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lynch.の最大の強みである “激しさ”を前面に打ち出した最新作が完成! これぞlynch.と言うべき最強の5曲を紐解く

前作アルバム『REBORN』から1年3ヵ月。次なる作品を渇望する人々の元に、lynch.の最新作が届けられた。『FIERCE-EP』と名付けられたミニアルバムには、その名の通り、彼らの強みであり魅力でもある、激しさや獰猛さが5曲に凝縮され、収められている。2023年はアルバムツアーに加え、過去から現在までのlynch.を総ざらいするようなツアーで、改めて彼らの強みや魅力を見せつけた5人。今年結成20年目という長いキャリアを持ちながら、慢心せず、貪欲に進化を続ける彼らの最新作について話を聞いた。


lynch.の最大の魅力であろう激しさを打ち出したい

葉月

久々の新譜リリースですが、この1年3ヵ月は皆さんにとってどんな期間でしたか?

葉月:『REBORN』のリリース以降、アルバムのツアーと秋のツアーの2本をやっていたので、結構lynch.をやっていたという印象です。リリースまで1年3ヵ月空いていますけど、この期間もlynch.にしては早い方じゃないかなと。これまで、どれだけ早くても1年半は空いていましたからね。『REBORN』に至っては、リリースまで3年も空いていたらしいじゃないですか(笑)。

確かに、lynch.のリリーススパンは大物の外タレ並みです(笑)。

葉月:なので、今回は意外と早い方かなと思います。

今回の作品についての話が出たのはいつ頃でしたか?

玲央:去年の10月です。結構前ですよね。去年の10月にFC旅行で沖縄に行った時に、控室で次のリリースについての話し合いが行われて。その時に話し合って決めた枠組み通りに作った感じです。

なかなか珍しいシチュエーションでの話し合いだったんですね。

玲央:各々がlynch.以外の活動もしていますからね。でも作品について話すなら、顔を合わせた時の方がいいだろうということで、あのタイミングになりました。

葉月:その場では作品のサイズと、激しい方に寄った作品にしたいというところまで決めたんです。

今回のリリース形態をEPにしたのはなぜだったんでしょう?

玲央:楽曲のボリュームは大体5~6曲くらいかなという話をしていて。『EXODUS-EP』(2013年8月リリース)のような、ああいう感じのものが作れたらいいよねという会話だったと思うんです。これぐらいのボリュームって、フルアルバムと違ってコンセプトとか色々考えずに割と遊べるじゃないですか。シングルだとボリュームが少ないし、作品の見え方がそこ一辺倒になってしまう。それもあってEPになった感じです。

前作『REBORN』では一人2曲提出という作曲のノルマがありましたが、今回はいかがでしたか?

葉月:一応ノルマ的には変わってなかったと思います。沖縄での話し合いの時に、一人2曲ずつ持ってきてもらって、そこから選ばせてくださいという話をしました。その上で改めて全体の監修をさせてもらいたいと伝えたら、いいよと言ってもらえたので、集まった曲の中から、これがいいという曲をチョイスしてアレンジさせてもらいました。僕が参加した曲には僕の名前もクレジットに入っていて、連名になっています。もちろん、「REMAINS」みたいに全く触ってない曲もありますけどね。

作品を、激しい方に寄ったものにしたいと決めた理由は何ですか?

葉月:ミニアルバムなので、たとえテーマを偏らせても、バリエーションが少ないぞという気持ちにはならないんじゃないかと思って。あとは去年の秋のツアーで、過去の曲をベストセレクションみたいにたくさんやった中で、lynch.のいいところってやっぱりこういうところだよなというのがいくつか見つかったんです。『REBORN』は割と大人しめな作品だと思うし、やっぱりlynch.の一番大きい魅力の部分であろう激しさを打ち出したいという思いもあったので、そこをわかりやすく出した方がいいんじゃないかという話をしました。

今回の作品は、明徳さん曰く「でらlynch.です」だそうですが、曲を作るときにそこは強く意識しましたか?

明徳:そこもすごく意識しましたね。実は、前回のツアーでやった「ecdysis」(2007年リリースの『THE AVOIDED SUN』収録曲)がめちゃくちゃ良かったんです。ライブでやった感じもお客さんの反応も良くて、この時代のヘヴィーな感じがいいよねという話をしていたんですよ。だから、激しいんだけど今の最先端の激しさじゃなくて、僕らが好きだったあの頃のあの激しい感じを最初から目的地にしていました。とは言え、残念ながら今回は1曲しか提出できなかったんですけどね(笑)。

晁直:僕は今回、とりあえず作ろうと思って出したんですけど、コンセプトには合わなかったみたいで。『REBORN』の時もそうでしたけど、やっぱり曲を作るって難しいなと思いました。前回の収録曲「ANGEL DUST」は、葉月君にも手伝ってもらってやっと完成したんですよね。それもあって、今回はとりあえず自分の力で形にしてみようという気持ちが大きかったんです。とりあえず形にはなったんですけど、コンセプトとの整合性はまた別の話なので。でも、これからも続けていこうと思っています。

「ANGEL DUST」は晁直さんが人生で初めて作った曲でしたよね。次なる曲が待ち遠しいです。悠介さんの「REMAINS」は、葉月さんがノータッチということでしたが、どういうコンセプトで作った曲だったんでしょう?

悠介:曲自体は、『REBORN』の時に4曲出したうちの1曲です。今回は、前回採用しなかった2曲を出して、今回のツアー(TOUR’24 THE FIERCE BLAZE)を組む時にホールも入っているので、そこで披露したら映えるだろうなという方を選んでもらいました。

ホールを見据えて選ばれた曲なんですね。

悠介:『EXODUS-EP』も、激しい曲4曲+僕が初めて作った曲「BE STRONG」という構成だったんです。今回もそういう感じにまとまったなという感じですね。

個人的に、今回の作品のジャケット写真がとても気になっているのですが、何か意味を込めてこの構図なのでしょうか。

葉月:全然(笑)。たまたまこういう場所がMV撮影の日にあって、この構図で撮ったらカッコよかったっていうだけなんです。

この構図にはきっと深い意味があるんだろうと思って、色々想像を巡らせていたのですが…。

葉月:新たな扉を開いた的な? いや全然ないんですよね(笑)。でもね、運命的じゃないですか。たまたまこういう場所に遭遇して、こういう1枚が撮れたっていうのは。

確かに狙って撮ったわけではないあたり、とても運命的です。ところで、MVの撮影場所は廃工場なんでしょうか? ちょっと「EVOKE」っぽさもあるなと思って観ていたのですが。

玲央:工場ではないんですよ。あまり詳しくは言えないんですが、今回は廃墟です。

木々の深い緑もあり、とても雰囲気のある場所です。

葉月:昼っていうのもいいですよね。撮影が真昼間だったんですよ。僕らはいつも暗いところで撮っているので、自然光でやるのがちょっと不思議な感じがするし、新鮮だなと思います。あと、前回の「CALLING ME」の撮影は、2時間ぐらいで終わったんですけど、今回も撮影自体は早かったです。メンバーごとに入り時間が違って、僕が入って2時間ぐらいしたら皆帰っていましたね。えぇーっと思って(笑)。

(笑)。あのMVで作品への期待も高まっていると思います。収録された5曲の聴き所を教えてください。

原曲の段階から「皆が好きなlynch.」という印象

玲央

01.UN DEUX TROIS(作詞:葉月/作曲:葉月)

再生して5秒で心を掴む、幕開けにふさわしい1曲ですが、この曲を1曲目にすることは作曲段階から想定していましたか?

葉月:1曲目にしようと思ったのは、作った後かもしれないですね。だけど、“らしいの”を持っていこうと思ってはいました。

玲央:原曲の段階から「皆が好きなlynch.」という印象でしたね。なので、スルッと入っていけるんじゃないかな。あまり深いことを考えずに、純粋に、「うわ、これlynch.だよね!」と思って聴いてもらえたらいいなと思います。

ギターでこだわったポイントはありますか?

玲央:掻き鳴らしているだけのように聴こえますけど、よく聴くと実はちょっと音が動いていたりするんですよ。自己満足とも思われがちなんですが、これによって曲の表情がちょっと変わるポイントでもあるので、そういうのを見つけてもらうことで、また別の楽しみ方もできるかなと思います。でも、純粋に聴いて、「あー、これだよね」と思ってくれるのが一番嬉しいです。

悠介:この1曲で、lynch.らしさをわかってほしいという思いがあって。激しさだけじゃなく、終盤に艶も感じられるように、ディレイがかかったギターはちょっと意識して入れました。

明徳:イントロにも出てくるメインのリフが、ヴィジュアル系好きな人は絶対に好きだと思うんですよ。でも、多分ここ数年は誰もやらなかったんじゃないかなと。昔はこの、ダダダダダっていうリフはデラあったんですけど、当時やりすぎたのか、最近は誰もやらなくなったんですよね。そこを、他の人たちがやりだす前にこんな感じを持ってこられたのは、結構イケとると思います!

「これこれ!」となる人が多そうですよね。

明徳:そうなんです。楽しみですね。あと、Aメロのフレーズも結構ガチメタルっぽくて、ミュートが出るのが難しいので、しっかり練習しておこうと思います。鬼のミュートが続くので、竿隊は結構大変なんです。

晁直:ドラミングに関して言えば、Aメロのキックがあったり、休符になっていたり。複雑なのでそこを探してほしいですね。

葉月:僕は、シャウトが鍛錬の成果がしっかり出た初の音源なので、聴いてほしいです。

すごかったです。聴いたことのない葉月さんの声がバンバン入っていました。

葉月:そうなんですよ。聴いたことない音がしていると思うので、それを聴いてほしいんですよね。

今回の作品で、理想が100%実現できたという印象ですか?

葉月:理想で言ったら全然100%ではないですけど、元々できていたことができなくなった時期があったじゃないですか。それは100%取り戻せました。

かなり長い期間、葛藤していましたよね。

葉月:そう、めっちゃ長かったです。7年ぐらいかかりましたからね。でも今はそこにプラスして、できなかったこともできるようになったので、120%ぐらいではあるんですけど、じゃあこれが今の理想かと言われたら、もっともっと200%、300%の理想があるので、まだまだですね。とは言え、現時点で、一旦は前よりも強くなって戻ってきたと言えると思います。

ステージの上で天命を全うしたいという裏テーマを

悠介

02.EXCENTRIC(作詞:葉月/作曲:葉月)

この曲をリード曲にするのはさすがだなという印象です。前作では「CALLING ME」と「ECLIPSE」のどちらをリード曲にするかで票が割れたということでしたが、今回はいかがでしたか?

葉月:今回は僕の中で「UN DEUX TROIS」と「EXCENTRIC」に票が割れていましたね。最終的にメンバーに、「EXCENTRIC」の方が面白そうなんですけど、どうですかと聞いたら、みんな異論無しだったのでこちらになりました。

玲央:むしろ、「EXCENTRIC」の方がいいと思うという意見でしたね。

葉月:映像も、「UN DEUX TROIS」より「EXCENTRIC」の方が、これまで観たことのない感じになるかなと思ったんですよね。ちなみに、僕がこの曲で気に入っているのは冒頭の歌詞です。「YO! WHAT’S UP YO! WHAT’S UP」で始まる曲って、なかなかないじゃないですか。これは楽しかったです。

以前、葉月さんのソロインタビューのときに、「自分の歌でメロのないリズムだけの表現、平たく言うとラップになっちゃうんですけど、それは取り入れてみたい」と言っていましたが、そこに通じる何かがありますね。

葉月:確かに(笑)。あと、曲中でテンポチェンジが2回あるんですけど、2回目に速くなった時のすごく高いシャウトは気に入っています。

「シャウトにこだわりすぎて500テイク録った」というのはこの曲ですか?

葉月:これです。「EXCENTRIC」は録るのがとにかく大変で…。このシャウト、今はもうできるようになったんですけど、録り始めた時はできなかったんですよ。なので、どうやったら歌えるんだろうという模索から始まって、大変でした。

明徳:僕はメインリフの、縦ノリなんだけどちょっと跳ねる感じがいいなと。デモでは葉月さんがギターを弾いているんですけど、その時の癖がすごく出ているんですよ。

葉月:あれ癖なのかな? ああいうフレーズだからね。

明徳:その中のゴーストノートの入れ方を聴いて、なるほどこうしようと思ったり。あと、曲構成が目まぐるしく変化していくので、そこがこの曲の面白いポイントですね。こう変わって、こう変わって、またここに戻れるという。

晁直さんは今回あえて入れたフレーズはありますか?

晁直:この曲は、原曲そのまま叩いている感じですね。おかずで欲しいなというところもあったりしたけど、いつも通りの感じだったから、あえて入れたフレーズというのはないです。いつも、わかりやすくするためにフィルを入れたりするんですけど、我を出すようなことはしてないですね。

玲央:僕は今回、Bメロのちょっと落としめのところをチェンジする前の部分で、もっと怪しい雰囲気というか、来るぞ来るぞという感じを出したくて。それであのアルペジオを入れてみたんです。原曲に入っていなかったんですけど、はまりは良かったかなと思います。

悠介:後半の〈EXCENTRIC〉って叫んでいる部分のギターは、最初はただ歪んでいるだけだったんです。でも、それだけだと物足りないからちょっと古臭いことをしようと思って、今はあんまり使っている人がいないフランジャーっていうエフェクターを思いついたんですよね。僕の中でLUNA SEAの「SLAVE」のSUGIZOさんのイメージがあるんですけど、そこまで大々的に使っている人をあんまり見ないから、その音作りにちょっとこだわりました。上昇していくところとその後下がっていくところとか、その尺の中でここをどう見せていったら面白いかなと思って、PCで色々いじりながら試行錯誤しましたね。

03.斑(作詞:葉月、悠介/作曲:明徳、葉月)

この曲は、作詞作曲に3人の名前がクレジットされていますが、トリプルネームの曲はlynch.には珍しいですね。

葉月:そうですね、初かもしれないな。

明徳さんと葉月さんの共作である「PRAYER」(2016年9月リリースのアルバム『AVANTGARDE』収録曲)は、過去に1回ボツった曲を葉月さんがメロディーだけ活かして再構築したということでしたが、今回の共作ではいかがでしたか?

葉月:そこまでではなかったですね。「PRAYER」よりはずっと原型を留めています。原曲の方が複雑というか、ちょっと難しかったので、もっとシンプルにしてノリやすくした方がいいなと思って色々変えました。でも何を変えたか、もう覚えていないです(笑)。

明徳:変えてもらったことで、一瞬のミュートでブレイクが入ってリフにキレが出て、チューニングがちょっと変わって、サビのメロディーも変わりました。後半がちょっと変わったことで、全体がかなり変わったんですよ。あと、アレンジを修正してもらう中で、Bメロのところを悠介さんが歌ったら面白いんじゃないかというアイデアが出てきて。その部分は作詞も悠介さんがするということで、トリプルネームになったんです。

なかなか複雑な絡み方ですね。Bメロは悠介さんが、それ以外の歌詞は葉月さんが書いたということですが、今回の歌詞もまた「EROS」(2020年3月リリースのアルバム『ULTIMA』収録曲)よりもアレな感じです。

葉月:うん! そんなことしかもう書くことがないんですよ! 生きることとエロスしか書くことはない!

(笑)。こういう共作の仕方は、難しくはないですか?

葉月:大丈夫です。Bメロの歌詞が先に来ていたので、これから全く外れるような歌詞は書かずに行こうと思って書きました。

『Xlll』(2018年7月リリースのアルバム)の時は、悠介さんが書いた歌詞を一部ひらがなにしてもらったりしたそうですが、今回そういうことはありましたか?

葉月:今回はないですね。LINEで送られてきたものをコピペして、そのまま使っています(笑)。

悠介:最初、歌詞は浮かべば書いてほしいという感じで頼まれたんですけど、どうせやるなら、録った状態で渡した方がわかりやすいかなと思ったので、歌詞も書きました。ただ、本筋の歌詞が決まっていない状態での話だったので、それを待っているのもなと思って。じゃあ曲の雰囲気を聴いて、自分の中でキャラクターを作り出して、そいつが自己紹介をしているような歌詞にしようという感じで書いています。でも実は裏テーマで、我々ステージに立つ人間の理想じゃないですけど、できればステージの上で死にたい、最期を遂げたい、天命を全うしたいということを入れ込みつつ…という感じにしています。BUCK-TICKの櫻井さんのこともあったので、そういうところと照らし合わせて。のせている言葉自体はわかりやすいですけど、そういう裏のテーマがあります。

こういう形の共作もいいですね。

葉月:うん。ライブのいい見せ場になると思います。これまでやったことないですし。

玲央さんはこの曲で、ご自分のここを聴いてほしいという箇所はありますか?

玲央:ギターソロを弾くにあたってワウを踏んだんですけど、ワウって自分の足の加減なんですよね。これがもう、自画自賛しちゃうほどワンテイクで綺麗にはまったんです! 自分でもすごいなと思いました。ソロの入口から単体で鳴っているところまで、タイミングがジャストすぎて。あぁ~これでいいです…これがいいです…と思いました(笑)。

晁直:ドラムは、この曲が一番シンプルだと思うんですけど、原曲よりも、更にシンプルにしています。原曲では、フィルが小難しかったので、もっとわかりやすくシンプルにして、録り直しました。聴き比べてわかるかと言われると、わからない部分も多いかもしれないですけど、よりシンプルにわかりやすくしたことを感じていただけたらと思います。