◆橘高さんはライブパフォーマンスに価値をもたせることができるギタリスト(Cazqui)
――Cazquiさん、べた褒めされていますね!
Cazqui:まさかの展開です。照れて死んでしまいそうです。橘高さんはすごく人のことを見ている方だと思うんです。ステージに立ったときに真っ先に目がいくけど、実際のところそれも計算で、自分のバンドの中でのキャラクターとしての役割を、すごく誠実にやっていらっしゃる。そして、ステージに立っていないときは、もっと全体を見て、プロデュースにまで目を向ける方なんだろうなと。
橘高:もっと言ってください(笑)。
Cazqui:(笑)。目立つギタリストはエゴイストで自由奔放というイメージを抱かれやすいのですが、そう魅せるためにもまず全体を見なきゃいけないし、橘高さんは長年その研鑽を積まれている方だなという印象があるんです。
橘高:それはCazqui君がそうだからわかるんだよね。同じ経験をしていない人にはわからないし、俺はわかってもらわなくてもいいと思ってた。むしろ「メタルバカだなー」って思ってもらえるほうが俺は幸せだったの。計算高いと思われるのも悔しいからね。でも、やっぱり俺はバンドを愛しているから、バンドのためにバンドのチームプレイの上にエゴを出したりする。筋少でのルールは“筋少らしくいること”なんだよね。各メンバーが、各メンバーらしくないと俺はOKを出さないし、メンバーから、我が我がみたいなものが出たら、それをOKテイクにする。みんなが前へ前へと出ているバンドを俺はやりたかったからね。
――そういう点でもCazquiさんに共通点を感じるんですね。
橘高:Cazqui君はバンドのことをしっかり把握しているし、核を担っているけれど、ステージでは全員を前に出そうとしているでしょ。その中で、俺が一番だぜ、という戦いをしないとメンバーにも良くない、というところに同志を感じたよ。お客さんに「この人がメインです」って見せてあげる方法もいいけど、俺はバンドの中で目移りされるぐらいのものをやるのが、音楽的にもパフォーマンス的にもバンドらしくていいと思ってやってきた。音もそうで、うちはピアノが派手だったり、ギターソロだったり、特異性のある部分をちょっと突き目にやるけど、基本的にはイーブンなんだよ。
Cazqui:極端なバランスの崩し方はしないように心がけています。ただ、ちゃんと自分の主張する部分を確保しておかないと消えてしまうんじゃないかという不安があるんです。
橘高:良いものを狙うと、自分で自分の首を絞めることもあるよね。他のメンバーのケツを蹴るのは楽なんだけど、自分を鼓舞するのが一番大変なんだよ。でもそれもできているからすごいなと思って。俺は若い頃、ついつい後ろに回ったまま終わることがあったから(笑)。
――若い頃、という言葉が出ましたが、32年の活動の中で時代の移り変わりは感じますか?
橘高:俺がデビューした1984年頃はミュージシャンになるとか音楽で食っていくってことは、「俺はイチローになる!」「マイケル・ジャクソンになるんだ!」みたいな感覚だったんだよね。何をバカなことを言っているんだと。ただ、俺たちの頃は才能があったら、遅れはしたけど絶対に引っかかったの。でも今の時代、日本にはバンドがビジネスとして回っていて、ある意味競争社会になった。だから、すごくクレバーで、さらに俺らの頃よりも強い信念がないといけない。才能があっても今は埋もれていくだろうからね。Cazqui君もここまで出てくるのは大変だったんだろうなって思うとね、お兄ちゃん涙が出て…。
Cazqui:ありがとうございます(笑)! 自分はとにかく、自分が誇れるバンドなりギターなりをやって、音楽で飯が食いたい、というところから始まったんです。そして、好きな音楽はみんなバンドだったから、バンドという形態でやらなければいけないと。でも今の時代、ニコニコ動画とかYouTubeとか、誰でもミュージシャンになれるんです。その中で、あえて汗をかいてライブをしてツアーをすることを選んでいる。内心、何で俺だけバンドをやってるんだろうと思ったりもして。
橘高:ライブを重んじているというのは正解だと思うよ。ニコニコ動画やYouTubeって肉眼ではないじゃない。やっぱり自分の肉眼で見たものは、友達にダビングもできないし、そこで見たものはリアルだからね。サーカスを観て感動するのは、目の前で曲芸師が本当にやっているからなんだよ。チケットを手に持って、目の前で繰り広げられているものを観る。俺はロックンロールサーカスだと思っているんだけど、エンターテイメントとして提供する場としては、やっぱりライブが一番なんだよ。だから俺はライブを大切にしようと思っているし、この年齢でもライブを辞めずにいる。だからノクブラがライブで世界に出ていくのは素晴らしいと思うな。ライブは嘘をつかないもんね。
Cazqui:ロックギターの世界においてテクニックは無価値、というような言い方をする人もいます。けれど橘高さんのように、技巧と華を兼ね揃えている方がいらっしゃるわけで。両方できたほうがカッコいいに決まってるじゃんと思います。今回、橘高さんの4枚のライブBlu-rayが発売されますけど、橘高さんはそこに収められたライブパフォーマンスにすごく価値をもたせることができるギタリストだと思うんです。ライブに足を運ぶ方は、ライブでは音源以上のものを提供してくれるのをわかっていて、そこが何より魅力なのかなと。
橘高:俺はライブ中に一人でも多くのお客さんと目が合えばいいなと思ってやっているんだ。Cazqui君もそうだよね。このジャンルでこういうギタリストを初めて見たし、それはとてもいい独自性だなと思うよ。俺はお客さんを見据えないパフォーマーは、いずれ消えると思ってるの。やっぱりお客さんの目を見て、お客さんが「今日、目が合った!」って思ってくれる。俺も子供の頃に同じ経験をして嬉しかったし、自分たちがお客さんだったらそうしてほしいよね。
Cazqui:確かに音楽やライブに対する気持ちは、変わっていないですね。何よりも自分が感動したい。
橘高:俺ね、高校生のときからライブの方法論は変わってないの。だからもうかれこれ32年目になるんだけど、ステージでヘッドバンギングして、足を蹴り上げてクルクル回って…俺、実は三半規管が弱いんだよ(笑)。でも、乗り物は苦手なんだけど、ステージジェットコースターは得意なの。俺は自分が今ぐらいの歳になった頃には、ライブ中ずっとイスに座って発表会みたいになるんじゃないか、それは嫌だな、やめたいなと思っていたんだ。でも最近になって、俺は70歳ぐらいのおじいちゃんがヘッドバンギングして走り回っているのを見たことないけど、もしかしたらできるんじゃないかなって思うようになってきて。
――間違いなくできる気がします(笑)。
橘高:あはは! きっとCazqui君もそうなると思うけど、段々、妖怪に近づいていくんだよ(笑)。自分でもたまに、俺は何でこんなことできているんだろうって思うけど、それはロックの神様が何か俺に与えた業みたいなもので、やらずにはいられないんだよね。
◆俺もCazqui君も今のまま、こういう音楽をやっていたら幸せだと思う(橘高)
――ところで、Cazquiさんが橘高さんのギターで最初に感銘を受けた曲は何だったんですか?
Cazqui:「イワンのばか」ですね。どの曲もそうなのですが、クラシカルな音階を用いたり、徹底してメタリックなのですが、常にロックギターの王道といえるパッションがある。派手なチョーキングをはじめ、どこをとってもすごく華があって。それだけでなく、僕が大好きな「僕の歌を総て君にやる」のように抒情性あふれるプレイも沢山聴けますし。
――「僕の歌を総て君にやる」も橘高さんの曲ですが、今回「筋肉少女帯」のBlu-rayに収められた30周年ライブのセットリストは全て橘高さんの曲でしたね。
橘高:基本的に今回の30周年は俺の曲の応酬で。でも筋少で俺の曲だけをやるライブっていうのは実はエポックメイキングで、しんどいからメンバーのみんなが嫌がるんです(笑)。
――副題が「ヘドバン地獄」という(笑)。
橘高:もしくはドラマーの長谷川浩二ちゃん祭り(笑)。でもアニバーサリーのときぐらいしかメンバーもうんと言ってくれないですからね。なので曲順を決めてメンバーにメールを送るときに「メタハラ(メタルハラスメント)すみません」って送って(笑)。
Cazqui:僕が一番好きな曲はBlu-rayにも収録された「再殺部隊」なんですけど、あの中間部のギターソロは橘高さんにしか弾けないと思うんですよ。あの引っ張り感とチョーキングの粘りは橘高節だと思っています。
橘高:俺はテクニカルなフレージングで決まっている曲のテーマみたいなところは割と作り込むんだよ。それ以外のところは基本的にアドリブ。スタジオにいくまで決めないようにして、その場でパッと弾く。そこで3テイクぐらい録るんだけど、OKなのは大体1回目なの。3テイクを超すと、段々策に溺れて計算高くなってくる。そうすると俺っぽくなくなっていくから、その日はやめちゃう。音楽の初期衝動ってなかなか持ち続けられないけど、楽曲に対する初期衝動はあるからね。
――さらに今回のBlu-rayで橘高さんは「おわかりいただけただろうか」「小さな恋のメロディ」「Thank You」でギターを弾きつつフルで歌っていますよね。
橘高:辛いですよ(笑)。ギターを弾くだけで一生懸命の曲もあるし、そもそも俺はヴォーカリストじゃないし! しかも、リリース後の初披露のときに大槻が歌わないで俺が歌っていたりもするし。ギターも人前で弾くのは初めてというタイミングで、なぜ歌まで!って(笑)。でも、それも含めて特別なショーになればいいなと思って。ところで、最近アンコールが長いバンドが多いじゃない。筋少の再結成後に大槻と「どうやら最近の子はアンコールが長いらしいから、アンコール5曲ぐらいにして本編を削ろう」って変な話をした覚えがあるんだけど、ノクブラの赤坂BLITZのライブも8曲ぐらいあるよね。
Cazqui:僕も実はそこが疑問なんですけど、何となく風潮に倣っている感があって(笑)。でも、本編をやった後は良い感じにほぐれているから、曲数が増えちゃうのかなという気もします。
橘高:なるほど。確かにお客さんもほがらかになってるね。新しいツアーだったら本編はショーで、アンコールはみんなで騒ごうぜって切り替えるけど、実はみんなで騒ごうぜっていう曲がいっぱいあるもんだから、アンコールが増えていくんだよね。
Cazqui:うちは、お前らなんでアンコールそんなに良いんだよってすごく言われるんです。自分では全部一生懸命やっているつもりなんですけどね。出だしよりもアンコールのほうがいいって言われるんですよ。
橘高:それはお客さんもそういう高まりなんだろうね。昔はアンコールというのはなくてもいいじゃんと思っていたし、お客さんが帰らないから仕方なくやるという体だったんだよ。俺の世代あたりからアンコールに一番の代表曲を持ってくるようになったけどね(笑)。それでもやっぱり2曲ぐらいだったなぁ。変わるもんだね。
――今日はお二人の意外な共通点が浮き彫りになった対談でした。
橘高:やっぱり音楽ってすごいね。全然違うところに生まれ育った、年齢も違う人同士が同じ美しいものをこうやって語れる。…実は俺、Cazqui君はタメなんじゃないかと思っているんだよね(笑)。
――だって、橘高さんは永遠の24歳ですから。
橘高:あ、そうか(笑)! でも永遠の24歳だけど、数えは50なので(笑)。
Cazqui:友達とよく話すんですけど、何で橘高さんは変わらないんでしょうね。
橘高:だからやっぱりね、変なんですよ(笑)。
Cazqui:(笑)。先ほど橘高さんが仰ったように、いろんな人から「ノクブラはメタルとヴィジュアル系のどっちにいくの?」って言われるんです。バンドとしては「どちらでもないし、その議題にはマジで興味がない」の一点張りですが、自分というギタリストはどうなっていこうと考えた時期はありました。最近も海外ハードコアバンドとの対バンをやったりする中で、在るべき姿、理想の未来像とはなんだろうと。時代に合わせて変遷を遂げていく方もいらっしゃるじゃないですか。けれど自分の場合、根本の部分は変われないなと。そこで、やっぱり目指すべきは橘高さんだと思ったんです。けど、まさか対談するなんて(笑)。
橘高:例えば海外に出ていくと、海外の方はCazqui君のこのグラマラスな感じを見て、場合によってはゲイなのかと思うかもしれない。メイクをしているというのはその主張だと思われる場所もあるからね。実は俺もX.Y.Z→Aのときに黒髪ストレートにしたのね。黒髪って日本人の一番の武器だし、黒にしたほうが向こうにいったらモテると思ってさ(笑)。でもその後、いつもの俺に戻ったの。俺は自分の人生で、例えば服で何色が流行る、こういうシルエットが流行るっていうのを求めていなかったし、それよりも世の中からちょっとズレるかもしれないけど、自分が好きな恰好で、好きな音楽を弾きたかった。何よりも自分のプライドが無個性であることを許さなかったし、好きなものをはっきり言える人でいたいと思って。時代って回るんだよ。その時代を追いかけるとモルモットのようにグルグル回る人生を送ることになる。そういう人たちを横目で見ていて、ある時、「この人はずっとグルグル回っているんだな。俺はそこを走っていなくて良かった」と思うようになれたの。自分の信じていたものが世のブームと一緒になるときもあるし、ブームが終わって孤立するときもある。自分が合わせなくても気が付いたらブームの先端にいることもあるんだから、俺は気にするのはやめようと思ったの。今後、海外に行こうが、時代が変わろうが、ギターソロがダサくなろうが、もしかしたらエレキギターが世の中から必要なくなるかもわからない。でも俺もCazqui君も今のまま、こういう音楽をやっていたら幸せだと思うよ。
Cazqui:長いキャリアを積まれて、今もこうやって第一線で活躍されている方がそう言ってくださると、後続の世代には非常に励みになります。
橘高:もう既にCazqui君を見てギターを始めたり、バンド組もうとしていたり、メイクの練習をしたりしている人もいると思う。そうやって、俺たちと同じ考えを持っている人たちが、これからも増えていってくれるとすごく幸せだし、後続の世代にCazqui君が同じ話をしてくれたら、俺もやってきて良かったなって思えるよ。というわけで、まずは俺たちの対バンなりセッションから始めようか!
Cazqui:ぜひ!
(文・後藤るつ子/写真・小財梨佐)
橘高文彦
<プロフィール>
1984年、ヘヴィメタルバンド・AROUGEのギタリストとしてメジャーデビューし、1989年に筋肉少女帯の第22期メンバーとして加入。作曲、編曲はもちろんのこと、実質上のサウンドプロデューサーとして活躍し、1999年の活動休止までに14枚のアルバムと15枚のシングルをリリースした。1994年に齋藤哲也(Vo)、秦野猛行(Key)をキーメンバーとしたバンド・Fumihiko Kitsutaka’s Euphoriaを結成し、1999年には二井原実(Vo)、和佐田達彦(B)、ファンキー末吉(Dr)らと共にX.Y.Z.→Aを結成。海外に向けてのリリースなど、精力的に活動を展開。さらに、2006年には大槻ケンヂと共に「大槻ケンヂと橘高文彦」の名でユニットを結成し、同年12月には筋肉少女帯も再結成し活動を再開する。2016年7月に橘高文彦デビュー30周年記念公演として2015年に開催された、筋肉少女帯、AROUGE、Euphoria、X.Y.Z.→Aの各ライブをBlu-ray化し、4レーベルから同時リリースする。
■オフィシャルサイト
http://www.kitsutaka.net/
【リリース情報】
『橘高文彦デビュー30周年記念LIVE“筋肉少女帯”』
2016年7月13日(水)発売
(徳間ジャパン)
【収録曲】
01. Opening ~ サーカスの来た日
02. ゾロ目
03. くるくる少女
04. ノゾミのなくならない世界
05. 踊る赤ちゃん人間
06. レジテロの夢
07. 球体関節人形の夜
08. おわかりいただけただろうか (Vo.橘高 Ver.)
09. 小さな恋のメロディ (Vo.橘高 Ver.)
10. 交渉人とロザリア
11. レティクル座の花園
12. 橘高文彦 Guitar Solo ~ 再殺部隊
13. 詩人オウムの世界
14. パブロフの犬
15. ア デイ イン ザ ライフ
16. Thank You (Vo.橘高)
17. 影法師
18. 少女の王国
19. イワンのばか
20. トリフィドの日が来ても二人だけは生き抜く
21. Ending ~ 航海の日
【出演】
橘高文彦(G)、大槻ケンヂ(Vo)、本城聡章(G)、内田雄一郎(B)、三柴理(Key)、長谷川浩二(Dr)
【特典映像】
筋肉少女帯メンバーによるお祝いコメント
橘高文彦インタビュー[筋肉少女帯]編
Cazqui
<プロフィール>
尋(Vo)、Cazqui(7-strings)、Daichi(G)、Masa(B)、Natsu(Dr)の5人からなるロックバンド・NOCTURNAL BLOODLUSTのギタリスト。過去にドイツの重鎮HEAVEN SHALL BURNや、「激ロックFES」にてイタリアのDESTRAGE、スペインのRISE TO FALLらとも共演。2ndミニアルバム『OMEGA』でオリコンインディーズチャート1位を獲得するなど快進撃を続け、2015年6月には赤坂BLITZにてワンマンライブ『銃創』をソールドアウトさせた。2016年4月に3rdミニアルバム 『ZēTēS』をリリースし、東名阪ONE MAN TOUR "VANADIS" TOUR FIANALをEX THEATER ROPPONGIを成功させた。7月15日より2016 EUROPE TOUR DEIMOS、9月3日より全国ONE MAN TOUR “DEIMOS”を開催。10月9日に開催される「LOUD PARK 16」のオープニングアクトとしての出演も決定している。
■オフィシャルサイト
http://nocturnalbloodlust.com/
【リリース情報】
『ZēTēS』
2016年4月20日(水)発売
(発売元:IRIS & CRISIS)
エクストリームミュージック界の異端児・NOCTURNAL BLOODLUSTが放つニューミニアルバム。
【収録曲】
[DISC1]
01.ZeTeS
02.Malice against
03.EXCEED
04.NG+
05.Deep Inside
06.the strength I need
[DISC2]
01.Malice against (Instrumental)
02.Rebellion (Re-Recorded / Remastered )(2016)
03.A Bullet of Skyline (Re-Recorded / Remastered )(2016)
初回プレスのみ2枚組デジパック仕様
※初回盤は生産限定のため、予定数に達し次第、CDのみの通常盤を販売開始予定。