lynch.

圧巻のライブを収録した、lynch.10作目となるライブ映像作品が完成! そこに収められた新たなる“究極”、その魅力に迫る。

2020年3月、lynch.が世に放った(現時点での)“究極”のアルバム『ULTIMA』。この作品を携えて走り出したライブハウスツアー、そしてホールツアーは、アルバム制作時には予想だにしなかった、コロナ禍という未曽有の混乱との並走となった。そんな彼らが7月14日にLINE CUBE SHIBUYAで見せてくれたのは、アルバムを見事に昇華した圧巻のステージ。そして彼らを迎えたのは、葉月が一望して「美しい」と賞した満場の客席だった。この映像作品には、逆境を味方につけ、“究極”を更新したlynch.の姿が収められている。インタビューではこの作品について、そして彼らを支える人々への心からの感謝が語られた。


2021年唯一のツアーの集大成

葉月

lynch.の10本目のライブ映像作品がリリースになります。あの日はライブレポートで入らせていただいたのですが、本当に素晴らしいライブでした。さて、ライブから3ヵ月半が経過しましたが、この日を振り返って印象的だったことを教えてください。

明徳:この日は、渋谷公会堂がLINE CUBE SHIBUYAになって初めてのライブだったんですけど、初めての会場でやるということで、メンバーもスタッフもみんなドキドキしていました。しかもこの日は収録もあって、さらにホールツアー初日だったので、結構バタバタしたし、緊張して大変だった覚えがあります。

玲央:収録が入ることはもちろん事前にわかっていたんですけど、収録がある日は楽屋の周りでもカメラが回ったりするので、普段のライブよりちょっと忙しいんです。でも、その忙しさが良い緊張感になってライブに臨めたなと思います。振り返ってみると、初めての会場ということよりも、今年唯一ともいえるツアーで各地方を回って磨いてきて、この日のライブでその集大成的なところを見せたいという思いが強かったですね。特にこの『ULTIMA』という作品の世界観は、空間の大きさというものを意識していたので、それを反映させるにはすごく良い機会だと思っていました。

『ULTIMA』の楽曲の持つスケール感に、ホールがとてもよく合います。

玲央:そうですね。このアルバムは、BPMが速くてもライブハウスよりもっと大きい所を意識していたんです。そうやって言っていただけると、本当にその通りという感じです。ありがとうございます。

アルバムの世界観やスケール感を余すことなく表現した、素晴らしいライブでした。この会場でのライブは2015年に行われた初のホールツアー「HALL TOUR’15『THE DECADE OF G REED』」以来、実に7年ぶりでしたが、ステージから見た景色はあの時とは違いましたか?

晁直:会場に行ってみたら、ステージ側から見る景色は前と変わらなくて「あぁ渋公だな」という感じでした。でも、客席から見たステージが、何となく前より小さくなったように感じたんですよ。昔にやったときは、渋公が今よりもっと大きい存在だったのかなと思いましたね。ライブ自体は、ここに至るまでにツアーでライブを何本もやってきて、体が慣れている感じだったので、変な緊張もなく臨めました。あと、演出の電飾がものすごく映えたので、映像で観ていて面白いなと思いましたね。そこは発売を楽しみにしていてもらいたいです。

悠介:僕は、会場が新しくなったことは全然意識していませんでした。前の渋公は壁がコンクリートだった気がするんですけど、新しい会場は壁が木になっていて、良い香りがするなと思ったくらいで(笑)。もし、このライブの前にやったライブハウスツアー(「TOURʼ20-ULTIMA-」)が、小箱ツアーだったら意識的に違っていたと思うんです。でも、ある意味ホール3公演に向けてのライブハウスツアーだったりもしたので、割と広い会場を回って、最初からホールを意識した見せ方や、音の出し方ができていたんですよ。なのでこの日は、ホールということを特別意識せず、ライブハウスの延長線のような感じでできました。そこは、これまでと意識的に変わった部分だと思います。

気負わず挑めたんですね。

悠介:そうですね。ただ、変な緊張はなかったんですけど、アンコールでこれまでそんなに合わせたことのなかった「WALTZ」をやったのはちょっと緊張しました。収録が入っているライブでしたし。でも、それ以外はもう体も仕上がっていたので、平常心でやれたなと思います。

「WALTZ」で始まる意外なアンコールのセットリストは、葉月さん考案でしたね。葉月さんはこの日を振り返って、印象的だったことは?

葉月:ステージからの景色ですね。お客さんがめっちゃ入っていて、コロナ禍のライブとは思えなかったです。ここまで、大体Zeppクラスの箱でツアーを回ってきたんですけど、ライブハウスだとホールよりも椅子と椅子の間隔が広くなるし、隙間が多くなるじゃないですか。でもあの日は、単純に東京だから動員が多かったということを差し引いても、「あれ? すごくたくさん人が入っていて、普通のライブみたいだ」と思いながらやっていました。

映像の冒頭で、隅々まで入っている客席の様子が映りますが、その人数に驚くと同時に、メンバーの皆さんはこの景色を見ていたんだなと思って感慨深かったです。

葉月:僕らは逆に、ステージの映像を観た時に「こんなにすごかったんだ!」と思ったんですよ(笑)。ライブをやっていると、照明とか演出は自分たちでは見られないですからね。

確かに。ところで今回のライブは、特効ではなく主にライティングで見せる演出でしたね。

葉月:コロナ禍で、特効にも色々制約があったんですよ。例えば、テープは取り合いになったら感染対策上よろしくないから、飛ばしちゃダメとか。

玲央:いろんな制限制約があるんです。例えばファイヤーボール(※ボール状の炎を発射したり、火柱を作ったりする演出)だと火薬が飛んでくるじゃないですか。客席に何か物が飛ぶような演出はダメだったりするんですよ。

コロナ禍のライブには、そんなに厳しい制約があったんですね。

玲央:僕らは、「ライブハウスは安全だ」という認識を持ち続けてもらいたいので、そういう制約も遵守しながらライブをやっているんです。やっている側としては、責任を持たないといけませんからね。

玲央

あの日のライブでも、徹底した感染対策がなされていましたよね。観客の無発声はもちろん、換気タイムが設けられたり、映像にも収められていましたが、終演後に悠介さんが「帰ったら、手洗い、うがい、すぐお風呂、洗濯! よろしくね!」と念を押したり。それ故の安心感がありました。

玲央:そうですね。でも換気タイムは、葉月が普段喋らないところで喋らなくてはいけなくて、なおかつそのセクションの後が大体シリアスな場面だったりするんです。客席がちょっと沸いた感じからその空気に持っていくという心理的負担があるんじゃないのかなと。僕は、自分がヴォーカルじゃなくてよかったな~と思っていました(笑)。

(笑)。葉月さんは見事に流れを作っていましたね。

葉月:渋公がどうだったかは覚えていないんですけど、曲が始まってくれれば、まぁ何とかなるなと思って(笑)。

それにしても、コロナ禍であらゆる予定が立たない中、あの日のライブに至るまでの道のりは平坦ではなかっただろうと思います。

葉月:メンバーよりも、スタッフの方が大変だったんじゃないかな。僕らはただやる予定だったものがなくなるだけですけど、スタッフはライブがキャンセルになったらまた次を探さなきゃいけない。会場を見つけたぞと思ったらまた中止になって…いろんな作業があって大変だったと思いますよ。

与えられた環境の中で模索したベストな形

悠介

コロナ禍の混乱は、アルバムを作っている段階では全く想定していなかった事態だったと思います。でも、特効が使えないという縛りがあっても、電飾でアルバムの世界観にピタリとはまった演出をしたり、観客は声を出せないという制限があっても、あれだけの熱量のライブを展開したりと、見事に逆境を味方につけていましたね。

玲央:与えられた環境、制限制約の中でベストな形で表現できるように、この中で一番の正解はこれなんじゃないかということをやっていったんですよ。むしろ、結果的には良かったんじゃないかと思います(笑)。

制約の中でも、観客の声がないというのはヴォーカルには辛かったのでは?

葉月:そうですね。でも、その前に無観客ライブを数公演やっていますから。あれに比べれば天国ですよ。拍手をしてもらえますからね!

無観客は相当辛かったんですね…。

葉月:もちろん!

玲央:自分たちは誰に向かって演奏しているのか、ちょっと見えなくなるんですよ。その時はスタッフが気をきかせてくれて、大きなモニターを用意してコメントが映るようにしてくれたんです。そうやって、画面の向こうにファンがいるんだよと見せてくれたのでまだ良かったんですけど、それがないと本当に辛いですよね。ライブは、伝えたい相手がいて初めて成り立っている部分があるので、それがないと「何だろうな~…」という(笑)。リハをやっているような感覚になるんですよ。

葉月:なのにカッコつけなきゃいけないっていう(笑)。

明徳:無観客は辛いっす! でも、このコロナ禍のライブで気づいたんですけど、会場に人がギュウギュウ詰めじゃないと、みんなの顔がめちゃくちゃよく見えるんですよ。だから声での反応はないけど、みんなの顔を見ていれば「あぁ楽しんでくれているんだな」ということがわかる。これは、今ならではのコミュニケーションなのかなと思いました。拍手も、みんな今までよりもずっと強くやってくれていて、今はバンド側も色々試行錯誤してやっていますけど、お客さんも僕らに一生懸命感情を伝えてくれているんだなということを感じました。

ファンの方々の熱量は映像からも伝わってきました。改めて映像を見直していかがでしたか?

悠介:実は僕、ちゃんと映像を見直してないんです。でも最近、カメラワークが頻繁に切り替わるのは嫌いだなと思っていて。これは松本人志さんと庵野秀明さんの対談映像でも言っていて、確かにそうだなと思ったんですけど、「自分はこれが見たいと思っているのに、カメラワークで別のところを映している。ずっと俯瞰でもいいのに」という言葉を聞いて、確かにそうだなと。年のせいかもしれないんですけど、目が疲れますし(笑)。

葉月:このアイディアはファンの方からも結構来るんですよ。ライブと同じ1カメでいいのにって。確かこれは、おまけ映像でやろうとしたこともあったんじゃないかな。

悠介:むしろ、ステージの近くにカメラを置くんじゃなくて、ホールだったら客席のブロックごとにカメラを置くだけでいいんじゃないかなと思うんですよ。それで、例えば無観客の配信チケットでそういう売り方をしても面白いのかなと。カメラは動かないんですけど、ずっとその場所で観られるというのは、ライブに来た感覚になるんじゃないかと思うんです。

それ、名案じゃないですか!

玲央:前に、そういうことをやっていたバンドもいたよね。自分がどういうスタンスで観たいのかによって、視点を選べるというのはいいと思います。それに近いことができたらいいなと思いますね。

では、改めてあの日のライブ映像で思い入れのあるシーンを教えてください。

悠介:映像をあまりしっかり見直していないので、記憶にございません状態なんですけど、やっぱりセットや電飾ですね。あの使い方はすごいなと思いました。ギターソロの時に自分のところから光り出して、だんだん全体が光っていくという流れとか。あの組み方は素晴らしいと思います。

ものすごく細かく作りこまれていましたよね。

悠介:そうですね。スタッフから、このシーンで電飾はこうなるよという説明は受けていなかったので、改めて映像を見て「あぁこういう流れになっているんだ」とわかったんです。スタッフが撮ってくれた俯瞰の映像をツアー中に見て、「こういう風に使われているのか。だったら、こう見せよう」という意識はできたので、それが渋公の時に活かせていたと思います。

最初は知らなかったというのは意外でした。全てスタッフの方の采配だったんですね。

悠介:全然知らなかったんですよ。スタッフが素晴らしい仕事をしてくれました。

晁直:あの日のライブは、やっぱり電飾に尽きるところがあるかなと思います。予想外にMCがカットされているし、そうなると電飾くらいしか…。まぁMCはギャップが激しすぎるので世界観を守るためにカットした部分はあるんですけどね。うーん、何でしょうね…やっぱり電飾ですかね(笑)。

(笑)。晁直さんは今回の映像でも飄々と叩いていましたね。汗一つかかないような涼やかな顔で。

晁直:いやいや、めっちゃ汗かいてますよ。びっちゃびちゃです。

今回のDVDでは、晁直さんの良い表情を捉えたシーンも多々ありました。

晁直:お、そうですか。本当はもっとカメラ台数を増やしてほしかったんですけどね。その相談をしてみたんですけど、「ちょっと予算が…」って言われました(笑)。

いっそ晁直さんを360度囲むとか。

晁直:そうそう。そういうのがやりたかったんですけど、「ダメですか?」って言ったら「ダメです」って言われてしまいました。

玲央:僕は、本編ラストの「EUREKA」ですね。ギターソロ、ベースソロ明けにシンガロングパートがあるんですけど、本来そこは、会場にいるみんなに歌ってもらおうと想定していたんです。でも、コロナ禍で声が出せなかった。なのに、空耳のように聴こえるんです。それが画面からも伝わってきて感動を覚えました。

あの時、会場でも本当に声が聴こえた気がしました。しかも、ミラーボールの光があまりに神々しくて。

玲央:実際に声が出せるようになったら、この感動はひとしおなんだろうなと思います。でも、今回は今回で我慢している感じもすごくグッときました。言い方は変ですけど、コロナ禍だからこそ味わうことのできた感動もあったかなと思います。

この取材時点では、コロナの新規感染者数が急激に減少していますし、もし次のツアーまでに終息したら、このDVDは貴重な記録になりそうです。

明徳:今も話に出た「EUREKA」が一番メインとなる見どころだと思うんですけど、今回の映像では、たまに変わったカメラアングルがあるんですよ。葉月さんをお立ち台の下から映したりするっていう。

網目の間から映していましたよね。

明徳:そうなんです。あと、皆の後ろ姿が映っていて、その向こうに客席が映っていたりするという、今までになかったアングルがちょこちょこあって面白いんですよ。これまで見たことのないlynch.の姿が結構見られる作品だと思います。

葉月:僕は、電飾なら「XERO」ですね。この曲から光り出して、おぉーっと感動するんですよ。それに、さっき話に出た「EUREKA」もいい。でも、やっぱり一番はお客さんかな。今回のツアーで僕が一番印象に残っているのは、MCのときに拍手が鳴りやまなかったことなんですよ。拍手をやめると無音になっちゃうから、僕が喋り出すまでずっと拍手してくれていたんです。それがありがたいなと思って。このDVDにも残っているはずなので、思い入れがあるのは、そこですね。