実は意外と肝になる部分だったりするんですよね。わざと歌詞カードにも書いてないですけど、核心的なことで言うと「このために生きてきた」「私たちには今しかない」とかを英語で言っています。

そうなんですね。そして、「Gift」は前作収録の「Canʼt stop feeling」のアンサーソングだと思いますが、歌詞を読んで、ちょっとショックだなと(笑)。

CHIYU:え、何がショック(笑)? 女性目線気になる(笑)。

「Canʼt stop feeling」で男性は純粋な恋だったはずなのにと思って。

CHIYU:だから女性のほうがしたたかなんですよ(笑)。いつだって男性のほうが純粋なんだよと(笑)。いやぁ、そういう意味でのショックか。まぁそうっすね。これは、そういう騙す才能が生まれもって備わっている女性という意味での「Gift」、才能のギフトという意味ですね。「Gifted」にしてしまうと、何かちょっと違うなと思ったから、「Gift」にしたんですけど。生まれもっての才能、神様にプレゼントされている能力みたいなイメージですかね。

ただ、ここに入っている英詞も、実はこの曲の肝なんじゃないかなと思って。英詞部分で、この曲の解釈が変わってくるように思います。

CHIYU:確かにここを訳して聴くか、訳さずに聴くかで、意味合いが変わるとは思いますね。

最後が〈Iʼm gonna fall in love no〉で終わるじゃないですか。この「no」も解釈次第で変わってくるなと思って。続きがあることの示唆なのか、ストレートな意味なのか。

CHIYU:あー、なるほど。俺的には普通にストレートな意味合いでしたね。でも、結局どう転がろうが、自分の最終的な気持ちはここよっていうことを書いたかな。実際何があるかわからんし、あれだけ純粋に来られたら、女性側もグラッとくる瞬間だって出てくると思うんですよ。だけど、私はこうよっていうのを、自分にも言い聞かせる感じで言い切っているイメージですかね。

なるほど。ちなみに、このラスサビは歌が難しくないですか?

CHIYU:基本的に自分の曲ムズいんすよ。出来もしないのに、同じ感じでいくのが飽きるからって色々変えていくので、どんどん難しくなるんですけど。確か元々ここも違うメロだったんですよね。だけど、デモを作った段階のキーが高すぎて、これは無理だとなって。ちょっと下げつつ、ちょっとメロをいじってみようということで、色々変わっていった最終形ですね。うん、多分ムズいでしょうね。俺の曲を誰かが歌っているのを聴いたら、やっぱり譜割りがムズいんやと思う時、結構ありますもん(笑)。歌詞を書きながらメロディを変えることもあるから。

そうなんですね。

CHIYU:歌詞のはまりが悪いからメロを変えちゃえとか、自分で好き勝手にできるじゃないですか。絶対にこのメロディに歌詞をはめなきゃダメっていうのがないので、歌詞にはまらないんだったらメロディを変えればいいやと。で、結構コロコロ変えていきましたね。歌録りの時にも結構変わりました。